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第26話 狼の国 猫洗い
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「リオン様、どちらに行かれていたのですか!」
王城ではなく街にある別宅に着くと、帰って早々黒髪黒目の従者カミュに怒られた。
その耳も尻尾も大いに逆立っている。
リオンはその声量に驚いて耳がピンとなり、尻尾がボワッと膨れ上がる。恐怖でついてきた毛玉もリオンの後ろに隠れるように身を小さくした。
「急に大声出さないで。耳が痛いよ」
怖くはないが、頭に響く。眉間に皺が寄ってしまった。
怒られるとは思っていたが、カミュがここまでの大声を出すのは珍しい。このような声を聞いたのはいつ以来だろうか。
「大声も出ますよ、俺を置いていって何かあったらどうするつもりだったのですか?!」
護衛兼従者のカミュはいたくご立腹だ。
リオンがカミュを置いて一人でふらふらとどこかへ行ってしまうなど、今まではなかった。それ故甚く怒っているのだ。
「ごめんね。でも何事もなかったよ? それに僕だってたまには一人になりたいと思ってさ」
護衛もつけずに街に出向くなんて悪いとは思ったが、それでも誰かと一緒に居たくなかったのだ。
だから普段はいく事のない街はずれまで足を伸ばせた。カミュを連れて行かなかった事で思わぬ拾い物もしたし、少し気は紛れ、いい気分転換になった。
「ちょっと待ってください、そちらの者は誰ですか?」
リオンばかりに目が行っていてまるで眼中に入ってなかったが、リオンの後ろの猫耳にようやく気が付いた。
抱えてここまで連れてこようと思ったのだが、途中で起きて逃げようとしたので、怪我の治療が必要だと説得して、ここまで来てもらったのだ。
さすがにあのような暴力を受けたからか、大人しく付いてきてくれた。体中傷だらけだし、異臭もするその人物にカミュは眉をしかめる。
「そちらはどなたですか?」
尤もな質問に答えようとして、リオンも国を捻る。
「そう言えば僕も名前を聞いてなかったなぁ。街はずれで破落戸に襲われてたのを助けたんだ。こんなにボロボロで、傷だらけだから放っておくなんて出来ないもの」
カミュは顔を顰めたままだが、それでも追い返そうとはせず、仕方ないと中に招き入れた。
「いいのですか?」
マオの問いかけに小さく頷く。顔と口調はともかく、傷だらけの者を放り出せるほど薄情な人ではなさそうだ。
「リオン様はもう少し警戒心をお持ちください」
「ありがとうカミュ、これからは気を付けるよ」
悪びれもしないリオンにため息をつき、毛玉に目を移す。
「反省為されてませんね。まぁ良いです。それよりそろそろあなたの名を教えてもらってもいいでしょうか?」
「僕も聞きたいな。君の事なんて呼べばいい?」
二人の視線が集まり、毛玉は少し躊躇した後、ぽつりと呟く。
「マオ……」
「マオね。僕はリオン、こちらはカミュ。気軽に呼んでもらえると嬉しいな」
「言葉通りに受け取らないように」
にこにこしたリオンとしかめっ面をしたカミュ、とても対照な二人だ。
「リオン様と、カミュ様。ありがとです」
マオは頭を下げ、無礼がないように気を付ける。
リオンは王子と呼ばれていたし、このような大きな屋敷の主なのだ。それに仕えるカミュも身分の高いものだとは容易に想像できる。
逃げ出そうにも体の傷も酷いし、リオンは酷い事をしないように思えた。
「お礼を言われるほどの事なんてしてないよ。それよりもまずは身体を綺麗にして傷の手当てをしよう」
お湯と着替えの準備を侍従たちに頼むと途端に屋敷内が慌ただしくなった。
「リオン様もぜひ湯浴みをした方がいいですね」
カミュにそう言われ、リオンは体を見下ろす。マオを助けた際に汚れたようだ。
「そうだね。その後食事をしたいから、マオの分もよろしく。マオも何かあれば侍女たちに言うんだよ」
優しく声を掛けた後はリオンも浴室へと向かう。
笑顔を絶やさぬまま、この国の現状を憂いて静かに息を零した。
今日は成り行きでマオを連れて帰ってきてしまったが、責任をもって安全な場所に送ると決意する。
この国のごたごたに巻き込むわけには行かない。
(あの気風と若さならどの国でもやっていけるだろう)
猫の国はここから遠い。それなのにあれだけボロボロになりながらもこのヴォールクまで来たのだ。
何をしにこの国に来たのか、目的も素性もわからない。悪い子には見えないし、折角の縁だ。色々聞いてみたいと好奇心が湧いた。
もともと他国について興味津々なリオンだが、マオ達族について全く知らない。
気まぐれでマイペース、それくらいの話しか聞かないのだ。
「楽しみだな」
何て気楽に考えていたリオンだが、予想外の事にちょっとだけ頬が赤くなる。
「マオって女の子だったんだね」
細い手足と凹凸のない体を見て、勝手に男の子だと思っていた。
会った時の服装だってズボンだし、色気も何もない姿だった。ただ今は髪を整えられ、動きやすいワンピースを着ている、軽く薄化粧をしているマオはどう見ても女の子だ。
侍女達やカミュの視線が痛い。
「いや女の子だと知っていて拾って来たのではないよ?」
ぽつりとロリコン? と聞こえてきた。あらぬ疑惑を持たれたようだ。
王城ではなく街にある別宅に着くと、帰って早々黒髪黒目の従者カミュに怒られた。
その耳も尻尾も大いに逆立っている。
リオンはその声量に驚いて耳がピンとなり、尻尾がボワッと膨れ上がる。恐怖でついてきた毛玉もリオンの後ろに隠れるように身を小さくした。
「急に大声出さないで。耳が痛いよ」
怖くはないが、頭に響く。眉間に皺が寄ってしまった。
怒られるとは思っていたが、カミュがここまでの大声を出すのは珍しい。このような声を聞いたのはいつ以来だろうか。
「大声も出ますよ、俺を置いていって何かあったらどうするつもりだったのですか?!」
護衛兼従者のカミュはいたくご立腹だ。
リオンがカミュを置いて一人でふらふらとどこかへ行ってしまうなど、今まではなかった。それ故甚く怒っているのだ。
「ごめんね。でも何事もなかったよ? それに僕だってたまには一人になりたいと思ってさ」
護衛もつけずに街に出向くなんて悪いとは思ったが、それでも誰かと一緒に居たくなかったのだ。
だから普段はいく事のない街はずれまで足を伸ばせた。カミュを連れて行かなかった事で思わぬ拾い物もしたし、少し気は紛れ、いい気分転換になった。
「ちょっと待ってください、そちらの者は誰ですか?」
リオンばかりに目が行っていてまるで眼中に入ってなかったが、リオンの後ろの猫耳にようやく気が付いた。
抱えてここまで連れてこようと思ったのだが、途中で起きて逃げようとしたので、怪我の治療が必要だと説得して、ここまで来てもらったのだ。
さすがにあのような暴力を受けたからか、大人しく付いてきてくれた。体中傷だらけだし、異臭もするその人物にカミュは眉をしかめる。
「そちらはどなたですか?」
尤もな質問に答えようとして、リオンも国を捻る。
「そう言えば僕も名前を聞いてなかったなぁ。街はずれで破落戸に襲われてたのを助けたんだ。こんなにボロボロで、傷だらけだから放っておくなんて出来ないもの」
カミュは顔を顰めたままだが、それでも追い返そうとはせず、仕方ないと中に招き入れた。
「いいのですか?」
マオの問いかけに小さく頷く。顔と口調はともかく、傷だらけの者を放り出せるほど薄情な人ではなさそうだ。
「リオン様はもう少し警戒心をお持ちください」
「ありがとうカミュ、これからは気を付けるよ」
悪びれもしないリオンにため息をつき、毛玉に目を移す。
「反省為されてませんね。まぁ良いです。それよりそろそろあなたの名を教えてもらってもいいでしょうか?」
「僕も聞きたいな。君の事なんて呼べばいい?」
二人の視線が集まり、毛玉は少し躊躇した後、ぽつりと呟く。
「マオ……」
「マオね。僕はリオン、こちらはカミュ。気軽に呼んでもらえると嬉しいな」
「言葉通りに受け取らないように」
にこにこしたリオンとしかめっ面をしたカミュ、とても対照な二人だ。
「リオン様と、カミュ様。ありがとです」
マオは頭を下げ、無礼がないように気を付ける。
リオンは王子と呼ばれていたし、このような大きな屋敷の主なのだ。それに仕えるカミュも身分の高いものだとは容易に想像できる。
逃げ出そうにも体の傷も酷いし、リオンは酷い事をしないように思えた。
「お礼を言われるほどの事なんてしてないよ。それよりもまずは身体を綺麗にして傷の手当てをしよう」
お湯と着替えの準備を侍従たちに頼むと途端に屋敷内が慌ただしくなった。
「リオン様もぜひ湯浴みをした方がいいですね」
カミュにそう言われ、リオンは体を見下ろす。マオを助けた際に汚れたようだ。
「そうだね。その後食事をしたいから、マオの分もよろしく。マオも何かあれば侍女たちに言うんだよ」
優しく声を掛けた後はリオンも浴室へと向かう。
笑顔を絶やさぬまま、この国の現状を憂いて静かに息を零した。
今日は成り行きでマオを連れて帰ってきてしまったが、責任をもって安全な場所に送ると決意する。
この国のごたごたに巻き込むわけには行かない。
(あの気風と若さならどの国でもやっていけるだろう)
猫の国はここから遠い。それなのにあれだけボロボロになりながらもこのヴォールクまで来たのだ。
何をしにこの国に来たのか、目的も素性もわからない。悪い子には見えないし、折角の縁だ。色々聞いてみたいと好奇心が湧いた。
もともと他国について興味津々なリオンだが、マオ達族について全く知らない。
気まぐれでマイペース、それくらいの話しか聞かないのだ。
「楽しみだな」
何て気楽に考えていたリオンだが、予想外の事にちょっとだけ頬が赤くなる。
「マオって女の子だったんだね」
細い手足と凹凸のない体を見て、勝手に男の子だと思っていた。
会った時の服装だってズボンだし、色気も何もない姿だった。ただ今は髪を整えられ、動きやすいワンピースを着ている、軽く薄化粧をしているマオはどう見ても女の子だ。
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