異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

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第4章 神殿を目指して森を行く

エピローグ:新たな出発

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「沙世ちゃん、こんにちは」

よく知った声に振り向く。キッチンカーの小窓の向こうに立っているのは、高校の制服を着た黒髪の超絶美少女だ。私は微笑んで答える。

「いらっしゃい、ルリちゃん」

その声に、車内で野菜を刻んでいた私の母も顔をあげる。

「ルリちゃん、いらっしゃい。いつもありがとうね!」

ルリは母に会釈を返すと私に聞いた。

「予約の品はできていますか?」

「うん、量が多いからそっちへ行くね」

私はそれぞれ10人前ずつが入った2つの袋を持って、キッチンカーの外へと出た。車の影にルリを呼んで手渡すと、彼女は周囲に人がいないか確認してから通学カバンに袋を押し込む。普通なら入る量ではないが、このカバンはあのポシェットと同じ仕組みなんだそうだ。

私は半分呆れ、半分は関心しながら言う。

「相変わらずよく食べるわねぇ」

「沙世ちゃんの料理は美味しいですから。女神さまや旦那さまも気に入っているんです」

嬉しいことを言ってくれる。ルリはグルメだから、彼女に認めてもらえるのは嬉しい。

「きぃちゃんは元気にしてる?」

「はい、女神さまが甘やかすので、ずいぶんと大きくなりました」

「そ、そうなんだ」

私はまるまるしたきぃちゃんを想像して顔をひきつらせた。


異世界から帰ってから一年近くたった現在、私は母と一緒にキッチンカーを始めていた。売っているのは「ピリ辛チキン丼」。そう、あのランプの宿の主人に教わったアグルのピリ辛焼きを自分流にアレンジして、ご飯にのせたものだ。

あのあと私は自分の生き方についていろいろ考えた。

これまでは母に心配や負担をかけないようにと、自分をおさえて生きてきたような気がする。自分が何をしたいのかと真剣に考えたことさえなかったのだ。ただ日々を堅実に、無難に過ごすことだけを心がけてきた。

だけどあの旅で自分には出来ないことがたくさんあると気づき、森では死ぬかと思う目にもあった。だからもう少し、これまでの堅実さを残しつつも、人生には冒険することも必要なのだと思うようになったのだ。

でも自分のやりたいことってなんだろう?

私は時間をかけてじっくり考えてみた。そして飲食店を開きたいと思ったのだ。料理をつくるのは昔から好きだった。初めは母を助けるために始めた家事だったけど、料理だけは嫌だと思ったことがない。母が美味しいと言って食べてくれるのがとても嬉しかったのだ。

お母さんは反対するかな?

反応を確かめるため、ある日私は冗談っぽく自分の夢を言ってみた。冗談めかしてはみたものの、きっと母には本心だとバレていたのだろう。想像もしていなかった答えが返ってきた。

「あら、いいじゃない。お母さんも一緒にやりたいな」

「へ!?」

驚く私を尻目に、母は身を乗り出してくる。

「いくら小さなお店だって、仕入れやら、仕込みやら、片付けやら、ひとりで全部やるのはけっこう大変よ」

「それはそうだけど」

「それにお母さん、沙世ともっと一緒にいる時間が欲しいわ。お父さんが亡くなってからずっと、あなたには淋しい思いをさせてきたでしょ?それはお母さんも一緒よ」

「お母さん・・・」

私は返す言葉を失った。私を養うために必死で働いてきた母も、娘との時間がとれないことを淋しいと感じていたのだ。

だけど、本当にそれでいいのかな?

自分の夢に母まで引っ張りこんでいいのだろうか。迷う私の背中を母の言葉が押してくれた。

「沙世、ふたりで食べていくだけなら何とかなるわよ。ダメならダメで、また仕事を探して働けばいいんだから」

その日から私たち親子は飲食店の経営について調べたり、休日に色んなお店を一緒に回ったりした。最終的には中古のキッチンカーを買って、今の商売をはじめることにする。最初は小さくやるのがいいと結論を出したのだ。もちろん、いずれは自分たちの店舗を持つことを目標にしているけれど。

店の名前は「アヒルンゴワゴン」。キッチンカーの車体には3匹のアヒルの絵を描いてもらった。

「チキンなのに何でアヒルなの?」

ときどきお客さんに聞かれるけど、そのときはこう答えるようにしている。

「私にとっては幸運の鳥なんです」

まだ今は赤字を出す日もあるけど、味の評判はいい。少しずつリピーターさんも増えてきて、手ごたえを感じていた。

一番のお得意さんはルリだ。彼女は週に1回は来店して大量に買っていってくれる。

それはキッチンカーをはじめて3日目の午後のことだった。なんの前触れもなく、彼女は女子高生の姿をして現れた。制服はなぜか私の出身校のものだ。

「ル、ルリ!?」

私はキッチンカーから転がり出て彼女に駆け寄った。

「ルリ、本当にルリなの?よかった、もう一生会えないのかと思ってた!」

彼女に会えて私は心から嬉しかった。あの日、きちんとお別れを言えないままになっていて、それがずっと心残りだったのだ。

「あの、沙世さまがお店を開いたと知って、食べてみたくて」

そこに母の声がかかった。

「沙世、お友達なの?」

「う、うん、高校の後輩のルリちゃん」

私は焦ってウソをついた。お母さんゴメン。

ちょうど暇な時間帯だったこともあって、母が「休憩していらっしゃいな」と言ってくれたので、近くの公園のベンチで一緒にピリ辛チキン丼を食べた。ルリは一口で気に入ったようだ。

「美味です!沙世さま!」

「ありがとう。でも様付けで呼ぶのはもうやめて。沙世でいいよ」

「で、では、沙世ちゃん」

「うん、ルリちゃん。元気そうでよかったわ」

私もちゃん付けで答えると、ルリは少し顔を赤らめて照れくさそうにした。

大盛りのどんぶりをあっという間に平らげると、ルリは私が気になっていたことを教えてくれた。ハルトは無事に家に帰って親子の対面をすませ、今は見習いとして宿の厨房で修行する日々だそうだ。

そしてイランコトシーナ3世は島流しになったらしい。そして島で姿を消したのだそうだ。

「え?逃亡したってこと?」

それじゃあハルト親子がまた危ないのでは?と心配になる。

「さあ?ただ聞いた話だと、彼女がいなくなった直後に島で騒動があったそうです」

なんでも人間くらいの背丈の巨大なクッサスギーチャーが出現して、警察まで出動する騒ぎになったのだとか。クッサスギーチャーは死ぬほど息がクサイという嫌われ者の生き物だ。巨大なそいつは人間のように頭が良く、うまく山のなかに逃げ込んだらしい。今でも地元の猟師が追っているのだとか。

私は女神さまの言葉を思い出す。彼女はこれから、幼い子供に呪いをかけた報いを受けるのだろう。

「さあ、そろそろ店に戻らなきゃ」

名残惜しいけど、私はベンチから立ち上がってルリに手を差し出した。あのとき出来なかった握手をしたかったのだ。差し出してきた手を握って、私は心からの言葉をかけた。

「ルリちゃん、あなたには本当にお世話になったわ。ありがとう!」

「沙世さ・・・ちゃん!」

ルリは感動したように黙る。そして何か言いたいけど、言えずに迷っているようなそぶりを見せた。

「どうしたの?」

言葉をうながす私に、ルリは思い切ったように言った。

「あの、ピリ辛チキン丼をお持ち帰りで10人前下さい!」

私とルリのあいだを、涼しい秋風が通り過ぎて行った。
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