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旅立ち
1。
しおりを挟む今思えばそれは昔懐かしい事だとしみじみ感じる。
今僕は理由あって、村を出て魔獣しか出ないような鬱蒼とした森の中で一人火を焚いていた。
どうしてこんなところにいるのか。
仕方ないのだ。ラウルの村を一歩出るとこんな風景に嫌でも放り込まれてしまう。こんな木々が生い茂っていて、木漏れ日もほとんど入らないようでは昼か夜かも良く分からない。
・・・・・・・・・・まあフクロウが鳴いているから夜ってことにしちゃおう。
いいんだ。誰もいないから僕がルールブックになってしまおう。
・・・しかし誰もいないというのも怖い。
ましてや化物が出てもおかしくない不気味さ。それに僕は一応魔法を使えるが炎と氷の魔法しか使えない。しかも魔法が完成するまでに約30秒かかる。
それまで盾になってくれる人がいなければ相手の方に30秒待っていただくしかない。
もちろん待ってくれるわけないが。
とりあえず木に寄りかかって背後は守っている。あとはそれ以外のところに注意を払わなければならない。
僕はしばらくの間、目の前にある木とその背後を睨み付けていたが・・・。
「お腹空いたな」
夕食にすることにした。
持ってきた荷物の中から干し肉を取り出す。魔法で色々加工したから火にくべると肉汁も次第にじわじわ出てくる便利な加工具合になっている。
「しかし食料がこんなにも重いと先が思いやられるなあ」
横にちょっと目をやると座っている僕とほぼ変わらない高さの袋がある。これが全部食料だったりする。
僕も好きでこんな量を持ってきたわけではない。全ては能天気な母のせいなのだ。
「どーせあんたの事だから、森で何日も迷うんじゃないの。森で飢え死にされたらそれこそ馬鹿だからね。こんくらい持っていきな」
僕が重くて仕方ないと言うと、
「いいんだよ、体力つくしね。後で「良かった」って感謝するときがくるんだから」
この母親言いたい事はずけずけ言う。僕と兄さんはきっと「大雑把な判断」以外は絶対この人の血は引いていないと思う。
今となってはこの食料の山はただの「お荷物」である。
感謝どころか後悔のしまくりである。
僕はぶつぶつ文句を言いながら小枝を拾い、肉を刺して魔法で起こした火にくべた。
肉汁がおいしそうにじわじわ出てくる。
僕はその間またもや荷物からコップを取り出し、それに木の実を入れて氷の魔法で木の実を凍らせ火にくべた。
こうしておくと美味しい木の実のスープが出来るのだ。
その時、僕の目の前の木の陰から風が唸ったような音が聞こえた。
最初僕はそれに気づかず、肉が焼けるのをルンルン気分で待っていた。が、2回目その音が「いい加減俺に気づけ!」とでも言っているように更にうるさくざわめくと僕は途端に顔が青ざめた。
誰もいないってことは人じゃない。・・・・・ってことは・・・
「うわーーーーーーーーーーっ!!」
考えがまとまらないうちに何かに飛びかかられた!
せめて頭の整理が終わってから!!
・・・・更に僕が合図をしたら飛びかかってくれると良かったかも!じゃなきゃ僕のデリケートな頭が混乱してショートしてしまうんだぞ!!
と言おうとしたが、飛びかかられたのは僕の夕ご飯の肉だった。
「へ?」
よくよく見てみると自分の手より二回りくらい大きい何かの子供だった。
少なくともそれは人間じゃなかった。
「・・・人間て角があったり毛がふさふさしてて背中に羽が生えていたり・・・牙があったり・・・しないよね。・・・確か」
何だろう・・・。何の子供だろ。
少しびくびくしながら僕は一生懸命肉にかぶりついているそいつの背中をそっと撫でる。
別に相手は動じない。
少々汚れていたのでべたついてはいたが綺麗な毛並みだ。
その変な奴は食べ終わると僕の方をじっと見つめた。
「・・・竜の子・・?竜の子だろ!お前」
実物はまだ一度もお目にかかったことはないがその姿は本の挿絵に描かれている竜そっくりに見えた。
僕は嬉しそうに答えたが、竜は真面目な顔つきでこっちを見ている。ように見えた。
僕がよくよくその視線を辿る・・・・。
「もしかして・・・まだ食べ足りない?」
竜は真面目な顔をしてこっくりと頷く。
はあ。
僕はがっくりとうなだれながらしぶしぶ肉を出す。
それを見た途端竜はぱっと明るい表情になり、羽と尾をパタパタさせた。
僕は肉を刺し、火にくべる。
竜はその前にちょこんと座り、焼けるのを待ち遠しそうに羽と尾をぱたぱたやっている。
「・・・?そういえばお前何て名前だ?」
竜はふとこちらを向き、何だろう?と首をかしげている。
「・・・知ってたところで喋れないか。よし、名前をつけよう!え~と・・・」
竜はじっとこっちを見ている。こうなると下手なネーミングは出来ない。なるべく格好良いのにしないと・・・。そう考えると余計頭が混乱してしまう。
「ゴ、ゴルベンザー2号とか・・・」
何で2号なんだろう。とにかく頭が混乱してて良く分からない。
案の定竜は困った顔をした。
「ペラポリナ・アデュー・・・」
「・・・アンギョー・・・」
もう名前じゃないやい、こんなの・・・。畜生、思考回路のばかやろー。
「・・・マリアンヌ・・・」
僕嫌だな。こんな名前絶対嫌だよう。もう竜なんて地面向いちゃってる。
ああ何て僕の頭ってこんなに馬鹿なの・・・。何かもっといい名前、いやそれよりもあいつに合う名前・・・。
「!!ラクナス!」
竜がぱっと顔を上げた。
そうだ。よく考えたらこいつはあのラクナスの赤い髪とそっくりの毛の色だった。
一般的にこいつはレッドドラゴンと呼ばれるものだろう。
・・・・だったら「レッド君」でもいいなあ・・・。
「ま、いいや。ラクナスでいいよな」
竜は嬉しそうに頷く。どうやらすごく気に入ったらしい。
「気に入ったか?そうだろ。ラクナスは僕の兄さんの名前なんだ」
竜は焼けた肉にかぶりつき、全然こっちの話を聞いていないようだけど、それでもかまわなかった。
この名前が出るとなんか懐かしくなる。
話したくなる。
「すごい魔術師でさ。でも数年前、城の方までその名が行き届いて徴兵されてしまったんだ。それ以来何の音沙汰もないから心配になって村を出てきちゃったんだけど・・・」
竜は相変わらず美味しそうに肉をほおばっている。
「・・・・・いいや!!考えたって仕方ないしね!僕も食べよーっと」
そんな明るい声が夜の闇に吸い込まれた。
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