絶対零度の悪役令嬢

序章

慣れとは恐ろしいもの

 「お嬢様、本日のスケジュールは午前中に歴史・マナーの授業、午後にダンスと魔法実演の授業でございます。」


「ありがとう、サリ」


髪をセットしてもらいつつ、侍女のサリに一日のスケジュールを確認する。

記憶が戻ってから、私は全てのことに真面目に取り組んだ。没落しても生きていけるような職も視野に入れている。家庭教師、町の売り子などが今の所の有力候補だろう。


癖のないサラサラの金髪を、首の後ろで一本にまとめてもらう。髪の長さから、アレンジは多様なのだが、魔法実演など身体を動かす際にはこの髪型である。

動きやすいのも含め、前世と同じ髪型で落ち着くというのも本音だ。


「お嬢様、先生がいらっしゃいました」


「先に部屋へ、案内してもらえますか」


「かしこまりました」


とはいっても、こちらも後は軽く化粧するだけ。すぐに授業に入れるだろう。


自分の周りで侍女が世話をしてくれるし。正直、やろうと思えば一人でもできると思うんだけどね…。ドレス着るのは難しそうだけど。

最初は慣れなかったが、「私は着せ替え人形着せ替え人形…」と心の中で復唱してどうにか今に至る。


リカちゃん人形の気持ちが初めて分かったかもしれない。


 準備が整い、鏡で自分の姿をチェックする。うん、今日もバッチリです侍女の方々。本当に毎日有難い。

鏡に映った女の子はキリッとした眼差しで、こちらを見つめ返す。我ながら良い素材を持っていて良かった。ドレスが似合わないなんて、公爵令嬢としてやっていける気がしないし。



よし、今日も詰め込むぞ！



軽く拳を握り、午前の授業に向かう。その後ろ姿を侍女や使用人は優しげに見つめていた。