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第10話 新たな生活
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とうとうこの日がやってきた。
今日はシルバーニュ領を離れ、王都に向かう日だ。
緊張で少ししか眠れなかったけれど、ディフェクト様やイティルラ様に会えることを思うと楽しみでもある。
(新たな生活はどのようなものだろう)
不安と緊張と期待が混ざりあい、手に汗が滲んできた。
「ついにエストレアが家を離れる日が来てしまったわね。学園生活頑張るのよ、何かあったらいつでも帰ってきていいからね」
お母様が私の体を抱きしめる。
「はい。家を離れるのは寂しいけれど、シルバーニュ領に貢献できるよう、頑張って学んできますわ」
私は将来、ディフェクト様と共にこの領を治めなければいけない。
王族であるディフェクト様が婿入りするという事で爵位が上がり、それに伴って領地も増える予定である。
その為にここでは見聞きできない事をたくさん勉強して、他の領の方々と交流を持ってシルバーニュ領を維持できるようにしないといけない。
領の皆に苦労を掛けないように頑張るわ。
「引っ込み思案で大人しいエストレアが学園生活に慣れるかどうか心配ではあるが、ディフェクト様もイティルラ様もいる。きっと大丈夫だろう。それにお父様も王都に行ったときは、顔を出すようにするから。何かあったらすぐ相談するんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
荷物を積み込み、王都に向けての馬車に乗り込む。
王都まで順調にいけば一週間、そんな長く馬車に乗ったこともないし、遠くに行ったこともない。
何事もありませんように。
「余裕をもって王都に着くようにしているから、少し観光もしよう。どこか見たいところはあるかい?」
旅に慣れたお父様が付き添ってくれるのはとても心強いわ。
入学式にはお父様もお母様も出席される予定なので、一緒に王都へと向かう。これからは王都の生活に慣れないといけないのもあるから、お父様がいるうちに色々な事を教えてもらわないと。
(王都の話はたくさん聞いたけれど、実際に見ないとわからない事っていっぱいあるわよね。寮も、どのような生活をするものかしら)
食事は出してもらえるそうだし、侍女を連れていけるから身の回りの事は大丈夫なはずだ。
けれど勝手の違う所だから、トラブルを起こさないように気をつけないと。
馬車に揺られながらの一週間、途中お父様がよく泊まられている宿にお世話になりながら、無事に王都へとたどり着くことが出来た。
「ここが王都……」
検問所を抜けた先には大きい建物が並んでいた。更に進むと大通りに出て、人々が買い物などを行う市場が見える。
「凄い、人がたくさんだわ。それに見たことがないものもいっぱい」
まだお昼を過ぎたばかりで明るいからか、通りには歩く人が大勢見える。
「疲れているだろうから、今日は宿でゆっくりして明日改めて出かけよう。エストレアのウールドールを出しているお店にも案内するよ」
「うん、早く行ってみたいな」
話には聞いているけれど、どんなお店か気になるわ。他の人が作ったウールドールも扱っているそうなので、それもぜひ見てみたい。
なかなかそういう機会がなかったので、楽しみ過ぎる。
検問所から少し走り、ようやく目的の宿へと着いた。
(さすが王都、立派な宿だわ)
それまでの宿も悪くはなかったのだけれど、王都の建物は別格であった。
綺麗で広く、調度品も豪華なものばかり。 壁画もとても素敵で、貴族の屋敷と見まごうばかりだわ。
宿のオーナーからの挨拶の後、部屋へと移動する。
部屋に入り侍女のリーレンが荷ほどきをしてくれている間、私はベッドに倒れ込む。
「お疲れ様です、お嬢様。さすがに体がつらいですよね、こんなに長く移動したのあたしも初めてです」
「そうね、長く馬車に乗るのってこんなにも疲れるものなのね、知らなかったわ」
ベッドに横になると今までの疲れがどっと出て、しばし動けなくなる。
荷ほどきを終えたリーレンが腰や足を揉んでくれたので、少しマシになってきたわ。
「馬車酔いはしなかったけれど、腰痛い……」
馬車での移動が多いとどうしても同じ姿勢で過ごすこととなる。休憩は入れてもらったのだけれど、軽い腰痛がするわ。
「お食事までまだ時間がありますし、その間少し横になっていてはどうでしょうか? 旦那様達にも伝えておきますよ」
「そうね、そうしてもらえるとありがたいわ」
「畏まりました」
リーレンはそう言うと素早く私を楽な服に着替えさせてくれ、お父様達への伝言を別の使用人に依頼する。
「これからが大変になりますから、体調崩さないように無理なさらないでくださいね」
そう言うと横になる私の隣で子守歌まで歌ってくれた。
「リーレン、私もうそんな子供じゃないわよ」
「そう、でしたね。でも、あたしにとってはお嬢様はいつまでもお嬢様ですから」
毛布の上からポンポンとあやされる。
「可愛いお嬢様、入学されても結婚されてもあたしが側におりますよ」
子ども扱いに照れながらも、嬉しい気持ちに包まれる。
「リーレン、ありがとね。いつもそばにいてくれて」
幼い頃からお世話してくれているのだけれど、そっと慰めてくれたり、励ましてくれたり、姉のような存在だ。
「いえ、それがあたしの仕事なので」
そんなそっけない事を言うけれど、頬が赤くなっているところを見ると照れているようだ。
(素直じゃないなぁ)
私も人の事を言えないけれど、気持ちがわかるからそれ以上は言わない。
リーレンに寝かしつけられ、私はいつの間にか夢の世界に旅立っていた。余程疲れていたためか、食事の時間ギリギリまでぐっすりと眠ってしまう。
その為、その日の夜はなかなか寝付くことが出来なくなってしまった。
◇◇◇
翌日はお父様に案内されて王都の観光をする。皆で馬車に乗り、まずはお父様のお店へと向かうことにした。
(そう言えばディフェクト様が、昔王都に来たら案内してくれるって話してくれていたなぁ)
とは言え今日は両親もいるのだから、仕方ないだろう。入学して落ち着いたら改めて案内してもらいたい。
(でもそれってデート……?)
そんな事を考えるが、恐らくイティルラ様も一緒だし、そんな事にはならない気がする。
(でもいつかは二人で出かけたり、手を繋いだり……)
妄想が止まらず、なんだか恥ずかしくなってしまい、思わず俯いてしまう。
こんな事ディフェクト様達に知られたら、恥ずかしいわ。
「大丈夫? エストレア。具合でも悪いかしら?」
心配そうにお母様が覗き込んでくる。
「だ、大丈夫です。ちょっと緊張しちゃって。ほら、王都って初めてですから」
「そうね、お母様も見るのは初めてだわ。ずっとリカオンに話は聞いていたのだけれど、こんなに大きいのね」
私とお母様は馬車の外の景色を堪能する。
色々なお店や大きい建物、通りでは多くの人が行き交っている。
「大きいトラブルもなく着けて本当に良かったです。盗賊に襲われるとか、途中で馬車が壊れてしまう事故もあると聞くし。それを思うと私達運が良かったですよね」
怖い噂を聞いていたので、こうして無事に観光できていることに感謝する。
「リカオンが旅に慣れているから、こんなにも順調に来れたのよね。ありがとう、あなた」
「そうですね。お父様ありがとうございます、無事に着けたのはお父様が色々と準備して下さったお陰ですね」
私とお母様がお礼を言うとお父様は照れくさそうだ。
「エストレアとルミエールの為に頑張った、と言いたいのだが、実は殿下達も協力してくれてね」
「協力?」
「途中で馬車に不具合が生じないように、丈夫な資材を提供してくれたり、護衛を付けてくれたり。検問所もすんなりと通れるように王家の紋が入っている物を貸してくれたりしたんだ」
「そうなんですね」
知らない間に色々と手助けをしてくれていたとは、想像もしてなかったわ。
「殿下達にもお礼を伝えたいですね。お手紙を書かないと」
そう言うとお母様がふふっと笑う。
「エストレア、もうお手紙を書くことはないのですよ。これからあなたは学園でディフェクト様とイティルラ様と共に過ごすのですから」
「あっ、そうでした」
すっかり忘れていたわ。これからはここで過ごしていくんだ。
まだお父様達と一緒だからいまいち実感がわかないけれど、もうすぐ離れて暮らすようになるのよね。
「だから今度はお母様たちに手紙を書いてちょうだい。待ってるからね」
「えぇ、いっぱい書きます。殿下達に送るくらいたくさん」
別れを考えるとじわりと涙が浮かぶけれど、まだ離れるわけじゃないから早すぎる。
ぐっとこらえ、私は笑顔を作る。
「今日は一緒に色々なところを見て回りましょうね、楽しみだわ」
お母様とお父様の手を握り、その熱を確かめる。
二人の手の温もりを忘れないように。
今日はシルバーニュ領を離れ、王都に向かう日だ。
緊張で少ししか眠れなかったけれど、ディフェクト様やイティルラ様に会えることを思うと楽しみでもある。
(新たな生活はどのようなものだろう)
不安と緊張と期待が混ざりあい、手に汗が滲んできた。
「ついにエストレアが家を離れる日が来てしまったわね。学園生活頑張るのよ、何かあったらいつでも帰ってきていいからね」
お母様が私の体を抱きしめる。
「はい。家を離れるのは寂しいけれど、シルバーニュ領に貢献できるよう、頑張って学んできますわ」
私は将来、ディフェクト様と共にこの領を治めなければいけない。
王族であるディフェクト様が婿入りするという事で爵位が上がり、それに伴って領地も増える予定である。
その為にここでは見聞きできない事をたくさん勉強して、他の領の方々と交流を持ってシルバーニュ領を維持できるようにしないといけない。
領の皆に苦労を掛けないように頑張るわ。
「引っ込み思案で大人しいエストレアが学園生活に慣れるかどうか心配ではあるが、ディフェクト様もイティルラ様もいる。きっと大丈夫だろう。それにお父様も王都に行ったときは、顔を出すようにするから。何かあったらすぐ相談するんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
荷物を積み込み、王都に向けての馬車に乗り込む。
王都まで順調にいけば一週間、そんな長く馬車に乗ったこともないし、遠くに行ったこともない。
何事もありませんように。
「余裕をもって王都に着くようにしているから、少し観光もしよう。どこか見たいところはあるかい?」
旅に慣れたお父様が付き添ってくれるのはとても心強いわ。
入学式にはお父様もお母様も出席される予定なので、一緒に王都へと向かう。これからは王都の生活に慣れないといけないのもあるから、お父様がいるうちに色々な事を教えてもらわないと。
(王都の話はたくさん聞いたけれど、実際に見ないとわからない事っていっぱいあるわよね。寮も、どのような生活をするものかしら)
食事は出してもらえるそうだし、侍女を連れていけるから身の回りの事は大丈夫なはずだ。
けれど勝手の違う所だから、トラブルを起こさないように気をつけないと。
馬車に揺られながらの一週間、途中お父様がよく泊まられている宿にお世話になりながら、無事に王都へとたどり着くことが出来た。
「ここが王都……」
検問所を抜けた先には大きい建物が並んでいた。更に進むと大通りに出て、人々が買い物などを行う市場が見える。
「凄い、人がたくさんだわ。それに見たことがないものもいっぱい」
まだお昼を過ぎたばかりで明るいからか、通りには歩く人が大勢見える。
「疲れているだろうから、今日は宿でゆっくりして明日改めて出かけよう。エストレアのウールドールを出しているお店にも案内するよ」
「うん、早く行ってみたいな」
話には聞いているけれど、どんなお店か気になるわ。他の人が作ったウールドールも扱っているそうなので、それもぜひ見てみたい。
なかなかそういう機会がなかったので、楽しみ過ぎる。
検問所から少し走り、ようやく目的の宿へと着いた。
(さすが王都、立派な宿だわ)
それまでの宿も悪くはなかったのだけれど、王都の建物は別格であった。
綺麗で広く、調度品も豪華なものばかり。 壁画もとても素敵で、貴族の屋敷と見まごうばかりだわ。
宿のオーナーからの挨拶の後、部屋へと移動する。
部屋に入り侍女のリーレンが荷ほどきをしてくれている間、私はベッドに倒れ込む。
「お疲れ様です、お嬢様。さすがに体がつらいですよね、こんなに長く移動したのあたしも初めてです」
「そうね、長く馬車に乗るのってこんなにも疲れるものなのね、知らなかったわ」
ベッドに横になると今までの疲れがどっと出て、しばし動けなくなる。
荷ほどきを終えたリーレンが腰や足を揉んでくれたので、少しマシになってきたわ。
「馬車酔いはしなかったけれど、腰痛い……」
馬車での移動が多いとどうしても同じ姿勢で過ごすこととなる。休憩は入れてもらったのだけれど、軽い腰痛がするわ。
「お食事までまだ時間がありますし、その間少し横になっていてはどうでしょうか? 旦那様達にも伝えておきますよ」
「そうね、そうしてもらえるとありがたいわ」
「畏まりました」
リーレンはそう言うと素早く私を楽な服に着替えさせてくれ、お父様達への伝言を別の使用人に依頼する。
「これからが大変になりますから、体調崩さないように無理なさらないでくださいね」
そう言うと横になる私の隣で子守歌まで歌ってくれた。
「リーレン、私もうそんな子供じゃないわよ」
「そう、でしたね。でも、あたしにとってはお嬢様はいつまでもお嬢様ですから」
毛布の上からポンポンとあやされる。
「可愛いお嬢様、入学されても結婚されてもあたしが側におりますよ」
子ども扱いに照れながらも、嬉しい気持ちに包まれる。
「リーレン、ありがとね。いつもそばにいてくれて」
幼い頃からお世話してくれているのだけれど、そっと慰めてくれたり、励ましてくれたり、姉のような存在だ。
「いえ、それがあたしの仕事なので」
そんなそっけない事を言うけれど、頬が赤くなっているところを見ると照れているようだ。
(素直じゃないなぁ)
私も人の事を言えないけれど、気持ちがわかるからそれ以上は言わない。
リーレンに寝かしつけられ、私はいつの間にか夢の世界に旅立っていた。余程疲れていたためか、食事の時間ギリギリまでぐっすりと眠ってしまう。
その為、その日の夜はなかなか寝付くことが出来なくなってしまった。
◇◇◇
翌日はお父様に案内されて王都の観光をする。皆で馬車に乗り、まずはお父様のお店へと向かうことにした。
(そう言えばディフェクト様が、昔王都に来たら案内してくれるって話してくれていたなぁ)
とは言え今日は両親もいるのだから、仕方ないだろう。入学して落ち着いたら改めて案内してもらいたい。
(でもそれってデート……?)
そんな事を考えるが、恐らくイティルラ様も一緒だし、そんな事にはならない気がする。
(でもいつかは二人で出かけたり、手を繋いだり……)
妄想が止まらず、なんだか恥ずかしくなってしまい、思わず俯いてしまう。
こんな事ディフェクト様達に知られたら、恥ずかしいわ。
「大丈夫? エストレア。具合でも悪いかしら?」
心配そうにお母様が覗き込んでくる。
「だ、大丈夫です。ちょっと緊張しちゃって。ほら、王都って初めてですから」
「そうね、お母様も見るのは初めてだわ。ずっとリカオンに話は聞いていたのだけれど、こんなに大きいのね」
私とお母様は馬車の外の景色を堪能する。
色々なお店や大きい建物、通りでは多くの人が行き交っている。
「大きいトラブルもなく着けて本当に良かったです。盗賊に襲われるとか、途中で馬車が壊れてしまう事故もあると聞くし。それを思うと私達運が良かったですよね」
怖い噂を聞いていたので、こうして無事に観光できていることに感謝する。
「リカオンが旅に慣れているから、こんなにも順調に来れたのよね。ありがとう、あなた」
「そうですね。お父様ありがとうございます、無事に着けたのはお父様が色々と準備して下さったお陰ですね」
私とお母様がお礼を言うとお父様は照れくさそうだ。
「エストレアとルミエールの為に頑張った、と言いたいのだが、実は殿下達も協力してくれてね」
「協力?」
「途中で馬車に不具合が生じないように、丈夫な資材を提供してくれたり、護衛を付けてくれたり。検問所もすんなりと通れるように王家の紋が入っている物を貸してくれたりしたんだ」
「そうなんですね」
知らない間に色々と手助けをしてくれていたとは、想像もしてなかったわ。
「殿下達にもお礼を伝えたいですね。お手紙を書かないと」
そう言うとお母様がふふっと笑う。
「エストレア、もうお手紙を書くことはないのですよ。これからあなたは学園でディフェクト様とイティルラ様と共に過ごすのですから」
「あっ、そうでした」
すっかり忘れていたわ。これからはここで過ごしていくんだ。
まだお父様達と一緒だからいまいち実感がわかないけれど、もうすぐ離れて暮らすようになるのよね。
「だから今度はお母様たちに手紙を書いてちょうだい。待ってるからね」
「えぇ、いっぱい書きます。殿下達に送るくらいたくさん」
別れを考えるとじわりと涙が浮かぶけれど、まだ離れるわけじゃないから早すぎる。
ぐっとこらえ、私は笑顔を作る。
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