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第6章過去転移
121 悲しき童話
しおりを挟む――赤く輝く鱗は太陽の如く、白く輝く牙は鋼鉄の如く、そして、蒼く燃える瞳は宝石の如く。
伝説の龍王を表す言葉は星の数ほどあれど、最も民に広がっているのはこの言葉だ。
この国を救った龍王の伝説。
国の子供達は必ずといっていいほど聞かされる龍王についての童話、この国の誕生に関わる物語とされている。
そんな童話に登場するドラゴンが目の前に現れた。
しかもミニサイズで。
「何を固まっておるのだ」
自らをドラゴンキングと名乗る、龍らしき生物が蓮の方向を向いて喋っている。
小動物ほどの大きさのそれは、確かに立派な鱗と牙を持っているが威厳は感じない。このサイズで威厳などあるわけがないのだが……。
頭を整理できていない蓮は、まだ言葉を発せずにいた。
(武器が動物に変身した? そういう仕様なのか……)
蓮が恐る恐る視線を、武器商人の爺さんへと移した。
「な。な。なんじゃと?……」
どうやらこの状況は普通ではないらしい。
目玉が飛び出そうなほど目を見開いている。いや、武器商人と蓮だけではない。
広場に集まっていた人全員がドラゴンへと視線を集中させている。勇者や大魔導師もだ。
そんな異様な空間をドラゴンも感じ取ったのか、頭を爪でポリポリとかきながら蓮に言葉を発した。
「このままでは話が進まないな。我は大剣に戻ろう」
そういうとドラゴンは白い光に包まれた。大剣の姿からドラゴンの姿へとなった時と同じだ。
ミニサイズのドラゴンから巨大な大剣へと姿を変える。
その様子を蓮は呆然と眺めていた。
目を白黒させている彼らを置きざるかのように、大剣へと戻った。
「また、武具に戻った?……」
驚きの表情のまま、恐る恐る蓮は大剣へと近づいた。
その神々しく禍々しい刀身に惹かれるかの如く吸い込まれていく。
そして、つかの部分をゆっくりと握ると片手で持ち上げた。
「思ったより軽いんだな」
蓮が大剣に見惚れていると武器商人の老人が困惑している。
「いいのか?……。お主は?」
「……」
厄介な武器を押し付けられるのはいいが、武器商人に残る僅かな良心が抑えられなかったのだ。
ましてや、ドラゴンに姿を変える大剣など聞いたことがない。
ドラゴンの姿のまま暴走して所有者に襲いかかる可能性もある。最悪の場合この国までも……。
神妙な面持ちのまま、老人は蓮に言葉を放った。
「その大剣は破壊したほう良いかもしれんのう」
「我を破壊するだと?」
最初に、老人の言葉に反応したのは蓮ではなく、その武器自身だった。
大剣の姿のまま、おどろおどろしい声が響いた。
蓮も老人の顔を睨みつけている。
「やめてくれ。この大剣は俺達を傷つけない」
「ほぅ。我の心が読めるのか?」
「お前を掴んだ時から、感情が俺に流れ込んで来るんだ。それは怒り……じゃない」
老人は不思議そうな顔をしながら、大剣から蓮へと視線を移した。
蓮の様子がおかしくなったからだ。先程までの驚いている様子はなく、目が落ち着きすぎている。
目が虚になっていく蓮にもはや意識はなく、ボーッと誰もいない空間は視線を向けていた。
その様子を見て目を白黒させている老人に向かってドラゴンキングが応える。
「老人よ心配するな。我の新たな所有者は、我の感情に飲み込まれるほど弱くなさそうだ」
どこから音が出ているのか分からないが、大剣の姿のままドラゴンは威厳のある声を出した。
この言葉から察するに、この武器を使用していた先人達が存在するようである。
しかし、武器商人はそんな奇怪な話を聞いた事がない。
武具に化けるドラゴン。いやドラゴンに化ける武具なのかもしれないが、こんなもの生まれてこの方見たことも聞いたこともないのだ。
武器商人は震えた声で大剣に問うた。
「ドラゴンキングとやらに聞きたい。本当に人類に対する敵対心はないのか?」
「なぜそんな事を聞く。我の怒りの感情などとっくの昔に消え去ったわ」
とっくの昔に消え去った?……。
以前は人類を滅ぼそうとしていたのだろうか。この大剣から発される言葉の意味もわからないまま、老人は蓮の方を見た。
「……本当かどうか疑わしいが、信じるしかなさそうじゃな」
「それは光栄だ。我は誉高き龍王、嘘などつかん。安心しろ」
大剣は少し柔らかくなった口調で応える。
しかし、武器商人の言葉には未だ警戒心が残っていた。
鋭い口調と目つきで大剣を睨みつけた。
「じゃが、一つだけ忠告しておくぞ。お前さんの声は、もう広場にある連中に見られておる。国から危険視されておることを忘れるな」
「ふっ」
老人の訴えにドラゴンキングは笑って答えると、蓮に向かって声をかけ始めた。
「もう慣れただろう。正気を取り戻せ」
「……。はは、なんか眠たくなってたけど、もう……大丈夫……」
弱々しい言葉を出すと蓮はゆっくりとその場に崩れ落ちた。
広場には、大剣が地面に打ち付けられるガシャンという音が響く。
「大丈夫か?」
優しい声で、蓮の肩を引き上げたのは勇者であった。
先程まで後ろで様子を見ていたが、蓮の様子がおかしくなったのを見て近づいていたのだ。
武器商人は少し驚いた様子で勇者に話しかけた。
「アーサーじゃな。この奴隷とは知り合いか?」
「あぁ。少し前に会ってな」
「勇者が奴隷と知り合いじゃと……。やはり、此奴は只者ではなかったか」
「俺と一戦交えて、互角の奴隷だ」
「なんじゃと?」
武器商人は目を大きく開けて、もう一度蓮の顔を見た。
最弱のはずの奴隷がなぜ、国一番の戦力を誇る勇者と互角に戦えるのだろうか。
武器商人の頭の中は、短時間で起きた色々な事によって相当混乱していた。
しかし、完全にフリーズしてしまった武器商人とは違って勇者は冷静だった。
気を失った蓮を見て、すぐに近くにいた大魔導師を呼んだ。
「大魔導師様! 何か魔法のようなモノがかけられているようだ」
「え。ちょっと。急に何よ。私も魔力がほとんどないのに」
大魔導師は顔を歪ませながら、蓮の額に手を当てた。
すると電撃のようなモノが走って、その手を退けた。
「キャッ! 何よこれ」
大魔導師は弾かれた手をさすりながら、目を細めて蓮を見つめている。
「これは魔法なんかじゃない……。そんな崇高な技術じゃない。まるで怨念。呪いの類かしら……」
彼女の瞳に映る蓮の姿は、禍々しい黒いオーラに包まれていた。
それと不思議なことに、先ほどまで饒舌に声を出していた大剣はうんともすんとも言わなくなったのだ。
不思議に思った勇者は、蓮の手から離れた大剣に触れようとした。
しかし。
【この武具は、装備できません】
大魔導師と同じように電撃によって手を弾かれてしまった。
「本当に奴隷専用の武器なのか。こんなものがあるなんて、聞いたことないぞ」
勇者は顎に手を当てて考えている。
魔法を多少なりとも使える彼も、蓮が今、魔法のようなモノにかけられている事は察しがついていた。
何とか蓮にかけられた呪いを解こうとする、勇者と大魔導師。
しかし、彼らが何もしても無駄である。
この呪いはドラゴンキングと蓮が、精神の奥深くで話す為にあるからだ。
気を失ってからすぐ、蓮の脳内に向かってドラゴンキングが声を響かせていた。
「新たな所有者よ……」
――メヲサマセ。
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