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閑話 出会いの記録Sideディフェクト
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愛しいエストレア。
僕達を救ってくれた彼女、きっかけは一つのウールドールであった。
愛猫を亡くして落ち込んでいた僕とイティルラの元に、偶然にもエストレアのウールドールが舞い込む。
その子を連れて来てくれたのはイティルラの侍女である、フラウラだ。
「通りに新しいお店が出来ていたんです、たまたま寄ったらそこにチェリちゃんにそっくりなウールドールがありまして。思わず購入しちゃいました」
まるで愛猫がそのまま人形になったかのような、可愛らしいウールドール。ふわふわな手触りに涙が零れる。
王都のとある店で不定期で出されているというのだが、その子のお陰で妹も元気を取り戻したし、僕もそのドールを見て落ち込んでばかりは言われないと奮い立った。
悲しみがすぐに癒えるわけではないけれど、新たな心の支えになる。
柔らかい手触りに、キラキラした目。縒れもなく、とても丁寧に作り込まれていて、あるはずのない温もりが感じられた。
それは後に気のせいではなかったのだと知ったけれど。
「そんなに泣くものじゃにゃいよ」
突如話し出したウールドールに僕とイティルラは驚いてしまった。
一体なぜ? どうして?
「二人が泣いているから成仏出来なかったにゃ。だから戻ってきただけにゃよ」
事も無げにいうけれど、最初は何か怪しい呪物化と思ってしまった。けれどその後チェリしか知らない事を話すものだから、本当にチェリなのだと信じることになった。
「ディフェクトはカエルが苦手にゃのよね。昔お土産にと渡したら泣き出しちゃって、おもらしまで……」
「そういう話は誰にも言わないでね」
そうチェリと約束したけれど、本当に守ってくれるのか……何せ元が猫だから、とても気まぐれなのだ。
(それにしても一体どういう事なんだろう)
こんな喋るウールドールを作ったのが誰なのか、非常に興味がわいた。
店の者に聞くと作成者は教えられないと言われてしまったので、こっそり調べることにした。
そもそも話すウールドールなんて知られたら話題になりそうなのに、全く話を聞かない。その点も不思議だ。
店はシルバーニュ伯爵のものというのはすぐに調べが付いた。その後店に運び入れる商品がどこからの物なのか調査を命ずる。すると他のアクセサリーと違って、ウールドールだけはシルバーニュ領から持ち込まれている事が発覚した。
(てっきり王都のウールドール職人の物かと思ったのだが、違ったか)
馬車の尾行を命じて、ウールドール職人と接触するところを押さえようとしたのだけれど、どうにも該当する人物が見つからない。
けれど元となるウールを大量に購入している人物を調べ上げることは出来た。
その人物はなんとシルバーニュ伯爵であった。
伯爵はとても商売上手で、他の領や他国に買い付けや商談をしに行くという話は聞いている。なのでその時に職人にウールを渡すのかと思ったのだけれど、大量のウールが運ばれる気配はない。
(もしかして伯爵家で作られているのか)
案の定伯爵家にて作られていたのだが、その作成者はシルバーニュ伯爵の息女、エストレアだというではないか。
「エストレア嬢が? 本当に?」
その情報を聞いた時は疑ってしまった。だってエストレア嬢と言えば、良くない噂が流れていたからだ。
(伯爵家の子息とお見合いをしたのだが、その子息にひどい罵倒を浴びせたと聞いていたな)
引きこもりでお菓子ばかり食べている為、とても太っていると市井の噂が回っているのを覚えている。その不摂生によって容姿も醜いのだという話だ。
そしてひどい癇癪持ちの為、お見合いに来た令息を口汚く罵る、短気で人の気持ちも考えない性格も最悪な者だと。
けれどあのウールドールを見るにそのようには思えない。あのように精巧に作るのには根気と努力が必要だろう。
本当に短気で粗野なら、ウールドールなどの細かいものをこんなに作ったり、定期的に店に卸したりなど、まめな事ができるだろうか?
お見合いの件以降外に出ないというのもおかしな話だ。
「そんな傍若無人な振る舞いをするものが、何故引きこもる?」
伯爵令嬢という身分を笠に着て好き勝手しそうなものだけれど。
しかもおかしなことにシルバーニュ領民やシルバーニュ伯爵家で働いていたという者達の中では、エストレアを悪く言うものはいなかった。
それどころかエストレアがお見合いでひどく傷つけられて、シルバーニュ伯爵が激しく憤っているという話の方が有名だ。
「エストレアはとても良い子だにゃ。あたち達の事を大切にしてくれるし、優しくしいし、いつも甘くて良い匂いがするのにゃ」
僕とイティルラはチェリの言葉を聞いて確信する。
エストレアは噂にあるような、ひどい女性ではないと。
「実際に会ってみたいわ。どんな女性なのかしら、チェリが言うのだから、とても素敵なのよね」
僕達はシルバーニュ伯爵家に手紙を出し、ウールドールのおかげで励まされた事、そしてウールドールの作成者、エストレアに会いたい旨を書く。
伯爵から帰ってきたのは作成者に会う事はできないけれど、代わりにお礼を伝えておくという内容であった。
会わせたくない事情があるのか、そっけないものだ。
けれど逆に興味がわく。これが他の貴族であれば僕達とのつながりを作りたいと飛びつくだろうに、シルバーニュ伯爵はそうではない。
その謙虚さ、そしてそこまで伯爵が大事にしている令嬢が気になる。ここで引いたらこの話はうやむやにされてしまうだろう。それは避けたい。
僕自身非常にエストレア嬢に興味がある、いわば恩人なのだから。
お触れを出すようなことはしたくない、作成者の事は決して外に漏らさないからぜひとも教えて欲しいと頼むと、渋々ながら了承してくれた。
多少脅しめいた言い方になってしまったが仕方ないだろう。
隠されれば知りたくなる、それが人間だ。
伯爵はウールドールを作ったのは娘だけれど、それを公開するつもりはないと話してくれた。
「娘はお見合いに来た男にひどい事を言われ、それで誰とも会いたくないと屋敷にこもるようになったのです。私が結婚は早い方が良いと、よく知らない男をすすめたばかりに……ですから出来れば会いに来るのは止めて頂きたい、これ以上娘に負担を掛けさせたくないのです」
伯爵の話に心が痛む。家にひきこもる事情とはそういう事であったか。
「心中お察しいたします。大事な人が傷つけられたのなら、それ以上負担をかけたくないと思うのはもっともな事。でも僕たちはそれでもエストレア嬢の友人になりたいのです。僕も妹もエストレア嬢と仲良くなりたい」
そうして半ば強引に会う約束を取り付けたのだけれど、会って良かったと心底思えた。
ピンクゴールドの毛はふわふわで可愛らしく、容姿も確かにぽっちゃりではあるが、マシュマロのように柔らかそうで醜いなんて思わなかった。
緑色の目は宝石のように澄んでいるし、たっぷりのレースがあしらわれたドレスもとても似合っている。
ぬいぐるみの様な愛くるしさに僕はひと目で虜になった。
シルバーニュ領から帰るのが本当に名残惜しく、なかなか会えないのならばせめて手紙をと、妹と共に文通を始める事となった。
エストレアの作るウールドールはいつ見ても素晴らしい事、色々な人に宣伝していること、王都で見つけた綺麗なビーズやリボンをぜひ作品に役立ててほしいとプレゼントを贈ったこともある。
するとエストレアからそれらを使ったウールドールが届き、妹と共に歓喜の声をあげたものだ。
可愛らしいそのドールを見て、僕達はエストレア嬢から届いた作品を飾る棚をそれぞれ自室に作らせたほどである。
「早く会いたい……」
そんな思いが募り、ついには婚約にこぎつける。
他の女性とは違うエストレアを独り占めしたくて。
僕達を救ってくれた彼女、きっかけは一つのウールドールであった。
愛猫を亡くして落ち込んでいた僕とイティルラの元に、偶然にもエストレアのウールドールが舞い込む。
その子を連れて来てくれたのはイティルラの侍女である、フラウラだ。
「通りに新しいお店が出来ていたんです、たまたま寄ったらそこにチェリちゃんにそっくりなウールドールがありまして。思わず購入しちゃいました」
まるで愛猫がそのまま人形になったかのような、可愛らしいウールドール。ふわふわな手触りに涙が零れる。
王都のとある店で不定期で出されているというのだが、その子のお陰で妹も元気を取り戻したし、僕もそのドールを見て落ち込んでばかりは言われないと奮い立った。
悲しみがすぐに癒えるわけではないけれど、新たな心の支えになる。
柔らかい手触りに、キラキラした目。縒れもなく、とても丁寧に作り込まれていて、あるはずのない温もりが感じられた。
それは後に気のせいではなかったのだと知ったけれど。
「そんなに泣くものじゃにゃいよ」
突如話し出したウールドールに僕とイティルラは驚いてしまった。
一体なぜ? どうして?
「二人が泣いているから成仏出来なかったにゃ。だから戻ってきただけにゃよ」
事も無げにいうけれど、最初は何か怪しい呪物化と思ってしまった。けれどその後チェリしか知らない事を話すものだから、本当にチェリなのだと信じることになった。
「ディフェクトはカエルが苦手にゃのよね。昔お土産にと渡したら泣き出しちゃって、おもらしまで……」
「そういう話は誰にも言わないでね」
そうチェリと約束したけれど、本当に守ってくれるのか……何せ元が猫だから、とても気まぐれなのだ。
(それにしても一体どういう事なんだろう)
こんな喋るウールドールを作ったのが誰なのか、非常に興味がわいた。
店の者に聞くと作成者は教えられないと言われてしまったので、こっそり調べることにした。
そもそも話すウールドールなんて知られたら話題になりそうなのに、全く話を聞かない。その点も不思議だ。
店はシルバーニュ伯爵のものというのはすぐに調べが付いた。その後店に運び入れる商品がどこからの物なのか調査を命ずる。すると他のアクセサリーと違って、ウールドールだけはシルバーニュ領から持ち込まれている事が発覚した。
(てっきり王都のウールドール職人の物かと思ったのだが、違ったか)
馬車の尾行を命じて、ウールドール職人と接触するところを押さえようとしたのだけれど、どうにも該当する人物が見つからない。
けれど元となるウールを大量に購入している人物を調べ上げることは出来た。
その人物はなんとシルバーニュ伯爵であった。
伯爵はとても商売上手で、他の領や他国に買い付けや商談をしに行くという話は聞いている。なのでその時に職人にウールを渡すのかと思ったのだけれど、大量のウールが運ばれる気配はない。
(もしかして伯爵家で作られているのか)
案の定伯爵家にて作られていたのだが、その作成者はシルバーニュ伯爵の息女、エストレアだというではないか。
「エストレア嬢が? 本当に?」
その情報を聞いた時は疑ってしまった。だってエストレア嬢と言えば、良くない噂が流れていたからだ。
(伯爵家の子息とお見合いをしたのだが、その子息にひどい罵倒を浴びせたと聞いていたな)
引きこもりでお菓子ばかり食べている為、とても太っていると市井の噂が回っているのを覚えている。その不摂生によって容姿も醜いのだという話だ。
そしてひどい癇癪持ちの為、お見合いに来た令息を口汚く罵る、短気で人の気持ちも考えない性格も最悪な者だと。
けれどあのウールドールを見るにそのようには思えない。あのように精巧に作るのには根気と努力が必要だろう。
本当に短気で粗野なら、ウールドールなどの細かいものをこんなに作ったり、定期的に店に卸したりなど、まめな事ができるだろうか?
お見合いの件以降外に出ないというのもおかしな話だ。
「そんな傍若無人な振る舞いをするものが、何故引きこもる?」
伯爵令嬢という身分を笠に着て好き勝手しそうなものだけれど。
しかもおかしなことにシルバーニュ領民やシルバーニュ伯爵家で働いていたという者達の中では、エストレアを悪く言うものはいなかった。
それどころかエストレアがお見合いでひどく傷つけられて、シルバーニュ伯爵が激しく憤っているという話の方が有名だ。
「エストレアはとても良い子だにゃ。あたち達の事を大切にしてくれるし、優しくしいし、いつも甘くて良い匂いがするのにゃ」
僕とイティルラはチェリの言葉を聞いて確信する。
エストレアは噂にあるような、ひどい女性ではないと。
「実際に会ってみたいわ。どんな女性なのかしら、チェリが言うのだから、とても素敵なのよね」
僕達はシルバーニュ伯爵家に手紙を出し、ウールドールのおかげで励まされた事、そしてウールドールの作成者、エストレアに会いたい旨を書く。
伯爵から帰ってきたのは作成者に会う事はできないけれど、代わりにお礼を伝えておくという内容であった。
会わせたくない事情があるのか、そっけないものだ。
けれど逆に興味がわく。これが他の貴族であれば僕達とのつながりを作りたいと飛びつくだろうに、シルバーニュ伯爵はそうではない。
その謙虚さ、そしてそこまで伯爵が大事にしている令嬢が気になる。ここで引いたらこの話はうやむやにされてしまうだろう。それは避けたい。
僕自身非常にエストレア嬢に興味がある、いわば恩人なのだから。
お触れを出すようなことはしたくない、作成者の事は決して外に漏らさないからぜひとも教えて欲しいと頼むと、渋々ながら了承してくれた。
多少脅しめいた言い方になってしまったが仕方ないだろう。
隠されれば知りたくなる、それが人間だ。
伯爵はウールドールを作ったのは娘だけれど、それを公開するつもりはないと話してくれた。
「娘はお見合いに来た男にひどい事を言われ、それで誰とも会いたくないと屋敷にこもるようになったのです。私が結婚は早い方が良いと、よく知らない男をすすめたばかりに……ですから出来れば会いに来るのは止めて頂きたい、これ以上娘に負担を掛けさせたくないのです」
伯爵の話に心が痛む。家にひきこもる事情とはそういう事であったか。
「心中お察しいたします。大事な人が傷つけられたのなら、それ以上負担をかけたくないと思うのはもっともな事。でも僕たちはそれでもエストレア嬢の友人になりたいのです。僕も妹もエストレア嬢と仲良くなりたい」
そうして半ば強引に会う約束を取り付けたのだけれど、会って良かったと心底思えた。
ピンクゴールドの毛はふわふわで可愛らしく、容姿も確かにぽっちゃりではあるが、マシュマロのように柔らかそうで醜いなんて思わなかった。
緑色の目は宝石のように澄んでいるし、たっぷりのレースがあしらわれたドレスもとても似合っている。
ぬいぐるみの様な愛くるしさに僕はひと目で虜になった。
シルバーニュ領から帰るのが本当に名残惜しく、なかなか会えないのならばせめて手紙をと、妹と共に文通を始める事となった。
エストレアの作るウールドールはいつ見ても素晴らしい事、色々な人に宣伝していること、王都で見つけた綺麗なビーズやリボンをぜひ作品に役立ててほしいとプレゼントを贈ったこともある。
するとエストレアからそれらを使ったウールドールが届き、妹と共に歓喜の声をあげたものだ。
可愛らしいそのドールを見て、僕達はエストレア嬢から届いた作品を飾る棚をそれぞれ自室に作らせたほどである。
「早く会いたい……」
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