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両片想い

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「はぁ、今日も疲れた……」
ティータイムなのに全くリラックスできなかった。

ロゼッタは堪らなく重い体を引きずり、ダンスのレッスンに向かう。

「愛されてますね、ロゼッタ様」
侍女のアンジュがニコニコしている。

「ありがとう、そんな風に言ってもらえるのは嬉しいわ」
膝に乗せるなんてやりすぎにも程があると思うのだが、愛されていると周りから言われると嬉しい。

ロゼッタとてルアネドが大好きだ。

優しい人だし、あんな美形に微笑まれて、クラクラしないわけではない。

ただ自分が隣に立つのは不釣り合いだから、もっと相応しい令嬢がいいと思っているのだ。

ルアネドの為にも。

周囲からしたらルアネドが婚約者を大事にしてるのは明白で、微笑ましいものだった。

そもそも文句や陰口を言うのは、選ばれなかった令嬢やその家族だ、王宮の者はルアネドの決定に異を唱えない。

殺伐としていた王宮だが、ルアネドが王になりロゼッタという婚約者が来てから、一気に華やいだ。

ルアネドは昔から家臣達にも気遣いの出来る人で、ロゼッタもある意味貴族らしくなく誰にでも優しく接している。

時折メイド達のところにお菓子を持っていって、一緒に食べたりしているので、自然と親しくなれているのだ。

「美味しいものは皆と食べたほうがより美味しいのよ」
と、これはアルテミスの受け売りで、共犯者を増やす言葉である。

こっそりお菓子を食べても、皆と一緒なら怒られないだろうという魂胆だ。

優しい二人により良い環境をと、侍従達はやる気に満ちていた。






そんな中突如としてロゼッタの頭の中に、ある映像が視えた。

きらびやかなシャンデリア、飾り付けられている様子から、パーティの最中であるのがわかる。

顔触れ、雰囲気などから今度の婚約についてのもののようだ。

着飾ったロゼッタとルアネドと、近くには近親者がいる。

ルアネドが給仕のリッカからワインを受け取った。

リッカの顔は不自然に青白いが、ルアネドは気がついていない。

そのワインを飲み干すとルアネドの顔色が変わり、血を吐き、倒れる。

騒然とするパーティ。

ロゼッタは倒れるルアネドに縋りついた、体を揺さぶるが目を開けることはない。

冷たくなる手にロゼッタも体温が降下していく感覚がした。

「なに? 今の……」
廊下の途中だが、腰が抜けてしまい立ち上がれなくなる。

「ロゼッタ様、大丈夫ですか?!」

アンジュは青褪めた表情のロゼッタの体を支えると、すぐさま人を呼んだ。
 




部屋へと運ばれるとすぐに医師が来てくれた。

ひと通り診察が終わり横になって休んでると、ノックの音が聞こえる。

ルアネドだ、凄く顔色が悪い。

「大丈夫かロゼッタ? 急に倒れたと聞いて、今は落ち着いたか?」
この時間は執務中のはずなのに、ロゼッタの為に来てくれたのだ。

「大丈夫です、落ち着きました。それよりも今は執務中では?」

「ロゼッタが倒れたと聞いて仕事なんか出来るわけないだろ、今日はずっと一緒にいる。何か欲しい物や必要な物はないか? 俺に出来ることはないか?」
ロゼッタの手を取り、両手で優しく包みこまれる。

金の瞳が心配そうにこちらを見つめていた、整った顔立ちは見れば見るほどやはり綺麗だ。

この人を失いたくはない。

「欲しいのは、あなたです」
あんな悲しい別れは嫌だった。

生きていてくれれば何でもいい。

ぼんやりと呟いた言葉にルアネドが目を見開き、顔を真っ赤に染めた。

耳も首も赤くなり、握る手にも力が入る。

「……?」
何だろう、私今……。

「!!!」
ロゼッタはうっかり呟いた言葉を思い出し、毛布を跳ね除け起き上がる。

「違います! いや、違いませんが、誤解です、そんなつもりでは言ってません!」
唐突な愛の告白をしてしまった。

意図せず言ったことに、ロゼッタは顔どころか体中が羞恥で赤くなる。

(いや、えっと、えっーと!)
巧く誤魔化さなければいけない。

「えっと、ルアネド様を失いたくないっていうか、命を大事にっていうか、居なくならないでほしいっていうか」
どれも愛の囁きにしか聞こえない。

「ロゼッタが、そこまで俺を大事に思ってくれていたなんて……」
ルアネドは恥ずかしそうにしながら嬉しそうな声を出し、片手で隠すように顔を覆っている。

「もう婚約パーティなどまどろっこしい、結婚式を即座に挙げるぞ!」
絶対にシュゼットに怒られるから止めてー! と心の中で叫んでしまう。

「違うんですルアネド様、私さっき婚約パーティの事を見て……」
はたと気づく。

こんな荒唐無稽な話を信じてくれるのか?

頭のおかしい人と思われないか?

ただの妄想? 幻覚?

感覚はリアルだったが、現実とは思えない光景だった。

何より長年仕えていたリッカが、そんな事をするとは思えない。

「婚約パーティを見た? 何かあったのか?」
ルアネドが続きを促してくる。

「えっと」
どう話そう。

証拠もなく、リッカを悪人に仕立て上げてしまう可能性もある。

しかし、本当に起きたら取り返しのつかないことになってしまう。

どうしたらいいのか。

(……頭のおかしい人という事で婚約破棄になるかも)
という打算が働いた。


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