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「大丈夫か。サシャ」
「あぁ問題ない。そう言えばリスト殿の前世は何なのだ?」
「俺か。俺はな……派遣だよ」
「……」
リストの回答を聞いてサシャは黙り込んでしまった。それは笑いを堪えているのではない。
自分に近い者を見つけた時に感じる喜びだ。彼女は右手の拳を握って喜びを噛み締めた。
それを見るリストは不思議そうな顔をしながらサシャを見つめた。
「サシャ、俺の前世がそんなにおかしいのか?」
「ち、違うんだ。リスト殿、少し話をしないか。代表は離れててくれ」
「別に私は構いませんが……」
慌てるような手振りをした後、サシャは勢いよくリストの手を握り森の中へと走っていった。
シャルルは不思議そうな表情を浮かべて森の中に消え去る2人を見つめていた。
残されたのはシャルルと5千Gの入った袋が2つである。
「よし。この辺でもう良いだろう」
「急にどうしたんだサシャ」
「……」
また黙り込むサシャ。彼女はまた拳を握って力を入れている。今度は喜びではない、緊張しているのだ。
自分の秘密をさらけ出すのだから無理もない。
本当なら初対面に近い人物に秘密など言わないと思うが、リストは元派遣で師匠の若い頃にも似ている。
自分に近いものを感じ取ったのだろう。サシャはじっと、リストを見つめた後に重い口を開いた。
「私、本当はニートだったのだ。それも20代の」
「へぇ……」
「あれ? 驚かないのか?」
腕を組んで見つめ返す彼を、ポカンとした表情でサシャは見ていた。
こちらの世界で大活躍している勇者が、元はニートだと知れば驚くと思うのだが、リストは違った。
世間に白い目で見られるという共通点を持っているせいか、どこか親近感があったのだろう。
リストもサシャの前世の状況をなんとなく理解していたのだ。
「何となく分かってたさ」
「そうだったのか。嬉しいぞ、我の事を理解してくれる者が初めてできた」
「でも、どうしてだ。なんでサシャは赤ん坊のままで転生出来たんだ?」
「それはだな……」
サシャは説明を続けた。自分が女神の手違いで死んでしまった事、そのお詫びとして記憶を保ったまま0歳児として転生させて貰った事を。
一通り話していると日暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。
「というわけだ。我の事情は理解したかな?」
「女神、適当すぎだろ」
「その通りだ。って、もう日も暮れてしまったか。我はまだ鍛錬している、代表にはよろしくと伝えてくれ」
「分かった」
「お金は有り難く頂くぞ。5千Gは先程の場所に置いておいてくれ」
「サシャは?」
「我はここで鍛錬させてもらう。素手でスライムを倒すつもりだ」
「すごいな。じゃ俺はこれで」
手を軽く振るとリストはシャルルが待っている場所へと戻っていった。
その足取りは軽い。
転生初日にクエストを達成し、勇者と仲良くなれたのだ。幸先は良いと言わざるを得ないだろう。
「もう、リストさん遅すぎますよ~」
不貞腐れた口調を放ったのはシャルルだ。
先程からずっと1人で待っている彼女は、金の入った袋を椅子にして腰掛けていた。
足をバタバタさせて、苛立ちを表している。
「勇者様と何を話してたんですか?」
「いや特に」
「何か隠してますよね……まぁ、いいでしょう。勇者様に口止めでもされてるんでしょう?」
「はは。そんな感じだな」
手を頭の後ろに回して笑うリストは、軽く笑いながら誤魔化す。
口止めはされていないが、勇者は自身の前世を気にしていたのでペラペラと喋るのはやめたのだ。
そして、約束通り5千Gをその場において2人は歩き出す。
「じゃあもう帰ろうぜ代表」
「分かりました。はぁ~」
「ため息なんてついてどうした?」
「お金が……」
「5千Gはあるんだからいいじゃん。これだけあれば改修出来るさ」
「そうですね。高望みしてはいけませんね」
悲しそうな表情を地面に向けて歩くシャルル。
彼女は王国に着くまでの間、何も考えられなかった。
門番のガリウスにも上手く答えられず、ただ、クエストの依頼物を渡して報酬の1Gを受け取るだけだった。
そんな様子を見ていたリストはシャルルに謝り倒している。
「また黄金スライムを狩ればいいだろう?」
「そんなに都合よく出てきませんよ。それに、安心してください。私、怒ってませんから」
「……」
腕を組んで口を膨らませている彼女を見て、怒っていないと思える人物など殆どいないだろう。
初めて見る大金に胸躍らせるのは分かるが、執着しすぎじゃないかと思うリストであった。
そして、無言のまま進んでいるとオリエントの古屋が見えてきた。
しかし……。
「代表! なんか様子がおかしいぞ」
「え?」
そう。リストの言う通り古屋は通常の状態ではなかった。周囲には松明を持った男達が古屋を囲んでいる。
それどころか彼らはリストとシャルルを見つけると睨みつけてくるではないか、何やら【オリエント】と因縁がありそうだ。
リストは目の前の男達とシャルルが金にガメつかった事を結びつけてある過程を導き出した。
「まさか、借金してるんじゃ」
「してないですよ! あの方達は恐らく名門ギルド【キング・シュナイザー】」
リストの心配をよそにシャルルは即答する。
しかし、その表情は暗く元気の無いモノであった。まるでもう見たくないと言わんばかりに。
そんな彼女を見ているともう一つ疑問が湧いてくる。それは日が落ちて視界が見えにくくなった状態で、なぜ彼らが他のギルドの人間であるのが分かったのか。というものだ。
彼は間髪入れずに質問した。
「どうして分かるんだ?」
「一際大きな男が見えるでしょう。あれがキング・シュナイザーの代表だからです」
シャルルはじっと前を見つめたまま、小さな声でそう呟いた。
「へぇ。詳しいんだな」
「……当然でしょう、彼の名はガロス。父の盟友だった方ですから」
「あぁ問題ない。そう言えばリスト殿の前世は何なのだ?」
「俺か。俺はな……派遣だよ」
「……」
リストの回答を聞いてサシャは黙り込んでしまった。それは笑いを堪えているのではない。
自分に近い者を見つけた時に感じる喜びだ。彼女は右手の拳を握って喜びを噛み締めた。
それを見るリストは不思議そうな顔をしながらサシャを見つめた。
「サシャ、俺の前世がそんなにおかしいのか?」
「ち、違うんだ。リスト殿、少し話をしないか。代表は離れててくれ」
「別に私は構いませんが……」
慌てるような手振りをした後、サシャは勢いよくリストの手を握り森の中へと走っていった。
シャルルは不思議そうな表情を浮かべて森の中に消え去る2人を見つめていた。
残されたのはシャルルと5千Gの入った袋が2つである。
「よし。この辺でもう良いだろう」
「急にどうしたんだサシャ」
「……」
また黙り込むサシャ。彼女はまた拳を握って力を入れている。今度は喜びではない、緊張しているのだ。
自分の秘密をさらけ出すのだから無理もない。
本当なら初対面に近い人物に秘密など言わないと思うが、リストは元派遣で師匠の若い頃にも似ている。
自分に近いものを感じ取ったのだろう。サシャはじっと、リストを見つめた後に重い口を開いた。
「私、本当はニートだったのだ。それも20代の」
「へぇ……」
「あれ? 驚かないのか?」
腕を組んで見つめ返す彼を、ポカンとした表情でサシャは見ていた。
こちらの世界で大活躍している勇者が、元はニートだと知れば驚くと思うのだが、リストは違った。
世間に白い目で見られるという共通点を持っているせいか、どこか親近感があったのだろう。
リストもサシャの前世の状況をなんとなく理解していたのだ。
「何となく分かってたさ」
「そうだったのか。嬉しいぞ、我の事を理解してくれる者が初めてできた」
「でも、どうしてだ。なんでサシャは赤ん坊のままで転生出来たんだ?」
「それはだな……」
サシャは説明を続けた。自分が女神の手違いで死んでしまった事、そのお詫びとして記憶を保ったまま0歳児として転生させて貰った事を。
一通り話していると日暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。
「というわけだ。我の事情は理解したかな?」
「女神、適当すぎだろ」
「その通りだ。って、もう日も暮れてしまったか。我はまだ鍛錬している、代表にはよろしくと伝えてくれ」
「分かった」
「お金は有り難く頂くぞ。5千Gは先程の場所に置いておいてくれ」
「サシャは?」
「我はここで鍛錬させてもらう。素手でスライムを倒すつもりだ」
「すごいな。じゃ俺はこれで」
手を軽く振るとリストはシャルルが待っている場所へと戻っていった。
その足取りは軽い。
転生初日にクエストを達成し、勇者と仲良くなれたのだ。幸先は良いと言わざるを得ないだろう。
「もう、リストさん遅すぎますよ~」
不貞腐れた口調を放ったのはシャルルだ。
先程からずっと1人で待っている彼女は、金の入った袋を椅子にして腰掛けていた。
足をバタバタさせて、苛立ちを表している。
「勇者様と何を話してたんですか?」
「いや特に」
「何か隠してますよね……まぁ、いいでしょう。勇者様に口止めでもされてるんでしょう?」
「はは。そんな感じだな」
手を頭の後ろに回して笑うリストは、軽く笑いながら誤魔化す。
口止めはされていないが、勇者は自身の前世を気にしていたのでペラペラと喋るのはやめたのだ。
そして、約束通り5千Gをその場において2人は歩き出す。
「じゃあもう帰ろうぜ代表」
「分かりました。はぁ~」
「ため息なんてついてどうした?」
「お金が……」
「5千Gはあるんだからいいじゃん。これだけあれば改修出来るさ」
「そうですね。高望みしてはいけませんね」
悲しそうな表情を地面に向けて歩くシャルル。
彼女は王国に着くまでの間、何も考えられなかった。
門番のガリウスにも上手く答えられず、ただ、クエストの依頼物を渡して報酬の1Gを受け取るだけだった。
そんな様子を見ていたリストはシャルルに謝り倒している。
「また黄金スライムを狩ればいいだろう?」
「そんなに都合よく出てきませんよ。それに、安心してください。私、怒ってませんから」
「……」
腕を組んで口を膨らませている彼女を見て、怒っていないと思える人物など殆どいないだろう。
初めて見る大金に胸躍らせるのは分かるが、執着しすぎじゃないかと思うリストであった。
そして、無言のまま進んでいるとオリエントの古屋が見えてきた。
しかし……。
「代表! なんか様子がおかしいぞ」
「え?」
そう。リストの言う通り古屋は通常の状態ではなかった。周囲には松明を持った男達が古屋を囲んでいる。
それどころか彼らはリストとシャルルを見つけると睨みつけてくるではないか、何やら【オリエント】と因縁がありそうだ。
リストは目の前の男達とシャルルが金にガメつかった事を結びつけてある過程を導き出した。
「まさか、借金してるんじゃ」
「してないですよ! あの方達は恐らく名門ギルド【キング・シュナイザー】」
リストの心配をよそにシャルルは即答する。
しかし、その表情は暗く元気の無いモノであった。まるでもう見たくないと言わんばかりに。
そんな彼女を見ているともう一つ疑問が湧いてくる。それは日が落ちて視界が見えにくくなった状態で、なぜ彼らが他のギルドの人間であるのが分かったのか。というものだ。
彼は間髪入れずに質問した。
「どうして分かるんだ?」
「一際大きな男が見えるでしょう。あれがキング・シュナイザーの代表だからです」
シャルルはじっと前を見つめたまま、小さな声でそう呟いた。
「へぇ。詳しいんだな」
「……当然でしょう、彼の名はガロス。父の盟友だった方ですから」
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