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⑲ 宿場町
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ホールデン王国の南端に位置するマクドゥーガル辺境伯家の領地アボットは、隣国バンクス王国との国境を守る要所でもある。
二国の王都をつなぐ街道が通っていることもあり、アボットの領都は宿場町という一面もある。
貴族が利用するような高級な宿から、安いかわりに大部屋の床で雑魚寝をすることになる宿など、様々なランクの宿があるのだそうだ。
屋台やレストランなども多数あるが、それはほぼ全て平民向けとなっている。
見栄を気にする貴族は、宿に併設されている貴族向けのレストランしか利用しないからだ。
「もったいないですよねぇ。
こんなに美味しそうなものがたくさんあるのに!」
まずダスティン様に連れてきてもらったのは、屋台やレストランが立ち並ぶ区画だ。
もうすぐ昼時ということもあり、空腹を誘う匂いが漂ってくる。
「それはそうだが……エミーだって貴族令嬢だろう?
屋台料理など、平気なのか?」
「平気です!
むしろ、気取ったレストランより、こういうところの方が好きですわ。
王都でもよく屋台で買い食いしてましたの」
平民の女の子が着る服を着て、よくコリーンたちと一緒に王都の屋台や市場を歩き回っていた。
それは、レストランの新作メニューを開発するためでもあったが、単純に私がそれを楽しんでいたからでもある。
「買い食い、か……」
困惑したようにつぶやいたダスティン様を、私はじっと見つめた。
「幻滅させてしまいましたか?」
ダスティン様には本当の私を受け入れてほしいから、表面だけ取り繕うようなことをせず、私の令嬢らしくないところも積極的に晒すという方針にしている。
それで幻滅されたり嫌われたりしたら、仕方がないと諦めるつもりだ。
だって結婚したら、死ぬまでずっと一緒にいることになるのに、その間ずっと自分を偽り続ける生活なんて無理なのだから。
「幻滅などしないよ。
少し驚いただけだ。
俺もたまにこのあたりで買い食いするんだ。
エミーはそういうのを嫌がるかと思っていたが、そうでもなさそうで安心したよ」
よかった、と私は胸を撫でおろした。
「王都にはない珍しいものもあるだろう。
早速見て回ろうか」
「はい!」
ダスティン様にエスコートされ、屋台が並ぶ通りを歩くと、すぐに横から声がかけられた。
「あれ! 誰かと思ったら、領主様じゃありませんか!」
「本当だ! いつもと違ってめかしこんでるから、わかりませんでしたよ」
おそらく、ダスティン様はいつもは騎士服で気軽にここに来るのだろう。
屋台で働いている人たちが、次々と声をかけてくる。
彼が領民に慕われていることがよくわかって、私は自然と笑顔になった。
「そちらの美人なお嬢さんは、新しいお嫁さんですかな?
こりゃめでたい!」
これにはなんと応えるのかと、ちらりと彼を見上げると、榛色の瞳が動揺に揺れていた。
私は『新しいお嫁さん』で間違いではないのだが、まだお試し期間中なので、はっきりと断言することもできず、かといって否定すると私を傷つけることになりそうで、どう応えていいのかわからない、と迷っているのが手に取るようにわかる。
「ごめんなさい、私はお嫁さんではないの。
事情によりダスティン様にお世話になっている、客人なのよ」
それなら、私が自分で立場を明らかにすれば問題ない。
「なんだ、そうなのか。
お嬢さんみたいな美人だったら、俺たちも大歓迎なんだけどなぁ」
「領主様は見た目はちょっと怖いけど、いい男なんだよ。
お嬢ちゃん、お嫁さんになってあげてくれないか」
「こ、こら! おまえたちいい加減なことを言うんじゃない!
エミーに失礼だろう!」
ぽんぽん飛んでくる軽口に慌てるダスティン様も可愛い。
「ふふふ、前向きに検討するわね」
私がそう言うと、わっと歓声が上がった。
「お嬢さん、この串焼き食べてって!
領主様もよく買ってくれるんだ」
「オレんとこのスープも食べてくれよ!
今日のは特別美味しくできてるからな」
「ありがとう。
私一人で全部は食べられないから、連れと一緒にいただくわね」
私はコリーンやイーノックたちと手分けして、できるだけ多くの種類の屋台料理を食べた。
シンプルな料理ばかりだが、どれもこれも美味しいのは、やはり素材がいいからなのだろう。
フランも、普段と違いマナーを気にしなくていい食事に大喜びで、ジェフと一緒に揚げパンを齧っている。
「ダスティン様、これすごく美味しいです!」
クレープにハムと新鮮な葉野菜を挟んだものをもぐもぐと食べながら彼を見上げると、精悍な顔がふいに近づいてきてペロリと唇の端を嘗められた。
「……‼」
「ソースがついていた」
「だからって、嘗めることあります⁉」
瞬時に真っ赤になった私に、彼は嬉しそうに笑った。
寝室では積極的な私だが、人前でこういう触れ合いをするのは恥ずかしい。
「エミーは可愛いな」
「もうっ! からかわないでください!」
赤くなった頬を膨らませ抗議する私に、彼はまた笑った。
そんな私たちを周囲の人たちはニマニマしながら眺めていて、それはそれでまた恥ずかしくなってしまった。
美味しい屋台料理を堪能した後は、野菜などの食材を売っている市場に足を運んだ。
そこでもまた「領主様のお嫁さんになってあげて」と言われ、たくさんのお土産を持たされて暗くなる前に屋敷に戻ることになった。
馬車に乗ると、ダスティン様は私の隣に座り手を握ってきた。
「ここの領民たちは、俺に対して遠慮がないんだ。
きみは嫌な思いをしなかったか?」
「いいえ、全く。
皆さん、暖かくて気さくで、とてもいい人たちですね」
行きの馬車の中では向かい合わせに座っていたのに、今はとても距離が近い。
一緒にお出かけしたことで、心の距離も近づいたからだろうか。
「ここは田舎だから、王都の常識は通用しないことが多い。
王都育ちの令嬢には住みづらいだろうと思っていたのだが……
きみはあっさり馴染んでしまいそうだな」
「私としては、住みやすさでは王都よりもアボットが上ですね。
王都は便利といえば便利ですけど、ゴミゴミしていますから。
アボットは食事も空気も美味しくて、なんだか息がしやすい気がしますわ」
「そうか。きみは、そう思ってくれるのか……」
彼は私を素通りして、ここにはない遠くのものを見るような目をした。
もしかしたら、フランの母君である亡くなった奥様のことを思っているのかもしれない。
詳しくは知らないが、王都育ちの令嬢だったはずだ。
彼はそれ以上なにも言わなかったので、私もなにも訊かず屋敷に帰り着くまで黙って馬車に揺られていた。
とても楽しくて有意義な一日だったのだが、残念ながら夜這いは諦めなくてはいけない事態になってしまった。
コリーンに頼んで彼に今日は自室で寝ることを伝えてもらい、少し早めに床に就こうとしてたところ、扉がノックされた。
「エミー。入っていいか」
ダスティン様だ。
なんだろうと思いつつ返事をすると、怖い顔をした彼が入ってきた。
「体調が悪いと聞いたが、大丈夫なのか?」
大きな手が頬を包み、もう片方の手が私の額に乗せられた。
「熱はなさそうだな。
どこが悪いんだ? 医師を呼ぶか?」
心配そうに私を覗き込む榛色の瞳に、私は苦笑しながら首を横に振った。
「熱はありません。
月の障りが始まっただけですので」
「ああ……そういう……」
コリーンには体調が悪いから自室で眠ると伝えてもらったのだが、ここまで心配してくれるとは思わなかった。
彼は落ち着かなげに視線をうろうろさせた。
「その……そういう時、女性は腹が痛くなったりするのだろう?
薬とかなにか、必要なものはないか?」
「私はあまりお腹が痛くなることもありませんから、大丈夫です。
少し調子は悪くなりますけど、それだけですわ」
「そうか……」
障りが重い体質ではないのだが、それでも諦めなければいけないことがある。
「だいたい六日間くらいは続きますので……
残念ながら、その間は夜這いができないのです……」
残念だ。非常に、心から残念だ。
今夜だって、しっかり夜這いをするつもりだったのに。
だが、こればかりは仕方がない。
健康な証拠だと、受け入れるしかないのだ。
しょんぼりと肩を落とした私の顔を、ダスティン様は再び覗き込んだ。
「その……一緒に寝るのも、ダメなのか?」
「え?」
「俺も月の障りがどういうものかは知っている。
その期間は閨事ができないのも理解している。
だが、隣で寝るだけなら大丈夫なのではないか?」
「それは、そうですが……」
閨事ができないなら、一人の方が寝やすいのではないだろうか。
「きみが一人で眠りたいというなら止めないが……
できることなら、いつものように俺の隣で眠ってくれないか」
私だって、できるならそうしたいと思っていた。
ダスティン様の温もりを感じることができないのは、寂しいなと思っていたところだ。
「よろしいのですか?」
「いいに決まっている。
お試しとはいえ、夫婦なのだからな。
夫婦は毎晩同じ寝台で眠るものだろう?」
それって、限りなく本物の夫婦みたいじゃない?
嬉しくて、私の顔は自然にほころんだ。
「……本当は、一人で眠るのは寂しいと思っていたのです。
今夜もお傍に侍らせてくださいませ」
体を寄せると、ダスティン様は私を軽々と抱え上げて主寝室まで運んでくれた。
そんな私たちを見送りながら、『よかったですね!』とコリーンが視線で伝えてきた。
そうして私は今夜もダスティン様の温もりに包まれ、幸せな気分で眠りについた。
これはこれで大満足な夜だった。
翌日、「決して無理をしないように」とダスティン様に厳命されたので、オードリーとコリーンと三人でサロンに集まり女子会をした。
女子会というか、一方的に私がダスティン様のことを惚気るだけになってしまったが、二人ともうんうんと頷きながら私の話を聞いてくれた。
「私、絶対にダスティン様をモノにしてみせるわ!
二人とも、協力してね!」
「ええ、もちろんです!」
「我がダルトン家一丸となって、全力で応援させていただきます!」
私たちは手を取り合い、私の願いを成就させるために邁進することを誓いあったのだった。
二国の王都をつなぐ街道が通っていることもあり、アボットの領都は宿場町という一面もある。
貴族が利用するような高級な宿から、安いかわりに大部屋の床で雑魚寝をすることになる宿など、様々なランクの宿があるのだそうだ。
屋台やレストランなども多数あるが、それはほぼ全て平民向けとなっている。
見栄を気にする貴族は、宿に併設されている貴族向けのレストランしか利用しないからだ。
「もったいないですよねぇ。
こんなに美味しそうなものがたくさんあるのに!」
まずダスティン様に連れてきてもらったのは、屋台やレストランが立ち並ぶ区画だ。
もうすぐ昼時ということもあり、空腹を誘う匂いが漂ってくる。
「それはそうだが……エミーだって貴族令嬢だろう?
屋台料理など、平気なのか?」
「平気です!
むしろ、気取ったレストランより、こういうところの方が好きですわ。
王都でもよく屋台で買い食いしてましたの」
平民の女の子が着る服を着て、よくコリーンたちと一緒に王都の屋台や市場を歩き回っていた。
それは、レストランの新作メニューを開発するためでもあったが、単純に私がそれを楽しんでいたからでもある。
「買い食い、か……」
困惑したようにつぶやいたダスティン様を、私はじっと見つめた。
「幻滅させてしまいましたか?」
ダスティン様には本当の私を受け入れてほしいから、表面だけ取り繕うようなことをせず、私の令嬢らしくないところも積極的に晒すという方針にしている。
それで幻滅されたり嫌われたりしたら、仕方がないと諦めるつもりだ。
だって結婚したら、死ぬまでずっと一緒にいることになるのに、その間ずっと自分を偽り続ける生活なんて無理なのだから。
「幻滅などしないよ。
少し驚いただけだ。
俺もたまにこのあたりで買い食いするんだ。
エミーはそういうのを嫌がるかと思っていたが、そうでもなさそうで安心したよ」
よかった、と私は胸を撫でおろした。
「王都にはない珍しいものもあるだろう。
早速見て回ろうか」
「はい!」
ダスティン様にエスコートされ、屋台が並ぶ通りを歩くと、すぐに横から声がかけられた。
「あれ! 誰かと思ったら、領主様じゃありませんか!」
「本当だ! いつもと違ってめかしこんでるから、わかりませんでしたよ」
おそらく、ダスティン様はいつもは騎士服で気軽にここに来るのだろう。
屋台で働いている人たちが、次々と声をかけてくる。
彼が領民に慕われていることがよくわかって、私は自然と笑顔になった。
「そちらの美人なお嬢さんは、新しいお嫁さんですかな?
こりゃめでたい!」
これにはなんと応えるのかと、ちらりと彼を見上げると、榛色の瞳が動揺に揺れていた。
私は『新しいお嫁さん』で間違いではないのだが、まだお試し期間中なので、はっきりと断言することもできず、かといって否定すると私を傷つけることになりそうで、どう応えていいのかわからない、と迷っているのが手に取るようにわかる。
「ごめんなさい、私はお嫁さんではないの。
事情によりダスティン様にお世話になっている、客人なのよ」
それなら、私が自分で立場を明らかにすれば問題ない。
「なんだ、そうなのか。
お嬢さんみたいな美人だったら、俺たちも大歓迎なんだけどなぁ」
「領主様は見た目はちょっと怖いけど、いい男なんだよ。
お嬢ちゃん、お嫁さんになってあげてくれないか」
「こ、こら! おまえたちいい加減なことを言うんじゃない!
エミーに失礼だろう!」
ぽんぽん飛んでくる軽口に慌てるダスティン様も可愛い。
「ふふふ、前向きに検討するわね」
私がそう言うと、わっと歓声が上がった。
「お嬢さん、この串焼き食べてって!
領主様もよく買ってくれるんだ」
「オレんとこのスープも食べてくれよ!
今日のは特別美味しくできてるからな」
「ありがとう。
私一人で全部は食べられないから、連れと一緒にいただくわね」
私はコリーンやイーノックたちと手分けして、できるだけ多くの種類の屋台料理を食べた。
シンプルな料理ばかりだが、どれもこれも美味しいのは、やはり素材がいいからなのだろう。
フランも、普段と違いマナーを気にしなくていい食事に大喜びで、ジェフと一緒に揚げパンを齧っている。
「ダスティン様、これすごく美味しいです!」
クレープにハムと新鮮な葉野菜を挟んだものをもぐもぐと食べながら彼を見上げると、精悍な顔がふいに近づいてきてペロリと唇の端を嘗められた。
「……‼」
「ソースがついていた」
「だからって、嘗めることあります⁉」
瞬時に真っ赤になった私に、彼は嬉しそうに笑った。
寝室では積極的な私だが、人前でこういう触れ合いをするのは恥ずかしい。
「エミーは可愛いな」
「もうっ! からかわないでください!」
赤くなった頬を膨らませ抗議する私に、彼はまた笑った。
そんな私たちを周囲の人たちはニマニマしながら眺めていて、それはそれでまた恥ずかしくなってしまった。
美味しい屋台料理を堪能した後は、野菜などの食材を売っている市場に足を運んだ。
そこでもまた「領主様のお嫁さんになってあげて」と言われ、たくさんのお土産を持たされて暗くなる前に屋敷に戻ることになった。
馬車に乗ると、ダスティン様は私の隣に座り手を握ってきた。
「ここの領民たちは、俺に対して遠慮がないんだ。
きみは嫌な思いをしなかったか?」
「いいえ、全く。
皆さん、暖かくて気さくで、とてもいい人たちですね」
行きの馬車の中では向かい合わせに座っていたのに、今はとても距離が近い。
一緒にお出かけしたことで、心の距離も近づいたからだろうか。
「ここは田舎だから、王都の常識は通用しないことが多い。
王都育ちの令嬢には住みづらいだろうと思っていたのだが……
きみはあっさり馴染んでしまいそうだな」
「私としては、住みやすさでは王都よりもアボットが上ですね。
王都は便利といえば便利ですけど、ゴミゴミしていますから。
アボットは食事も空気も美味しくて、なんだか息がしやすい気がしますわ」
「そうか。きみは、そう思ってくれるのか……」
彼は私を素通りして、ここにはない遠くのものを見るような目をした。
もしかしたら、フランの母君である亡くなった奥様のことを思っているのかもしれない。
詳しくは知らないが、王都育ちの令嬢だったはずだ。
彼はそれ以上なにも言わなかったので、私もなにも訊かず屋敷に帰り着くまで黙って馬車に揺られていた。
とても楽しくて有意義な一日だったのだが、残念ながら夜這いは諦めなくてはいけない事態になってしまった。
コリーンに頼んで彼に今日は自室で寝ることを伝えてもらい、少し早めに床に就こうとしてたところ、扉がノックされた。
「エミー。入っていいか」
ダスティン様だ。
なんだろうと思いつつ返事をすると、怖い顔をした彼が入ってきた。
「体調が悪いと聞いたが、大丈夫なのか?」
大きな手が頬を包み、もう片方の手が私の額に乗せられた。
「熱はなさそうだな。
どこが悪いんだ? 医師を呼ぶか?」
心配そうに私を覗き込む榛色の瞳に、私は苦笑しながら首を横に振った。
「熱はありません。
月の障りが始まっただけですので」
「ああ……そういう……」
コリーンには体調が悪いから自室で眠ると伝えてもらったのだが、ここまで心配してくれるとは思わなかった。
彼は落ち着かなげに視線をうろうろさせた。
「その……そういう時、女性は腹が痛くなったりするのだろう?
薬とかなにか、必要なものはないか?」
「私はあまりお腹が痛くなることもありませんから、大丈夫です。
少し調子は悪くなりますけど、それだけですわ」
「そうか……」
障りが重い体質ではないのだが、それでも諦めなければいけないことがある。
「だいたい六日間くらいは続きますので……
残念ながら、その間は夜這いができないのです……」
残念だ。非常に、心から残念だ。
今夜だって、しっかり夜這いをするつもりだったのに。
だが、こればかりは仕方がない。
健康な証拠だと、受け入れるしかないのだ。
しょんぼりと肩を落とした私の顔を、ダスティン様は再び覗き込んだ。
「その……一緒に寝るのも、ダメなのか?」
「え?」
「俺も月の障りがどういうものかは知っている。
その期間は閨事ができないのも理解している。
だが、隣で寝るだけなら大丈夫なのではないか?」
「それは、そうですが……」
閨事ができないなら、一人の方が寝やすいのではないだろうか。
「きみが一人で眠りたいというなら止めないが……
できることなら、いつものように俺の隣で眠ってくれないか」
私だって、できるならそうしたいと思っていた。
ダスティン様の温もりを感じることができないのは、寂しいなと思っていたところだ。
「よろしいのですか?」
「いいに決まっている。
お試しとはいえ、夫婦なのだからな。
夫婦は毎晩同じ寝台で眠るものだろう?」
それって、限りなく本物の夫婦みたいじゃない?
嬉しくて、私の顔は自然にほころんだ。
「……本当は、一人で眠るのは寂しいと思っていたのです。
今夜もお傍に侍らせてくださいませ」
体を寄せると、ダスティン様は私を軽々と抱え上げて主寝室まで運んでくれた。
そんな私たちを見送りながら、『よかったですね!』とコリーンが視線で伝えてきた。
そうして私は今夜もダスティン様の温もりに包まれ、幸せな気分で眠りについた。
これはこれで大満足な夜だった。
翌日、「決して無理をしないように」とダスティン様に厳命されたので、オードリーとコリーンと三人でサロンに集まり女子会をした。
女子会というか、一方的に私がダスティン様のことを惚気るだけになってしまったが、二人ともうんうんと頷きながら私の話を聞いてくれた。
「私、絶対にダスティン様をモノにしてみせるわ!
二人とも、協力してね!」
「ええ、もちろんです!」
「我がダルトン家一丸となって、全力で応援させていただきます!」
私たちは手を取り合い、私の願いを成就させるために邁進することを誓いあったのだった。
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