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第5話 追いかけた先
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黒い影は足が早く、全く追いつけない。
ぐんぐんと敷地の奥へと進んで行ってしまった。
それを更に追いかけていくと、やがて辿りついたのは薪などが置いてある納屋だ。普段のミューズならば絶対に来ないところなので、入るのを躊躇い、立ち止まってしまう。
「ようやく追いついた……」
息を切らせたミューズの侍女がようやっと主と合流する。
立ち止まり納屋を見ているミューズからただならぬ雰囲気を感じ、侍女が静かな声で尋ねた。
「……何があったのですか?」
「何かが納屋の中に入っていったの。でも、それが何なのかよくわからなくて……」
生物なのは間違いないが、それが何かまでの確認は取れていない。
(どうする? 誰かが来るまで待つ?)
護衛達も外の様子を見る為に今は離れている。
どうすれば良いのかを考えていると、少し遅れてレナンとお付きの侍女も追いついた。
「今、護衛の誰かが来るから、絶対に離れてはダメよ」
ハァハァと息切れした状態のレナンは、ミューズの体を抱き寄せる。
「もう心配を掛けないでちょうだい」
「ごめんなさい」
どちらかと言うと、レナンの方が体力もなく、魔法も使えないので危ないが、ミューズは素直に謝った。
それでも心配してくれるレナンに気持ちが嬉しい。
(お気持ちは嬉しいし、私もお姉様が近くにいた方が安心するわ)
レナンと違い、ミューズは魔法を使う事が出来るので、何かあれば守ってあげる事が出来る。
その為こうした無茶をしがちなのだ。
そんな姉妹のやり取りを、納屋に居る者は聞き耳を立て、物陰からじっと見つめていた。
「あの……」
そっと掛けられた声に驚き、皆が納屋の方に振り返った。
侍女もミューズもレナンを守る様に前に出て、声を掛けたものを見る。
そこにいたのは愛くるしい妖精であった。
「ごめんなさい、勝手に入ってしまって」
子猫くらいの大きさだろうか、とても小さい。
可愛い容姿の妖精を見て、恐怖心が少しだけ和らぐ。
サラサラの髪と宝石のような瞳、そして虹色に光る羽と、その姿はまさに物語に出てくる妖精そのものだ。
庇護欲をそそるその姿に、レナンは思わず見惚れてしまう。
「あの、何があったの? もしよければ事情を教えてもらえないかしら」
おずおずとレナンが声を掛けると、妖精はポロポロと涙を流し始める。
「実は悪い奴らに追いかけられていてるの……僕を捕まえてどこかに売り払おうとしているみたいなんだ」
「まぁ、何て酷い話なの!」
話を聞いて、怒り心頭だ。
やや冷静さを失う姉をミューズは侍女に任せる。
「ラフィア。お姉様をお願いします」
そっとレナンを後ろに下がらせると、今度はミューズが妖精に質問していく。
「怖かったわよね。それで、どのような人達に攫われそうになったの?」
「鎧を着てて怖い顔をしてて……確か、アドガルム国の兵士って言っていたよ」
その言葉に皆が凍りつく。
その話が本当であれば、隣国の兵士がここまで来ているとなる。
辺境領であるここに無断で入るとは思えないが、もしも許可がない場合は政治的な問題に発展しかねない。
「これは大変な事ね……取り敢えずお祖父様に話をしないと」
何をするにしろ勝手な事をするわけにはいかない。
辺境伯であるシグルドに指示を仰がなくてはならないだろう。
「私達はお祖父様に話をしてきますから、妖精さんはここで隠れていて下さいね」
「待って、行かないで!」
妖精はレナン達を食い止めようと必死だ。
「お姉さん達なら僕を虐めないでしょ? お願い、ここにいて」
可愛らしくそういう妖精だが、しかしミューズは冷静だ。
(もしもこの妖精がティを呪った者と同じならば、側にいるのは危険だわ)
見た目で惑わされるつもりはなかった。
可愛らしい見た目と裏腹に、中身はどのようなものかなんてわからない。
「ごめんなさい。それは出来ないわ」
レナンが諭すように優しく声を掛ける。
「わたくし達が戻らないと護衛の人達がここに来てしまうもの。そうなったら寧ろ皆があなたの存在に気づいてしまうわ」
どうやらレナンは妖精が怪しいと思ったのではないようだ、あくまで妖精を慮っての言葉である。
(お姉様のおかげでうまくここを離れられそうだわ)
怪しまれずに離れられるならその方がいいのだが。
「でももしかしたら僕の事を誰かに話すかもしれないじゃない」
不安そうに言う妖精だが、レナンが目線を合わせる。
「悪いようにはしないから、ね」
小さい子に言うようにレナンは言うが、妖精は不服そうだ。
「ではお姉様行きましょう、護衛の者達が心配して探しているみたいだし」
ミューズはレナンの腕を引く。
確かに人の声が多くなり、ざわざわとしてきた。
妖精は奥に引っ込んでいく。
少し強引ながらもその場を離れ、ミューズはレナンの手を引いてその場を急いで離れようとした。
「ミューズ、そんなに急がなくても」
「あの妖精がいい者かもわからないでしょ?」
羽があるなら何故飛ばない?
どうして自分たちの前に現れた?
自分達を引き留めようとしたのは人質にしようとしたのではないか?
疑心暗鬼でミューズはいっぱいだった。
ティの姿を変えてしまった者かもしれないのだから仕方ないことだ。
一方のレナンはまた違った考えであった。
(良いものではない? そうなのかしら)
確かに見た目だけでは判断が難しい。
だがもしもあの妖精がティを変えた者ならば、寧ろ逃してはいけないと思った。
「どちらにしろお祖父様に話しましょう。隠していていい事はなさそうだもの」
「やっぱり僕の事を言うつもりなんだね……」
ミューズとレナンは追いかけてきた妖精の存在に気づいていなかった。
気付けば四人の周りには黒い風が巻き起こり、空高く飛ばされてしまう。
ぐんぐんと敷地の奥へと進んで行ってしまった。
それを更に追いかけていくと、やがて辿りついたのは薪などが置いてある納屋だ。普段のミューズならば絶対に来ないところなので、入るのを躊躇い、立ち止まってしまう。
「ようやく追いついた……」
息を切らせたミューズの侍女がようやっと主と合流する。
立ち止まり納屋を見ているミューズからただならぬ雰囲気を感じ、侍女が静かな声で尋ねた。
「……何があったのですか?」
「何かが納屋の中に入っていったの。でも、それが何なのかよくわからなくて……」
生物なのは間違いないが、それが何かまでの確認は取れていない。
(どうする? 誰かが来るまで待つ?)
護衛達も外の様子を見る為に今は離れている。
どうすれば良いのかを考えていると、少し遅れてレナンとお付きの侍女も追いついた。
「今、護衛の誰かが来るから、絶対に離れてはダメよ」
ハァハァと息切れした状態のレナンは、ミューズの体を抱き寄せる。
「もう心配を掛けないでちょうだい」
「ごめんなさい」
どちらかと言うと、レナンの方が体力もなく、魔法も使えないので危ないが、ミューズは素直に謝った。
それでも心配してくれるレナンに気持ちが嬉しい。
(お気持ちは嬉しいし、私もお姉様が近くにいた方が安心するわ)
レナンと違い、ミューズは魔法を使う事が出来るので、何かあれば守ってあげる事が出来る。
その為こうした無茶をしがちなのだ。
そんな姉妹のやり取りを、納屋に居る者は聞き耳を立て、物陰からじっと見つめていた。
「あの……」
そっと掛けられた声に驚き、皆が納屋の方に振り返った。
侍女もミューズもレナンを守る様に前に出て、声を掛けたものを見る。
そこにいたのは愛くるしい妖精であった。
「ごめんなさい、勝手に入ってしまって」
子猫くらいの大きさだろうか、とても小さい。
可愛い容姿の妖精を見て、恐怖心が少しだけ和らぐ。
サラサラの髪と宝石のような瞳、そして虹色に光る羽と、その姿はまさに物語に出てくる妖精そのものだ。
庇護欲をそそるその姿に、レナンは思わず見惚れてしまう。
「あの、何があったの? もしよければ事情を教えてもらえないかしら」
おずおずとレナンが声を掛けると、妖精はポロポロと涙を流し始める。
「実は悪い奴らに追いかけられていてるの……僕を捕まえてどこかに売り払おうとしているみたいなんだ」
「まぁ、何て酷い話なの!」
話を聞いて、怒り心頭だ。
やや冷静さを失う姉をミューズは侍女に任せる。
「ラフィア。お姉様をお願いします」
そっとレナンを後ろに下がらせると、今度はミューズが妖精に質問していく。
「怖かったわよね。それで、どのような人達に攫われそうになったの?」
「鎧を着てて怖い顔をしてて……確か、アドガルム国の兵士って言っていたよ」
その言葉に皆が凍りつく。
その話が本当であれば、隣国の兵士がここまで来ているとなる。
辺境領であるここに無断で入るとは思えないが、もしも許可がない場合は政治的な問題に発展しかねない。
「これは大変な事ね……取り敢えずお祖父様に話をしないと」
何をするにしろ勝手な事をするわけにはいかない。
辺境伯であるシグルドに指示を仰がなくてはならないだろう。
「私達はお祖父様に話をしてきますから、妖精さんはここで隠れていて下さいね」
「待って、行かないで!」
妖精はレナン達を食い止めようと必死だ。
「お姉さん達なら僕を虐めないでしょ? お願い、ここにいて」
可愛らしくそういう妖精だが、しかしミューズは冷静だ。
(もしもこの妖精がティを呪った者と同じならば、側にいるのは危険だわ)
見た目で惑わされるつもりはなかった。
可愛らしい見た目と裏腹に、中身はどのようなものかなんてわからない。
「ごめんなさい。それは出来ないわ」
レナンが諭すように優しく声を掛ける。
「わたくし達が戻らないと護衛の人達がここに来てしまうもの。そうなったら寧ろ皆があなたの存在に気づいてしまうわ」
どうやらレナンは妖精が怪しいと思ったのではないようだ、あくまで妖精を慮っての言葉である。
(お姉様のおかげでうまくここを離れられそうだわ)
怪しまれずに離れられるならその方がいいのだが。
「でももしかしたら僕の事を誰かに話すかもしれないじゃない」
不安そうに言う妖精だが、レナンが目線を合わせる。
「悪いようにはしないから、ね」
小さい子に言うようにレナンは言うが、妖精は不服そうだ。
「ではお姉様行きましょう、護衛の者達が心配して探しているみたいだし」
ミューズはレナンの腕を引く。
確かに人の声が多くなり、ざわざわとしてきた。
妖精は奥に引っ込んでいく。
少し強引ながらもその場を離れ、ミューズはレナンの手を引いてその場を急いで離れようとした。
「ミューズ、そんなに急がなくても」
「あの妖精がいい者かもわからないでしょ?」
羽があるなら何故飛ばない?
どうして自分たちの前に現れた?
自分達を引き留めようとしたのは人質にしようとしたのではないか?
疑心暗鬼でミューズはいっぱいだった。
ティの姿を変えてしまった者かもしれないのだから仕方ないことだ。
一方のレナンはまた違った考えであった。
(良いものではない? そうなのかしら)
確かに見た目だけでは判断が難しい。
だがもしもあの妖精がティを変えた者ならば、寧ろ逃してはいけないと思った。
「どちらにしろお祖父様に話しましょう。隠していていい事はなさそうだもの」
「やっぱり僕の事を言うつもりなんだね……」
ミューズとレナンは追いかけてきた妖精の存在に気づいていなかった。
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