【リメイク前】聖女は婚約破棄の上に追放されて、自由になりました。〜私は騎士と幸せを探しに行きますね〜

銀杏鹿

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第一幕

12 パート・オブ・ユア・ワールド.3◆

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 だが、言葉が多少分かるからと言って、それで全て解決するわけでもないらしい。

『異端者がまた来たわ!』

『よし、◾︎◾︎だ』

 俺を見るなり、棒切れを持って駆け寄ってくる小人達。

『いけませんよ、エーリカ、トスチャ。客人は◾︎◾︎に◾︎◾︎して◾︎◾︎◾︎◾︎なくては』

 執事風のスカールが二人を止める。

『じゃあ、どうするのよ!』

『◾︎◾︎にして返すのです』

『わかった◾︎◾︎にしよう』

 スカール達は、何処からか持ってきた塗料で俺の服に落書きを始めた。

 今の俺には、彼らが何を言ってるのか大体でしかわからない。

 聖女様はいつもこんな気分で人の話を聞いていたのかと思うと、彼女の苦労が窺えるような気がした。

 それと同時に彼女が見聞きしている世界の一端はこう言うものなのだと、教えられている気がした。

『いや、お前ら何がしたいんだよ』

『あ、また普通に喋った!異端者なのに!』

『聖女様とお前らの話聞いて覚えたんだよ』

『◾︎◾︎にしては◾︎◾︎がありますが、◾︎◾︎の言葉を知っただけで、姫を◾︎◾︎◾︎できるなどと、思い上がりも◾︎◾︎しい』

『◾︎◾︎◾︎を知るべき』

 別に悪戯(?)をされたり、悪態(らしき言葉)を吐かれるのは大した問題じゃないが、彼らと和解するのは、暫く先になりそうだった。

『オード?どうしたの?』

 絡んでくる小人達を眺めて苦笑いする俺を、不思議そうな顔で見る聖女様。

『いや、何でもない。聖女様』

『そう。皆も◾︎◾︎にしてよ。オードは大切なお客さんなんだから』

『仰せのままに』
『わかったわ!◾︎◾︎にするわ!』
『◾︎◾︎!』

 ……彼らの言葉で話す時の聖女様は、予想通り、かなりまともだった。

 むしろ幽閉されて学習する機会が殆どなかったにも関わらず、帝国民の中でもかなり優秀な部類に入るのでは無いかとさえ、思えるほどに彼女の能力は高いものだった。

 今思えば、苦手な言語で書かれた書類の事務処理や第二王女の宿題をやらされていても、難無くこなしていた時点で、それは証明されていたのだ。

『◾︎◾︎◾︎、普通に話せるね、オード』

 微笑む聖女様。彼女がこういう風に自分達の言葉を交わして会話できる相手、というのは果たしてどのくらい、存在しているのだろうか。

 意味不明な言葉を話したという彼女の母親は、とうに姿を消し、唯一の肉親である皇帝陛下はこの場所へ姿を見せる事はない。

 彼女の抱える孤独がどれほどのものだったのか、俺には想像がつかなかった。

『ああ……』

 これが彼女の世界なのだろう。

 庭園は海で。

 イルカや鯨、サメがいて。

 不思議な小人達がいて。

 俺達と違う言葉を話す。

 一体何が起きているのかは、まるで分からないが、ほんの少しだけ彼女に近づけたような気がした。

 ……だが、そのお陰でもう一つ悩みが増えてしまった。

 彼女にどう説明するか、と言うことだ。

 彼女は、"分からない"訳じゃないからだ。

 子供を諭すように、"外へ出る為に"薬を制限しようと言ってしまっている。

 もし、彼女が正気を手にしたとして、どうなると言うのか。皇帝陛下の許しが無ければ、外に出ることなんて、夢のまた夢でしかない。

 俺がやっていることは、ただの気休めで、ただただ、中途半端な希望を与えているだけなんじゃないかとすら、思う。

 この"夢"は美しくとも、現実は残酷なのだ。

『あのね、私、いつか海に行きたいの』

『海に?』

『そう、だって──』

 無邪気に笑う聖女様の顔を見て、俺は。
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