茨姫は辺境の地で花開く

鈴木かなえ

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㉘ 奪還 ダスティン視点

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 アボットに帰り着いたのは、もう暗くなってからだった。
 できれば今すぐにでもエミーを奪還しに行きたいところだが、グリフォンたちを休ませなければならないので、今夜はもう動けない。

 頭ではそうわかっていても、とても落ち着いていられず執務室をうろうろと歩き回る俺にクレイグが声をかけた。

「旦那様、イーノック殿から伝言です。
 明日は国王夫妻の結婚記念日を祝う夜会が王城で開催されるので、エメライン様はそこに連れ出されるだろう、とのことでした」

 元はダルトン伯爵だったイーノックは、こういった貴族の事情に俺よりもよほど詳しい。
 
 あのチヤホヤされるのが大好きなクソ王太子のことだ。
 御璽を使ってなにかやらかすなら、また大勢の耳目が集まる場を選ぶだろう。
 夜会はそれにうってつけなのだ。

「王都は広いですからな。
 闇雲に探し回るより、夜会を襲撃するほうが確実でしょう」

「……そうだな」

「そうと決まれば、旦那様もきちんとお休みください。
 明日は今日よりもっと忙しくなりそうですからな」

「わかっている。もう休むよ」

 俺はクレイグに追い立てられるように寝室へと向かった。
 
 だが、寝台にはエミーの甘い肌の香りがわずかに残っていて、とても眠れそうにない。
 
 今頃、泣いているだろうか。
 酷い目にあわされていないだろうか。
  
 もしかしたら、義弟に無理やり組み敷かれているかもしれない……

 そう考えると、体が内側から焼かれるような焦燥で居ても立ってもいられなくなる。

 エミー、待っていてくれ。
 必ず助けに行くから。

 エミーの枕を抱きしめて、俺は少しでも眠ろうと目を閉じた。

 翌日、出立の準備を整えた俺はロニーを撫でながら言葉をかけた。

「ロニー。連日で悪いが、今日はホールデンの王都まで飛んでくれ」

「クエ?」

 今日もそんな遠くまで行くの? というようにロニーは首を傾げた。

「おまえの大好きなエミーが囚われている。
 助けに行かなくてはいけないんだ」

「クエ? クエエェ! グエェ!」

 エミーが大好きなロニーの瞳が鋭くなった。

「おまえもエミーを助けたいだろう?」

「グエエエエエ!」

 賢いロニーは俺の言っている意味を正確に理解できたようで、翼を大きく広げ空に向かって咆哮し怒りをあらわにした。

 ロニーの咆哮に他のグリフォンたちも呼応し、猛々しい咆哮が響き渡った。
 気さくで明るいエミーは騎士たちからも人気が高く、グリフォン騎士団全体がエミー救出に向けて気合十分だ。

「出立!」

 俺を乗せたロニーに続き、三十騎のグリフォン騎士が空へと飛び立った。
 全員が先の戦役で俺と肩を並べて戦った猛者たちで、王都にいる役者みたいな騎士を相手にするなら一騎当千といっても過言ではない顔ぶれだ。 
 荒事は避けたいが、もしそうなっても確実にエミーを救出できる自信がある。

 茜色に染まる空を矢のように駆け抜け、星が輝き始めるころに目的地に到着した。

「ロニー、頼む!」

 俺が声をかけると、ロニーは王城に向かって咆哮し、他のグリフォンたちもそれに倣った。

『グエエエエエエエ!』

 王都の隅々にまで届くようなすさまじい咆哮に、王都中の人々が腰をぬかす程驚いたことだろう。
 そして、俺を含め三十一騎のグリフォン騎士が王城へと飛んでいくのを見て、何事かが起きていると察するはずだ。
 これは、ホールデン王国への威嚇であり、なにも知らない人々への警告でもある。

 いつもなら王城の端にあるグリフォン専用の厩舎に向かうところだが、今日はそちらではなく煌々と灯りが漏れる広間のバルコニーに降り立った。

 着飾った貴婦人が悲鳴を上げるのに構わず、騎乗したまま広間に踏み込んで声を張り上げた。

「エメライン! エメラインはどこだ!」

 きっとここにいるはずだ。
 もしいなかったとしても、あのクソ王太子を締め上げて義弟とエメラインを連れてこさせればいい。

「ダスティン様! 私はここです」

 イーノックの読みは当たり、可愛い声が響いた。
 目を向けると、白い豪奢なドレスを着せられたエミーが俺に向かって駆けてくるところだった。
 かつてここで出会ったエミーは茨姫に擬態した姿だったが、今は本来の美しさを活かした装いで、まるで光輝く女神のようだ。

 幸いなことに、顔色もそこまで悪くない。
 ということは、義弟にまだ手を出されていないのだろう。

「エメライン! エミー!」

 そんなエミーをぎゅっと抱きしめ、俺は安堵の溜息をついた。
 
 よかった、無事だった。
 エミーをこの腕の中に取り戻すことができた。

 本当によかったと安堵した俺と違い、エミーは悲嘆にくれた顔でぽろぽろと涙を流した。
 案の定、また御璽が使われたとのことで、俺は別の意味で溜息をつくことになった。

 カーターの助言に従い、準備をしてきて正解だった。

 バンクス王国の後ろ盾を得てアボットが独立することを宣言すると、会場は大騒ぎになった。
 
 国王は考え直すよう懇願してきたが、聞いてやる気は毛頭ない。
 アボットは地上で唯一のグリフォンの生息地で、軍事的にも経済的にも要所となる位置にある。
 ここを失うのは、軍事力だけでなく様々な利益を失うということだ。

 そんな簡単な理屈も理解せず、我らを野蛮だと貶めた報いをこの国はこれから受けることになるのだ。

 そのままエミーを連れて去ろうと思ったが、王妃の哄笑から事態は思わぬ方向へと展開していった。

 国王を骨抜きにした美しい王妃が、男娼との間にできた子を王太子として愚か者に育てるというとんでもない復讐を企てていたなど、俺だけでなく誰も想像もつかなかったことだろう。
 
 とはいえ、それも身から出た錆だ。
 長年のツケが回ってきたというだけのことだ。

 この国には、これから大きな嵐が巻き起こる。

 俺たちは、それを外から静観する立場となったのだ。

「エミー、もう俺たちにできることはない。
 アボットに戻ろう」

 声をかけ抱き寄せると、皆と同じように唖然としていたエミーは俺を見上げて微笑んだ。

「はい、ダスティン様。帰りましょうね」

 可愛い笑顔にキスをしたい衝動に駆られるも、さすがに自重した。
 アボットに着くまで我慢だ。

 どうやら義弟らしい男が騒いでいたが、エミーは一顧だにせず背を向けてロニーを労った。
 エミーももうこの国にはなんの愛着もないのだ。

 俺たちはロニーの背に乗り、誰にも阻まれることなく王城を飛び立った。
 マントに包んだエミーの体温を感じ、もう二度と離さないと心に誓いながらアボットへと帰還した。 

 やっと屋敷に着いたのは夜更けだったが、フランとジェフは眠い目を擦りながら起きて待っていた。

「エミー!」

「エミー様!」

 男児二人はエミーの腰に抱きついて、わんわんと声を上げて泣いた。
 この二人のためにも、エミーを奪還できて本当によかった。
 
「ごめんなさいね、心配かけて。
 私は無事よ。
 怪我もしてないし、酷いこともされなかったわ」

 優しく微笑みながら小さな頭をそれぞれ撫でるエミーの姿に、コリーンも涙を流しダルトン一家は魂が抜けてしまいそうなほど安堵した顔をしていた。

 ひとしきりな泣いたあと、男児二人はすぐに眠くなったようで、寝室へと連れられて行った。
 それを見送ってから、俺はエミーを抱え上げた。

「きみも疲れただろう。
 このまま寝室に行こう」

 本当はコリーンに世話を任せ自室でゆっくり休ませるべきなのだろうが、今夜は片時も離れたくない。

「はい……連れて行ってください」

 それはエミーも同じだったようで、頬を赤らめながら俺の首に腕を回してきたので、そのままさっさと歩き出した。

 寝室の扉を閉め二人きりになってから、俺は我慢するのをやめた。 

 閉めたばかりの扉にエミーの体を押しつけ、普段よりはっきりとした色合いの紅がひかれた唇に喰らいついた。
 口腔に舌を差し込むと、小さな舌が俺に応えて積極的に絡んでくる。

 しばらく夢中で貪りあい、エミーの体から力が抜けたところでやっと解放した。

「ダスティン様……」

 涙で潤む碧の瞳が、今すぐほしいと訴えている。

 もちろん、ほしいのは俺も同じだ。

 俺はドレスのスカートをまくり上げ、その下にあるなんだかフワフワしたものの中を探り、さらにその下にある下着に触れると、脱がす余裕などあるはずもなく力任せに引き裂いた。

「あ……ダスティン様……」

 期待と欲情に喘ぐエミーを見下ろしながら俺はトラウザーズの前をくつろげ、既に臨戦態勢となっている分身を取り出す。

 扉に背をつけたエミーの両足を抱え上げると、蜜が溢れる膣口に狙いを定めて一息で奥まで貫いた。

「あああああっ!」

 エミーはそれだけで達してしまったらしく、膣襞がわななきながら締めつけてくる。
 俺は全部持っていかれそうなのを歯を食いしばって耐え、細い体を斜め下から扉に押しつけるように、欲望のままガツガツと貪った。

 熱い泥濘は、俺が最後に可愛がった時となにも変わっていない。
 それを確かめて心から安堵するとともに、この感触をあの義弟が味わう未来があったのかもしれないと思うと、怒りで頭に血が上る。

「ああっ! ああぅっ!」

 のけ反った白い首筋に吸いついて、俺の痕をつけた。
 普段は服で隠れないところには痕をつけないようにしているのだが、そんな自重などかなぐり捨てた。
 エミーが俺のものだという印をつけないと、どうしても気が済まないのだ。

「や……こっちにも、キス」

 いくつか痕をつけたところで、唇にキスすることを強請られ、俺はまたエミーに喰らいついた。

「んん……んうぅ……」

 舌を絡めると、くぐもった甘い声を上げながらさらに締め付けてくる。
 こみ上げてくる射精感に律動を早めると、エミーはまた昇りつめた。

「んんんんん!」

 精を搾り取ろうと蠢く襞に、俺は逆らうことなく最奥で爆ぜた。
 
「は……あ……」

 普段より長く続く射精を胎で受け止めながら、エミーはうっとりと満足そうに微笑んだ。
 服をほとんど脱がないままでの性急な交わりは、腰が溶けてしまいそうなほど気持ちがよかった。

 二人で荒い息を整え、またキスをした。

「ダスティン様……会いたかった……」

「俺も会いたかったよ。
 たった一日離れていただけなのに、死ぬほどきみが恋しかった」

「嬉しい……私も、同じでした……」

 エミーの指が俺の唇をなぞった。

「このドレス……ブライアンが準備したものです。
 早く脱いでしまいたいの……」

「そうだな。こんなものをきみに着せておくのは、俺も嫌だ」
 
 ドレスに罪はないが、義弟が関わったものがエミーに触れているのは我慢がならない。

 エミーを床に下ろし、後ろを向かせて背中側の紐をほどいた。
 ドレスを脱がせ、その下にはコルセットやよくわからない下着などをもどかしい気持ちで取り払い、まろやかな肌を露わにしていたった。

 俺がそうしている間、エミーもネックレスやヘアピンなどを自分で外し、足元に落としていく。

 生まれたままの姿になったエミーは、恥ずかしそうに前を隠そうとしたが、俺はその腕を掴んで阻止してその肌をじっくりと観察した。

「俺がつけた痕以外は、ついていないな」

「……ブライアンには、なにもされておりませんから」

 魔法具までつかって誘拐したのに、なにもしなかったのか。
 あの義弟がなにを考えていたのか疑問ではあるが、俺たちにとっては僥倖だ。

 もっとも、義弟になにかされていたとしても、エミーを手放すつもりなどなかった。
 たっぷりと上書きをして、その後で義弟を縊り殺しにいけばいいだけの話なのだから。

「ダスティン様も、脱いでください。
 もっとあなたを感じたいの」

 俺も同じことを思っていたので、瞬時に騎士服を脱ぎ捨ててエミーを抱えたまま寝台に飛び込んだ。
 また臨戦態勢に戻った俺の分身が白い太腿に触れると、碧の瞳が欲情に燃え上った。

「まだ足りません……もっとあなたでいっぱいにして……」

「たくさんあげるよ。
 きみが満足するまでな」

 再び俺の分身を埋め込むと、熱い泥濘は歓喜に震えながら奥まで迎え入れた。
 
 それから俺たちはひたすらに互いを貪りあい、空が白むころにエミーは気を失った。
 とても幸せそうな寝顔に、俺の心も幸せで満たされていく。

「おかえり、エミー。
 これからもずっと一緒だ」

 あちこちに赤い痕が散らばる滑らかな肌を清拭し、白い頬にキスをしてから俺も瞳を閉じた。
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