絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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3.体験入学へ

誘導尋問はお得意ですか?

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馬車の中から過ぎ去る街並みを見ながら、クリスティーヌと悪魔を乗せた馬車は走り続ける。風景を見ているのも楽しいが、途中から田園の景色に変わり、ひたすらそれを眺めるのは退屈である。


そして、この馬車にはもう一人乗車している。それは、護衛役として付けられた青年である。馬車に乗り込む前に、あまりの怪しさに失礼なことをしてしまった。そこで、改めて非礼を詫びると共に、少しでも彼のことを知ろうと、馬車に同乗してもらった。


初めは身分を気にしてか、彼は同じ馬車に乗ることを躊躇っていたが、めんどくさいので無理矢理座らせた。今は申し訳なさそうに、座席の端にかろうじて座っている。…ドアが開いた時に落ちそうでヒヤヒヤする。


彼は普段、私を陰から護衛していたようで、今回初めてそれを知った。名前を聞いてみたのだが、彼は口元のマスクを(これ以上上がらないだろうに)無理に引き上げて黙秘を主張した。


しかし、名前がないと困るので勝手に付けさせてもらうことにした。



命名、グレイ。



理由、髪の毛が灰色だから、以上である。簡潔こそ正義だ。グレイは無言だったが、マスクの位置は変わらなかった。うん、大丈夫ということだろう。


この通り、グレイは基本喋らない。何かあれば反応を見せるが、それくらいだ。よって、冒頭に戻る。つまり、暇だということだ。


セパルも随分と大人しい。あ、そう言えば陰から護衛って、セパルのことバレているのでは…。まさかの伏兵が潜んでいた。



「…グレイ。あなた、私が召喚魔術を使っていた際はどちらに?」



恐る恐る聞いてみると、グレイはピクリと身じろぎする。暫く意味を考えたような沈黙、そして頷きながら、親指を立てる。



?何が言いたいんだろう、この人…。誰か、誰か通訳を呼ばないと。セパルとは違う意味で意思疎通が難しい。聞き方を変えてみよう。はい、いいえで答えられるような聞き方なら分かるはずだ。


「私が召喚魔術を使った姿、見ましたか?」


私が咎めるような目でグレイに問いかけると、彼は大きく肩を揺らした。あっ、当たりだこれ。この人見ちゃったんだやっぱり。意外と分かりやすいところもあった…。しかし、ここはしかと口止めしておかねばなるまい。



「それを誰かに言いましたか?」



グレイはマスクをグイグイ引っ張る。これは大事なことなので、私も食い下がる。馬車に乗る中、ジリジリとグレイとの距離を詰め、向かい側に座るグレイの元へ中腰で近づく。

グレイは元々端に座っているため、これ以上逃げ場はない。恐らく、「動いては危ない」と言うべきか、「ち、近付かないでくれ」と拒否してもいいか判断に迷っているのだろう。

慌ててボードを手に取り、オロオロし始めたグレイに手っ取り早くトドメを刺す。




「どうしましょう。このままだと私、グレイに乱暴されたことにしてしまいそう…」




悩ましげな溜息をつき、グレイの手を握る。そこから、彼の顔を見上げたその瞬間、バッとグレイは立ち上がった。




ゴンッッ!



当然彼は馬車の天井に頭をぶつけていた。物凄く痛そうな音だが、大丈夫だろうか…。
馬車では立ってはいけない。しかも、身体の大きな人は特に。

大きな物音に、前方で馬の手網を握る御者が心配して声をかけてくる。あなたのせいじゃないので、気にしないで下さい。主に、私のせいなので。




「…………………………。」



無言で座り直したグレイに同じ質問を繰り返すと、彼は力なく首を振った。何か、苛めてしまってごめんなさい。でも、本当に私にとって大事なことだから許して下さい!



「では、その事は誰にも言わないで下さい」


これが言いたかった。グレイはそれに対して私に背を向けたまま、コクリと頷いた。



グレイの好感度を失った気はするけど、プライバシーのため、普通の令嬢でいるためには仕方の無いことである。


そんなこんなで、魔法学園への道のりはもう少しになった。
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