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第6章過去転移
122 星空の下で
しおりを挟む暗い……。
何も見えない。
ここはどこだ?
意識を失ったせいで、蓮は混乱していた。
大剣を握っていたところまでは覚えている。だけど、それ以降が思い出せない。
思い出すのは、大剣の柄から手に伝わってくる寒気だけだ。
思い出せ、思い出せ。
確か俺は、大剣を持ったまま気を失ったはずだ。俺は一体どこにいるんだ?
……そう。そうだ。急に全身の力が抜けて、視界がぼやけていって真っ暗になってしまったんだ。
そのまま何も見えないし。何も感じない状態だ。
寝ているのか、それとも死んでいるのか。それすらも区別がつかない。
もう、考えるのをやめようか。
いろいろな事があってもう疲れた。少しだけ、もう少しだけ眠りにつこうかな。
「しょ……ゆう……しゃ……」
蓮が諦めて思考を止めようとしたその時だった。
どこからか声がする。この声は、ドラゴンの声が聞こえじゃないか。
なんて言ってるんだ。ぼんやりとしてはっきりと聞こえない。
くそ。俺は眠いんだ。要件はなんなんだ。
「一体なんなんだ!!!」
「やっと目覚めたか。新たな所有者よ。目を覚ませ」
突然はっきりと、その声は聞こえた。
しかも遠くから聞こえてくるものではない。すぐ目の前から聞こえてくるのだ。
その声は深く、そしてどこか荒々しいものであった。
さきほどの大剣の声であることには間違いないが、明らかに違う。何といえばいいんだろうか。そうだ、声に厚みがました気がする。
「新たな所有者よ。まだ目覚めぬのか?」
こちらがもう既に起きていることを向こうは気づいているようだった。少し不機嫌そうな口調で再度、言葉を放つ。
バレているならしょうがない。目をあけてやろうじゃないか。
俺は恐る恐る目を開けた。この時には体の感覚がもどっていたので、不思議と恐怖心はなくなっていた。
「いや、もう起きてる……。って、え?」
俺は驚いて声を出せなくなっていた。
そこには何もないからだ。
目を開けてみると、青々と広がる草原が映っている。
「なんだこれ? 暗いのに明るい?……」
そして、頭上には見たこともないほど美しい星空が広がっていたのだ。
透き通った夜空に広がる星の輝き。肌に心地よく当たる涼しい夜風。それらは荒んでいた俺の心を多少なりとも潤してくれた。
そこには、ドラゴンの姿はない。俺の聞いた声はどこにいるんだろう。
ってか。俺のいる場所はどこだ。もしかしてただの夢の中か?
まぁでも今はそんなに急いで考える必要もない。
澄み切った空気を吸い込んでリラックスしていた。ヒンヤリとした風を体に受けて背伸びをした。
「久しぶりだな。こんなに晴れ晴れした気持ちになるのは」
俺はそのまま草原に手足を伸ばして、勢いよく寝ころんだ。
青々と茂った草は、まるで上質な羽布団のようだった。そして、寝転がった眼前に広がるのはあまたに輝く星の群れ。最高だ。
「このままずっとここにいたい」
ついそんな言葉がでてしまった。
俺にはまだやらなければならないことが、たくさんあるのに。もう疲れた。
こんな綺麗な星空の下で寝れるなんて幸せだ。
俺はあまりの気持ち良さに背伸びをして、目を閉じた。もう少しくらい眠ってもいいだろう。
「寝るな。2度と目覚めなくなるぞ」
「え?」
突然ドラゴンの声が聞こえた。
しかし、勢いよく立ち上がるって周囲をキョロキョロと見ても、ドラゴンの姿など見当たらない。
周りは見渡す限りの草原が広がっているだけだ。
木などの隠れる物体はない。
どこだ。どこから声がきこえるんだ。
辺り一面を隈なく見つめて、何も無いことを確認すると安堵した気持ちになる。
「にしても、本当に綺麗だな」
人工的な灯りが何もない中にあって、星空の明かりだけで照らされる草原は何とも幻想的だ。
不思議な場所だな。
何もないけど。
寂しくない。
なんでだろう。まるで、誰かがそばにいるみたいだ。
俺は自然を体に感じるために目を閉じて、風の向きに体を向けた。
ヒュウゥゥゥゥゥゥ。
ヒンヤリとした風がまた、心地よく体を通り抜ける。
ちょうどその時だ。
草がゆっくりと左右に動き出した。カサッカサッと音をたてて乾いた音をたてるそれは、どんどん激しくなる。
ん、なんだ。
急に風邪が強くなってきたような……。
ビュゥゥゥゥゥゥゥ!!!
「な、なんだ!?」
突然の強風が俺を襲った。
目も開けられないくらいの強烈な風。思わず両手で顔の前をかばった。
なんなんだ。せっかく心が安らいでいたのに、急に立っていられないくらいの風に襲われるなんて。
少し苛立ちながらも、一瞬の間に過ぎ去った風に安堵していた。
でも、目を開けた俺は驚いたんだ。
目の前にさっきまでいなかったものがいたから。
「ド……。ドラゴン?……」
俺の目の前にいたのは真っ赤なドラゴン。
しかも、前に見たミニサイズのものではない。自身の身長の何倍もの大きさのドラゴンだ。
鋭い眼光に紅に輝く鱗。そして、巨大な牙は全てを砕いてしまいそうだ。
「ふはは。やっと姿を見せれたぞ。新たな所有者よ」
「え?……」
「驚いて言葉もでないか。主がこの場所のことをもっと早く理解しておれば、すぐにでも姿を現せたんだがな」
「この場所?」
「あぁ。ここは我の精神世界じゃ。我を封印する為に犠牲になった者達も一緒に閉じ込められとる」
「犠牲になった者達?」
「あぁ。主と同じ、哀れなスレイブだ」
ドラゴンの言葉に俺は辺りを見渡した。
言葉通りなら、他に人か何かがいるはずだ。
しかし……。
誰もいない。何もない。
俺はドラゴンを見つめた。疑いの目だ。
もしかしたら俺をここに閉じ込めて、体を乗っとるつもりかもしれない。
俺がそう思った時だ。
ドラゴンは急に笑い出した。
「ふはは。安心しろ。我が出来ることは限られておる。主も感じているだろう。お前は同胞達に守られている」
そう言ってドラゴンは天を向いた。
しかし、天には何もない。あるのは満天の夜空のみだ。
「どういう意味だ。星しかないじゃないか。人なんてどこにも……」
「何を言っておる。あの星達がお前の同胞だろう?」
え?
まさか。
俺は夜空を見上げた。
夜空に満天に輝く星達は先ほどよりも強く輝いている。それに、どこか懐かしい気がした。
奴隷の本能なのかもしれない。
「新たな所有者よ……」
俺がそうやって星空にウットリしていた時だ。
ドラゴンが突然、牙を剥き出しにして戦闘態勢に入った。
口からはメラメラと燃える炎が見える。先ほどまでの涼しい風が熱風へと変わっていく。
「急にどうしたんだよ。俺を喰うつもりか?」
俺は冗談まじりにドラゴンに言った。
けど、どうやら彼は本気のようだ。目をギラつかせて今にも飛び交かってきそうな雰囲気だ。
そして、ドラゴンは言葉を続ける。
「まぁそんなとこだ。我もここに長いはしたくない。我を使う資格があるかどうか……。品定めさせてもらうぞ!」
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