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第四部
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そこへバタバタと複数の重々しい足音が響いてきた。白い豪奢な法衣を纏った集団が吹き飛んだ壁や天井に一瞬足を止めてから、そそくさとカミーユの前に膝をついた。
「……カミーユ殿下いえ、陛下。あなた様は今現在唯一の正統なシーニュの国王であらせられます。先ほど神のご威光をお見せになったのもあなた様でございましょう。王陛下のお帰りを神殿一同お慶び申し上げます」
「え……」
カミーユは神殿とは無縁だったけれど如何にも偉い立場と思われる人々が自分を崇拝する勢いで平伏する姿にどうしていいのかわからなくなった。
国王……? わたしが?
カミーユは思わずアレクの顔を見た。アレクは困ったように眉を下げる。
「君のペンダントに入っていた紙片、あれは中身はただの灰で紙片のほうが重要だったんだ。エルネスト殿に解析してもらったら、神殿の保管庫の解除用の数字が書かれていた。その中身がマルク王の遺言状だった。今日付で神殿からその内容が公表された。王都ではすでに広まっているはずだ」
「遺言……?」
一番地位が高そうな白髪白髭の男が顔を上げた。
「マルク陛下は元々お体が丈夫ではなかったので、遺言状を早くにお作りになっていたのです。この国の法では王が遺言によって指名した者が次の王となると定められています。王を弑した者が王になれるわけではございません。それでは秩序が乱されるからです。けれど保管庫は封印されており開くためには暗号が必要でした。ですが、陛下が崩御なさった時の騒動でそれを知る者がいなくなり、内容を確かめることができませんでした。ですから王宮からの要請通りドミニク様の即位式を行うしかなかった」
けれど、普通ならばカミーユには二人異母兄がいた。遺言にはそのどちらかが後継者の指名をされているのではないのだろうか。
「遺言状には自分が王太子を立てずに亡くなった場合、ダルトワ侯爵家当主を後見人として第三王子カミーユを次期国王にするように、と書かれていました。日付はあなた様がお生まれになった日です」
カミーユは驚きすぎて何も反応できなかった。
わたしが生まれた日に……次期国王の指名を? まだ赤子でどうなるのかわからないというのに?
アレクが肩に手を置いてそっと教えてくれた。
「本来なら先代国王が亡くなった時点で神殿が公開するはずだった。けれど、あの時神殿の大司祭も処刑されてしまったんだ。マルク王の母が大司祭の妹だったから。それで遺言が公開されないままドミニク三世が即位した。本来はこれはこの国の法では認められないはずだった。つまり、遺言状によりマルク王の正統な後継者たる国王は君一人で、ドミニク三世はただの簒奪者ということになる」
「わたしはそんなこと望んでいないのに……わたしはただ……」
カミーユは首を横に振った。
ああ、きっと父上もこんな気持ちだったのだろうか。
若くして王位に就くことになったマルク王は元々兄がいて期待されてはいなかったという。けれど兄が早逝して父が事故死したために即位することになった。
できることならドミニク三世が亜人への態度を悔いて変わってくれることを望んでいた。それができないならダイモスの威光を借りてでもロラン王子かその弟に王位を譲って欲しいと。
……わたしがこの国の王になるなど、無理だと思っていた。
「……カミーユ様。いえ、カミーユ陛下に我ら家門一同、忠誠をお誓いいたします」
エルネストがそう言って胸に手を当てると深々と頭を下げる。ロラン王子や兵士たちも同様に頭を垂れているのにカミーユは戸惑ってしまう。
「カミーユが国王だと? そんな馬鹿な話があるか。それが王になればこの国はダイモスに支配されてしまうではないか。私こそが正しい王だ。おかしなことを言うならただで済むと思うな」
ドミニク三世が叫んだ。
エルネストは冷ややかに問いかける。
「……どうしてこの場に兵士も侍従たちも王を案じて駆けつけてこないのか、おわかりになりますか? これほどまでの大がかりな破壊と、先ほどの光。何事か起きたのは明らかだというのに」
「何だと?」
アレクが肩を竦める。
「多分うちの者たちがやっちゃったんだねえ……」
「やっちゃってましたな。近衛騎士団、王宮騎士団、ほぼ壊滅です。他の警備兵も軒並み倒されていましたな。いや、ここまで手も足も出ないとは情けない」
エルネストは爽やかに笑いながらアレクに頷く。
「……そういうわけであなた様を助けに来る人はおそらくいないでしょう。亜人に対する理不尽な拘束と、疫病対策の不手際について、今後捜査がなされることになります。そして、先代国王陛下のご遺言により十三年前に遡って正式な国王はカミーユ陛下であることが宣言されます。ついでに建国記念式典において陛下の戴冠が行われるでしょう」
「……カミーユ殿下いえ、陛下。あなた様は今現在唯一の正統なシーニュの国王であらせられます。先ほど神のご威光をお見せになったのもあなた様でございましょう。王陛下のお帰りを神殿一同お慶び申し上げます」
「え……」
カミーユは神殿とは無縁だったけれど如何にも偉い立場と思われる人々が自分を崇拝する勢いで平伏する姿にどうしていいのかわからなくなった。
国王……? わたしが?
カミーユは思わずアレクの顔を見た。アレクは困ったように眉を下げる。
「君のペンダントに入っていた紙片、あれは中身はただの灰で紙片のほうが重要だったんだ。エルネスト殿に解析してもらったら、神殿の保管庫の解除用の数字が書かれていた。その中身がマルク王の遺言状だった。今日付で神殿からその内容が公表された。王都ではすでに広まっているはずだ」
「遺言……?」
一番地位が高そうな白髪白髭の男が顔を上げた。
「マルク陛下は元々お体が丈夫ではなかったので、遺言状を早くにお作りになっていたのです。この国の法では王が遺言によって指名した者が次の王となると定められています。王を弑した者が王になれるわけではございません。それでは秩序が乱されるからです。けれど保管庫は封印されており開くためには暗号が必要でした。ですが、陛下が崩御なさった時の騒動でそれを知る者がいなくなり、内容を確かめることができませんでした。ですから王宮からの要請通りドミニク様の即位式を行うしかなかった」
けれど、普通ならばカミーユには二人異母兄がいた。遺言にはそのどちらかが後継者の指名をされているのではないのだろうか。
「遺言状には自分が王太子を立てずに亡くなった場合、ダルトワ侯爵家当主を後見人として第三王子カミーユを次期国王にするように、と書かれていました。日付はあなた様がお生まれになった日です」
カミーユは驚きすぎて何も反応できなかった。
わたしが生まれた日に……次期国王の指名を? まだ赤子でどうなるのかわからないというのに?
アレクが肩に手を置いてそっと教えてくれた。
「本来なら先代国王が亡くなった時点で神殿が公開するはずだった。けれど、あの時神殿の大司祭も処刑されてしまったんだ。マルク王の母が大司祭の妹だったから。それで遺言が公開されないままドミニク三世が即位した。本来はこれはこの国の法では認められないはずだった。つまり、遺言状によりマルク王の正統な後継者たる国王は君一人で、ドミニク三世はただの簒奪者ということになる」
「わたしはそんなこと望んでいないのに……わたしはただ……」
カミーユは首を横に振った。
ああ、きっと父上もこんな気持ちだったのだろうか。
若くして王位に就くことになったマルク王は元々兄がいて期待されてはいなかったという。けれど兄が早逝して父が事故死したために即位することになった。
できることならドミニク三世が亜人への態度を悔いて変わってくれることを望んでいた。それができないならダイモスの威光を借りてでもロラン王子かその弟に王位を譲って欲しいと。
……わたしがこの国の王になるなど、無理だと思っていた。
「……カミーユ様。いえ、カミーユ陛下に我ら家門一同、忠誠をお誓いいたします」
エルネストがそう言って胸に手を当てると深々と頭を下げる。ロラン王子や兵士たちも同様に頭を垂れているのにカミーユは戸惑ってしまう。
「カミーユが国王だと? そんな馬鹿な話があるか。それが王になればこの国はダイモスに支配されてしまうではないか。私こそが正しい王だ。おかしなことを言うならただで済むと思うな」
ドミニク三世が叫んだ。
エルネストは冷ややかに問いかける。
「……どうしてこの場に兵士も侍従たちも王を案じて駆けつけてこないのか、おわかりになりますか? これほどまでの大がかりな破壊と、先ほどの光。何事か起きたのは明らかだというのに」
「何だと?」
アレクが肩を竦める。
「多分うちの者たちがやっちゃったんだねえ……」
「やっちゃってましたな。近衛騎士団、王宮騎士団、ほぼ壊滅です。他の警備兵も軒並み倒されていましたな。いや、ここまで手も足も出ないとは情けない」
エルネストは爽やかに笑いながらアレクに頷く。
「……そういうわけであなた様を助けに来る人はおそらくいないでしょう。亜人に対する理不尽な拘束と、疫病対策の不手際について、今後捜査がなされることになります。そして、先代国王陛下のご遺言により十三年前に遡って正式な国王はカミーユ陛下であることが宣言されます。ついでに建国記念式典において陛下の戴冠が行われるでしょう」
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