異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

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第1章 旅立ち

海を見ながら温泉なんて

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できれば美しい海を眺めながらお風呂に入りたいが、ここはワゴンのなかなんだしやっぱり難しいよね?

だがルリはちょっと小首をかしげただけでこう言った。

「こんな感じでしょうか?」

彼女が手の平を動かすとまた空間がゆがみ、そこに小さな庭が出現した。庭にはシダや小ぶりのヤシの木が植えられ、南国らしい色とりどりの花が咲き乱れている。その綺麗な庭に、5人くらいは余裕で入れそうな石造りのお風呂が置かれていた。

そして、庭のむこうに広がるのは海。今、ワゴンは海上を疾走している最中なので、海しか視界に入らない。潮風が髪を撫でて通り過ぎていく。

「わあ!これどうなってるの?」

「家に窓をもうけるように時空の裂け目の部屋の一部を開いて、外とつないでみました」

「そんなこともできるんだ」

ルリは女神の分身だけあって、何でも出来るらしい。綺麗な庭と海を眺めながらお風呂に入れるなんて最高じゃないか。

私は庭に設置されたお風呂に近寄る。今はお湯は溜まっていないが、お湯が出る蛇口が3つついていて、それぞれに「草津・下呂・有馬」と日本の温泉の名前が書いてあった。

え、もしかしてこれ?

ルリを見ると彼女はコクリとして言った。

「名前の書かれた蛇口をひねると、それぞれの温泉が出ます」

「すごいね!!」

異世界の海を眺めながら日本の名湯に入れるなんて、すごすぎる。露天風呂に入る自分の姿を想像した私は、そこであることに気づく。

「ねえ、ここって外からも見えるんだよね?」

外とつながってるなら当然向こうからも見えるはずだ。しかしルリは首を横に振る。

「いいえ、境界にバリアを張っているので、外からは普通のアヒルンゴワゴンにしか見えません。外部の者が侵入してくる心配もないです」

「そんな仕掛けになってるんだ」

私は目を丸くした。だけど、「見えないから安心だね」という気分にはなれない。絶対に外からは見えないとしても、庭のすぐ外を人が歩いていたりしたら落ち着いてお風呂に入れないと思う。今は海の上だけど、島に着いたら現地の人がいるんだし。

「見えないとしてもちょっと落ち着かないなぁ」

気持ちを伝えると、ルリはほんの少し目を見開く。表情に乏しくて分かりにくいが、どうやら驚いているらしい。彼女は人間とは違うから、こういう気持ちは分からないのだろう。

「先ほどの着替えのときもそうでしたが、絶対に見られないと分かっていても恥ずかしいと感じるのですね」

「うん、理屈では分かるんだけど、気持ち的に」

すると彼女は少し考えるようにしてから言った。

「では目隠しをつくりましょう」

ルリがまた何ごとか唱えると庭の周囲に生垣ができた。植物は人の背丈よりも大きく、大きな葉がこんもりと茂っているので人がのぞいたりはできなさそうだ。驚いたのはその植物の色。

「カラフルで綺麗ね」

「はい、これはレインボーファンという植物で、こちらでは生垣によく使われるのです」

レインボーファンはシダのような植物で、その名前の通りひとつの株から7色の葉がランダムに出ているのだ。まるで庭の周りに虹色の生垣をつくったようで楽しい。

うん、これなら安心して入れる。外の景色が見えなくなっちゃうのはちょっと残念だけど。

庭の端に立っている今は生垣のむこうに海が見えるが、お風呂に入ったら海は見えないだろう。でも、綺麗な庭と空は見えるし、開放感はバツグンだ。

そんな風に考えていると、ルリが突然大きな声を張りあげた。

「オープン!」

そのとたん、庭を囲って一列に並んでいたレインボーファンがニョキッと立ち上がった。土のなかに埋まっていたらしい2本の足が地上に這い出て、ワサワサと葉を揺らしながら動き出す。足はニワトリのそれとよく似ていて、ちょっと気持ち悪い。

「な、何あれ!?」

「レインボーファンは自分で移動できるのです」

動ける植物ってことか。さすがは異世界と思いながら見ていると、レインボーファンたちは二手に分かれて庭の両端に集まり、それぞれ円陣を組むような形でそこに落ち着いた。足が地中に埋まってただのカラフルなシダに戻る。

そしてレインボーファンが退いたことで庭はオープンになり、また瑠璃色に広がる海が全開で見えるようになった。

「クローズと命令すればまた元の位置に戻りますので、状況に応じて開け閉めしてください」

なるほど!人が来ないような場所ではオープンにして、そうじゃない時は庭を眺める露天風呂を楽しめばいいのだ。

「すごいわルリ、ありがとう!!」

私は感激してルリに抱きついた。思い通りの素敵な部屋と露天風呂。まだバカンスは始まったばかりだけど、もう最高に楽しい時間を過ごせる予感しかしない。

「いえ、私は沙世さまのツアコンとして仕事をしただけです」

その言い方は相変わらず感情がこもっていなかったけど、その頬がわずかに赤らんで見えたのは気のせいじゃないと思いたい。

せっかく庭が出来たので、ついでに広めのバルコニーもつくって寝室とつなげてもらった。もちろんデッキチェアとテーブルを置く。

私はさっそく露天風呂に入ることにした。ちょっと考えた末に有馬温泉の蛇口をひねる。いい具合にお湯が溜まったところで、広い湯船にちゃぽん!と飛び込んだ。これも調節しているのだろうか、湯加減はちょうどいい。

「はぁ~、極楽ぅうう」

そんなセリフが口から自然と漏れだす。南国リゾートも素敵だけど、やっぱ日本人はお風呂だよねぇ。露天風呂最高!

今は海の真っただ中なのでレインボーファンはどかして海が見えるようにした。このあたりは深いのだろう、海の色は濃いブルーだ。その景色を眺めながら私はふと気付いた。

「トイレ作るの忘れた・・・」
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