日常探偵団

髙橋朔也

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京都・鶏の鳴き声 その弐

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 二人はその後、班と合流。それから、八坂中学校二学年生一行は本日泊まる宿に向かった。
 宿の名前は『望月荘(もちづきそう)』。名前の通り、夜になると星空が綺麗に見える。もちろん、満月の日には月がより近くに見えるのだ。
「新島! 広い部屋だな」
「まあ、どちらかというと広いな」
「だろ?」
「それより、高田」
「どうした?」
「トランプしよう」
「トランプ、か。ババ抜きか?」
「ああ」
 新島と高田は二人でババ抜きを始めた。
「なあ。にわとりの鳴き声はどうするんだ?」
「またその話しか。俺はにわとりの鳴き声が学校で聞こえるって言っただけだ」
「京都じゃにわとりはいないだろ?」
「いるんじゃないか?」
「わかんないなあ」
 それから、少しババ抜きをしていると新島が何かに気づいた。
「ん?」
「どうした? 窓の外何か見て...」
「いや、あれ! 燃えてないか?」
「!」
 二人のいる部屋の窓からは望月荘の名物・月見御殿(つきみごてん)と言われる小さい建物が見える。その月見御殿が赤い炎に包まれていた。と言っても、全体が燃えているわけではない。一部分が激しく燃えている程度だ。だが、それでも大問題だ。二人は急いで月見御殿に向かった。
 月見御殿の前には人影があった。新島が叫ぶ。
「待て!」
 その人影は急いで消火器で火を消して、逃げていった。
「どういうことなんだ!?」
 高田は月見御殿を見ながら絶句していた。
「どうした、高田...」
「月見御殿が...どこにも損傷がないんだ!」
「何だって!」
 新島は燃えていた部分を確認した。しかし、炭になっている部分もなければ灰にすらなっていない。つまり、月見御殿は燃えてはいなかったのだ。しかし、あれが幻覚な訳がなかった。
「なあ、俺たちの頭が狂ったのかな?」
「高田は元から狂ってるよ」
「じゃなくて、なんで月見御殿に損傷がないんだ?」
「さあな」
「あったな。ミステリーの本場・京都での謎...」
「にわとりよりよっぽど大きい謎だぞ」
「だから面白い」
 二人はゆっくりと部屋に戻っていった。
 朝、二人は六時に目が覚めた。高田は真っ先に外を見た。月見御殿は燃えてはいなかったが、昨日の場面がフラッシュバックしていた。
「高田」
「ん?」
「新聞ってあったけっ?」
「食堂にあるだろ?」
「なら、行こう」
 二人は一階の食堂に向かった。新島はそこで本日の新聞をもらった。
「見てみろ、高田」
「どうした?」
「京都では他にも放火事件があったらしい」
「本当だ! それに昨日だけで二件の空き巣泥棒。手口が同じだから同一犯か。大変だな」
「最近は京都で外国人のマナーも悪いからな」
「これが古都の現実、か」
 二人は新聞を棚に置いた。
「おっ! どうしたんだ、二人とも」
「あ、斉藤(さいとう)さん」
 斉藤さん、とは望月荘の職員で八坂中学校生徒担当だ。そして、修学旅行最終日に何かを行う予定らしい。
「早起きだな」
「ちょっといろいろあって...」
「そうか、そうか。まあ、今日も楽しんで来てね」
「はい」
「確か、今日は銀閣寺(ぎんかくじ)と哲学の道だね」
「はい」
 新島は銀閣寺を慈照寺(じしょうじ)と訂正したくてうずうずしていた。
 二人は二階の三組男子の部屋に戻った。
「こいつら、まだ寝てやがるぜ」
「まあ、落ち着け高田」
「また寝るか」
「起床は八時だからまだ眠れるな」
「寝よう」
 高田は布団に包(くる)まって寝た。新島は歯を磨いてから布団に潜り込んだ。

 二時間後の八時に全員が起床した。新島は起きてすぐに、『斉藤さん』のいる場所に向かった。高田は気になって後を追った。
「斉藤さん!」
「あ、やあ。新島君」
「六時頃に月見御殿に火を放ったのはあなたですよね?」
 高田は隠れて聞いていたが、驚いた。
「放火? なんのことだい? それに、月見御殿に損傷はなかったよ」
「アルコールと水」
「!」
「あなたはアルコールと水をうまい具合に混ぜた。そして、それを月見御殿にかけた」
「な、何のために?」
「月見御殿に損傷を残さず、かつ燃えるようにです」
「新島君は何を言っているんだ?」
「アルコールと水をうまい具合に混ぜて、何かにかけるか浸すかしてから、それを燃やしても実際には燃えません。アルコールだけが燃えている状態だからです。斉藤さんはそれを使って
月見御殿に火を着けた」
「な、なぜ?」
「それは、あなたが俺たちにお別れの時に行うサプライズのためです。おそらく、その実験で月見御殿を燃やしたんでしょうが、そのことが他の人にばれたら大変だから隠したんでしょう?」
「...そうだ。正解だ。目玉の月見御殿に燃えない細工をしたとしても放火したことがばれたらクビだ。だから、他の人には言わないでくれ」
「大丈夫です」
 新島はお辞儀をして、階段を上がると、高田が待っていた。
「なんだ、聞いてたのか?」
「もちろん」
「そうか」
「で? にわとりの鳴き声はわかったのか?」
「ああ。わかってはいるが、正体が危険なんだ」
「何で?」
「今日のうちににわとりの鳴き声がしたら捕まえるから」
「わかった」
「武器は持ってろ。それと、お前なんか武術出来たっけ?」
「空手を少々かじっている」
「なるほど。じゃあ、頼むぞ」
「ああ。わかってる」
 二人を含めた班は哲学の道に向かった。そこから慈照寺に向かうようだった。
「新島」
「どうした?」
「にわとりの正体は凶暴な奴なのか?」
「ああ。超凶暴だ」
「そうなのか」
「ああ」
「どうしたら、捕まえられる?」
「首をつかんで、地面に叩きつけるんだ」
「それから?」
「縛(しば)る」
「わかった。やってみる」
「頑張れ」
 それから少し哲学の道を歩いていると、独特の高い鳴き声。つまり、にわとりの鳴き声が聞こえてきた。
「高田!」
「わかった。行こう」
 二人はにわとりの鳴き声が聞こえた方向に走っていった。
「ここら辺で聞こえたよな?」
「ああ。高田は家の庭を確認しろ」
「わかった」
 二人は手分けして庭を覗き回った。すると、新島が高田に手招きした。
「にわとりがいたのか?」
「いたんだ。窓が割れてるあの家の中だ。割れた窓から入るから、お前は追撃しろ。俺が一番槍だ」
「わかった」
 二人は家に入り込んだ。すると、黒いニットを被った男が一人いた。新島は急いで股間を蹴っ飛ばした。
「高田! 追撃だ!」
「そいつ、にわとりじゃないぞ」
「いいから、追撃!」
「わ、わかった」
 高田は急いで男の上に乗って、縄で縛った。
「で、新島。こいつ、誰?」
「ほら、京都で空き巣被害が増えてるって新聞にあっただろ? それに、同じ手口で」
「あったな」
「その犯人がこいつ」
「まじか!」
「交番に行くぞ」
「わかった」
 二人は犯人を担いで交番まで行った。詰めていた警官が犯人に犯行を自白させて、後に逮捕された。そして、そのことは八坂中学校の修学旅行に同伴した職員にも伝えられた。
 それで現在。新島と高田は京都府警の刑事と雑談をしているところだった。
「ハッハ! まさか、中学二年の二人に先に犯人が逮捕されるとは実に我々は滑稽(こっけい)だ。ときに、なぜ犯人が忍び込んだ家がわかったんだい?」
「わかったのは、新島です。俺...僕は何もしていません」
「一人称は変えなくて良いよ。...それより、新島君。なんで、わかったんだい?」
「にわとりの鳴き声です。修学旅行初日から聞こえていて、高田とそのことについて話していました。それから新聞で空き巣を知って、被害に遭った家の場所とにわとりの鳴き声が聞こえた場所が近かったので、少し考えて見たんです。もしかすると、他の音を消すためににわとりの鳴き声を出したんじゃないかって。ですが、にわとりの鳴き声はそれほど大きい音ではありませんでした。そこで思い出したのがマスキング効果です」
「マスキング効果とは?」
「高い周波数の音に低い周波数の音を重ねて、音を消す方法です。なぜ犯人がにわとりの鳴き声を選んだのかは知りませんが、ガラスが割れる音が消える程度の周波数ににわとりの鳴き声を調整してスマホか何かで流します。その間にガラスを割れば、にわとりの鳴き声は誰かに聞こえてもガラスが割れる音は掻(か)き消されます。つまり、犯人はマスキング効果を利用してガラスを割っていたんです。
 なので、哲学の道でにわとりの鳴き声を聴いたので、急いでせの方向まで向かったんです」
「なるほど。だから、今回の犯人は捕まえられなかったのか。何か少しでも音が漏れるはずだと思っていたが、にわとりの鳴き声とは...」
「俺と高田もにわとりの鳴き声の正体がわかってよかったです」
「いや、礼を言うのは我々だ。ありがとう」
 刑事は深々と頭を下げた。

「──と言うことがあったから、俺と新島は表彰されたんすよ」
 高田の修学旅行の話しを土方は真剣に聞いていた。
「うん。私は納得した。だから、二人は表彰されたんだな。修学旅行でも大変だったんだな」
「まあ、そうだな」
 土方は四日ぶりの二人の顔を見ながら、微笑んだ。
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