迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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50 フラワーズ・ネバー・ベンド・レインフォール◇-2

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 夜が開けて間もなく、明るい筈の空は、雲が太陽を覆い隠して、今にも雨が降りそうに、薄暗く静まり返っていた。

『あれは……』

 あっさりしたものだった。

 私が夢見た海は、そこにあった。

 オルキヌスは飛び続け、漸く目的地の上空へ辿り着いた。

『あれが……海……?』

 そこは広い入り江……細長い陸に外海と隔てられた、大きな湖のような地形をしていた。

 その湖の中に小さな島々が見え、地図に書いてあった街は、その中心だった。

『海の上だったんだ……オルキヌス、少し下に降りるよ』

「◾︎◾︎◾︎」

『……お母様は、ここに』

 地図を頼りに、空を降る。

『オルキヌスは、来たことある?』

「……」

 オルキヌスは何も言わない。
 
 近づいてくる街並みは、大きな川のような水路が中心をうねりながら通っていて、背の高い建物が整然と密集していた。

 まるで、海の上にそのまま浮かんでいるような街並みだ。

『どうやって作ったんだろうね』

「◾︎◾︎◾︎◾︎?」

『建物がない場所に殆ど陸地がないし、……帝国みたいに元々あったものを海に浮かべてるのかな?』

「◾︎◾︎◾︎◾︎」

 オルキヌスは否定するような唸りを上げた。

『イムラーナで街が浮かぶんだから、水の上に浮く街があっても不思議じゃないと思うけど』

「◾︎◾︎◾︎◾︎……」

 別に何を言ってるか分かるわけじゃないけど、最近はずっと話しかけてしまっている。

 一応返事はしてくれるから、まだ自分が天涯孤独になったわけじゃないと、思い込ませてくれる。

 ……相手はそもそも生き物なのかどうかも怪しいけど。

 ずっと誰かが私を側で守っていた。

 それは鼓笛隊のみんなだったり、オードだった。

『私に、何ができるんだろう……』


◇◇◇◇◇◇◇◇


 建物に囲まれた広場に着陸して、竜の形態に変形させると、物珍しいのか、人が集まってきてしまった。

『なんか変かな……?』

 いや、違う。あまり穏やかな様子じゃない。

 すこし離れた先から鎧を来た人達が来ている。

『私、なんかやっちゃった……?』

 オードがなるべく、いつも町外れや人目につかない場所を移動していた理由がなんとなく分かった。

「バルバロッサ陛下!出迎えも用意できず、申し訳ありません!ご案内いたしますので、此方へどうぞ!」

 ……どうしよう。

 オルキヌスから降りる事が出来ず、私はそのまま聖堂らしき建物──細かい装飾が至る所に彫刻された綺麗な建物──の正面まで案内されてしまった。

「ようこそいらっしゃいました、父上」

 私を迎えた、赤毛で穏やかな顔の青年はそう言った。

 父上……?という事はこの人は。

「お久しぶりです、第二王子のフィリップです」

 二番兄様だ……!暫く見てないから身長とかも変わってて全然分からなかったけど……

 いきなり捕まったりしなくて良かった、二番兄様なら話が通じるかも知れない。

 彼の記憶はあまりないけれど、少なくとも、宮殿にいた二人よりはマシな筈。

「それにしても、見ない間に随分と錆びつきましたね、何かあったのですか?」

 ……今声を出したら、案内してくれた騎士たちにバレる……ジェスチャーでどうにかしないと。

「父上……?なぜ黙っておられるのですか?出てきてしまって大丈夫なのですか?ご病気の加減は──?」

 それだ!えっと、具合悪そうな様子ってどんな感じだろ、とりあえずお腹痛そうなポーズをすれば──!

「……ど、どうされたのですか!オルキヌスの調子が悪いのですか?」

 ぜ、全然伝わらない……!

「……ん?……いや、なるほど分かりました。他の物は下がれ、オルキヌスは私が整備はする!」

「御意!」

 去っていく騎士たち。

「では参りましょう」

 通じたのかな?だったらいいんだけど……?

「……一体誰が乗っているかはわかりませんが」

 小声で呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『……さて、出てきてもらおうか?』

 いくつもの機械獣が並んで眠る広い部屋で、二番兄様は静かに呟いた。

 ……私達の言葉で。

『……お久しぶりです、二番兄様』

 オルキヌスの手を借りて降りる。

『やはり、マナか』

『ええ。お兄様は随分と背が伸びましたね』

『ああ、そうだな……父上は』

『ハインリヒが殺しました、聞いていませんか?』

『数日前から帝国との連絡は完全に途絶え、向かった者も戻らない。何が起きているんだ?』

『帝国の首都は珊瑚のような物に覆われ、亡者が歩き回っています……そんなことより、なぜフカミルの言葉を』

『……先ずは休みなさい。部屋を用意させる』

『はい……』

『よく一人で頑張ったな』

 私の頭を撫でる二番兄様。

 ……こんな人だったっけ。

『その……一人じゃ……オードが私を逃してくれたのです』

『そうか、オードが……彼が』

 一人で呟く。

 ……オードは知り合いなのかな。

 元七元徳なら、知ってておかしくないけど。

『心配するな、簡単にやられるような奴じゃない』

『……そう、ですね』

 オードは私をここに連れてきて、どうするつもりだったんだろう。
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