【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿

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第二幕

06-2

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◆◇◆◇◆◇◆◇


 どこかの密偵であろう異国の騎士は、用件をすませるとすぐに王宮へと戻っていった。

「ルヴィ、彼に見覚えがあるのは気の所為かな?」

「さぁ、私には何のことやらさっぱりですねぇ」

 相変わらず飄々としてるように見えるが、ルヴィが何かを誤魔化しているのは、間違いが無さそうだった。

 彼が僕に隠し事をしているのはいつものことだから、嘘を言うときの癖は見慣れたものだ。

「なるほど、と言うことは知り合いか、それに近いな。しかしあの美しい目はどこかで……」

 そう、見慣れていたような気がしてならない。

「おやおや、よろしいのですか?ご主人様、ベルミダ様と言うものがありながら、しかも宦官ですよ」

 態とらしく首を傾げて聞いてくる。

 ベルミダ……彼女の事を思うと胸が締め付けられる。今まで状況を知ることはできなかったが、今の彼女は僕の為に過酷な立場に立たされているのだ。

 何としてでも助け出さなければと思えば思うほど、自分の無力さを思い知らされてきた。

 だがそれも終わるだろう、僕は光明を得たのだから。

「そう言う意味で言ったわけではないよ、だが何故だろうね、初対面のはずなのに、とても親近感があるんだ。それに何故だか勇気付けられるような気がする」

「へぇ、私でも奮起させられなかったご主人様をやる気にさせましたか。なるほどなぁ。……ちょっと興味が湧いてきましたよ」

 ……ルヴィの悪い癖がまた始まったらしい。

「別に僕は咎めはしないけど、ほどほどにしておくんだよ。彼にはこれから頑張ってもらわないとならないんだ」

「なに、ちょっとした身辺調査ですよ。それに本当に始末しなくていい相手なのか分かりませんしね」

 隠し持ったナイフを出したり引っ込めたりして音を鳴らす。

「……だいたい君、女の人の方が好きって言ってなかったかい?」

「まさか少年を愛する事を咎める方はいらっしゃらないでしょう。"僕"だってたまには逆の立場になってみたいものなのですよ、ご主人様。"少年は婦人のように愉悦をともにすることはないのであって、愛欲に酔うものを素面でながめるもの"なのですから」

 少年愛か……いつも自分が対象にされているからと言いたいんだろうか。

 宦官でもないのに好き好んで女装している癖によく言う。

「嫌われないように気を付けてくれよ。彼が協力してくれないと道は遠退くばかりなんだからな」

「……いえいえ、なにを仰いますかご主人様、簡単な方法はいつだってすぐ側にあるものですよ」

 耳元で囁き、絡みついてくる彼の手を払いのける。

「……簒奪はしない。いいね。暗殺もだ。あんなザマでも唯一の肉親であることには変わらないんだからな、僕を天涯孤独にするつもりか?」

「全く、ここまで腑抜けになるとは。ナローシュよりもベルミダ様の方が憎いです」

 ささっと離れ、少しムクれた顔をしたルヴィは部屋の窓側まで歩く。

「言ってくれるな、別に彼女が悪いわけじゃない」

「……ま、構いません。私はご主人様が元気になれば何でもいいですからー。さて、彼に夜這いでもかけて──」

「あまり、僕を困らせないでくれるか?」

 新しい味方に余計な事をしに行こうとした従者の腕を掴み、壁へ押し付ける。

「……そういうの、ズルイですよ」

 上目遣いで見てくるその顔は少女にしか見えない。

「何の事かな?」

「……なんですか。離してください。ちょっと遊んでくるだけです」

「いいや、今日はここにいてもらう」

「……独り寝は寂しいのですか?」

 そう言ってニヤリと微笑む少女のような顔。

「それでもいい、頼むから余計な事はしないでくれ……あと、ルヴィ、僕にそういう趣味はないと何度言ったら……」

「仕方ありませんねー!ご主人様がどうしてもというので、今日は特別に余計な事はしないでおきます!」

「……ああ、もう何でもいいよ」

 この面倒臭さが無ければ従者としては……いや、優秀とも言い難いな。

 待っていてくれベルミダ、必ずや君を助け出してみせるから。
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