迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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49 フラワーズ・ネバー・ベンド・レインフォール◇-1

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 凄まじい速度で飛ぶオルキヌスは、空に浮かんだ帝国の検問を一気に通り抜けた。

 そして帝国の外へ出て暫くすると速度を落とし、真っ暗な空を回遊し始めた。

『オルキヌス……戻ろうよ、ねぇ……戻ってよ……』

 操縦桿を動かしても、まるで言うことを聞かない。

「◾︎◾︎◾︎──」

 オルキヌスは否定するように唸るだけ。

『どうして……』

 私が全ての元凶で、お父様が亡くなったのもその所為で……それで……オードが嘘をついてて……それで……

 わかりたくなかった、そんなことは知りたくなかった。

 アンナは存在することが罪だと言った。

 帝国から抜け出した先の景色は、鮮やか空や、草原や木々が緑に染める大地に、山々。

 どれも綺麗な筈なのに、私には何も意味もなかった。

 見上げると青ざめた白銀の月が浮かんでいて、その光はステンドグラス越しに感じたものと変わらなかった。

 また、私は同じ場所へ戻ってしまったような気がしていた。

『……いぃるおぐね』

 スカール達を呼び出す。

『……?スカール?エーリカ?トスチャ?』

 誰も返事をしなかった。

『どうして出てこないの……?』

 いくら待っても、何度唱えても同じだった。

 私が呼べばいつでも何処からか現れた彼らすら、私の前から消えてしまったらしい。

『オルキヌスだけだね……』

「◾︎◾︎◾︎?」

 唸るオルキヌス。私達の言葉は分かるみたいだけど、私達は彼……或いは彼女が何を言ってるのか理解できない。

『なんでもない……何でもないの』

 空でも星でもなく、暗闇を見つめていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 朝日が差した空に、私は起こされた。

 暫く何も食べてない所為か、少し頭痛がした。

『オルキヌス…一度降りて。お腹すいた』

「◾︎◾︎◾︎」

 私がそう言うと、操縦桿を握る前にオルキヌスは下降し、あっという間に草原へ着陸した。

 ハッチは手を触れる前に開いた。外へ出ると、オルキヌスは竜の形に変形していた。

 私を下ろす為に自分で動いたらしい。

『よいしょ……う……足、届か……』

 上手く降りることが出来ずに苦戦する私を、オルキヌスはそっと掴み、地面に降ろした。

『ありがとう』

「◾︎◾︎」

 ……自力で降りようとしたのは、初めてだったかもしれない。

『何もないね』

「◾︎◾︎◾︎……」

 空から見えた範囲に街はなかった。

 着陸したのは草原、少し先に真っ黒で背の高い木々が並ぶ──多分、森というものなんだろう。

 何のためにこんなに木が……?

 上から見たとき町は無かったし、人はあまりいなさそう。

『……どうしたらいいと思う?』

「◾︎◾︎◾︎◾︎?」

 首を傾げるオルキヌス。

『オルキヌスに聞いてもダメだよね……』

 でも、何が食べられるもので、何が食べられないものなのか分からない。

 いい匂いがするもの……?でも、そんな匂いどこにもないし……

『……どうしよう』

 早々に途方に暮れてしまった。

『そうだ』

 困った時は靴を食べると言ってた、今がその時かも……?

『……いや、どうやって?』

 それに、これは……食べられない。

 オードが初めて私にくれた物。

 私は貰ってばかりのような気がする。

 その靴の紐は解けていた。

 しゃがみこんで、紐を握って、結ぼうとして。

 結べなかった。

 紐はただ、絡まって、ぐしゃぐしゃになって。

 また、途方に暮れてしまった。

『……私、結べないんだ』

 分からなかった、何も分かってなかった。

 私は自分で歩いてきた訳じゃあ、なかった。

 何もかもしてもらって、助けてもらって、そして、手を引いて貰っていただけだったんだ。

「◾︎◾︎◾︎◾︎」

『オルキヌス?』

 腕を差し出すオルキヌスは、どこから取り出したのか、布袋を持っていた。

『これは……オードの?』

 その中には、小さな入れ物に詰まった乾燥した肉……らしき何か。匂いは悪くない。

 後はオードの日記……言葉が難しくて、まだ私には読めな……あれ?

 オードの日記には、私にも分かる言葉がいくつも書かれていた。

 帝国の文字で、フカミルの言葉が。

 私の話した言葉、そしてその意味、使い方、発音、数え切れないほどの書き込み。

 帝国の言葉と、私の言葉が並んでいた。

 簡単に覚えたように見えたけれど、多分そうじゃないんだ。

 ページを捲っていくと折り畳まれた紙が落ちた。

『地図……?』

 それを開くと、大陸の全体像が描かれていた。

 南の方にある海岸近くの街に丸がつけてあった。

 地図にもいくつも書き込みがしてあった。

『ここに、行こうとしてたのかな』

 オード、貴方は。

 どうして……私に嘘をついていたの?

 なんで、嘘を吐かないなんて、言ったの……?


◇◇◇◇◇◇◇◇


『オルキヌス、行こう。他に行く場所もないし』

「◾︎◾︎◾︎」

 返事をする様に唸ったオルキヌスは私を、その背中に乗せる。

 オードみたいに、自分で登れたら良いんだけど……私だと身長が足りない。

 中には乗り込まず、昼間は地上を行くことにした。

 流石に、ここまでずっと飛んでるからオルキヌスも疲れてるだろうし。

『そういえば、オルキヌスって何食べるの?』

「◾︎◾︎◾︎?」

『首を傾げられても……でも何か食べてるとき見たこと無いし……ま、いっか』

 目指すは、海岸の街……そこでどうするか考えよう。

 私に出来る事は限られているんだから。
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