5 / 32
第5話 告白②
しおりを挟む
「申し訳ないです、エリック様。空耳が聞こえたようで良くわかりませんでした、もう一度お願いしても?」
人払いをした自室にてレナンは驚いて椅子から倒れそうになった。
「何回でも言うぞ。俺と結婚してほしい。妻になってくれ」
うん、完全に幻聴ね。
レナンは口元を隠し、不遜な幼なじみを見る。
自信満々で断られるとは思っていないのだろう。
顔を赤らめるでもなく、表情を改めるわけでもなく、いつもの口調でいつもの表情でそういったのだ。
後ろで控える従者ニコラはいつも通りオドオドした顔でエリックを見ていた。
嬉しい幻聴だけど……。
「お断りします、エリック様」
なるべく抑揚を抑えて言ったつもりだが、僅かに震えていた。
気づかれてないだろうか?
「わたくしは後々スフォリア領を治める領主となります。あなたと結婚したら、嫁ぎに行かねばなりませんよね? 先祖代々守っている土地を蔑ろにするわけには行きません」
毅然とした態度でそう答える。
「俺が信頼できる後任を探し、ディエス殿に打診する。養子縁組をすれば良かろう」
「スフォリア領はとても難しい領地です。生半可な者では無理ですわ」
王都の近く、そして父は重臣だ。
その後継となる者は手腕も人柄も問われる。
「だが、見つけるさ。君と結婚出来るならね」
エリックはそう言うと後ろのニコラを指差す。
「例えばニコラ。少々臆病だが、いい仕事をするぞ。見た目も悪くないし伯爵令息だ。頭もキレる」
「お褒めの言葉は嬉しいですが、僕は、エリック様のそばに、まだ仕えていたいです」
半泣きでそういうニコラに「残念、ダメか」と悪びれもなく答えた。
「あとはガードナー家の次男やヤーウェ家の三女とかな。優秀な人材は割といる。ティタンの従者のマオもいいな」
「勝手に妹を推挙しないでください」
ニコラを無視しレナンに向き直る。
「公爵家の歴史は古いが、うちほどのものではない。ディエス殿のお眼鏡に叶う人材を必ず見つけ出そう。期限は十年、もし見つからなければ離縁してスフォリア領に戻ってくれて構わない。慰謝料も手切れ金も払う」
打算的な考えと言葉、少々レナンは悲しくなった。
愛情ではないのか。
「建前はこれくらいでいいか? レナンが領地云々と言うから合わせたが。正直こんな面倒な事をするなら、他の令嬢の方が楽だ」
エリックはそんなレナンの心情を勿論察している。
「俺が結婚したいのはただの令嬢じゃない、レナンだ。君が欲しい」
エリックが真摯な表情で語る。
「君は俺の話にもついてこれるし、ティタンにも優しい。あいつは他の令嬢に厳ついだの怖いだのと言われている。俺の可愛い弟になんて失礼な事をいうのかと、常々思っていた。しかし君は怖がりもせず、態度を変えることなくに昔から可愛がってくれている」
ティタンは大事なミューズの想い人だ、レナンが無下にする訳がない。
「病弱な妹にも優しいが、俺に対しても優しい。俺は立場上厳しくされる事や便りにされる事が多いから、君くらいにしか甘えられない」
甘えている、というかからかわれているだけな気がするのだが。
「君は背の高さを気にしているが、小柄な令息が多いだけだろう? 俺と並ぶと違和感ないし、スタイルが良くてとても映える。隣にいて誇らしい程レナンは美しい。その長い銀髪もさらさらとしていて、ディエス様譲りの意志の強い青色の瞳も青空のように澄んでいる。手足も長くスラリとしていて、胸も大き過ぎず小さ過ぎず丁度よくて……」
「もうお止めください!」
褒める言葉が徐々に変な方向へ向かったのと、存在が空気と化したニコラもいるため、恥ずかしさに限界が来た。
レナンは真っ赤になり、思わず叫んだのだ。
「言いたいことはまだまだあるが、伝わったか? 返事は?」
「……」
本心で言えばOKだが、これは自分だけの案件ではない。
「父と相談してからお返事します」
「その件なら今度親同士で話し合う。あとはレナンの返事だけだ」
ここが一番重要なのだ。
レナンの隣に座り、甘く囁いていく。
「俺の婚約者になれば学校にて煩わしい婚約者争いに参加せず、有意義に過ごせるぞ。自己研鑽と人脈づくり、王家専用の個室も使える」
エリックの婚約者になれば王太子妃となるため、特別待遇になるのは決定だ。
エリックは第一王位継承権をもち、時期国王として有力である。
婚約者候補が尽きなかったのは、王太子妃になるための争奪戦が起きていたのだ。
「わずらわしい公爵令嬢も、俺の婚約者になったレナンには手が出せない。何かすれば俺が許さないからな」
この間の争いもエリックが表立って止めにいける。
王太子妃候補となれば堂々と護衛もつけられるから安心だ。
「住むのも寮ではなく、王族専用のところになる。女同士の醜い争いも起きにくくなるぞ」
物理的に離れられるため、寮でのいじめも受けにくくなるだろうと。
あの時はニコラが手を回してくれて事なきを得たが。
「俺といれば手を出すものもいなくなるし、ニコラがついていれば大抵の事は大丈夫だ」
耳元の声と吐息に体が震える。
こんなイケボはずるい。
「このままでもいいのか?君が公爵令嬢で嫡子だと知ると、領地を手に入れたい他所の令息からの誘いも増えるぞ。現に来ているのだろう?」
ちらりと、レナンの机を見ると文箱には溢れんばかりの手紙が届いている。
「長年一緒だった俺と、見知らぬ男とどちらがいいのだ」
ずるい言い方だ。
そんな風に言われたら、答えは決まっている。
「必ず君を幸せにする、君の妹も住むこの国もより良くすると約束する。だから一緒に手伝ってくれ」
妹について言われては、逆らえる気がしない。
「はい……」
レナンは、この怖くて甘い愛の囁きに頷くしかなかった。
人払いをした自室にてレナンは驚いて椅子から倒れそうになった。
「何回でも言うぞ。俺と結婚してほしい。妻になってくれ」
うん、完全に幻聴ね。
レナンは口元を隠し、不遜な幼なじみを見る。
自信満々で断られるとは思っていないのだろう。
顔を赤らめるでもなく、表情を改めるわけでもなく、いつもの口調でいつもの表情でそういったのだ。
後ろで控える従者ニコラはいつも通りオドオドした顔でエリックを見ていた。
嬉しい幻聴だけど……。
「お断りします、エリック様」
なるべく抑揚を抑えて言ったつもりだが、僅かに震えていた。
気づかれてないだろうか?
「わたくしは後々スフォリア領を治める領主となります。あなたと結婚したら、嫁ぎに行かねばなりませんよね? 先祖代々守っている土地を蔑ろにするわけには行きません」
毅然とした態度でそう答える。
「俺が信頼できる後任を探し、ディエス殿に打診する。養子縁組をすれば良かろう」
「スフォリア領はとても難しい領地です。生半可な者では無理ですわ」
王都の近く、そして父は重臣だ。
その後継となる者は手腕も人柄も問われる。
「だが、見つけるさ。君と結婚出来るならね」
エリックはそう言うと後ろのニコラを指差す。
「例えばニコラ。少々臆病だが、いい仕事をするぞ。見た目も悪くないし伯爵令息だ。頭もキレる」
「お褒めの言葉は嬉しいですが、僕は、エリック様のそばに、まだ仕えていたいです」
半泣きでそういうニコラに「残念、ダメか」と悪びれもなく答えた。
「あとはガードナー家の次男やヤーウェ家の三女とかな。優秀な人材は割といる。ティタンの従者のマオもいいな」
「勝手に妹を推挙しないでください」
ニコラを無視しレナンに向き直る。
「公爵家の歴史は古いが、うちほどのものではない。ディエス殿のお眼鏡に叶う人材を必ず見つけ出そう。期限は十年、もし見つからなければ離縁してスフォリア領に戻ってくれて構わない。慰謝料も手切れ金も払う」
打算的な考えと言葉、少々レナンは悲しくなった。
愛情ではないのか。
「建前はこれくらいでいいか? レナンが領地云々と言うから合わせたが。正直こんな面倒な事をするなら、他の令嬢の方が楽だ」
エリックはそんなレナンの心情を勿論察している。
「俺が結婚したいのはただの令嬢じゃない、レナンだ。君が欲しい」
エリックが真摯な表情で語る。
「君は俺の話にもついてこれるし、ティタンにも優しい。あいつは他の令嬢に厳ついだの怖いだのと言われている。俺の可愛い弟になんて失礼な事をいうのかと、常々思っていた。しかし君は怖がりもせず、態度を変えることなくに昔から可愛がってくれている」
ティタンは大事なミューズの想い人だ、レナンが無下にする訳がない。
「病弱な妹にも優しいが、俺に対しても優しい。俺は立場上厳しくされる事や便りにされる事が多いから、君くらいにしか甘えられない」
甘えている、というかからかわれているだけな気がするのだが。
「君は背の高さを気にしているが、小柄な令息が多いだけだろう? 俺と並ぶと違和感ないし、スタイルが良くてとても映える。隣にいて誇らしい程レナンは美しい。その長い銀髪もさらさらとしていて、ディエス様譲りの意志の強い青色の瞳も青空のように澄んでいる。手足も長くスラリとしていて、胸も大き過ぎず小さ過ぎず丁度よくて……」
「もうお止めください!」
褒める言葉が徐々に変な方向へ向かったのと、存在が空気と化したニコラもいるため、恥ずかしさに限界が来た。
レナンは真っ赤になり、思わず叫んだのだ。
「言いたいことはまだまだあるが、伝わったか? 返事は?」
「……」
本心で言えばOKだが、これは自分だけの案件ではない。
「父と相談してからお返事します」
「その件なら今度親同士で話し合う。あとはレナンの返事だけだ」
ここが一番重要なのだ。
レナンの隣に座り、甘く囁いていく。
「俺の婚約者になれば学校にて煩わしい婚約者争いに参加せず、有意義に過ごせるぞ。自己研鑽と人脈づくり、王家専用の個室も使える」
エリックの婚約者になれば王太子妃となるため、特別待遇になるのは決定だ。
エリックは第一王位継承権をもち、時期国王として有力である。
婚約者候補が尽きなかったのは、王太子妃になるための争奪戦が起きていたのだ。
「わずらわしい公爵令嬢も、俺の婚約者になったレナンには手が出せない。何かすれば俺が許さないからな」
この間の争いもエリックが表立って止めにいける。
王太子妃候補となれば堂々と護衛もつけられるから安心だ。
「住むのも寮ではなく、王族専用のところになる。女同士の醜い争いも起きにくくなるぞ」
物理的に離れられるため、寮でのいじめも受けにくくなるだろうと。
あの時はニコラが手を回してくれて事なきを得たが。
「俺といれば手を出すものもいなくなるし、ニコラがついていれば大抵の事は大丈夫だ」
耳元の声と吐息に体が震える。
こんなイケボはずるい。
「このままでもいいのか?君が公爵令嬢で嫡子だと知ると、領地を手に入れたい他所の令息からの誘いも増えるぞ。現に来ているのだろう?」
ちらりと、レナンの机を見ると文箱には溢れんばかりの手紙が届いている。
「長年一緒だった俺と、見知らぬ男とどちらがいいのだ」
ずるい言い方だ。
そんな風に言われたら、答えは決まっている。
「必ず君を幸せにする、君の妹も住むこの国もより良くすると約束する。だから一緒に手伝ってくれ」
妹について言われては、逆らえる気がしない。
「はい……」
レナンは、この怖くて甘い愛の囁きに頷くしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる