遭難していた熊さんを助けたのですが、後の旦那さんになりました

しろねこ。

文字の大きさ
4 / 11

第4話 発見

しおりを挟む
 翌日ティの居なくなった寂しさを埋めるように、二人は外に出た。

 雪は殆ど溶けており、新芽があちこちに見えている。

 新しい生命の誕生に普段ならば心躍るのだが、今はそんな気持ちになれない。

 特にティに懐いていたミューズはそうだ。

「寂しいな……」

 ポツリと言えば、レナンがよしよしと頭を撫でてくる。

「もふもふで、良い人だったわね。でも彼はわたくし達とは住む世界が違う人なのよ」

「もちろんわかってる、でもとても優しい人だったから」

 あんなにも寒い中で生命の危機に瀕していたのに、怒ることなく優しくしてくれた。そ

 れにとても話しやすかった。

 人間であればどのような姿なのだろうとか、また顔を出しに来てくれないだろうかと、期待も少なからずしてしまう。

「また、会いたいなぁ……」

 ミューズの呟きにレナンは答えられない。

 二人共、もう会えないという事くらい、わかっているからだ。

 祖父と父の話しぶりから、彼はここにいてはいけない人なのだと感じられた。

 どんな理由かまでは分からないが、もしかしたら犯罪をおかしてしまったのかもしれないという考えが、頭を過る。

 そうであれば……会うことで家族に迷惑を掛けてしまう為、会いたいとは言えない。

(せめて彼が元の姿に戻れますように)

 ミューズ達にはそう祈る事しか出来なかった。

 そんな風に色々と話しながら散歩していると、何やら森の方が騒がしいことに気づく。

「何だろう?」

 異変に気づいた護衛が二人に屋敷へ戻るよう促す。

「もしかしたらティが妖精を見つけた?」

 ミューズはそう考え、少しだけ様子が見たいと護衛に頼む。

「そうだとしても危ないわ。一度戻りましょう」

 森に行きそうなミューズの手を引き、レナンは帰ろうと声をかけた。

 後ろ髪を引かれつつ姉になるそう言われてはと、ミューズも大人しく屋敷の方へと歩き始める。

 護衛と共に屋敷に戻ると、すぐさま報告を受け付けた兵達が、様子を見に森へと向かう。

「何があったのか確認せねばな。魔獣や魔物の可能性もある、危ないと思ったらすぐに戻ってこい」

 シグルドの命令を受け、屋敷に待機していた衛兵達数名が森へと入る。

 辺境伯領であるここは、国と国の境目にあるので、様々なトラブルが起こりやすい。

 それ故にこうして街には騎士の宿舎があり、戦う人材が揃えられている。

 辺境伯ともなる祖父の屋敷に、衛兵達が大勢いるのも、危険を回避するためには当然な事であった。

 重々しい騎士達も出動する様子を見て、ミューズもレナンもはらはらとする。

「大丈夫。二人に危害は加えさせんよ」

 シグルドは大きな手で二人の頭を撫でる。

 森の中や付近を調査したが、結局声の正体はわからず、不穏なものも見当たらなかったそうだ。

 だが、暫くは外に出る事は許されず、領地へ帰ることも保留となる。

 道中の護衛に兵を割くと調査に支障が出るからとの事だ。

 二人が出て良いのは塀に囲まれた屋敷周りだけと言われる。

 ここならシグルドもすぐに駆けつけられるし、目も届くからという事らしい。

 束縛された生活に、レナン達は少々不自由さは感じるものの文句は言えなかった。

 まだ寒さの残る季節の為、花は咲いていない。

 二人は緑が少し増えたくらいの庭園を歩く。

「早くこの騒動が終わらないかしら」

 何かが見つかればよかったが、何も見つからないのは不安が募る。

 敷地内だし、近くに護衛達はいるから心配は少ないのだけれど、それでも原因がわからないというのはそわそわしてしまう。

 見える恐怖より見えない不安の方が、心の負担は大きい。

「ティとは何も関係ないのかしらね」

 もしも妖精であれば捕まえたかったとミューズは思う。

(そうすればティを元の姿に戻せるかもしれない)

 そうして二人で話をしていると、またどこかから奇怪な声がした。

 護衛はすぐに二人の側に付き、付き添いの侍女もまた二人を守るように取り囲む。

「どこ? 誰?」

 声の主がどこにいるのか、耳を澄ませる。

「やはり森の方ですね」

 護衛達はそちらに目をやる。

「きっとすぐにシグルド様が騎士を派遣するでしょう。レナン様達はすぐに屋敷の中へ」

「えぇ」

 そう遠くはないので、すぐに屋敷の入口に着く。

「様子を見てきます。お二人はすぐに中へとお入り下さい」

 護衛の二人を見送り、レナンとミューズは言われた通り中に入ろうとしたが……。

「あら?」

 何かが草葉の陰を走っていくのが見えた。

 すばしっこくて姿ははっきり見えないけれど、鼠くらいの大きさだ。

(もしかして妖精?)

 小さくてすばしっこい為に鼠かと思ったが、どうやら違う。

 違和感を覚えたミューズはたまらず走り出し、その後をレナンと侍女達がついていく。

「お戻りください、ミューズ様!」

 侍女の必死の食い止めもそこそこに、ミューズは黒い小さな影を追って、どんどんと先へ行ってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...