【短編】我儘王女は影の薄い婿を手放したくありません

しろねこ。

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第7話 根回し

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 花園でキリトから別れた後に、どのような報復をすればもう二度とカミディオンを訪れなくて済むのかに頭を悩ませる。

 ディルスは考えがあるという事で耳元に顔を寄せ、話をしてくれた。

「怒鳴る様に話しても人は萎縮し、話を冷静には聞いてくれない。どうすれば聞いてくれるかが重要かな。君は何も話さなくていいからね、側で困った顔をしていてもらってもいいかな。怒りは抑えていてね」

 会場に戻ると早速ディルスは暗く沈んだ表情をする、私もそれに倣い、彼の隣で同様に表情を作る。

 顔見知りの他国の者の前を通るとすぐに話しかけられた。

 明らかに何かがあったという表情をしていたら、気になる人が出てくるのも当然だろう。

 気にかけてくれる人に対して、ディルスは暗い声と顔で話し始める。

「実の弟が妻を口説くなんて思ってもいなかった。それに僕とエルマの離縁を望むような話しぶりにショックを受けたよ」

 目元を押さえ、まるで今にも涙を零しそうな素振りを見せる。

「二人は仲睦まじい夫婦ですよね。キリト殿下は、何故そんな事を?」

 交流のあるものならば私達の関係性をしっかりとわかっているから、キリトのような考えは出ない。

「僕が至らないから、かな。でも弟がこんな考えを持っているなんて、夢にも思わなかったよ」

 ディルスはそっと魔導具を取り出した。

 それは周囲の音を記録出来るものだ。先程の私とキリトの会話が流れ出す。

 魔法が使えないからこそ、このような魔導具を普段から活用している。こちらはよく大事な会議の場でも使用している、愛用品だ。

「信じられないかもしれないがこのような事があって……内緒だよ」

「これは……まさか離縁もしていないのにこんな発言が出るとは」

 聞かされた方は、会話の中身に眉を顰める。

「とてもショックだ。カミディオンとレグリスを繋ぐ為にこんなに尽力したのに。弟は僕からかつての地位を奪うだけでは飽き足らず、エルマをも奪おうとしている」

 さめざめと泣く真似をし、私はギュッと唇を噛んでディルスに掴まることで、健気に耐えるお姫様を演じる。

 愛する二人を引き離そうとするキリトの言葉に聞いたものは信じられないという素振りをしてくれた。

「実に悲しい事だけれど、余計な争いが起きぬように、もうこの国には来ないつもりだ。母国に来れないなんて辛いけど、変わってしまった弟に耐えられないからね。それにエルマも奪われたくない」

 私達はただ悲しみにくれるばかりだ。

「家族同士のこのようないざこざに心は痛むが、最愛の女性は渡せないし、弟と表立って争いたくはない。聞いてくれてありがとう」

 そう言うと、聞いてくれた人達は同情と、そして私達の代わりに怒ってくれる。

 同様の話を複数の者に行なっていった。

 中にはこのような醜聞を興味津々で聞く者もいるが、概ね話は静かに聞いてくれ、着々と話が浸透していく。

「もっとこう、大声で主張するのかと思っていたわ」
 スカッとするやり方とは到底思えない。

「これでいいんだよ、怒りのまま喚くと、中には諭そうとする者も出てくるし、僕が悪いと責める者も出てくる。でも悲しんでる者を更に責める者ってなかなか居ないものさ。そして他人の悲劇は、人によっては喜劇になる。大声で主張しなくても、皆誰かに話したくなるものさ」

 人の口に戸は建てられないし、醜聞も今日の主役によるものだ。

「大声で訴えたらすぐに止められてしまうかもしれないけれど、こうして根回ししておけば信じる者も増えていく。皆自分の信頼するものに内緒話をするものだよ」

 ディルスは人を見るのに長けている。

 こうしたら人はどのように思い、どう動くか。個人の事を良く把握しているものだ。

 だから話す相手もキリトの事を好ましく思わないものや、中立の立場であるものを選んでいる。

 お陰でディルスを嗜める者はいないし、話が広まるばかりだ。

 そんな中、カミディオン国の者が先程から忙しなく会場を走っているのがわかる。
 恐らくキリトがディルスを探すように命令したのだろうが、こちらに全然気づいていないようだ、まだ見つけられていない。

(凄い特殊能力よね)

 ディルスはよく影が薄いと言われるが、どうも本人が見つかりたくないと思えば、気配を消せるらしい。

 だから離宮にいた時に食料を求め王宮に来た時も、誰にも会わずに入る事が出来たそうだ。

 後程に勝手な事をしてごめん、とこっそりと謝られたけど、咎めることはない。

 自分の為ではなく、一緒に来た侍従の為に仕方なく行なった事だ。そもそもこちらの不備で起こさせてしまった事だもの。

 でもまさか、思うだけで身を隠せ、しかも衛兵たちの目もすり抜ける事が出来るなんて。
 変な話だけれど、魔法みたいだと思ってしまった。

 諜報員にとても向いている人ね。

「では最後に伝えたい人達の元へ行こうか」

 散々色々な人に話した後は私の両親の元に来た。

 「そうね、父と母には話をしないといけないわ」

 でもそれを予測していたのかキリトもいる。

 親しげに話しているようだが、キリトのこの発言を聞かせればきっとこの空気も変わるだろう。





 そんな下積みがあったからこうしてすんなりと受け入れてくれる者が多い。

 今の録音を聞き、真偽に迷っていた人も、直に私達の話を聞いただろう友人から話を聞く事で、私達の味方はどんどん増えてくる。

 まるでリバーシの駒を返すように困惑した者達の表情が変わっていくわ。

 私達への同情と、そしてキリトへの嫌悪に。

 ようやく遠くからディルスとキリトの父親であるカミディオン国の国王が来る。

(後は国王同士の話で決着をつけてもらいましょう)

 私とディルスは悪戯が成功したような笑みを浮かべて、地に降り立った。






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