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第三幕
03
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「アリステラ殿」
王宮に来ているはずのアルサメナを探していると、私の偽名を呼ぶ声がした。
振り向くと、そこにはルヴィが居た。
「ルヴィ……?」
「……貴女はどうするつもりなのですか?」
俯きがちに聞いてくる。
「私は、まだ諦めない。アルサメナ様をもう一度説得して、再起させる」
「もう無理ですよ、無茶なことはやめて、早く逃げた方がいいです。……なにより貴女の身が危ない、そんなことはわかっているでしょう?」
「……わかってても黙って見てはいられないの」
「どうしても聞けないというのなら──力尽くでも貴女を止めます!」
ルヴィは、何処からか取り出したのか、二振りのナイフを取り出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんな事をしてる場合じゃないのに……っ!」
風を切り、頬を掠める白い刃。
「私は──いえ、僕は本気ですよ。これ以上誰かが傷付くような事はさせませんっ!」
「じゃあ!貴方がしていることは何なのよ!?私はいいわけ!?」
次々に繰り出される鋭い一撃を、やっとのことで引き抜いた剣で受け続ける。
「……あ!」
ほんの一瞬とぼけたような顔をした。
「──でも大丈夫です!"痛くないように"するのは慣れてるんです……よっ!」
その顔に騙されて、隙を許してしまう。
「なっ──」
同時に振るわれた両手のナイフが剣を弾く。
剣は私の手から離れ、後方に転がった。
「いくら多少力が強くても、僕の腕には──」
流石に本職は戦闘力が違うか、でも私だって伊達に鍛えたわけじゃない……っ!
「ふっ!」
二の太刀で首を狙いにくるその刃。
「どこが痛くないように……よっ!」
それを大きく仰け反って避ける。
「こっ……の!」
その大勢のまま後ろに体重を乗せてしゃがみながら、跳ぶ。
私の体は宙を一回転し、蹴り上げた足で、ナイフの持ち手と顎を狙う。
「うわっ!」
予想外の反撃だったのか、ルヴィは手元の蹴りへ反応できず、片方のナイフを私の足に弾かれる。
「──は!」
虚を突かれて一瞬の隙が生まれているルヴィに、弾いたナイフをつかんで、突きつける。
「くぅ──!」
しかし、ルヴィもギリギリで反応し、私の首へナイフを突きつけていた。
「はぁ、はぁ」
「ふぅ……はぁ」
私たちは刃を突きつけあって膠着する形になった。
「……何なんですか、今の動きは」
「ちょっとした……曲芸……よ」
ほんの一瞬で物凄い疲労を感じた。
これだけでも分かる──彼は、今まで手合わせしてきた誰よりも強い。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただのメイドか従者にしては、あり得ないほどの腕前ね」
「……守る為には、これくらいは必要なので」
私たちは睨み合ったまま、動けないでいた。
「……もし……貴方がアルサメナ様を守りたいなら……するべきことは私を蹴散らすことじゃないでしょう?」
「貴女は二人を上手く行かせないと、死が待っているかもしれない、ですが、アルサメナ様は王族に戻れた、名誉を取り戻せた。恋人なんて生きてさえいれば、いずれまた見つかるでしょう、それがアトランタ様であっても構わないはずです!」
「……本当にそう?アルサメナ様は本当それを望んでいると思うの?」
「私は……僕は、あの人がこれ以上傷付くのは見ていられない……お願いです……あなたの命も保証します……だから……!」
「……っ」
必死にアルサメナを守ろうと、傷つけまいとするルヴィの姿が何故か、鏡を見ているような気分になった。
いつかの自分を見ているようだった。
それを見てわかった。
多分、挫折したナローシュを庇っていた私もきっと……同じだったんだ。
でも、多分それじゃダメなんだ。
……ダメだったのに、私は今の今まで、気が付きもしなかった。
彼を助けるなら、優しくするだけじゃダメだったんだ。
「……もし、本当に大事に思っているなら、障害を全て取り除いてあげることが、辛い思いをしないように、何もかもしてあげることが、正しいわけじゃないわ、そうされた結果が、今のナローシュなの……アルサメナ様を同じような人間にしてしまうつもり?」
そして今思い知った事を、そのまま伝える。
ナローシュがああなった責任の一部は、私にもある、あの人が自ら克己しなかったのも悪いけれど、私はそれを促さなかったし、そうしようと思わないような、楽な環境を整えてしまった。
「それとも、そうまでして──必要とされたいの?」
それも、私自身への言葉だった。
「っ──!」
ルヴィは言葉をなくしていた。
「……否定はしないわ、でも先に待っているのは碌な結末じゃない」
「……僕の思いは決して実らないモノです。どうやら知らずのうちに、僕の心は悍ましい形へ変わってしまっていたようです」
冷静になったのか、顔を青くしたルヴィはナイフを下げる。
私は、自分のしたことの悍ましさを、見せつけられている気分だった。
「それほどの思いなら、さっきと同じ事を言われて、あなたはそれを諦められるの?いずれ見つかると言って」
「アルサメナ様の他に、私のご主人様はいません……家族は追放され父すら失った私を拾って、救って下さったのは、彼を置いて他にはいません!」
「なら、同じじゃない。アルサメナ様が簡単に諦められると思う?」
「……僕は……でも……いえ……そうですね。認めます……僕は間違って──」
「間違っているわけじゃないわ、方法が違うだけよ。全てしてあげなくても、彼を立たせることはできるはずだわ」
「……本当ですか?」
「大丈夫、あなたの思いは間違ってなんか、いない。間違ってなんか……いない」
後悔と、得体の知れない焦燥感に折れてしまいそうな自分自身の感情へ、言い聞かせる。
王宮に来ているはずのアルサメナを探していると、私の偽名を呼ぶ声がした。
振り向くと、そこにはルヴィが居た。
「ルヴィ……?」
「……貴女はどうするつもりなのですか?」
俯きがちに聞いてくる。
「私は、まだ諦めない。アルサメナ様をもう一度説得して、再起させる」
「もう無理ですよ、無茶なことはやめて、早く逃げた方がいいです。……なにより貴女の身が危ない、そんなことはわかっているでしょう?」
「……わかってても黙って見てはいられないの」
「どうしても聞けないというのなら──力尽くでも貴女を止めます!」
ルヴィは、何処からか取り出したのか、二振りのナイフを取り出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんな事をしてる場合じゃないのに……っ!」
風を切り、頬を掠める白い刃。
「私は──いえ、僕は本気ですよ。これ以上誰かが傷付くような事はさせませんっ!」
「じゃあ!貴方がしていることは何なのよ!?私はいいわけ!?」
次々に繰り出される鋭い一撃を、やっとのことで引き抜いた剣で受け続ける。
「……あ!」
ほんの一瞬とぼけたような顔をした。
「──でも大丈夫です!"痛くないように"するのは慣れてるんです……よっ!」
その顔に騙されて、隙を許してしまう。
「なっ──」
同時に振るわれた両手のナイフが剣を弾く。
剣は私の手から離れ、後方に転がった。
「いくら多少力が強くても、僕の腕には──」
流石に本職は戦闘力が違うか、でも私だって伊達に鍛えたわけじゃない……っ!
「ふっ!」
二の太刀で首を狙いにくるその刃。
「どこが痛くないように……よっ!」
それを大きく仰け反って避ける。
「こっ……の!」
その大勢のまま後ろに体重を乗せてしゃがみながら、跳ぶ。
私の体は宙を一回転し、蹴り上げた足で、ナイフの持ち手と顎を狙う。
「うわっ!」
予想外の反撃だったのか、ルヴィは手元の蹴りへ反応できず、片方のナイフを私の足に弾かれる。
「──は!」
虚を突かれて一瞬の隙が生まれているルヴィに、弾いたナイフをつかんで、突きつける。
「くぅ──!」
しかし、ルヴィもギリギリで反応し、私の首へナイフを突きつけていた。
「はぁ、はぁ」
「ふぅ……はぁ」
私たちは刃を突きつけあって膠着する形になった。
「……何なんですか、今の動きは」
「ちょっとした……曲芸……よ」
ほんの一瞬で物凄い疲労を感じた。
これだけでも分かる──彼は、今まで手合わせしてきた誰よりも強い。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただのメイドか従者にしては、あり得ないほどの腕前ね」
「……守る為には、これくらいは必要なので」
私たちは睨み合ったまま、動けないでいた。
「……もし……貴方がアルサメナ様を守りたいなら……するべきことは私を蹴散らすことじゃないでしょう?」
「貴女は二人を上手く行かせないと、死が待っているかもしれない、ですが、アルサメナ様は王族に戻れた、名誉を取り戻せた。恋人なんて生きてさえいれば、いずれまた見つかるでしょう、それがアトランタ様であっても構わないはずです!」
「……本当にそう?アルサメナ様は本当それを望んでいると思うの?」
「私は……僕は、あの人がこれ以上傷付くのは見ていられない……お願いです……あなたの命も保証します……だから……!」
「……っ」
必死にアルサメナを守ろうと、傷つけまいとするルヴィの姿が何故か、鏡を見ているような気分になった。
いつかの自分を見ているようだった。
それを見てわかった。
多分、挫折したナローシュを庇っていた私もきっと……同じだったんだ。
でも、多分それじゃダメなんだ。
……ダメだったのに、私は今の今まで、気が付きもしなかった。
彼を助けるなら、優しくするだけじゃダメだったんだ。
「……もし、本当に大事に思っているなら、障害を全て取り除いてあげることが、辛い思いをしないように、何もかもしてあげることが、正しいわけじゃないわ、そうされた結果が、今のナローシュなの……アルサメナ様を同じような人間にしてしまうつもり?」
そして今思い知った事を、そのまま伝える。
ナローシュがああなった責任の一部は、私にもある、あの人が自ら克己しなかったのも悪いけれど、私はそれを促さなかったし、そうしようと思わないような、楽な環境を整えてしまった。
「それとも、そうまでして──必要とされたいの?」
それも、私自身への言葉だった。
「っ──!」
ルヴィは言葉をなくしていた。
「……否定はしないわ、でも先に待っているのは碌な結末じゃない」
「……僕の思いは決して実らないモノです。どうやら知らずのうちに、僕の心は悍ましい形へ変わってしまっていたようです」
冷静になったのか、顔を青くしたルヴィはナイフを下げる。
私は、自分のしたことの悍ましさを、見せつけられている気分だった。
「それほどの思いなら、さっきと同じ事を言われて、あなたはそれを諦められるの?いずれ見つかると言って」
「アルサメナ様の他に、私のご主人様はいません……家族は追放され父すら失った私を拾って、救って下さったのは、彼を置いて他にはいません!」
「なら、同じじゃない。アルサメナ様が簡単に諦められると思う?」
「……僕は……でも……いえ……そうですね。認めます……僕は間違って──」
「間違っているわけじゃないわ、方法が違うだけよ。全てしてあげなくても、彼を立たせることはできるはずだわ」
「……本当ですか?」
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