醜いアヒルの子は白鳥になんてなれはしない

こゆき

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07 小さな舞踏会②

「ラストの曲が流れましたね」
「ほんとう。……そろそろおサボりも終わりですね」
 
 くすくすと笑い合い、自然と差し伸べられた手を取って、ベンチから腰を上げる。
 こんなに楽しい舞踏会は、いつぶりだっただろう。
 もしかして、初めてだったかもしれない。
 
 きっと、アルバート様からしたら、何も特別ではないのだと思う。
 
 たまたま、体調が悪そうな女性がいたから気にかけていただけで。
 たまたま、その人が困っていたから助けただけで。
 たまたま、体のいいサボりの口実を見つけたから、ここにいただけで。
 
 きっと、その『たまたま』見つけた人が私ではなくとも、同じことをしたんだろう。
 
 ──この人は、そういうお方だ。
 
 アルバート・クリス様。
 初めてお会いしたけれど、そのお噂は聞いていた。
 
 学園の成績は抜きん出て良いという訳ではないけれど、頭の回転が早く、武術に秀でている方だと聞いている。
 そして、誰にでも優しく、平等に接する方である、と。
 
 分かっていても、胸は高鳴る。
 仕方ないじゃない。こんな風に異性と接することなんてなかったんだもの。
 分不相応だと分かっていても、心の中でときめくことくらいは許してほしい。
 ……許されて、欲しい。
 
 
『お姉様、身の程知らずにも程があるんじゃない?』
 
 
 マリーの言葉が、蘇る。
 
 
『まあ、そんな方と『仮面令嬢』が……?』
 
『お姉様なんかに声をかけるわけないじゃない』
 
 
 周りの嘲笑が、マリーの蔑んだ声が、……頭から離れない。
 それは、きっと自分でも「たしかにその通り」と思っているから。
 
 アルバート様と私なんかじゃ、とてもじゃないけど釣り合わない。
 
 分かっている。
 分かって、いても。
 
 ──綺麗な思い出として、心踊る思い出として大切にする事くらいは、いいわよね。
 
 痛む胸も、暖かい光へと伸びそうになる手も見ないふりをして、私は静かに目を伏せた。
 御伽噺のような体験は、もう終わり。
 舞踏会の終わりを告げる鐘の音が、そろそろ鳴ってしまう。
 
 そう、思っていたら。
 
「お手をどうぞ、サーシャ」
「…………え?」
 
 アルバート様に、手を差し伸べられる。
 それは、その体制は、まさしくダンスを誘う殿方のもので──
 
 
「俺と、踊ってくださいませんか?」
 
 
 それは、生まれて初めての、ダンスのお誘いだった。
 
 
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