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⑰ お試しの結婚を延長します
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悩みはしたが、よく考えればコリーンとダルトン一家はここ数日ずっと移動続きで疲れているはずだ。
今夜はゆっくり休んだほうがいいだろうということで、私は今夜も引き続き夜這いに行くことにした。
「辺境伯様、エメライン様をお連れしました」
シーラが主寝室の扉を叩いて告げると、中から「入れ」と返事があり、私はシーラが開けてくれた扉から寝室に入った。
いつものように即座に裸に剥かれて寝台に押し倒されると期待していたのに、今夜はそうはならなかった。
「エメライン嬢……少し、話をしないか」
辺境伯様はカウチに座っていて、私を左隣に座るように促した。
「はい、辺境伯様」
私は素直にそこに座って、隣を見上げた。
左側だから、辺境伯様の頬にある傷跡がよく見える。
痛々しい傷跡ではあるが、それがあることで彼の精悍さを際立たせていると私は思っている。
要するに、この傷跡も含めて私は彼が大好きなのだ。
「お話になりたいのは、私の大切な人たちのことでしょうか」
「ああ、そうだ。
メイドだったというコリーンはわかるが、ダルトン家とはどういうつながりなのだ」
「オードリーが、私の女家庭教師だったのです」
ダルトン家は元は伯爵家だったが、イーノックが詐欺にあい大金を失って没落してしまった。
当時十八歳だったオードリーは、なんとか家族で生活していくため女家庭教師としてアシュビー侯爵家に雇われることになった。
私とオードリーはすぐに意気投合し、私はオードリーに頼んでダルトン家で料理をさせてもらうことにした。
当時のダルトン家は、屋敷と家財の大半を手放し、小さな借家に住んでいた。
そんなところに侯爵令嬢である私を迎えるなんて、と最初はとても恐縮されたが、私が次々に作る料理に皆が胃袋をつかまれるのに時間はかからなかった。
ちなみに、オードリーの婿であるニコラスは、当時の私の専属護衛だった。
有能なのに孤児だからと嫌がらせされているところを私が見とがめて、専属護衛として引き抜いたのだ。
ダルトン家に通ううちに、ニコラスとオードリーは仲を深め、めでたく結婚することとなった。
ちょうどそのあたりで、婚約破棄に向けて動いていた私は、経済的自立のためにイーノックを代表としてレストランを開くことにした。
一度失敗したことで慎重になったイーノックは、しっかりと堅実にレストランを経営してくれて、私は出資金を大幅に上回る資金を手にすることになった。
「それが、王都で評判になっているというレストランなわけだな」
「そうです。
いくつか支店ができるくらい評判だったのですが、……私を追いかけてくるために、全て売ってしまったのだそうです」
「それだけ、あの王太子のやったことが許せなかったというわけか」
婚約破棄した挙句に、別の男性と即結婚させるなんて、改めて考えるとなんとも酷い話だ。
しかも、それが野蛮だということで評判が悪い男性なのだから、私からしたらご褒美だとしても、客観的に見たら目も当てられないくらい酷い。
普通の令嬢だったら、世を儚んでも不思議ではないくらいだ。
そんなことをするような王太子がいる国は嫌だと思うのも、無理はないことだと思う。
「イーノックたちは、私がどこかで落ち着く場所を見つけたあとに、家族で引っ越してくる予定だったのです。
ジェフもいますし、無茶なことはできませんから」
「そうだな。幼子に長旅は辛いだろう」
「ジェフは楽しかったそうですわ。
途中で体調を崩したりしなくて、よかったですわ」
父親から頑健さを受け継いだジェフは、ほとんど風邪もひかない丈夫な子なのが幸いだった。
「コリーンは、オードリーの昔からの友人なのです。
元は伯爵家の令嬢で、嫁いだのですが子供ができなくて離縁されたのだそうです。
生家にも受け入れてもらえなくて、行き場をなくして困っていたとのことで、私の専属メイドとして雇いました。
今から八年ほど前のことです」
「そうか……皆がきみに助けられたのだな」
「助けられたのは、私も同じです。
皆がいなかったら、私も今頃どうなっていたかわかりませんもの」
「きみは謙虚だな。
だからこそ、あれだけの忠臣を得ることができたのだろう」
「そうでしょうか」
「俺にも忠臣はいるが、それはマクドゥーガル辺境伯家に代々仕えている家系のものたちという意味だ。
きみのように、自分自身の力で忠誠を捧げられたというわけではない。
俺もきみを見習わなくてはならないな」
そんなことを言うあたり、彼だって謙虚だと思う。
だって、彼はグリフォン騎士団を率いて、先の戦役で勝利をもたらした英雄なのだ。
彼に忠誠を誓う人たちは、私と比較にならないくらいたくさんいるだろうに。
ここで、私は居住まいを正した。
大事なことを、今夜のうちに確認しておきたいのだ。
「あの、辺境伯様。
私は……まだここにいてもいいのでしょうか」
最初の約束を忘れているのか、彼は怪訝な顔をした。
「私とのお試しの結婚が辺境伯様のお気に召さなかったら、私はコリーンが到着次第ここを出ていくというお約束でしたので」
コリーンが私の荷物とともに到着するまで、どこにも行くことはできないからとお願いして、そういう約束をしたのだ。
「……そういえば、そうだったな」
彼は頭をガシガシとかくと、腕を組んで黙り込んだ。
難しい顔をしているが、落ち着きを失っているように見えるのは気のせいだろうか。
「……エメライン嬢」
「はい」
「きみは……どうしたい?」
こちらを見ずに問いかける彼に、私は即答した。
「私は今も変わらず、辺境伯様の本物の妻になりたいと思っております」
きっぱりはっきりと言い切った。
アボットに来てから、彼を好きな気持ちは日に日に大きくなっていっている。
もう彼なしの人生は考えられないくらいだ。
お試しではなく、本物の結婚にしたい。
これからずっと、死ぬまでこのひとの傍にいたい。
私は、心からそう願っている。
「……本当に、俺なんかの妻になりたいのか?」
「もちろんです!
ここに来てから、辺境伯様のことが前よりもっと大好きになりました。
ロニーも、フランも、シーラも大好きです。
グリフォンがたくさんいて、美味しいお野菜が育つアボットも、これからもっともっと大好きになる予定です。
辺境伯様の妻になったら、私は世界一の果報者になりますわね」
「……」
彼は、また沈黙してしまった。
本心から言っているのに、信じてくれないのだろうか。
「辺境伯様は、どうなさりたいですか?」
「俺は……」
「私のことは、お気に召さなかったでしょうか」
「そんなことはない!」
太い腕で抱き寄せられ、私の顔は胸板にぎゅっと押し付けられた。
「気に入らない女なら、こんなことはしないし、できない。
きみだから、触れたいんだ。
ただ……」
彼の声に苦いものが混じる。
「情けないことに……まだ、踏ん切りがつかない」
私がアボットに来てから、まだ七日しかたっていない。
夜毎肌を重ねて、食事もできるだけ一緒にとって、私たちの仲は深まったと思うが、今後一生を左右する結婚を決めるにはまだ足りないのも無理はない。
だが、少なくとも彼は私のことを嫌ってはいない。
むしろ好いてくれているということがわかった。
それだけでも、私は十分に嬉しい。
「では、お試しの結婚を延長する、ということでいかがでしょう」
私の提案に、フランそっくりの榛色の瞳が瞬いた。
「もう少し時間をかけて、私を吟味してくださいませ。
それから、どうするか決めてください」
「……いいのか?」
「はい。
ただし、期限は設けさせていただきます。
そうですね……一年もあれば十分でしょうか」
「一年……」
「本当の夫婦になるか、お別れするか。
一年の間に、どうなさりたいか決めてください。
もちろん、それより前に辺境伯様のお心が決まったなら、それでも構いません。
どちらを選ばれるにしろ、私は受け入れる覚悟ができておりますから」
「……わかった」
大きな手のひらが、私の頬をふわりと包んだ。
「必ず、一年後までに心を決めると約束する。
だから、それまで……申し訳ないが、お試しの結婚を続けさせてほしい」
「わかりました。
では、これからもよろしくお願いいたしますね、辺境伯様」
もしかしたら、明日にでも出て行けと言われるんじゃないかと危惧していた私は、ほっと胸を撫でおろした。
「ダスティン、と呼んでくれないか」
「え?」
「きみには、名で呼んでほしいんだ」
お試しの結婚だから、旦那様と呼ぶのも気が引けて、ずっと辺境伯様と呼んでいたのだが、これからは名を呼んでいいのだ。
「嬉しいです……!」
嬉しい。本当に心から嬉しい!
「では、私のことは、エミーと呼んでくださいませんか」
「エミー……」
きれいな榛色の瞳が、優しく細められた。
「……実は、きみをエミーと呼ぶフランのことが、少し羨ましかった」
なにそれ!
こんなにカッコイイ大人の男性が、そんな可愛いことを言うの⁉
胸がキュンとすると同時に、脳中で理性の糸がプチンと切れる音がした。
ほしい。この男がほしい。
私は噛みつくように彼の唇を奪った。
彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに舌を絡めて応えてくれた。
大きな手で背中と尻のあたりを撫でられるだけで背筋がぞくぞくとして、私の秘部が潤っていく。
もどかしい気持ちで彼の下半身をまさぐると、その部分はほぼ準備完了な状態になっているのがわかった。
もう待てない。
今すぐにこの男がほしい。
寝台までの、ほんのわずかな距離を移動する間すら惜しい。
彼の夜着を押し下げると、ほしくてほしくてたまらない肉棒がぶるりと飛び出した。
私は彼に跨り狙いを定めると、一気にそれで自身を貫いた。
「ぐ……」
指で解されることもなく、潤いも十分とはいえない状態でそんなことをしたから、彼の方にも刺激が強かったようだ。
くぐもったうめき声に、私の劣情はさらに煽られる。
私の方も、いつもより少し柔らかい肉棒に、いつもと違う襞がめくられて、挿れただけで達してしまいそうになった。
「エミー……今夜は、話をするだけにしようと思っていたのに」
「そんなの、無理ですわ」
まだ足りない。
もっと、もっとほしい。
私は逞しい肩に手を置いて、腰を上下に動かし彼を貪り始めた。
動くたびに、胎内で肉棒がむくむくと質量を増していくのがわかる。
「ああっ……ふぁ……」
潤いが足りなかったのは最初だけで、すぐに蜜が垂れるようになった。
「あっ……辺境伯様……」
「ダスティンだ」
「ダスティン、様」
「そうだ。いい子だ、エミー」
「あ、あああっ!」
ご褒美とばかりに両方の乳首を摘ままれて、堪らず私はのけ反った。
それに反応して襞がさらに肉棒に絡みつき、彼は形のいい眉を寄せてかすれた吐息を漏らした。
ああ、この男をもっと気持ちよくしてあげたい。
二人で、もっともっと高いところまで昇りつめたい。
乳首に甘い刺激を加えられながら、私は夢中で腰を振った。
「あっ……ああぁっ……」
気持ちよくて、それ以外のことはなにも考えられない。
今夜最初の絶頂が、もうすぐそこまで迫っているのを感じる。
「あ……んんっ……んあああ!」
私は本能のままに愛しい男を貪り、絶頂に達した。
そして、それを待ち構えていたかのように、彼は私の腰をがっしりと掴むと、下から私を突き上げ始めた。
「ひぃっ! や、いま、イってるからぁ!」
「そうだな。ナカが締まって、とても気持ちがいいよ」
まだ昇りつめたところから降りてきていないのに、奥の一番気持ちがいいところを連続で抉られて、視界がチカチカと明滅した。
絶頂がいつ終わるかもわからない恐怖と、愛しい男に喰らわれる歓喜に私は震えた。
結局そのまま精を注がれるまで容赦なく責め立てられ、そのころには私の意識は朦朧となっていた。
「エミー、大丈夫か」
息も絶え絶えな私の背を、大きな手が撫でた。
「……も……と……」
まだ終わりにしたくなくて、逞しい体に縋りついた。
膣内の襞も、ねだるようにきゅっと肉棒を締めつけた。
「もっと、ほしい……おねがい……」
見開かれた榛色の瞳に、獰猛な獣のような光が灯った。
「エミー……きみは、俺の理性を削り取るのが上手だな」
私の理性は、とっくに消し飛んでしまっている。
彼の理性も、そうなってほしい。
「寝台に行こう。
俺も、まだ足りない」
私は体がつながったまま寝台に運ばれ、そこでまた互いを貪りあって、その途中で意識を失ったので最後はどうなったか覚えていない。
とにかく、幸せで大満足な夜だった。
今夜はゆっくり休んだほうがいいだろうということで、私は今夜も引き続き夜這いに行くことにした。
「辺境伯様、エメライン様をお連れしました」
シーラが主寝室の扉を叩いて告げると、中から「入れ」と返事があり、私はシーラが開けてくれた扉から寝室に入った。
いつものように即座に裸に剥かれて寝台に押し倒されると期待していたのに、今夜はそうはならなかった。
「エメライン嬢……少し、話をしないか」
辺境伯様はカウチに座っていて、私を左隣に座るように促した。
「はい、辺境伯様」
私は素直にそこに座って、隣を見上げた。
左側だから、辺境伯様の頬にある傷跡がよく見える。
痛々しい傷跡ではあるが、それがあることで彼の精悍さを際立たせていると私は思っている。
要するに、この傷跡も含めて私は彼が大好きなのだ。
「お話になりたいのは、私の大切な人たちのことでしょうか」
「ああ、そうだ。
メイドだったというコリーンはわかるが、ダルトン家とはどういうつながりなのだ」
「オードリーが、私の女家庭教師だったのです」
ダルトン家は元は伯爵家だったが、イーノックが詐欺にあい大金を失って没落してしまった。
当時十八歳だったオードリーは、なんとか家族で生活していくため女家庭教師としてアシュビー侯爵家に雇われることになった。
私とオードリーはすぐに意気投合し、私はオードリーに頼んでダルトン家で料理をさせてもらうことにした。
当時のダルトン家は、屋敷と家財の大半を手放し、小さな借家に住んでいた。
そんなところに侯爵令嬢である私を迎えるなんて、と最初はとても恐縮されたが、私が次々に作る料理に皆が胃袋をつかまれるのに時間はかからなかった。
ちなみに、オードリーの婿であるニコラスは、当時の私の専属護衛だった。
有能なのに孤児だからと嫌がらせされているところを私が見とがめて、専属護衛として引き抜いたのだ。
ダルトン家に通ううちに、ニコラスとオードリーは仲を深め、めでたく結婚することとなった。
ちょうどそのあたりで、婚約破棄に向けて動いていた私は、経済的自立のためにイーノックを代表としてレストランを開くことにした。
一度失敗したことで慎重になったイーノックは、しっかりと堅実にレストランを経営してくれて、私は出資金を大幅に上回る資金を手にすることになった。
「それが、王都で評判になっているというレストランなわけだな」
「そうです。
いくつか支店ができるくらい評判だったのですが、……私を追いかけてくるために、全て売ってしまったのだそうです」
「それだけ、あの王太子のやったことが許せなかったというわけか」
婚約破棄した挙句に、別の男性と即結婚させるなんて、改めて考えるとなんとも酷い話だ。
しかも、それが野蛮だということで評判が悪い男性なのだから、私からしたらご褒美だとしても、客観的に見たら目も当てられないくらい酷い。
普通の令嬢だったら、世を儚んでも不思議ではないくらいだ。
そんなことをするような王太子がいる国は嫌だと思うのも、無理はないことだと思う。
「イーノックたちは、私がどこかで落ち着く場所を見つけたあとに、家族で引っ越してくる予定だったのです。
ジェフもいますし、無茶なことはできませんから」
「そうだな。幼子に長旅は辛いだろう」
「ジェフは楽しかったそうですわ。
途中で体調を崩したりしなくて、よかったですわ」
父親から頑健さを受け継いだジェフは、ほとんど風邪もひかない丈夫な子なのが幸いだった。
「コリーンは、オードリーの昔からの友人なのです。
元は伯爵家の令嬢で、嫁いだのですが子供ができなくて離縁されたのだそうです。
生家にも受け入れてもらえなくて、行き場をなくして困っていたとのことで、私の専属メイドとして雇いました。
今から八年ほど前のことです」
「そうか……皆がきみに助けられたのだな」
「助けられたのは、私も同じです。
皆がいなかったら、私も今頃どうなっていたかわかりませんもの」
「きみは謙虚だな。
だからこそ、あれだけの忠臣を得ることができたのだろう」
「そうでしょうか」
「俺にも忠臣はいるが、それはマクドゥーガル辺境伯家に代々仕えている家系のものたちという意味だ。
きみのように、自分自身の力で忠誠を捧げられたというわけではない。
俺もきみを見習わなくてはならないな」
そんなことを言うあたり、彼だって謙虚だと思う。
だって、彼はグリフォン騎士団を率いて、先の戦役で勝利をもたらした英雄なのだ。
彼に忠誠を誓う人たちは、私と比較にならないくらいたくさんいるだろうに。
ここで、私は居住まいを正した。
大事なことを、今夜のうちに確認しておきたいのだ。
「あの、辺境伯様。
私は……まだここにいてもいいのでしょうか」
最初の約束を忘れているのか、彼は怪訝な顔をした。
「私とのお試しの結婚が辺境伯様のお気に召さなかったら、私はコリーンが到着次第ここを出ていくというお約束でしたので」
コリーンが私の荷物とともに到着するまで、どこにも行くことはできないからとお願いして、そういう約束をしたのだ。
「……そういえば、そうだったな」
彼は頭をガシガシとかくと、腕を組んで黙り込んだ。
難しい顔をしているが、落ち着きを失っているように見えるのは気のせいだろうか。
「……エメライン嬢」
「はい」
「きみは……どうしたい?」
こちらを見ずに問いかける彼に、私は即答した。
「私は今も変わらず、辺境伯様の本物の妻になりたいと思っております」
きっぱりはっきりと言い切った。
アボットに来てから、彼を好きな気持ちは日に日に大きくなっていっている。
もう彼なしの人生は考えられないくらいだ。
お試しではなく、本物の結婚にしたい。
これからずっと、死ぬまでこのひとの傍にいたい。
私は、心からそう願っている。
「……本当に、俺なんかの妻になりたいのか?」
「もちろんです!
ここに来てから、辺境伯様のことが前よりもっと大好きになりました。
ロニーも、フランも、シーラも大好きです。
グリフォンがたくさんいて、美味しいお野菜が育つアボットも、これからもっともっと大好きになる予定です。
辺境伯様の妻になったら、私は世界一の果報者になりますわね」
「……」
彼は、また沈黙してしまった。
本心から言っているのに、信じてくれないのだろうか。
「辺境伯様は、どうなさりたいですか?」
「俺は……」
「私のことは、お気に召さなかったでしょうか」
「そんなことはない!」
太い腕で抱き寄せられ、私の顔は胸板にぎゅっと押し付けられた。
「気に入らない女なら、こんなことはしないし、できない。
きみだから、触れたいんだ。
ただ……」
彼の声に苦いものが混じる。
「情けないことに……まだ、踏ん切りがつかない」
私がアボットに来てから、まだ七日しかたっていない。
夜毎肌を重ねて、食事もできるだけ一緒にとって、私たちの仲は深まったと思うが、今後一生を左右する結婚を決めるにはまだ足りないのも無理はない。
だが、少なくとも彼は私のことを嫌ってはいない。
むしろ好いてくれているということがわかった。
それだけでも、私は十分に嬉しい。
「では、お試しの結婚を延長する、ということでいかがでしょう」
私の提案に、フランそっくりの榛色の瞳が瞬いた。
「もう少し時間をかけて、私を吟味してくださいませ。
それから、どうするか決めてください」
「……いいのか?」
「はい。
ただし、期限は設けさせていただきます。
そうですね……一年もあれば十分でしょうか」
「一年……」
「本当の夫婦になるか、お別れするか。
一年の間に、どうなさりたいか決めてください。
もちろん、それより前に辺境伯様のお心が決まったなら、それでも構いません。
どちらを選ばれるにしろ、私は受け入れる覚悟ができておりますから」
「……わかった」
大きな手のひらが、私の頬をふわりと包んだ。
「必ず、一年後までに心を決めると約束する。
だから、それまで……申し訳ないが、お試しの結婚を続けさせてほしい」
「わかりました。
では、これからもよろしくお願いいたしますね、辺境伯様」
もしかしたら、明日にでも出て行けと言われるんじゃないかと危惧していた私は、ほっと胸を撫でおろした。
「ダスティン、と呼んでくれないか」
「え?」
「きみには、名で呼んでほしいんだ」
お試しの結婚だから、旦那様と呼ぶのも気が引けて、ずっと辺境伯様と呼んでいたのだが、これからは名を呼んでいいのだ。
「嬉しいです……!」
嬉しい。本当に心から嬉しい!
「では、私のことは、エミーと呼んでくださいませんか」
「エミー……」
きれいな榛色の瞳が、優しく細められた。
「……実は、きみをエミーと呼ぶフランのことが、少し羨ましかった」
なにそれ!
こんなにカッコイイ大人の男性が、そんな可愛いことを言うの⁉
胸がキュンとすると同時に、脳中で理性の糸がプチンと切れる音がした。
ほしい。この男がほしい。
私は噛みつくように彼の唇を奪った。
彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに舌を絡めて応えてくれた。
大きな手で背中と尻のあたりを撫でられるだけで背筋がぞくぞくとして、私の秘部が潤っていく。
もどかしい気持ちで彼の下半身をまさぐると、その部分はほぼ準備完了な状態になっているのがわかった。
もう待てない。
今すぐにこの男がほしい。
寝台までの、ほんのわずかな距離を移動する間すら惜しい。
彼の夜着を押し下げると、ほしくてほしくてたまらない肉棒がぶるりと飛び出した。
私は彼に跨り狙いを定めると、一気にそれで自身を貫いた。
「ぐ……」
指で解されることもなく、潤いも十分とはいえない状態でそんなことをしたから、彼の方にも刺激が強かったようだ。
くぐもったうめき声に、私の劣情はさらに煽られる。
私の方も、いつもより少し柔らかい肉棒に、いつもと違う襞がめくられて、挿れただけで達してしまいそうになった。
「エミー……今夜は、話をするだけにしようと思っていたのに」
「そんなの、無理ですわ」
まだ足りない。
もっと、もっとほしい。
私は逞しい肩に手を置いて、腰を上下に動かし彼を貪り始めた。
動くたびに、胎内で肉棒がむくむくと質量を増していくのがわかる。
「ああっ……ふぁ……」
潤いが足りなかったのは最初だけで、すぐに蜜が垂れるようになった。
「あっ……辺境伯様……」
「ダスティンだ」
「ダスティン、様」
「そうだ。いい子だ、エミー」
「あ、あああっ!」
ご褒美とばかりに両方の乳首を摘ままれて、堪らず私はのけ反った。
それに反応して襞がさらに肉棒に絡みつき、彼は形のいい眉を寄せてかすれた吐息を漏らした。
ああ、この男をもっと気持ちよくしてあげたい。
二人で、もっともっと高いところまで昇りつめたい。
乳首に甘い刺激を加えられながら、私は夢中で腰を振った。
「あっ……ああぁっ……」
気持ちよくて、それ以外のことはなにも考えられない。
今夜最初の絶頂が、もうすぐそこまで迫っているのを感じる。
「あ……んんっ……んあああ!」
私は本能のままに愛しい男を貪り、絶頂に達した。
そして、それを待ち構えていたかのように、彼は私の腰をがっしりと掴むと、下から私を突き上げ始めた。
「ひぃっ! や、いま、イってるからぁ!」
「そうだな。ナカが締まって、とても気持ちがいいよ」
まだ昇りつめたところから降りてきていないのに、奥の一番気持ちがいいところを連続で抉られて、視界がチカチカと明滅した。
絶頂がいつ終わるかもわからない恐怖と、愛しい男に喰らわれる歓喜に私は震えた。
結局そのまま精を注がれるまで容赦なく責め立てられ、そのころには私の意識は朦朧となっていた。
「エミー、大丈夫か」
息も絶え絶えな私の背を、大きな手が撫でた。
「……も……と……」
まだ終わりにしたくなくて、逞しい体に縋りついた。
膣内の襞も、ねだるようにきゅっと肉棒を締めつけた。
「もっと、ほしい……おねがい……」
見開かれた榛色の瞳に、獰猛な獣のような光が灯った。
「エミー……きみは、俺の理性を削り取るのが上手だな」
私の理性は、とっくに消し飛んでしまっている。
彼の理性も、そうなってほしい。
「寝台に行こう。
俺も、まだ足りない」
私は体がつながったまま寝台に運ばれ、そこでまた互いを貪りあって、その途中で意識を失ったので最後はどうなったか覚えていない。
とにかく、幸せで大満足な夜だった。
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どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
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