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第53話 新たなる後継者

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ルビアが消え、操られていた者も元に戻った。

無理に動かされ、怪我した者達を治癒師が大急ぎで治していく。

街も王城も凍りついていたので、エリックに解除を頼むが断られた。

「レナンが目を覚ますまで離れたくない」
初めて力を使ったからか、魔力切れのような症状で気を失ってしまった。

そんなレナンから離れるなど嫌だと拒んでいるのだが、エリック以外にこれ程の広範囲の魔法を解けるものはいない。

何より本人の魔法は本人が解くのが一番早いし、危なくない。

「僕が責任を持って守りますし、目覚めたらすぐに知らせますので、どうかお願いします。貴方様じゃないと、こんなにたくさんの氷は解除できません」
ニコラの懇願に渋々エリックが動く。

「任せる、だが、触れるのは許さん」
片腕であるニコラへの信頼は厚いが、それでも牽制は怠らない。

ラフィアがレナンを支え、その側に二コラが立つ。

エリックはグリフォンと共に上空へ飛び立つと、自身の放った魔法を解除しにかかる。

エリックの魔力が浸透すると大量の氷がさざ波のように引いていき、あとには抉られた地面や瓦礫だけが残る。

さすがに被害が全くないとはならなかった。

エリックは急ぎ解除を終わらせ、直ぐ様レナンの元へと戻ってくる。

いまだ意識が戻らないレナンを抱え、王城内へと許可なく入った。

「ラフィア、レナンを休ませたい。部屋に案内してくれ」

「は、はい!」
ラフィアが先導し、今まで泊まっていた部屋へ案内をする。

「オスカー、キュア。今日はもう休め。俺とニコラがいるから、レナンの心配はいらない。だから少しでも早く調子を取り戻すのだぞ」
ついてくる従者達に対して労いの言葉を掛ける。

「ご苦労であった」
短い一言だが、キュアとオスカーは胸がいっぱいになる。

レナンは三日ほど目が覚めなかったので、エリックは片時も離れることなく一緒の部屋で過ごした。

ラフィアに教わりつつも、甲斐甲斐しく世話をする。

仕事や今後についての話などがあれば、二コラどころかヴィルヘルムをも走らせ、部屋から出ることはなかった。




 

今回の件で帝国の者を引き入れたとし、ヘルガは糾弾された。

パルス国を混乱に陥れたとし、酷く責められたが、これを収めたのはルアネドだ。

「ヘルガは確かに帝国の者を不用意に招き入れ、国を混乱に陥らせた。しかし大元の原因はヴァルファル帝国だ。明らかなる侵略行為を行ない、王族も民達も操り、甚大な被害を齎した。これはけして看過できるものではない。宗主国アドガルムがいち早く異変を察知し、こうして抑えてくれたお陰で被害はとても少なく済んだ。感謝してもしたりない」
この言葉により、宗主国であるアドガルムを認めなかったものも、徐々に受け入れる気持ちを持ってくれた。

属国となったパルスにもこうして手を差し伸べ、助けてくれたのだから、これ以上の非礼を行うわけにはいかない。

「第一王女ヘルガの犯した罪は許しがたいものだが、卑劣な帝国の手のものが彼女を操り嵌めたのだ。帳消しにはならないがその事を加味し、償いをさせていく。それで手打ちにしてもらいたい」
些か軽い罰のようにも思えるが、実行犯のルビアが大半の事をしでかした。

付け入られ、王城に招いただけの彼女の咎を追及するには弱い。

「パルス国の復興の為の奉仕活動に従事することを命じる、その後は魔力を剝奪し、修道院にて祈りを捧げ、己の愚かな行為を顧みよ。反省が見られるならば。もう一度罰を見直す」
ヘルガは受け渡された罰を甘んじて受け入れた。

己の嫉妬心と虚栄がパルス国の民を傷つけ、アドガルムの王太子妃の命も脅かした。

今更見苦しく弁解などしない、全ては自分の醜さが引き起こしたことだと。

ヴィルヘルムもヘルガを諫めることを出来なかった事、そしてトゥーラの命を失いかけたことで、家族の在り方を鑑みていた。

そして改めて戦というものは必要だったのかと、己に問い直していく。

自分がしてきたことを見つめ直し、今後はルアネドに王位を譲りたいとした。

あの戦を生き残り、宗主国の王太子エリックと密な関係を築いたルアネドは、信頼も厚くなっていた。

エリックもダメ押しとばかりにルアネドが後継になる事に賛成だと明言し、落ち着いたら立太子する運びとなった。

「お姉様……」
目を覚まし、様々な事を聞いたレナンの胸中は複雑だ。

特に近しい姉の件はレナンの心に重くのしかかる。

確かにヘルガは道を誤った。

いつから違えてしまったのだろう、昔の姉は民の為、国のためにと自分の身を顧みることなく勉学や奉仕活動に勤しんでいた。

だからレナンも尊敬をし、酷い事をされてもどこか憎み切れないでいたのだ。

「人の心は移ろいやすい。きっかけは何であったか、他人の俺達にはわからないさ」
エリックはそんな些末な事やヘルガの行く末よりも、レナンの体が心配だ。

ルビアの呪縛を解き放ったあの力は何なのか。

キュアと同じ光魔法かと思ったが、似て非なるものらしい。

ルビアの魔法も得体が知れないが、それを退けたレナンの力も謎だ。

体への負担も少ないといいのだがと、優しく抱き寄せる。

「ありがとうございます、わたくしは大丈夫ですよ」
慰めてくれたと思ったレナンは甘えるようにエリックに身を任せる。

心配なのはもちろんだが、今回のヴァルファル帝国の侵略にて大幅な予定の変更があり、エリックは非常に残念であった。

仕方ない事なのだが、やるせない。

「そう言えばトゥーラ様もすっかり元気になって良かった。レナンより早く動き始めていたな」
ルビアの魔法により衰弱していたようで、解けた後は見る間に回復し、あっという間に歩けるようになった。

失った筋力は完全には取り戻せていないものの、一人で動くのに支障はない。

「えぇ本当に。今日は夕食を共にしたいですわ」
憂いも晴れ、にこやかな笑顔だ。

「本当に良かった。これで国に帰れるな」
エリックはレナンの唇に指を這わす。
久しぶりにエリックに触れられ、レナンの顔が赤くなった。

トゥーラにもレナンの力について聞いたが、分からないらしい。

アドガルムに戻ったら今後の為にも詳しく調べなくては。

「帰ったら、一緒に休もう。さすがに疲れた」
仕事の忙しさもだが、レナンのいない寝所は酷く冷たく寒いものだった。

その温もりを感じないと眠りにつけず、やや不眠だ。

しっかりと腕の中に抱きしめる。

「怖い思いもさせてしまったし、しばらくは側を離れないで欲しい」

「は、はい」
ほんの数日離れただけなのに、エリックには耐えがたいものであった。

もう離したくないと更に体を密着させ、レナンは恥ずかしさで真っ赤になってしまった。

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