絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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2.さらなる出会い

不思議な少年

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「おぅ、らっしゃい!」



店に入ると、恰幅の良いおじさんが元気良く声をかけてくれる。それに笑顔で応えながら、お話ができないか頼んでみる。


「お忙しい中失礼します。あの、宜しければこのあたりでどういったものが人気なのかお聞きしたいのですが」



「ん?お嬢ちゃん、このあたりのもんじゃないのか」



いきなりこんなことを聞くのは無礼だし、不快感を与えてしまっただろうか。それか、よそ者だと警戒されたか。無理もない。



下手に隠しても仕方ないので、帽子を取り頭を下げる。


「今はこのような身なりですが、私は貴族の娘です。広い視野を持ち、いずれは人々の役に立つ商品をお届けしたいと思っているのですが、私には皆さんが必要とするものへの理解が不十分です。なので、それを知りたいと…」



「はははは!小さいお嬢ちゃんだが、しっかりしてるじゃねぇかい。いいぞ、聞きたいことはおじさんが教えよう」



頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。撫でるというより、頭を鷲掴みされた気分だ。この人は貴族に対してあまり警戒がないようで良かった。遠慮が無さすぎて逆に心配になるほどだ。



「そうだなぁ、ここらじゃあ飯か洗濯物に関するもんがよく売れるかなぁ」



特に、洗濯板と石鹸だとおじさんは言う。雨が降った時は部屋干ししかないが、なかなか乾かなくて困るそうだ。そうしたことを聞きながら、私は売れそうな便利アイテムを頭の中で組み立ていく。


前世の主婦のお助けアイテム、洗濯機的なものが作れたら良い。もしくは、部屋干しの際に使える乾燥機に代わる物を考えようか。



店主のおじさんの話に真剣に頷き、考え込む私だったが、チリンという扉の音に意識を引き戻される。別のお客さんが来た?あまり長話しては商売の邪魔になるかもしれない。


そう思って、店主へお礼を言い、サリが来るまで店の中を見回ることにした。




「なァ、おっさんと何話してたんだ?」




っ、ぎゃあぁぁぁぁぁあああ!!


後ろから急に肩を叩かれて、心の中で悲鳴を上げる。び、びっくりした…。口から出なくて良かった。可愛らしさをどこかへぶん投げた悲鳴だ、聞かれるわけにはいかんだろう。今度から「きゃあ!」と言う訓練をしておこう。




「…驚かせないで下さい。ただの商売戦略のためのお話です」


私の心をびくつかせた相手は誰だ!と軽く睨むと、そこにいたのは黒髪褐色の肌の少年だった。


「驚く…?全然驚いたように見えねぇけど」


それは、私の実力がなすところであります。ポーカーフェイスの能力が一番の特技になってきたぞ。



それにしても、見た目と話し方の訛り…。この少年もまた、生まれはここではないのかもしれない。



「商売ィ?あんたが?あんた、町娘にしちゃ毛色違うし…」



あっ、帽子外したままだった。今から被り直すのも不自然だしなぁ、もう持っとこう。帰りに被ればいいや。


「確かに、私は町娘じゃないわ。けれど、あなたには関係無いので放っておいて下さる?」



…動揺が口調に移って砕けた感じになってしまった。しかし、目の前の少年はニヤリと笑って満足気だった。え、何、怖い。



「そっちの喋り方のがいいな。俺の名はシエル。お前は?」



あれっ、さっき突き放したはずなんだけど、この少年無かったことにしている。グイグイくるな…。名乗らせておいて、無視するのも居心地悪い、仕方ない。



「………ティーヌ。この名で満足?」



初めて会うのに、愛称で呼ばせるのもどうかと思ったので、これでいこう。本名にかすってるから、セーフだろう。恐らく、相手もそこらへんの事情は分かってくれるはず。



「ん。ティーヌ、良い響きだ。」



大丈夫のようだ。どさくさに紛れて褒められた。率直な褒め言葉に少し照れる。



「あ、今少し照れた?」


訂正、照れてなどおらん。一瞬の気の迷いだ。そういうノリには慣れていないから苦手なのよね…。


照れてるわけないでしょ、という意味を込めて相手の、シエルの目を見返す。シエルの目は、よく見ると左右で色が異なっていた。右目は海の底のような青色、左目はより濃いダークブルーで、光の加減によってその色彩を変える。



「あなたの目…」



私の意味することに気づいたのか、シエルが乾いた笑みを浮かべる。さり気なく、片目を手で覆う。


「…悪いもん見せちまったな」


「なぜ?あなたの目、とても神秘的で綺麗」


オッドアイは、厨二病には憧れでしかないよねっ!と熱く語っていた田中を思い浮かべる。憧れとまではいかないが、私も綺麗だと思うと返していた。


それこそ、物語やゲームの世界の住人を連想させるので、ワクワクするとも言える。


「だから隠さないで。他の人がどう思うかなんて知らない。私は綺麗だと思った、それだけ」




「…ふ、はは…。あんた、ほんっと変わってんなァ。そんなこと言うやつ初めてだよ」




シエルはすぐに驚いた顔から、笑顔を浮かべた。



「あ、そうそう。私貴族以外の友人が欲しいんだけど…。シエル、どうかな?」



「謹んでお受け致します、我が姫君」
 


シエルが芝居がかった口調で、返事をする。
二人で顔を見合わせて、私達は同時に吹き出した。今日ここに来て良かった。市場調査ができたばかりか、貴重な友人も出来たのだから。



シエルはサリが来る前に、「じゃ、またな」と手を振って店を出て行った。そういえば、彼はここに何かを買いに来たのではないのだろうか?結局、私と話しただけだったけど…邪魔したのなら悪かったな。



彼には私の声が聞こえるようにした、通信機を渡してある。後で謝っておくべきか。



「お嬢様、大変お待たせいたしました!」



しばらくしてサリが、袋を片手にドアを開く。私はそれを見て、美味しいお土産を買っていたことも思い出した。楽しげな私を見て、サリは店主と話が弾んだのだと思ったようだ。それも間違いではないけど…シエルという秘密の友人を得たことで私は珍しく浮き足立っていた。
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