121 / 123
第6章過去転移
120ドラゴンキング
しおりを挟むその声は重く暗かったが、禍々しいものではなかった。
蓮と老人は目を見合わせて止まった後、一斉に竜王の大剣へと目線を移した。
――(武具が喋ってる?!!)
恐らく心の中の叫びは2人とも同じだったであろう。
蓮と老人は額から冷や汗を流しながら会話を進めた。
まず、動いたのは蓮の方だった。
大剣を横に寝かせたまま老人の方へと押し出して言う。
「やっぱ。お金払えないので、この武具は返しますよ!」
先程までゴネていた人間とは思えないほど武具を渡そうとしている。
しかし、あの声は老人も聞こえてしまっているのだ。
「いやぁ……。どうしようかのぅ」
老人は目を伏せ、頭をポリポリとかいて困ったような仕草を見せる。
老人は考えていた。
元々、この武具を買う人物はそうそう現れるものでもない。
商人として、無料で武具を渡すことは出来れば避けたい気持ちもわかるが、気味の悪いものなど近くに置きたくないのだ。
しばらく腕を組んでいると、突然ニカッとした表情を蓮に見せる。
「やはり。わしはお主を応援することに決めた!」
「は?」
老人が蓮の目を見つめてそういうと、蓮はびっくりしたような、嫌なような、表情で老人の顔を見つめ返した。
気味の悪い武具ということは蓮にとっても同じだ。
蓮の顔が引きつる。
なんだよ。
さっきまで、金の無い奴に売るもんはなねぇ!とか言ってたじゃないか。
さっさと引き取ってくれよ。
そして、老人の方も引き立った笑顔で応える。
ふっ。
金にならない商売などあり得ないが、元々曰く付きの武具だ。
声まで聞こえたし、ずっと置いておくとワシが呪われてしまいそうじゃ。
しばし沈黙が続く。
「……」
「……」
蓮と老人。
彼らはお互いに同じことを思っていた。
――この不気味な武具から早く離れたい!
と。
お互いに見つめ合う気まずい雰囲気の中で、最初に声を出したのは老人の方だった。
彼は、蓮の肩にゆっくりと手を乗せると勢いよく頭を下げた。
「頼む! 引き取ってくれ! ワシが馬鹿じゃった。こんな気味の悪い武具はもう近くに置きたくない」
「??!」
「お主も先程の声が聞こえたじゃろう。実は、前々から変な音が聞こえると思っておったんじゃ。気のせいだと紛らわせてきたが、さっきのハッキリとした声で分かった。この大剣は呪われとる」
蓮の肩を掴む老人の手はプルプルと震えていた。
どうやら最初からこの武具のことを老人はよく思っていなかったみたいである。
よく見ると額からはうっすらと冷や汗が垂れている。
得体の知れない現象を目の当たりにして恐ろしいのだろう。
だが、それは蓮も同じである。
蓮は老人の手を肩から外して声を出した。
「ちょっと待ってくださいよ! 呪われてる武器なんて客に装備させないでください!」
「もう手遅れじゃよ……。それにワシも半信半疑じゃったんじゃ。武器から声が聞こえるなど。意思を持つなど聞いたことがないわい」
「……」
「まぁ落ち込むな。その武具はレア度もだいぶ高い。普通じゃタダでなんてとても無理じゃ」
「え。ちょっと……」
老人はそういうと、開けたケースや小さいケースを片付けていった。
蓋を閉めて2つのケースを店の奥にしまっていく。
蓮はその光景を黙って見ているだけである。
強引すぎでしょ。
結局、これでこの武具の所有者は俺ってことか?
でも……。
もしかしたらさっきの声は単なる気のせいだったかもしれない。
なんだ。心配する必要なんかないじゃないか。
武具が声を出すなんてあり得ないんだから。
そう思いながら蓮は大剣を見つめた。
「そうだよな。さっきの声も俺の気のせ……」
蓮は、独り言を言って自分を安心させようとしたのだ。
だがしかし、信じ難いことに先程の声は現実であった。
言葉を言い終わる前に大剣からまた声が聞こえた。
――よろしくな。新たな主人よ
「……!?」
この声には蓮はもちろん。
老人も驚いた。腰を抜かして地べたに尻をつけている。
一方、蓮は目を大きく開けて固まっているだけだ。
喋った?
今、確実に喋ったよな。俺はただ武具ってどんなものかを知りたくて立ち寄っただけなのに。
いきなり変な武具に出会うなんて……。
蓮と老人がしばらく動けずにいると、また武具の方から話し出した。
どうやら武具が喋っているせいど、2人が驚いているということは武具自身も気づいていたようだ。
武具は突然、小刻みに揺れだすと白い光に包まれた。
――この姿の方がよいかな?
優しい光だ。
大剣全体が光に包み込まれると、徐々に小さくなっていく。
次第に形状そのものも変わっていった。
長細い形状から丸くて小さいものへとなっていく。
最終的には、小型犬サイズになって光が収まっていった。
そして、光が徐々に薄くなっていって声の正体が姿を現す。
真っ赤な鱗を持ち鋭い金色の眼光を持つ、爬虫類、いや、ドラゴンの姿をした動物が現れたのだ。
小型犬サイズであるが堂々とした威厳を持っている。
呆気に取られている蓮と老人を、その声の持ち主は見て、少し笑った。
その後に短い首をペコリと折って会釈する。
「我が名は竜王。天空を統べる者だ」
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる