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第2話 婚約者
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はぁー。
入学以来久しぶりに別邸に帰郷したレナンは、ミューズの前で盛大にため息をついた。
「うぅーここが落ち着く。学校大変…」
むぎゅっとミューズに抱きつき、深呼吸をしている。
「お姉様、何かあったのですか?」
「学校は楽しいところなのよ、新たな事を覚えられるし、読書友達は出来たし、でも……」
ひんひんと美貌の姉は鼻を啜りながら話し始める。
よしよしと頭を撫でつつ、ミューズは耳を傾けた。
レナンはこの春から学校に通い始め、見るもの聞くもの全て新鮮であった。
今まで王都から離れており、都会の事など露知らないレナンは緊張と驚きでいっぱいだった。
学校では身分をあまりふりかざすものではないと校則にあったし、別け隔てなく接していたのだが。
レナンがエリックと親しげに話しているのを、とある公爵令嬢に見つかってしまう。
エリックは結構身分もあり、人気もあるそうだ。
婚約者候補はいたものの婚約までは至らず、女生徒の憧れであった。
そんな憧れの人がレナンのような田舎臭い(実際に言われた)娘と仲がいいなんて、とやっかみを買ってしまう。
しばしばエリックと彼の学友兼従者のニコラが庇ってくれてはいたが、レナンの周りに残る人はだいぶ少なくなってしまった。
読書友達とも表立ってのやりとりは控え、手紙や図書館で会うばかり。
そうこうしているうちに帰郷の時期になったのだが、心が、辛い。
「学校行きたくないよ~」
しょんぼりしているレナンにミューズは話を聞くしか出来ず、困ってしまう。
何とか姉の力になりたいのだが。
「いっそお姉様とエリック様が婚約されたらいいのに」
そしたらミューズにとっても嬉しい。
ミューズはエリックと話す機会は少なかったが、とても優しく、本やお花をプレゼントしてもらっていた。
一緒に話をしているレナンともとても幸せそうだったし、美男美女でお似合いだと思うのだ。
「そそそそそ、そんなわけにはいかないわ。わたくしなんか、エリック様のお隣に並べる程キレイじゃないし」
慌てふためくレナン。
銀髪の長い髪はミューズみたいにくるくるしておらず、真っすぐで絹糸のようだ。
青い目はサファイヤのようにキラキラしている。
長身で手足もスラッとしているレナンはエリックと並んでも様になる。
「それに、わたくしもエリック様も、跡継ぎだもの…」
「あっ…」
そうだ。二人は嫡子で、それぞれの家を継がなくてはならないため、嫁や婿をもらわねばならない立場だ。
「でも、それなら私が婿を取ればお姉様はエリック様と婚姻出来るのでは?」
「あなたがスフォリア家の領を治めるのは、正直とても大変だと思うの。王都から近く、様々な対応力が求められるわ。今から勉強して間に合うかどうか」
体を崩しやすいミューズだと心配だという。
「婿に来てもらえる方次第になるけど、お互いにお父様のお眼鏡に叶う人でなければならないわ」
ミューズ達の父親であるディエスは、王都でもそれなりの位置にいるらしい。
ミューズは余計な事を耳に入れて体調を崩さないようにと、詳しくは聞かされていない。
そのために別邸にいるというのもある。
「いずれにせよ、わたくし達では婚約者は決められないの。相談してみるのはいいと思うわ」
「父上、ミューズと結婚したいです」
屋敷に戻った後、ティタンは書斎で仕事をしていた父に直談判をしにいった。
「突然の話でびっくりしたな。どうしたんだ急に」
「学校が始まると婚約者探しが始まってしまいます。あのような可憐なミューズが誰かのものになるとは考えたくないです。俺が幸せにします」
14歳になり、騎士の訓練をしているティタンの身体は粗削りだが、筋肉がついてきた。
もう少し経てばもっと立派になるだろう。
父であるアルフレッドはコホンと咳払いをし、確認していく。
「その言葉はミューズ嬢に言ったか?」
「まだです、了承を得てからと思いました。ダメと言われても伝えようと思います」
「学校に入り、色々な令嬢を見てからでどうだ?」
「イヤです。パーティでも茶会でも挨拶だけで遠巻きで眺めるような令嬢ばかりでしたので、ミューズがいいです」
「いずれここの領地はお前が継ぐんだぞ?病弱なミューズ嬢が支えられるか?」
「最近体の調子が良く、ここの空気が合うようです。農作業にも興味があるようなので、一緒に開墾したいです」
「ふーむ…」
考え込むが、当人同士が良いといえば良さそうだ。
次男次女で嫡子もお互いいる。
あのディエスの子なら安心だ。
その時にコンコンとノックの音がした。
入室の許可をするとエリックが入ってくる。
「父上、失礼いたします。ティタンもいたのか」
「兄上も父上とお話か。今俺はミューズとの婚約の許可を得ようと思ってきたのだ」
それが終わったら退室すると話している。
「ティタンがミューズ嬢と?それで父上はなんと?」
二人の目線がアルフレッドに向かう。
「構わないのではないか。ミューズ嬢は嫡子ではないし、ティタンにはここの領を継がせるつもりだからな」
「ありがとうございます!」
許可はおり、早速ミューズを口説くため退室しようとしたが後ろ襟をぐいっと引っ張られ足を止める。
「待て、ティタン。俺の話も聞いていけ」
「兄上の?俺に関係する話ですか?」
「大いにある、何故なら俺も婚約したい人を相談しに来た」
先を越されたがな、とジロリと睨まれる。
嫌な予感しかしない。
「父上、レナン嬢を俺の婚約者にしたいです」
入学以来久しぶりに別邸に帰郷したレナンは、ミューズの前で盛大にため息をついた。
「うぅーここが落ち着く。学校大変…」
むぎゅっとミューズに抱きつき、深呼吸をしている。
「お姉様、何かあったのですか?」
「学校は楽しいところなのよ、新たな事を覚えられるし、読書友達は出来たし、でも……」
ひんひんと美貌の姉は鼻を啜りながら話し始める。
よしよしと頭を撫でつつ、ミューズは耳を傾けた。
レナンはこの春から学校に通い始め、見るもの聞くもの全て新鮮であった。
今まで王都から離れており、都会の事など露知らないレナンは緊張と驚きでいっぱいだった。
学校では身分をあまりふりかざすものではないと校則にあったし、別け隔てなく接していたのだが。
レナンがエリックと親しげに話しているのを、とある公爵令嬢に見つかってしまう。
エリックは結構身分もあり、人気もあるそうだ。
婚約者候補はいたものの婚約までは至らず、女生徒の憧れであった。
そんな憧れの人がレナンのような田舎臭い(実際に言われた)娘と仲がいいなんて、とやっかみを買ってしまう。
しばしばエリックと彼の学友兼従者のニコラが庇ってくれてはいたが、レナンの周りに残る人はだいぶ少なくなってしまった。
読書友達とも表立ってのやりとりは控え、手紙や図書館で会うばかり。
そうこうしているうちに帰郷の時期になったのだが、心が、辛い。
「学校行きたくないよ~」
しょんぼりしているレナンにミューズは話を聞くしか出来ず、困ってしまう。
何とか姉の力になりたいのだが。
「いっそお姉様とエリック様が婚約されたらいいのに」
そしたらミューズにとっても嬉しい。
ミューズはエリックと話す機会は少なかったが、とても優しく、本やお花をプレゼントしてもらっていた。
一緒に話をしているレナンともとても幸せそうだったし、美男美女でお似合いだと思うのだ。
「そそそそそ、そんなわけにはいかないわ。わたくしなんか、エリック様のお隣に並べる程キレイじゃないし」
慌てふためくレナン。
銀髪の長い髪はミューズみたいにくるくるしておらず、真っすぐで絹糸のようだ。
青い目はサファイヤのようにキラキラしている。
長身で手足もスラッとしているレナンはエリックと並んでも様になる。
「それに、わたくしもエリック様も、跡継ぎだもの…」
「あっ…」
そうだ。二人は嫡子で、それぞれの家を継がなくてはならないため、嫁や婿をもらわねばならない立場だ。
「でも、それなら私が婿を取ればお姉様はエリック様と婚姻出来るのでは?」
「あなたがスフォリア家の領を治めるのは、正直とても大変だと思うの。王都から近く、様々な対応力が求められるわ。今から勉強して間に合うかどうか」
体を崩しやすいミューズだと心配だという。
「婿に来てもらえる方次第になるけど、お互いにお父様のお眼鏡に叶う人でなければならないわ」
ミューズ達の父親であるディエスは、王都でもそれなりの位置にいるらしい。
ミューズは余計な事を耳に入れて体調を崩さないようにと、詳しくは聞かされていない。
そのために別邸にいるというのもある。
「いずれにせよ、わたくし達では婚約者は決められないの。相談してみるのはいいと思うわ」
「父上、ミューズと結婚したいです」
屋敷に戻った後、ティタンは書斎で仕事をしていた父に直談判をしにいった。
「突然の話でびっくりしたな。どうしたんだ急に」
「学校が始まると婚約者探しが始まってしまいます。あのような可憐なミューズが誰かのものになるとは考えたくないです。俺が幸せにします」
14歳になり、騎士の訓練をしているティタンの身体は粗削りだが、筋肉がついてきた。
もう少し経てばもっと立派になるだろう。
父であるアルフレッドはコホンと咳払いをし、確認していく。
「その言葉はミューズ嬢に言ったか?」
「まだです、了承を得てからと思いました。ダメと言われても伝えようと思います」
「学校に入り、色々な令嬢を見てからでどうだ?」
「イヤです。パーティでも茶会でも挨拶だけで遠巻きで眺めるような令嬢ばかりでしたので、ミューズがいいです」
「いずれここの領地はお前が継ぐんだぞ?病弱なミューズ嬢が支えられるか?」
「最近体の調子が良く、ここの空気が合うようです。農作業にも興味があるようなので、一緒に開墾したいです」
「ふーむ…」
考え込むが、当人同士が良いといえば良さそうだ。
次男次女で嫡子もお互いいる。
あのディエスの子なら安心だ。
その時にコンコンとノックの音がした。
入室の許可をするとエリックが入ってくる。
「父上、失礼いたします。ティタンもいたのか」
「兄上も父上とお話か。今俺はミューズとの婚約の許可を得ようと思ってきたのだ」
それが終わったら退室すると話している。
「ティタンがミューズ嬢と?それで父上はなんと?」
二人の目線がアルフレッドに向かう。
「構わないのではないか。ミューズ嬢は嫡子ではないし、ティタンにはここの領を継がせるつもりだからな」
「ありがとうございます!」
許可はおり、早速ミューズを口説くため退室しようとしたが後ろ襟をぐいっと引っ張られ足を止める。
「待て、ティタン。俺の話も聞いていけ」
「兄上の?俺に関係する話ですか?」
「大いにある、何故なら俺も婚約したい人を相談しに来た」
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