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第3部
14 日課
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晴天の空に剣が鳴る。
「はぁぁぁぁっ!!」
「力み過ぎだ」
振り下ろす私の剣は、獣さんが持った木刀に軽くいなされる。
「これならっ!」
逸らされた剣をすぐに切り返す。
「読めている」
しかし、どれだけ速く剣を振ろうと、容易に躱され返される。
「くぅぅ!!どうして当たらないんですかっ!」
「当たったら流石に痛いぞ」
獣さんは涼しい顔をしていた。
「その余裕な顔を焦らせてみせま──」
「──まだそう言う言葉には早いな」
私が振りかぶった瞬間、喉のほんの少し前に電気が迸る木刀の切っ先。
「えっ」
何が起きたのかさえ、分からなかった。
「クララが一足で斬りかかるのと、同じ事をしただけだ」
「……同じ……?え……?」
「魔力による筋肉の増強、そして加速。これだけだ。俺の魔力は雷に変わるが、似たようなものだ」
私のは、ただ勢いよく距離を詰めてその力をぶつけるだけなのに、獣さんはピタリと木刀を止めている。
それだけで技量の違いは明白だった。
「まだやるか?」
「もう一回、いえ、私が勝つまで何度でも……!」
「……気がすむまで付き合おう」
◆◆◆◆◆◆◆◆
見上げた空に雲はない。
「ぜぇ……はぁ……」
「……大丈夫か?」
「くぅぅ!全然勝てない……!師匠にも殆ど負けなかったのに……!」
一度勝った相手に手も足も出ない。
「何故そこまで拘る?」
「一騎打ちで……倒さなければならない相手がいるんです」
「相手は剣士か?」
「いいえ……ですが、可能な限り鍛えたいのです」
「そうか……確かに、クララの剣は速く、重い。物凄い力だ。それほどまでの肉体強化はそうそうできるものではない」
なのに、獣さんには毛ほども叶わない。
「少なくとも殆どの人間には勝てないだろう。だが、その剣がどのように振られるのかわかっていれば対応は出来なくもない。……"整った"獣──俺のように他の生物の知覚を有していればな」
鼻や耳を指差す獣さん。
「以前はそれを封じたから勝てたと言うことですか……」
「後はそうだな、力に頼り過ぎて、技術がな」
「わかってはいましたが……実際に指摘されると耳が痛いですね……」
「教えても意味がなかったのだろうな、人間の剣士相手なら全く必要がない」
「なら!今から教えてください!」
「体に染み付いた剛剣を今から改めるのは無理があるぞ。握った事すらないならまだしも。……下手すると、破城槌でも振り回した方がその力を活かせる気がしてくるが……」
「そんな長物持ち歩けませんよ!何処にいてもわかるじゃないですか!」
「ははっ、魔術を使えば山一つ分吹き飛ばせるのに、態々剣を振ろうとする方が不思議だろう」
毛玉の本体が言った事と、似たような事を言われてしまった。
私の力は剣術には向いていないんだろう、まあ、全力で魔力を込めたら手足が砕け散るだろうし、魔力を使うなら自分以外にするしか……
「……ああ、そうか。魔術で剣を使えば良いんですね、《土よ──》」
「クララ?」
剣を地に突き刺し、詠唱と共に剣の呪印が輝く。
湧き出る金属や石が剣に纏わりつき、その姿を岩塊のような長大な斧剣に変えていく。
「よいしょっと」
尋常じゃないくらい重いけど、魔力を集中させれば普通に振り回せ──
「お、おい、やめ」
振り下ろした剣圧で突風が吹き、地は抉れ、視界の全てを吹き飛ばす。
反動で私の体はかなりの高さまで浮き上がる。
「え、あれ?」
ちょっと落ちたら怪我じゃ済まないくらいまで飛び上がってしまった。
頭の後ろが冷たくなる、いくら殆ど不死身だと言っても四散したくはない。
「け、獣さん!助け──!」
「仕方のない娘だ」
巨大な銀狼になった獣さんは、私の襟を咥えていた。
弾け飛んだ瓦礫を足場にして、ここまできたらしく、その表面は雷で焼け焦げている。
「……ありがとうございます」
「頼むから無茶な真似はしないでくれ……」
「獣さんが守ってくれるのでしょう?」
「ああ……俺を呼ぶなら何処であろうとな。……だが、出来るならそうならないようにしてくれ」
「善処しますわ」
「クララでも使えるような技をいくつか教えるから勘弁してくれ」
「やった!」
「……はは、本当に仕方のない娘だ……」
獣さんは苦笑いした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「こうですか?」
鞘から剣を振り抜く。
「そうじゃない、引き抜くまでは力を抜け」
「脱力してたら何も持てませんよ」
「……本当に剣を教わっていたのか?」
「ええ!相手は皆吹き飛んで終わりでしたけど!」
「……だろうな……」
「さて、次です!次!」
「……クララ、取り敢えず一つは出来るようになろう」
「沢山、技が使えた方がカッコよくないですか?」
「……一芸に秀でるものは万芸に秀でる。先ずはその抜刀を練習してくれ」
「抜刀が何の役に立つのですか?鞘なんて最初から使わなければいいじゃないですか」
「そう言う風に突き詰めると、最初から剣を振る必要もなくなるだろう。あくまで剣術は人間のものだからな」
「ちょっと獣さん、そういう風に言われると私が人間じゃないみたいですよ?」
「……すまん、全然気にしていないのかと思っていた」
毛玉の本体は私の事当たり前のように獣の王として扱ってたけれど、実感はない。
自分の権能が使えるわけじゃないし……いやアトラもそういうのは使えないけど……
「うーん、どっちなんでしょうか?正直私にもよく分からないんです。変異もないですし」
「無ければ無いでいいだろう。俺のようになってしまったら目も当てられない」
「そうですか?私は好きですよ?」
「……そうか」
「そうです」
「まあ、損ばかりでも無いか。耳や鼻も役に立つ事だしな」
「そうです。あ、私にもそういう耳とかあったらどうですか?」
「ん……?まあどう変わろうとクララはクララじゃないか?」
そういう事じゃ無いんだけど……まあ。
「そうですか?」
「そうだな」
一騎打ちの為に鍛錬してる筈なのだけれど……まあ、こう言う日があってもいいかな。
「獣さん」
「なんだ?」
「……やっぱり何でもないです」
焦っても全てが終わる日は変わらないし。
「はぁぁぁぁっ!!」
「力み過ぎだ」
振り下ろす私の剣は、獣さんが持った木刀に軽くいなされる。
「これならっ!」
逸らされた剣をすぐに切り返す。
「読めている」
しかし、どれだけ速く剣を振ろうと、容易に躱され返される。
「くぅぅ!!どうして当たらないんですかっ!」
「当たったら流石に痛いぞ」
獣さんは涼しい顔をしていた。
「その余裕な顔を焦らせてみせま──」
「──まだそう言う言葉には早いな」
私が振りかぶった瞬間、喉のほんの少し前に電気が迸る木刀の切っ先。
「えっ」
何が起きたのかさえ、分からなかった。
「クララが一足で斬りかかるのと、同じ事をしただけだ」
「……同じ……?え……?」
「魔力による筋肉の増強、そして加速。これだけだ。俺の魔力は雷に変わるが、似たようなものだ」
私のは、ただ勢いよく距離を詰めてその力をぶつけるだけなのに、獣さんはピタリと木刀を止めている。
それだけで技量の違いは明白だった。
「まだやるか?」
「もう一回、いえ、私が勝つまで何度でも……!」
「……気がすむまで付き合おう」
◆◆◆◆◆◆◆◆
見上げた空に雲はない。
「ぜぇ……はぁ……」
「……大丈夫か?」
「くぅぅ!全然勝てない……!師匠にも殆ど負けなかったのに……!」
一度勝った相手に手も足も出ない。
「何故そこまで拘る?」
「一騎打ちで……倒さなければならない相手がいるんです」
「相手は剣士か?」
「いいえ……ですが、可能な限り鍛えたいのです」
「そうか……確かに、クララの剣は速く、重い。物凄い力だ。それほどまでの肉体強化はそうそうできるものではない」
なのに、獣さんには毛ほども叶わない。
「少なくとも殆どの人間には勝てないだろう。だが、その剣がどのように振られるのかわかっていれば対応は出来なくもない。……"整った"獣──俺のように他の生物の知覚を有していればな」
鼻や耳を指差す獣さん。
「以前はそれを封じたから勝てたと言うことですか……」
「後はそうだな、力に頼り過ぎて、技術がな」
「わかってはいましたが……実際に指摘されると耳が痛いですね……」
「教えても意味がなかったのだろうな、人間の剣士相手なら全く必要がない」
「なら!今から教えてください!」
「体に染み付いた剛剣を今から改めるのは無理があるぞ。握った事すらないならまだしも。……下手すると、破城槌でも振り回した方がその力を活かせる気がしてくるが……」
「そんな長物持ち歩けませんよ!何処にいてもわかるじゃないですか!」
「ははっ、魔術を使えば山一つ分吹き飛ばせるのに、態々剣を振ろうとする方が不思議だろう」
毛玉の本体が言った事と、似たような事を言われてしまった。
私の力は剣術には向いていないんだろう、まあ、全力で魔力を込めたら手足が砕け散るだろうし、魔力を使うなら自分以外にするしか……
「……ああ、そうか。魔術で剣を使えば良いんですね、《土よ──》」
「クララ?」
剣を地に突き刺し、詠唱と共に剣の呪印が輝く。
湧き出る金属や石が剣に纏わりつき、その姿を岩塊のような長大な斧剣に変えていく。
「よいしょっと」
尋常じゃないくらい重いけど、魔力を集中させれば普通に振り回せ──
「お、おい、やめ」
振り下ろした剣圧で突風が吹き、地は抉れ、視界の全てを吹き飛ばす。
反動で私の体はかなりの高さまで浮き上がる。
「え、あれ?」
ちょっと落ちたら怪我じゃ済まないくらいまで飛び上がってしまった。
頭の後ろが冷たくなる、いくら殆ど不死身だと言っても四散したくはない。
「け、獣さん!助け──!」
「仕方のない娘だ」
巨大な銀狼になった獣さんは、私の襟を咥えていた。
弾け飛んだ瓦礫を足場にして、ここまできたらしく、その表面は雷で焼け焦げている。
「……ありがとうございます」
「頼むから無茶な真似はしないでくれ……」
「獣さんが守ってくれるのでしょう?」
「ああ……俺を呼ぶなら何処であろうとな。……だが、出来るならそうならないようにしてくれ」
「善処しますわ」
「クララでも使えるような技をいくつか教えるから勘弁してくれ」
「やった!」
「……はは、本当に仕方のない娘だ……」
獣さんは苦笑いした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「こうですか?」
鞘から剣を振り抜く。
「そうじゃない、引き抜くまでは力を抜け」
「脱力してたら何も持てませんよ」
「……本当に剣を教わっていたのか?」
「ええ!相手は皆吹き飛んで終わりでしたけど!」
「……だろうな……」
「さて、次です!次!」
「……クララ、取り敢えず一つは出来るようになろう」
「沢山、技が使えた方がカッコよくないですか?」
「……一芸に秀でるものは万芸に秀でる。先ずはその抜刀を練習してくれ」
「抜刀が何の役に立つのですか?鞘なんて最初から使わなければいいじゃないですか」
「そう言う風に突き詰めると、最初から剣を振る必要もなくなるだろう。あくまで剣術は人間のものだからな」
「ちょっと獣さん、そういう風に言われると私が人間じゃないみたいですよ?」
「……すまん、全然気にしていないのかと思っていた」
毛玉の本体は私の事当たり前のように獣の王として扱ってたけれど、実感はない。
自分の権能が使えるわけじゃないし……いやアトラもそういうのは使えないけど……
「うーん、どっちなんでしょうか?正直私にもよく分からないんです。変異もないですし」
「無ければ無いでいいだろう。俺のようになってしまったら目も当てられない」
「そうですか?私は好きですよ?」
「……そうか」
「そうです」
「まあ、損ばかりでも無いか。耳や鼻も役に立つ事だしな」
「そうです。あ、私にもそういう耳とかあったらどうですか?」
「ん……?まあどう変わろうとクララはクララじゃないか?」
そういう事じゃ無いんだけど……まあ。
「そうですか?」
「そうだな」
一騎打ちの為に鍛錬してる筈なのだけれど……まあ、こう言う日があってもいいかな。
「獣さん」
「なんだ?」
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