手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました

しろねこ。

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呪術師サミュエル

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その後は無事にアドガルム王城へ着き、一行はティタンの部屋へ向かった。

既に夜ということも幸いし、すれ違う人が少ないのは有り難い。

ミューズの存在を知られてはいけないからだ。


「サミュエルには連絡をしましたので、迎えに行ってきます。ティタン様達は少しでも体を休めていてくださいね。扉の外にはライカを護衛として置きます、何かあればあいつに頼んでください」
ライカはルドの双子の弟だ。

「あぁ。いつもありがとう」
ティタンは労いの声を掛け、ルドを見送る。

マオはずっと抱えていたミューズを椅子の上におろした。

「すみませんがミューズ様、こちらで待っててほしいのです。僕はミューズ様の衣類の調達と軽食を持ってくるですから。お腹空いてないですか?」
「お気遣いありがとうございます、実はお腹がぺこぺこで」
ミューズはパーティでのゴタゴタで何も口にしていなかった。

マオの気遣いが優しすぎて泣きそうだ。

ミューズの纏っているハンカチを直してからティタンへと、向き直る。

「手を出しちゃだめですよ」

「そんなことはしない!」
ティタンは慌てて否定した。

マオが部屋を出ると、しんとした空気が流れる。

先程までは必要な事を話せば良かったのだが、二人きりになると話題に戸惑ってしまった。

「その、寒くはないか?」
何かを話さねばとティタンは口を開く。

「大丈夫です、ありがとうございます」
再びの沈黙。

ティタンは話題を探して俯いていた。

(何を話せばいい?)
他愛もない会話でもすればいいとはわかるが、いざ二人きりとなると、何を話せばいいのかまったくない浮かばない。

自分の部屋に女性が入るなんて経験もなかったから、緊張感が半端ない。

「ミューズ嬢の祖父、シグルド殿は凄い人だな」
考えた末に共通の話題になりそうな人を出す。

「毎年交流試合でお会いするが、いまだ足元にも及ばない。昨年はキール殿に負けてしまったが、今年は勝ってぜひシグルド殿と手合わせする機会を持ちたいと思う」
キールもシグルドの孫で、ミューズの従兄弟だ。

ここ数年はティタンとキールの二人で優勝争いをしている、いわばライバルのような存在でもあった。

「ティタン様は充分にお強いですわ。お祖父様も腕前を褒めてらしたもの。キールも一緒に鍛錬したいと何度も話しています」
祖父と従兄弟の会話を思い出し、そう告げる。

「本当か!」
尊敬する者達に認められるのは、嬉しい事だ。

「ええ、毎年おっしゃってます。ティタン様ならば……」
大事な孫娘をあげてもいいな、とからかうように言っていた祖父の言葉を飲み込んだ。

「きっと、アドガルムで一番の騎士になれるだろうって」

「よし、もっと鍛錬をするぞ。次は絶対に勝つ!」
ティタンは拳を握り、やる気を見せていた。

その様子にミューズも微笑んだが、ティタンもミューズの表情の変化に気づく。

「そうやって笑っている方がいい。とても可愛らしいよ。それにずっと緊張しっぱなしだと疲れるだろ?」
その言葉にミューズは照れてしまった。

ミューズがこれからに不安を感じ、大ずっと強張った表情をしているのは当然とは思うが、やはり笑顔はいいものだ。

「婚約者でもない男と一緒にいる、というのは嫌かもしれないが、もう少しだけ待ってくれ。サミュエルなら治せると思うから。治ったら、君の想い人との縁を結ぶのを手伝うと約束する」
自分を気遣う言葉を言ってくれたのに、感謝の気持ちどころか胸がギュッと潰れる思いだった。

ミューズが他の誰かと結ばれてもいい、という言葉をティタンが口にしたのだから。

「ありがとうございます……」
悪意のないティタンの言葉に、ミューズにはそう返事するしかなかった。






その時扉をノックする音が聞こえる。

声からするに、マオとルドはほぼ同時に戻ってきたようだ。

「お待たせなのです、ミューズ様大丈夫でしたか?」
軽食と衣類を持ったマオが先に入ってくる。

人間用のドレスと、小さい人形用の服だ。

軽食はバスケットのなかに入っており、甘い香りがふわっと漂ってくる。

「ありがとうマオ」
美味しそうな匂いにお腹が反応して、今にも鳴りそうだ。

「すみません、遅くなりました」
男性を背負ったルドも中に入る。

「ど、どうしたのですか? その方は」
背負われている男性を見て具合でも悪いのかとミューズは心配になった。

「いつもの事だ、気にするな」
そうは言いつつも、ティタンも気にかけているようだ。

「ティタン様、おはようございます」
ティタンの声を聞いて、サミュエルは落ちるようにしてルドの背から降り立った。

足取りは若干覚束ない。

「忙しいところすまんな、力を借りたくて」

「いえ、大丈夫です。ティタン様が呼ぶならいつでも。ルドに事情は聞きましたが、そちらの女性がミューズ様のですね」
ふらふらとした足取りでサミュエルがミューズに近づいていく。

目深に被ったフードで下から見上げるミューズですら、サミュエルの顔は見えない。

声から判断すると、若い男性のように思う。

「えっと、触れたらまずいですよね?」

「ダメです」
マオの鋭い声にサミュエルは伸ばそうとした手を止める。

未婚の令嬢だし、仕方ないかと、サミュエルは諦める。

「じゃあここからで……」
少しだけずらしたフードから、じっとサミュエルに見つめられる。

黒いフードの中はどうなってるのか、顔がまるで見えない

「薬をかけられたと聞きましたが、残ってる薬はありますか?」

「髪についたのが少しはあるかもしれないです」
ミューズは自分の髪を見る。

「衣類とかに付いたものだとよりわかりやすいのですが。布ならよく染み込みますし」

「それはちょっと無理なので……」
ミューズは今、衣類がない。

縮んだ後に、呪いの薬を掛けた令嬢達に持っていかれてしまった。

「サミュエル、それ以外でお願いするです」
顔を真っ赤にし俯くミューズを心配し、マオが近寄った。サミュエルの耳にそっと事情を呟く。

サミュエルもまさかと驚いてしまい、ミューズはその様子を見てますます萎縮した。

「配慮が足りず失礼しました。では少し時間かかりますが、こちらで調べていきますね。小さくなったならば、変身薬の成分が使われているかと思うのですが……」
サミュエルは何を使われたのかと、懸命に考えこむ。

「何種類か薬を作ってきますが、おそらく今日中には治せませんね」

「そうなのか?」
ティタンは呪いによるものならば、サミュエルの力ですぐに治せると思っていた。

「薬を使われているなら少し厄介なので、慎重にいきます。でも大丈夫ですよ、あらかた予想はついていますから解呪出来ます」
サミュエルはそこまで言うと、床に座り込む。

「すみません、ティタン様。今日はもう、眠い、です…」
サミュエルは座った姿勢のまま寝息を立てて沈黙してしまった。


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