迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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15 パラダイス・ロスト◇-2

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◇◇◇◇◇◇◇◇

「聖女様!早くここを出よう!」

 庭園を出た私の前に、息を切らして駆けつけたのは彼だった。

「なんで…?」

「今はその話をしている場合じゃない!この国は荒れるぞ!」

「あっ」

 珍しく慌てた様子のオードは、私の手を取って抱き抱える。

「我慢してくれ、聖女様の体力じゃ一緒に走れないからな!」

 そして、私を抱えたまま走り出す。

 宮殿の景色が過ぎ去っていく。

「……わかった…でも…私…歩く」

 でも、出来る事なら初めて踏む外の地は、自分の足で踏みたい。

「そうか……そうだな!だけど少し待ってくれ!必ず願いは叶える!」

「……うん」

 何故か分からないけれど、私は呆然と彼の顔を眺めていた。

 前を向いている彼の真っ赤な瞳。

 私とは違う色のそれを見ていると、なんだか動悸が激しくなってきた。

 ……私は大丈夫なんだろうか。

 今更、外に出るのが怖くなったのかも知れない。

 外への不安と期待、未知への恐怖、お父様への後悔、二人への怒り、頭の中が感情で渦巻く。

 自分でそう思っているだけで、本当はハインリヒやアンナの言うように、私はまともじゃないのかも知れない。

 言葉だって上手では無いし。

 自分一人で何か出来るわけでもない。

「おーど」

「なんだ?」

「私は、大丈夫…?」

「大丈夫だ。俺を誰だと思ってる」

 ……あっさり肯定されてしまった、でもどう言う意味かよく分からない。

「……?おーど?」

「俺はこれでも、それなりに強い方なんだ」

 真面目な顔で言う彼、それがどんな事なのかは分からないけれど、きっと自信にはなるんだろう……信じていいのだろう。

「それを、初めて聞く」

「信じろ、俺は聖女様の盾であり剣だ」

「もう…聖女は、違う」

「あー…いや、なら何て呼べばいい?」

「……私は、呼ぶ時…名前…おーどは、違うの?」

「不敬……というかその…」

「私は、許す…問題は、ある?」

「……わかった、わかったよ!マナ様!これでいいか!」

「顔は、赤い?」

 顔がほんの少し赤くなったオード。

「気の所為だ」

 そう言って顔を背ける。

「様を、いらない」

「そこは線引きだ」

「意味は、なに?」

「分からなくていい」

 ……少なくとも、一人はいるのかも知れない。

「そろそろ外に出るぞ!」

「うん……」

 "どれだけ怖がっても、〈時〉というの来てしまう、どれだけ逃げても時必ず追いついてくるのだ。〈時〉という猟犬は"

 いつか、お父様が私に言った言葉を思い出した。

 その意味がやっとわかった。これまでただの音の集まりでしかなかった言葉の意味が。

 私は……やってくる時を迎え入れるとしよう。

 転がる石に過ぎなくても、"そこ"まで運ばれているのだから。
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