次期女王になる美姫はダメンズと言われる公爵令息を寵愛中

しろねこ。

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第30話 解け合う

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 ミゲイルの姿が見えなくなってから、エレオノーラは安堵の息を吐いた。

「全く困ったものよね……レナード、大丈夫?」

「はい」
 そうは言うもののレナードの額には汗が浮いているし、顔色も悪い。

 余程緊張したのだろう。

「あのくらいで済んでよかったわ。あの人、昔からエレオノーラに執着していて面倒なのよ」
 グロリアも口を尖らせて嫌そうな顔をしている。

「昔からって……あの、ミゲイル陛下とエレオノーラ様は、どういう関係なのですか? 僕が気に入らないというのはあると思うのですが、あの様子はまるで……」

「場所を変えて話しましょう。ここでは皆の目もあるし。エレオノーラ、空いている部屋を準備して頂戴」
 心配そうな顔をするレナードを見て、ルピシアはそう提案をする。

「そうね、ここでは落ち着かないし……ニコル、お願い」

「承知しました、こちらへどうぞ」
 ニコルはすぐに頷き案内を始める。

 その後ろをエレオノーラとレナードが、更に後ろにグロリアとルピシアもついていく。

「レナード、わたくしとあの男の間には何もないの。今はとりあえずそれだけを信じて」
 不安そうなレナードの様子に、エレオノーラは表情を曇らせて縋るように手を繋いだ。

 握られた手は離されることはないけれど、気持ちがまだ追い付かずレナードはまともにエレオノーラの方を見られない。

 頭の中は様々な感情が渦巻き、ざわざわしている。

(ミゲイル陛下は何故あそこまでエレオノーラ様に執着を? 僕が気に入らないというのもあるだろうが、それよりは彼女を取られたくないような感じで……でも二人は結ばれることはない関係だ。だって彼は一国の王で、エレオノーラ様はこの国の女王となる人。けれどあの様子はまるで恋人を取られたかのようなもので……)
 あり得ない事なのだけれど、それでも考えてしまって仕方ない。

(二人はもしかして、付き合っていた?)
 そんな事を考えてしまい、動悸が激しくなり、呼吸が荒くなる。

 あり得ないと思うのだけれど、悪い方にと考えてしまって仕方がない。

(早く真相が知りたい)
 部屋までの道のりが酷く遠く感じられる。

 周囲との喧噪から遠ざかり、そして念入りに人がいないことが確認されてから、エレオノーラはゆっくりと口を開いた。

「レナード安心して頂戴。わたくしとミゲイル陛下の間に特別な関係はないわ、ただ幼い頃から国を背負う立場として交流があっただけ。ただそれだけなの」

「そうなのですね」

(幼馴染ってことなのかな。けれど彼の話しぶりからはそれだけだとは思えない……)
 口に出して聞いていいものか、疑うのは失礼ではないかとレナードは唇を噛みしめる。エレオノーラの言葉を信じたいけれど気持ちが追い付かなくて、どうしたらいいのかわからないのだ。

「この際だからしっかりと話を聞いた方がいいですよ、後悔するよりも」
 ルピシアの促しにレナードは躊躇いつつもエレオノーラを見つめる。

「何でも、レナードが疑問に思う事は聞いて。気になったこと全て話すから」
 エレオノーラの視線を真っ向から浴び、レナードもまたエレオノーラを真っすぐに見つめる。

 だが、その表情も声も硬く、お互いに緊張しているのがわかる。

「ミゲイル陛下は何故あそこまでエレオノーラ様を心配なさるのですか? 僕のような弱い男が王配になる事を憂う、というよりはまるでエレオノーラ様を取られたくないような素振りをされていた。本当に、ただの幼馴染、なのですよね……?」
 最後の言葉は聞くのも申し訳ないからか少し小さいものとなる。

「あの男はわたくしをまるで我がものかのように振る舞うけれど、ただの幼馴染よ。なぜか気に入られてしまって、ああして男の人と話すのを邪魔してきたり、威圧するようになってしまったわ。けれどいつもは他の人の目もあったから、あそこまではっきりと言ってきたことはなかったのだけれど……婚約を許せなかったのかもね」
 一方的な執着であるとエレオノーラは主張する。

「エレオノーラとあの男は本当に何もないから安心して。私たちが保証する」
 グロリアも援護を出すように力強く言い切り、ルピシアもその言葉に同意するように頷く。

「大国の王だから私達も強く言い返せないけれど、エレオノーラは昔からあの男に付き纏われていて迷惑しているのです。威圧的で、我儘で、何でも自分の思った通りに事が運ぶと思っているの。本当に自分勝手な男ですわ」
 ルピシアも端正な顔を歪め、嫌悪をあらわにする。

「その点レナード様は優しくてエレオノーラに寄り添ってくれて、あの男とは大違いよ。親友としても安心してエレオノーラを預けられるわ。本当にありがとね」
 グロリアはレナードに笑顔を向け、その手を握ろうとしたことに気づき、エレオノーラが叩き落とす。

「油断も隙もないわね」
 グロリアの行動にエレオノーラは口を尖らせるが、その口元は少し緩んでいた。

「僕がミゲイル陛下よりもエレオノーラ様にふさわしいかはわかりませんが……負けたくはありません」
 こんな自分を選んでくれたエレオノーラの為にと、そして自分の為にも。

 ここで逃げたのでは一生後悔してしまうと、レナードは決意を新たにする。

「もう一つお聞きしたいのですが、エレオノーラ様はミゲイル陛下の事をどう思っていますか?」
 レナードのおずおずとした質問にエレオノーラははっきりと言い切った。

「嫌いだわ。国の事がなければ話もしたくない」
 清々しいくらいにばっさりと切り捨てるその様子にレナードもようやく笑顔になった。

 その様子を見てやや目を伏せてエレオノーラは続ける。

「……けれど彼の立場には同情もするわ。周囲に傅かれ、苦労もなく来たからあのようになってしまったのでしょうね。誰も彼もが自分のいう事を聞き、逆らう事もしない。けれどそれは逆に本気で彼を思う人がいなかったという事。親も兄弟も、彼にとっては王位を取り合う敵だし、本当の居場所がなかったのでしょうね」

 同情するようなエレオノーラの様子に、二人の共通点を見出してしまった。

(エレオノーラ様も周囲に誤解されて距離を置かれた事があったんだよね。孤独を知っているから、ミゲイル陛下も同調してそこに惹かれたのかな)
 似たような境遇と幼い頃から知っているゆえに、エレオノーラを自分のものと錯覚したのだろうか。
 レナードはそっとエレオノーラの手を握りしめる。

「あなたには僕がいます。何があろうとどこにいようと。それだけは忘れないで」

「ありがとう……わたくしもずっとあなたと共に」
 エレオノーラもまたレナードの手を握り、想いを伝えていく。

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