孤独なお針子が拾ったのは最強のペットでした

鈴木かなえ

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⑱アーレン視点

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 俺と初めて体を繋げた後、ナディアは気絶するように眠ってしまった。
 一度精を放ったとはいえ、俺はまだまだ臨戦態勢のままだった。
 できることならこのまま二回目、三回目と続けたかったが、経験の浅いナディアにそんな無体なことはできない。

 出会って約半年。
 やっとここまで来たのだ。
 寂しかった過去を忘れてしまえるくらいに、これから大事に甘やかしてあげなくては。

 俺はたっぷりと射精の余韻を愉しんだ後、ナディアを起こさないようにそっと体を離した。
 まだ硬いままの俺の分身を引き抜くと、そこから奥に注がれた精液がトロリと溢れだした。
 その淫靡な光景にまた俺の下半身が刺激されたが、今は我慢の時だ。
 ナディアの体を湯で濡らした布で清め、きれいになった体を慎重に抱き上げて長椅子の上に横たえた。
 手早く汚れたシーツを取り換え、それからまたナディアを寝台の上に戻し、二人で毛布に包まった。


 ナディアが乙女ではないことくらい俺だって予想していた。

 ナディアはサミュエルと恋人で、結婚の約束までしていたのだ。
 サミュエルが徴兵されなかったら、きっと今頃あの森の中の家で夫婦として暮らしていたのだろう。
 出征前に、恋人と思い出を作るというのは軍ではよく聞く話だ。
 あの当時の二人は愛し合っていたはずだ。
 それなら、ナディアがサミュエルに純潔を捧げるのは自然な流れと言える。

 ただ、頭ではそうわかっていても、心の中にどす黒い靄が広がっていくのを止められない。
 今すぐサミュエルを縊り殺しに行きたい衝動に駆られてしまう。

 俺だって、それなりに遊んで浮名を流してきた。
 モテるのは悪い気分ではなかったし、その時々で違う相手と楽しんだ。
 そんな俺だが、女性に無体なことを強いたことは一度もない。
 相手にするのは火遊びがしたいという女だけだった。
 お互いに合意の上で、一晩だけ恋人のふりをして睦みあうことが多かった。
 そこから先を望むような女は、丁重にお断りした。
 いつかオルランディア王国のために、俺は政略結婚をしないといけないと思っていたからだ。
 特に心惹かれる女に出会わなかったということのもある。
 
 誰と結婚するのかはわからないが、できれば妻となる女性とはいい関係を築きたいと思っていた。
 結婚したら、浮気などせず妻だけを大事にしていくつもりだった。
 そして、いつか子が生まれたら、愛情を注いで慈しみ育てていきたかった。
 それが歪な家庭で育った俺のささやかな夢だったのだ。

 紆余曲折があったにしても、おれの夢は叶った。
 しかも、愛するナディアを妻にすることができたのだ。
 こんな幸運が俺の身に訪れるなんて思ってもみなかった。
 
 ナディアはもう俺のものだ。
 これからずっと側にいて、守り続けるのは俺の役目だ。
 サミュエルなど、もう俺達にはなんの関係もない。
 あいつはあいつで、あの頭も尻も軽い妹と幸せになったらいい。

 ナディアの最後の男は俺なのだから。


 それにしても。
 サミュエルのやつ、なんであんなクソみたいな騎士をナディアの迎えによこしたのだ。
 しかも、内乱罪なんて冤罪までかけて王都に連行しようとするなんて、正気の沙汰とは思えない。
 冤罪だろうがなんだろうが、一度かけられた嫌疑を晴らすのはほぼ不可能だ。
 それに、若い女性の逮捕者が、王都までの道中で丁寧に扱われるわけがない。
 あのクソどもは素行が悪いので有名なやつらだ。
 ナディアが無事ですむはずがないというのに、どういうつもりなのだろう。

 あいつはナディアの祝福のことを知っている。
 ナディアを殺そうとするはずがない。
 手元に置いて利用しようとするはずだ。
 そのために王都に呼び寄せようとしたのではないのか。
 まさか、ナディアが他の誰かの手に渡るくらいなら、と始末しようとしたのだろうか。

 どちらにしろ、将来まで誓った元恋人にする仕打ちとは思えない。
 あいつも悪い意味でオルランディア王家に染まってしまったのかもしれない。  

 ベイカーとかいう男は俺の姿を見た。
 ナディアが俺の名を呼ぶのも聞いたはずだ。
 そこからサミュエルに、さらに兄と義母にも報告がいくかもしれないが、そんなことは知ったことではない。
 今の俺を捕まえることなど、誰にもできないのだから。

「ん……」

 俺の腕の中ですぅすぅと寝息をたてていたナディアが身じろぎをした。
 なにか夢をみているのか、口元がうっすらと微笑んでいる。
 それが可愛くて愛しくて、俺は起こさないようにそっと額にキスをした。

 初めてではないにしても、ナディアの体はほとんど未開拓だった。
 普段はしっかりしていて物知りなのに、閨事のことは無知もいいところだ。
 そのギャップもまた可愛く思えてしまうのは、惚れてしまった弱みなのだろう。

 出会ったころのナディアは、今にも死にそうな顔をしていた。
 少しでも元気になってほしくて、俺のことを好きになってほしくて、せっせと世話をやいて肉や果物を食べさせたら、青白かった頬に赤みが差して笑顔を見せてくれるようになった。
 痩せすぎだった体も、今は女性らしい丸みを帯びた体つきになっている。
 ついさっきそれを隅々まで味わい、もっと美味しいものを食べさせてあげなくてはいけないと決意を新たにしたばかりだ。

 明日にはこの町を離れ、次はもっと大きな町に行こう。
 そこで結婚指輪を買うのだ。
 ナディアが気に入るものが見つかるといいのだが。

 ナディア、愛してるよ。

 俺は心の中で愛を囁き、満ち足りた気分で目を閉じた。 
 
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