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⑱ 可愛いと言ってくれました
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「というわけでね、お試しの結婚期間が一年間に延長になったの」
翌日の午後、私は王太子殿下の婚約破棄から今までのことを、コリーンたちに全て説明した。
「辺境伯様と結婚させられたと聞いたときは、心の底から驚きましたよ。
お嬢様は強運ですね」
オードリーの言葉に、皆が同意し頷いた。
コリーンだけでなく、ダルトン一家も私の好みを知っているのだ。
「辺境伯様と直接お話をしたことはありませんが、どういう方なのかは伝え聞いておりましたので、お嬢様に無体なことはなさらないだろうと思っておりました。
そういう意味ではあまり心配していなかったのですが、まさかお試しとはいえ結婚を受け入れられているとは、さすがお嬢様ですな」
イーノックの言葉に、また皆が頷いた。
「そうなるように、頑張ったのよ。
だって、こんなチャンスを無駄になんかできないわ」
ほしいものがあるなら、それを手に入れるために自分で努力をしなくてはいけない、と私は思っている。
一般的な貴族令嬢なら、ただ与えられるのを待つだけだろうが、私は座して待つなんて性に合わないのだ。
ダスティン様に夜這いをかけるなんて、どう考えてもはしたないことだとわかっているが、少しも後悔していない。
そのおかげで、私たちの仲は深まりつつあるのだから。
もし私がただじっと待っていただけだったら、昨日の時点でコリーンたちと一緒に追い出されていたかもしれない。
「とにかく、お嬢様が幸せそうでよかったです」
「ええ、私は今とても幸せなの。
お試しの結婚がお試しでなくなるように、これからも頑張るつもりよ」
「そうなる日も近そうな気がしますけどね」
「ふふふ、そうだといいわね」
私はコリーンと顔を見合わせて笑った。
ちなみに、ニコラスとジェフはここにはいない。
ジェフとフランはすっかり仲良くなり、孤児院育ちで小さい子供の面倒をみることに慣れているニコラスが二人まとめて庭で遊んでくれているのだ。
友達ができたフランはとても楽しそうだ。
私がここから去ることになれば、フランとジェフもお別れすることになる。
そうなったら、二人ともとても悲しむだろう。
それを避けるためにも、私は一年以内にダスティン様の心を射止めないといけないのだ。
「私、考えたの。
私がなにかアボットの役に立つことができたら、私を妻にするメリットをダスティン様に示すことができるんじゃないかって。
それで、あなたたちにまた力を貸してほしいのだけど」
「もちろんですとも。
そのために、私たちはお嬢様を追いかけて来たのですから」
イーノックは大きくに頷いた。
「手っ取り早いのは、レストランをつくることでしょうか。
王都と勝手は違うでしょうけど、難しくはないと思います」
そう提案したのはオードリーだ。
オードリーはニコラスと結婚し私の女家庭教師を辞めてから、私が全額出資し開いたレストランを経営するイーノックを夫婦で手伝っていた。
レストランは手放したが、その経験と知識はしっかりと残っているはずだ。
それを利用しない手はないだろう。
「ここに来てからしばらく経つけど、私はまだこの屋敷から出たことがないの。
明日にでも皆でアボットの街に行ってみて、それからまた考えましょうか」
「そういたしましょう。
辺境伯様にも、念のため話を通しておいておいたほうがよろしいかと」
「そうね。
皆、頼りにしているわ」
ちょうど話がひと段落ついたところで、ダスティン様がやってきた。
「ダスティン様、どうなさったのですか」
「いや……様子を見に来ただけだ」
彼は立ち上がって礼をとろうとした私たちを制し、私に歩み寄って肩にポンと手を置くと、イーノックたちに目を向けた。
「この屋敷に女性を含む複数の客人を招くのは随分と久しぶりのことだ。
なにか不足はないだろうか」
「不足などございません。
とても親切にしていただいておりますよ。
孫も皆さまに可愛がっていただいて、ありがたいことです」
イーノックが代表で応えた。
人懐っこく物怖じしないジェフは、フランと仲良くなっただけでなく、すっかりこの屋敷に馴染んでいるようだ。
「俺たちの事情は聞いていると思う。
エミーを中途半端な立場にしてしまっているが、虐げるようなことは断じてしないから、そこは安心してほしい」
「わかっておりますよ、辺境伯様。
お嬢様が、今まで私たちが見たことないくらい幸せそうでいらっしゃいますからね」
ついさっき、私がとても幸せであることを語ったばかりだ。
ダスティン様を見上げて幸せいっぱいな笑顔を向けると、褐色の頬が少し赤らんで目を逸らされてしまった。
そうやって照れるところも、可愛い。
これが二人だけの寝室だったら、昨夜みたいに襲っているところだ。
今夜も、絶対に夜這いに行こう。
早く夜になってくれないかな……
なんて不埒なことを考えていると、サロンの外に続く扉から男児二人と手をつないだニコラスが入ってきた。
「父上!」
ダスティン様を見つけたフランは、笑顔で駆け寄って両腕をぱっと上げた。
抱っこをねだっている仕草だが、それがダスティン様はどうしたらいいのかわからないようだ。
素早く空気を読んだニコラスは、動作がよく見えるようにゆっくりとジェフを抱き上げた。
ダスティン様はそれを見て、ややぎこちないながらもフランを同じように抱き上げることに成功し、私たちは一様に胸を撫でおろした。
「父上! ジェフとニコラスと遊んできました!」
「どんな遊びをしたんだ?」
「石投げです! ニコラスは的に当てるのがすごく上手なんですよ!」
「そうか。楽しかったようだな」
「はい!」
瞳をキラキラさせて元気いっぱいに報告するフランに、ダスティン様は頬を緩めた。
よく似た父子が仲良くしている光景はなんとも微笑ましくて、壁際に控えている侍従まで笑顔になっていた。
「ダスティン様、明日にでもアボットの街に行ってみたいのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんだ。
きみの行動を制限するようなことはしないよ。
ただし、屋敷の外では絶対に一人にならないようにな」
「大丈夫ですわ。ここにいる全員で行きますから」
「全員で?」
「私たちが王都でレストランを経営していたことはご存じでしょう?
ここでもなにかそのようなことができたらいいなと思いまして、そのための視察をしたいのです」
「なるほど、そういうわけか」
ダスティン様は榛色の瞳を少し見開いて、それから楽しそうに笑った。
「それなら、俺も同行しよう。
もしそれが実現したら、この地に新たな雇用が生まれることになる。
領主として、是非とも後押しすべき案件だ」
「まぁ! それは心強いですわ!」
それってつまり、ダスティン様との共同作業ではないか。
まるで本物の夫婦のようで、嬉しい。
「父上! 僕も、エミーたちとお出かけしたいです!」
フランが元気な声を上げた。
目の前でお出かけの話をしていたのだから、参加したくなるのは当然だろう。
「せっかくですからフランも連れていきませんか?
領主のお仕事を見学するというのも、きっといい経験になると思いますわ」
「いいのか?」
「ええ、もちろんです。
ジェフも連れていきますから」
ダスティン様は、腕の中のフランをじっと見た。
「いい子にすると約束できるか?」
「はい! 僕、ジェフと手をつないで、いい子にしておきます!」
「よろしい。それなら、フランの同行も許可しよう」
「やったー!」
ダスティン様もだが、無邪気に喜ぶフランも可愛い。
私がダスティン様と本当に結婚したら、フランは私の義理の息子ということになるわけだが、私がダスティン様の子を授かったとしても、分け隔てなく可愛がる自信がある。
早くそうなったらいいなと密かに思いながら、私はフランの黒髪を撫でた。
そして、その日の夜も夜這いをかけてダスティン様を堪能した。
翌日に予定があるからと、いつものように貪るような激しい行為ではなかったが、それはそれでとても気持ちよかった。
気を失って眠るのではなく、ちゃんと「おやすみなさい」と言って彼の温もりを感じながら目を閉じた。
いつもとは少し違うにしても、大満足な夜だった。
「お嬢様……まだ十日もたってないのに、びっくりするくらいきれいになりましたね」
翌朝、私の髪を櫛で梳かしながら、私の専属メイドに復帰したコリーンがしみじみとつぶやいた。
「ふふふ、それもきっとダスティン様のおかげね。
あと、料理がおいしいのと、空気がきれいだからでしょうね」
王都にいたころは、ほぼ毎日髪を縦ロールにセットして、釣り目の厚化粧をしていたのだが、ここに来てからはその必要もなくなったので、髪と肌にかかる負担が激減した。
それも事実だが、やはり一番はダスティン様に毎晩夜這いをかけているからだと思う。
愛する男に抱かれることは美容にもとてもいいのだということを、私は日々実感している。
お気に入りの水色のデイドレスを着て、今日はたくさん歩くだろうからと足元は丈夫な編み上げブーツにした。
薄化粧をして、小花が刺繍されたレティキュールにハンカチやお財布が入っているのを確認し、日よけのために帽子を被れば準備完了だ。
茨姫に擬態していたころの半分以下の時間で身支度ができてしまった。
シンプルで飾り気のない装いではあるが、私はこれくらいが動きやすくて好きなのだ。
昨日までは借り物のドレスで間に合わせていたが、今日からは私が自分で選んだドレスを着ることになる。
姿見の前に立ち、くるりと回って最終確認をした。
「ダスティン様は、可愛いって思ってくださるかしら」
「もちろんですわ!
今のお嬢様は、誰がどこからどう見たって可愛いに決まっています!」
さすがにそこまではないと思うが、そう言ってくれるのは嬉しい。
部屋の扉がノックされた。
「俺だ。準備はできたか」
ダスティン様が、迎えに来てくれたようだ。
コリーンが扉を開けると、いつもの簡素な騎士服ではなく、きっちりとしたフロックコートを着たダスティン様がいた。
特に装飾もないごく普通の紳士の装いだが、それが彼の鍛えられた体躯を際立たせている。
これはこれで、すごく素敵……!
思わず胸がキュンとしてなにも言えずに立ち尽くしてしまった私を、彼もなぜか無言でじっと見ている。
「エメライン様、そのドレスよくお似合いですね。
とてもお可愛らしいです」
数秒そんな奇妙な沈黙が続き、見かねたように彼の後ろに控えていたクレイグが笑いをかみ殺しているような顔で声をかけてくれた。
「そうだな……今日のエミーは、とても……か……か……可愛い……と、俺も思う」
顔を赤くしながら、しどろもどろに褒めてくれる彼に、私も頬を染めた。
「ありがとうございます。
ダスティン様も、とても素敵ですわ」
「普段はこういう服装はあまりしないんだが、きみを外でエスコートするには騎士服よりこっちがいいと言われてな」
「エスコート……してくださるのですか?」
「あたりまえじゃないか」
ほら、と左肘を差し出され、私がそこにそっと手を置くと、榛色の瞳を優しく細めて微笑んでくれた。
素敵……優しい……大好き!
「さあ、行こうか」
「はい、ダスティン様」
嬉しくて嬉しくて、私はスキップするような足取りで彼に連れられ玄関へと向かった。
翌日の午後、私は王太子殿下の婚約破棄から今までのことを、コリーンたちに全て説明した。
「辺境伯様と結婚させられたと聞いたときは、心の底から驚きましたよ。
お嬢様は強運ですね」
オードリーの言葉に、皆が同意し頷いた。
コリーンだけでなく、ダルトン一家も私の好みを知っているのだ。
「辺境伯様と直接お話をしたことはありませんが、どういう方なのかは伝え聞いておりましたので、お嬢様に無体なことはなさらないだろうと思っておりました。
そういう意味ではあまり心配していなかったのですが、まさかお試しとはいえ結婚を受け入れられているとは、さすがお嬢様ですな」
イーノックの言葉に、また皆が頷いた。
「そうなるように、頑張ったのよ。
だって、こんなチャンスを無駄になんかできないわ」
ほしいものがあるなら、それを手に入れるために自分で努力をしなくてはいけない、と私は思っている。
一般的な貴族令嬢なら、ただ与えられるのを待つだけだろうが、私は座して待つなんて性に合わないのだ。
ダスティン様に夜這いをかけるなんて、どう考えてもはしたないことだとわかっているが、少しも後悔していない。
そのおかげで、私たちの仲は深まりつつあるのだから。
もし私がただじっと待っていただけだったら、昨日の時点でコリーンたちと一緒に追い出されていたかもしれない。
「とにかく、お嬢様が幸せそうでよかったです」
「ええ、私は今とても幸せなの。
お試しの結婚がお試しでなくなるように、これからも頑張るつもりよ」
「そうなる日も近そうな気がしますけどね」
「ふふふ、そうだといいわね」
私はコリーンと顔を見合わせて笑った。
ちなみに、ニコラスとジェフはここにはいない。
ジェフとフランはすっかり仲良くなり、孤児院育ちで小さい子供の面倒をみることに慣れているニコラスが二人まとめて庭で遊んでくれているのだ。
友達ができたフランはとても楽しそうだ。
私がここから去ることになれば、フランとジェフもお別れすることになる。
そうなったら、二人ともとても悲しむだろう。
それを避けるためにも、私は一年以内にダスティン様の心を射止めないといけないのだ。
「私、考えたの。
私がなにかアボットの役に立つことができたら、私を妻にするメリットをダスティン様に示すことができるんじゃないかって。
それで、あなたたちにまた力を貸してほしいのだけど」
「もちろんですとも。
そのために、私たちはお嬢様を追いかけて来たのですから」
イーノックは大きくに頷いた。
「手っ取り早いのは、レストランをつくることでしょうか。
王都と勝手は違うでしょうけど、難しくはないと思います」
そう提案したのはオードリーだ。
オードリーはニコラスと結婚し私の女家庭教師を辞めてから、私が全額出資し開いたレストランを経営するイーノックを夫婦で手伝っていた。
レストランは手放したが、その経験と知識はしっかりと残っているはずだ。
それを利用しない手はないだろう。
「ここに来てからしばらく経つけど、私はまだこの屋敷から出たことがないの。
明日にでも皆でアボットの街に行ってみて、それからまた考えましょうか」
「そういたしましょう。
辺境伯様にも、念のため話を通しておいておいたほうがよろしいかと」
「そうね。
皆、頼りにしているわ」
ちょうど話がひと段落ついたところで、ダスティン様がやってきた。
「ダスティン様、どうなさったのですか」
「いや……様子を見に来ただけだ」
彼は立ち上がって礼をとろうとした私たちを制し、私に歩み寄って肩にポンと手を置くと、イーノックたちに目を向けた。
「この屋敷に女性を含む複数の客人を招くのは随分と久しぶりのことだ。
なにか不足はないだろうか」
「不足などございません。
とても親切にしていただいておりますよ。
孫も皆さまに可愛がっていただいて、ありがたいことです」
イーノックが代表で応えた。
人懐っこく物怖じしないジェフは、フランと仲良くなっただけでなく、すっかりこの屋敷に馴染んでいるようだ。
「俺たちの事情は聞いていると思う。
エミーを中途半端な立場にしてしまっているが、虐げるようなことは断じてしないから、そこは安心してほしい」
「わかっておりますよ、辺境伯様。
お嬢様が、今まで私たちが見たことないくらい幸せそうでいらっしゃいますからね」
ついさっき、私がとても幸せであることを語ったばかりだ。
ダスティン様を見上げて幸せいっぱいな笑顔を向けると、褐色の頬が少し赤らんで目を逸らされてしまった。
そうやって照れるところも、可愛い。
これが二人だけの寝室だったら、昨夜みたいに襲っているところだ。
今夜も、絶対に夜這いに行こう。
早く夜になってくれないかな……
なんて不埒なことを考えていると、サロンの外に続く扉から男児二人と手をつないだニコラスが入ってきた。
「父上!」
ダスティン様を見つけたフランは、笑顔で駆け寄って両腕をぱっと上げた。
抱っこをねだっている仕草だが、それがダスティン様はどうしたらいいのかわからないようだ。
素早く空気を読んだニコラスは、動作がよく見えるようにゆっくりとジェフを抱き上げた。
ダスティン様はそれを見て、ややぎこちないながらもフランを同じように抱き上げることに成功し、私たちは一様に胸を撫でおろした。
「父上! ジェフとニコラスと遊んできました!」
「どんな遊びをしたんだ?」
「石投げです! ニコラスは的に当てるのがすごく上手なんですよ!」
「そうか。楽しかったようだな」
「はい!」
瞳をキラキラさせて元気いっぱいに報告するフランに、ダスティン様は頬を緩めた。
よく似た父子が仲良くしている光景はなんとも微笑ましくて、壁際に控えている侍従まで笑顔になっていた。
「ダスティン様、明日にでもアボットの街に行ってみたいのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんだ。
きみの行動を制限するようなことはしないよ。
ただし、屋敷の外では絶対に一人にならないようにな」
「大丈夫ですわ。ここにいる全員で行きますから」
「全員で?」
「私たちが王都でレストランを経営していたことはご存じでしょう?
ここでもなにかそのようなことができたらいいなと思いまして、そのための視察をしたいのです」
「なるほど、そういうわけか」
ダスティン様は榛色の瞳を少し見開いて、それから楽しそうに笑った。
「それなら、俺も同行しよう。
もしそれが実現したら、この地に新たな雇用が生まれることになる。
領主として、是非とも後押しすべき案件だ」
「まぁ! それは心強いですわ!」
それってつまり、ダスティン様との共同作業ではないか。
まるで本物の夫婦のようで、嬉しい。
「父上! 僕も、エミーたちとお出かけしたいです!」
フランが元気な声を上げた。
目の前でお出かけの話をしていたのだから、参加したくなるのは当然だろう。
「せっかくですからフランも連れていきませんか?
領主のお仕事を見学するというのも、きっといい経験になると思いますわ」
「いいのか?」
「ええ、もちろんです。
ジェフも連れていきますから」
ダスティン様は、腕の中のフランをじっと見た。
「いい子にすると約束できるか?」
「はい! 僕、ジェフと手をつないで、いい子にしておきます!」
「よろしい。それなら、フランの同行も許可しよう」
「やったー!」
ダスティン様もだが、無邪気に喜ぶフランも可愛い。
私がダスティン様と本当に結婚したら、フランは私の義理の息子ということになるわけだが、私がダスティン様の子を授かったとしても、分け隔てなく可愛がる自信がある。
早くそうなったらいいなと密かに思いながら、私はフランの黒髪を撫でた。
そして、その日の夜も夜這いをかけてダスティン様を堪能した。
翌日に予定があるからと、いつものように貪るような激しい行為ではなかったが、それはそれでとても気持ちよかった。
気を失って眠るのではなく、ちゃんと「おやすみなさい」と言って彼の温もりを感じながら目を閉じた。
いつもとは少し違うにしても、大満足な夜だった。
「お嬢様……まだ十日もたってないのに、びっくりするくらいきれいになりましたね」
翌朝、私の髪を櫛で梳かしながら、私の専属メイドに復帰したコリーンがしみじみとつぶやいた。
「ふふふ、それもきっとダスティン様のおかげね。
あと、料理がおいしいのと、空気がきれいだからでしょうね」
王都にいたころは、ほぼ毎日髪を縦ロールにセットして、釣り目の厚化粧をしていたのだが、ここに来てからはその必要もなくなったので、髪と肌にかかる負担が激減した。
それも事実だが、やはり一番はダスティン様に毎晩夜這いをかけているからだと思う。
愛する男に抱かれることは美容にもとてもいいのだということを、私は日々実感している。
お気に入りの水色のデイドレスを着て、今日はたくさん歩くだろうからと足元は丈夫な編み上げブーツにした。
薄化粧をして、小花が刺繍されたレティキュールにハンカチやお財布が入っているのを確認し、日よけのために帽子を被れば準備完了だ。
茨姫に擬態していたころの半分以下の時間で身支度ができてしまった。
シンプルで飾り気のない装いではあるが、私はこれくらいが動きやすくて好きなのだ。
昨日までは借り物のドレスで間に合わせていたが、今日からは私が自分で選んだドレスを着ることになる。
姿見の前に立ち、くるりと回って最終確認をした。
「ダスティン様は、可愛いって思ってくださるかしら」
「もちろんですわ!
今のお嬢様は、誰がどこからどう見たって可愛いに決まっています!」
さすがにそこまではないと思うが、そう言ってくれるのは嬉しい。
部屋の扉がノックされた。
「俺だ。準備はできたか」
ダスティン様が、迎えに来てくれたようだ。
コリーンが扉を開けると、いつもの簡素な騎士服ではなく、きっちりとしたフロックコートを着たダスティン様がいた。
特に装飾もないごく普通の紳士の装いだが、それが彼の鍛えられた体躯を際立たせている。
これはこれで、すごく素敵……!
思わず胸がキュンとしてなにも言えずに立ち尽くしてしまった私を、彼もなぜか無言でじっと見ている。
「エメライン様、そのドレスよくお似合いですね。
とてもお可愛らしいです」
数秒そんな奇妙な沈黙が続き、見かねたように彼の後ろに控えていたクレイグが笑いをかみ殺しているような顔で声をかけてくれた。
「そうだな……今日のエミーは、とても……か……か……可愛い……と、俺も思う」
顔を赤くしながら、しどろもどろに褒めてくれる彼に、私も頬を染めた。
「ありがとうございます。
ダスティン様も、とても素敵ですわ」
「普段はこういう服装はあまりしないんだが、きみを外でエスコートするには騎士服よりこっちがいいと言われてな」
「エスコート……してくださるのですか?」
「あたりまえじゃないか」
ほら、と左肘を差し出され、私がそこにそっと手を置くと、榛色の瞳を優しく細めて微笑んでくれた。
素敵……優しい……大好き!
「さあ、行こうか」
「はい、ダスティン様」
嬉しくて嬉しくて、私はスキップするような足取りで彼に連れられ玄関へと向かった。
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