醜いアヒルの子は白鳥になんてなれはしない

こゆき

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05 それはまるで御伽噺のような③

「アルバート様……!?」
「クリス様、なぜこちらに……!」
 
 ざわざわと、私を取り囲んでいたマリーのご学友達から困惑の声が上がるのが聞こえる。 
 外では『心優しい美少女』として通っているからか、声がかけられた瞬間、マリーは私の腕を離してくれた。
 爪がくい込んでいたところが、じくじくと鈍い痛み続けているけど……今はそんなことどうでもよかった。
 
 アルバート様。
 クリス様。
 聞こえてくる名前は、ついさっき声をかけてくださった、彼のものだ。 
 
 ──彼に、こんな顔を見せたくない。
 
 頭を過ぎったのは、そんな言葉だった。
 期待してはいない。優しくされたからといって、舞い上がってはいけない。
 
 けれど、けれど。
 せめて、醜い素顔は見られたくないと、そう思うことくらいは、許して欲しい。
 
「やっぱり体調が悪かったんですね。……早く気づかなくて、ごめんな」
 
 そう縮こまっていると、ふわりと頭の上から軽いものがかけられた気配がした。
 ……これは、ハンカチ?
 
 咄嗟に顔をあげようとしたら、背中が大きな、暖かいなにかに支えられて。
 
「今のうちに、それで顔を隠して」
 
 そのまま上着を肩にかけられて、耳元で小さくかけられた言葉に、やっと自分の状況を飲み込むことが出来た。
 アルバート様は、仮面を取られた私に、自分のハンカチで顔を隠せるようにしてくれたのだ。
 そのハンカチが顔からずり落ちないよう押さえると、男性ものの、爽やかで少し甘い香水の香りがする。
 
 私がそれできちんと顔を隠したのを見届けると、彼は「裾が汚れてしまいましたね」と言い、背中と膝裏に、ぐっと力が加わっ、て……!?
 
「きゃ……!?」
「失礼します、お嬢さん。……これは着替えないとなぁ」
 
 そのまま軽々と、私は抱き抱えられてしまったのだ。
 これは、これは……噂に聞く『お姫様抱っこ』というものなのでは……!?
 
 ……ハンカチで顔を隠していて本当によかったと思う。
 きっと私の顔は、色んな感情が入り交じったせいで熟れたリンゴよりも真っ赤になっているはずだから。
 
 突然の助け舟に安堵を感じなければいけない場面のはずなのに、今の私には胸を撫で下ろす暇もなかった。
 
 当然ながら異性に対する免疫のない私は、突然の展開にアワアワと困惑をし続けるしかない。
 下ろしてと言った方がいいのかしら? けど、それは殿方に恥をかかせてしまうし……!
 けれど、このままというのは少し、いえかなり恥ずかしいし……!!
 
 なんて、グルグルと考えていた時。
 
「まあ、アルバート様! お姉様が申し訳ございません」
 
 マリーの、声が聞こえた。
 ハンカチの隙間からちらりとしか見えないが、私を抱き上げているアルバート様の腕に、その華奢な手を置いて立ち止まらせているようだ。
 
「体調が悪かったのに、私のせいで……ごめんなさい、お姉様」
「……いえ、大丈夫よ。マリー」
 
 ぐす、と小さく涙ぐむ声が聞こえる。
 マリーは私の返事に「そう?」と軽く返すと、そのままアルバート様の方へと身を乗り出したのが、空気で分かった。
 
「アルバート様、本当にありがとうございます。……お姉様を助けてくださったお礼に、よかったらこの後、御一緒に過ごしませんか? 私、今日エスコートして下さる方が、まだ決まってないんです」
 
 きっと、マリーは天使のような笑顔を浮かべていることだろう。
 周りの殿方達が、「ほう……」と息を漏らしたのが聞こえる。
 
 大輪の薔薇の妖精と見間違うような、美しい少女からのエスコートのお願い。
 きっと、男性からすれば喉から手が出るほどに羨ましい事なんだろう。
 それほどに、マリーは美しい。
 
 ──アルバート様も、頷かれるのかしら。
 
 それは、なんだか嫌だな、と、そう思った。
 私に止める権利も、そんなふうに思う権利もないけれど……マリーが美しいだけでは無いと、知っているからかしら。
 
 けれど、そんな私の思いも杞憂だったらしい。
 
「お誘いをどうもありがとう。けれど、君のお姉さんの体調の方が優先だろう? お礼なら、お姉さんに直接貰うよ。お気遣いありがとう」
 
 サラリとこともなげに伝え、アルバート様は「失礼」と軽く他の令嬢達を交わして歩き出す。
 ……まさか、本当にあのマリーからのお誘いを断るなんて。
 
 マリーも、同じ事を思ったのだろう。
 小さく「ぇ……」と呟いたっきり、固まってしまったようだ。
 
 アルバート様は、その隙に人混みから抜け出してしまっていた。
 ちらりと彼の腕の中から盗み見たマリーは、見たこともないような顔をして、固まっていた。
 
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