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3.体験入学へ
険悪な組み合わせ
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お昼を黙々と食べ、暫く校内の来た道を巡りながら、私達は入学者担当の先生の元へ戻る。そして、入試課と書かれたプレートがかかる扉をノックする。
ガチャリと扉が音を立てて開かれ、そこから先生が顔を覗かせた。
「おや、早かったですね。まだ少し時間がありますが…こちらの部屋で待機してもらってもいいですか?」
早いかもとは思っていたので、すぐにそれを了承した。学食へ行く際、迷ってしまったので遅刻しないよう早めに動いたのだが、杞憂に終わったようだ。
グレイと私は礼をして、室内に入れてもらう。部屋にはガラスのテーブルが中央に置いてあり、それを挟むようにして、大きなソファーがある。そして、壁際の棚には、パンフレットなどが品よく立てかけられていた。
ソファーに座るよう勧められたので、ゆっくり腰掛けると、柔らかな感触が伝わって来る。
間違いない、高級品である。
入試課といっても、こちらは入試に関わる相談ブースのような部屋らしい。事務処理を行う部屋はこことは別に、部屋の奥のドアの先にある。
そもそも、この学園における入試とは?貴族にとっては、十五歳を迎える頃に入学するのが当たり前で、詳しいことは知らない。
今更だが、入試を受けたことがないことに気付き、先生にそれを尋ねる。その答えを含めて、入試課の仕事や貴族の入学方法について教えてもらう。
話によれば、主に平民の魔力を測り、入学者のデータを整理するのが入試課の仕事だと先生は説明してくれた。また、私を含む貴族は、大体家庭教師が付いているので、彼らから基本的な能力の申告が届き、受理されるのだ。家庭教師が嘘を言ったらどうするんだと思ったが、そこは貴族優先のなごりだろう。
平民にも門戸を開くこの魔法学園でも、元々は貴族のための学校だった。その歴史は古く、平民が入学を許可されるようになったのは、ここ最近のことらしい。そのためか、平民と言ってもよっぽど魔力の強い者しか入学は許されない。頭が良いだけでは駄目なのである。ヒロインはその選ばれた者の一人というわけだ。
「あぁ、そうそう。今日は後からもう一人見学者が来るそうだから、その子とは教室の方で合流します」
「案内しなくてもよろしいのですか?」
迷子という名の、第二の被害者が生まれるのではないか?この学園は、初心者に全然優しくない作りをしている。決して、私が方向音痴な訳ではない。私が心配していると、初老の先生は人好きのする笑顔を浮かべた。
「心配することはないですよ。あの子は何回か学園に来たことがありますし、本人からも案内はいらないと言われていますからね」
何と、経験者であったか。そうか、見学が一度だけとは誰も言っていない。ただ、その子がどこから来ているかを抜きにしても、熱心な子だ。
感心していると、そろそろ時間が近付いてきたようで先生が時計に目を向けた。時計の針は元々指定されていた時間の五分前を指している。
こうして、私達は入試課の部屋を出て、一年生の学習棟へと歩き始めた。
…………
しばらくして、目的のクラスに着いた。そのクラスの窓から、次の授業の用意をする学生達の姿を窺うことが出来る。
そして、先生の言っていた「もう一人」らしき子も既にクラスの後方のドアの前に立っていた。
スラリとした身長で、眼鏡を掛けた男子だ。茶髪の天然パーマで、その立ち姿はモデルのようだった。その子とか気軽に呼べる雰囲気ではない。彼は私達に気付き、スッと近付いてきた。
「どうも。君が見学者?見学中に話しかけたりしないでよね」
えー…。
ツンだ、純度100%のツンである。初めて会ったというのに、この言い草だ。心配せずとも、授業の見学中に話などしない。グレイは無口だし。セパルは喋るかもしれないが、どうせ彼には聞こえない。
「……………」
私が呆気に取られている後ろで、グレイがカチャリと何かを取り出そうとしている。よく見ると、衣服の陰から鈍く光るナイフが多数見えた。ナイフを握るグレイの目は、あの少年をロックオンしているようだ。
いや、彼はただの少年だから、そんな仇を見るような目するな。
慌ててグレイの手を押さえ、ナイフを隠すように伝えるが、グレイは眉をしかめた。
「何で殺らないの?殺った方がいい」とでも言いたげだ。物騒だから早くしまえ。おまけに、セパルも聞こえないことをいいことに、グレイを煽っている。勘弁して。
コソコソしていると、先生と少年も変に思ったのだろう。
「どうかしましたか?」
それから、お腹でも痛いのですか?と続けて来た。お腹は痛くないが、頭なら痛い。
「…イエ、何でもございません…」
純粋に心配してくれた人に、連れがナイフを取り出して少年を殺ろうとしてましたとは、口が裂けても言えない。
私達の謎の攻防に、少年は迷惑そうな顔をした。君の言動が原因なのだが。
私達が勝手に険悪なムードになる中、何も知らない先生が教室から離れていく。待って、どこへ行くの?この空気の中、あなたがいなくなってどうする!
「じゃ、あと数分で始まるから教室へどうぞ。見学後はまた自由行動でいいですからね。私はその間入試課へ戻っていますので、ゆっくりどうぞ。」
まぁね、先生まで一緒に見学する必要ないしね。仕事もあるだろうし。ただ、ここで先生がいなくなるとは…。チラリとグレイを見ると、「チャンスが来た」とばかりに、手を衣服の隠しポケットへ突っ込んでいる。
だから、止めろって。
無情にも、先生は教室を去っていった。
ガチャリと扉が音を立てて開かれ、そこから先生が顔を覗かせた。
「おや、早かったですね。まだ少し時間がありますが…こちらの部屋で待機してもらってもいいですか?」
早いかもとは思っていたので、すぐにそれを了承した。学食へ行く際、迷ってしまったので遅刻しないよう早めに動いたのだが、杞憂に終わったようだ。
グレイと私は礼をして、室内に入れてもらう。部屋にはガラスのテーブルが中央に置いてあり、それを挟むようにして、大きなソファーがある。そして、壁際の棚には、パンフレットなどが品よく立てかけられていた。
ソファーに座るよう勧められたので、ゆっくり腰掛けると、柔らかな感触が伝わって来る。
間違いない、高級品である。
入試課といっても、こちらは入試に関わる相談ブースのような部屋らしい。事務処理を行う部屋はこことは別に、部屋の奥のドアの先にある。
そもそも、この学園における入試とは?貴族にとっては、十五歳を迎える頃に入学するのが当たり前で、詳しいことは知らない。
今更だが、入試を受けたことがないことに気付き、先生にそれを尋ねる。その答えを含めて、入試課の仕事や貴族の入学方法について教えてもらう。
話によれば、主に平民の魔力を測り、入学者のデータを整理するのが入試課の仕事だと先生は説明してくれた。また、私を含む貴族は、大体家庭教師が付いているので、彼らから基本的な能力の申告が届き、受理されるのだ。家庭教師が嘘を言ったらどうするんだと思ったが、そこは貴族優先のなごりだろう。
平民にも門戸を開くこの魔法学園でも、元々は貴族のための学校だった。その歴史は古く、平民が入学を許可されるようになったのは、ここ最近のことらしい。そのためか、平民と言ってもよっぽど魔力の強い者しか入学は許されない。頭が良いだけでは駄目なのである。ヒロインはその選ばれた者の一人というわけだ。
「あぁ、そうそう。今日は後からもう一人見学者が来るそうだから、その子とは教室の方で合流します」
「案内しなくてもよろしいのですか?」
迷子という名の、第二の被害者が生まれるのではないか?この学園は、初心者に全然優しくない作りをしている。決して、私が方向音痴な訳ではない。私が心配していると、初老の先生は人好きのする笑顔を浮かべた。
「心配することはないですよ。あの子は何回か学園に来たことがありますし、本人からも案内はいらないと言われていますからね」
何と、経験者であったか。そうか、見学が一度だけとは誰も言っていない。ただ、その子がどこから来ているかを抜きにしても、熱心な子だ。
感心していると、そろそろ時間が近付いてきたようで先生が時計に目を向けた。時計の針は元々指定されていた時間の五分前を指している。
こうして、私達は入試課の部屋を出て、一年生の学習棟へと歩き始めた。
…………
しばらくして、目的のクラスに着いた。そのクラスの窓から、次の授業の用意をする学生達の姿を窺うことが出来る。
そして、先生の言っていた「もう一人」らしき子も既にクラスの後方のドアの前に立っていた。
スラリとした身長で、眼鏡を掛けた男子だ。茶髪の天然パーマで、その立ち姿はモデルのようだった。その子とか気軽に呼べる雰囲気ではない。彼は私達に気付き、スッと近付いてきた。
「どうも。君が見学者?見学中に話しかけたりしないでよね」
えー…。
ツンだ、純度100%のツンである。初めて会ったというのに、この言い草だ。心配せずとも、授業の見学中に話などしない。グレイは無口だし。セパルは喋るかもしれないが、どうせ彼には聞こえない。
「……………」
私が呆気に取られている後ろで、グレイがカチャリと何かを取り出そうとしている。よく見ると、衣服の陰から鈍く光るナイフが多数見えた。ナイフを握るグレイの目は、あの少年をロックオンしているようだ。
いや、彼はただの少年だから、そんな仇を見るような目するな。
慌ててグレイの手を押さえ、ナイフを隠すように伝えるが、グレイは眉をしかめた。
「何で殺らないの?殺った方がいい」とでも言いたげだ。物騒だから早くしまえ。おまけに、セパルも聞こえないことをいいことに、グレイを煽っている。勘弁して。
コソコソしていると、先生と少年も変に思ったのだろう。
「どうかしましたか?」
それから、お腹でも痛いのですか?と続けて来た。お腹は痛くないが、頭なら痛い。
「…イエ、何でもございません…」
純粋に心配してくれた人に、連れがナイフを取り出して少年を殺ろうとしてましたとは、口が裂けても言えない。
私達の謎の攻防に、少年は迷惑そうな顔をした。君の言動が原因なのだが。
私達が勝手に険悪なムードになる中、何も知らない先生が教室から離れていく。待って、どこへ行くの?この空気の中、あなたがいなくなってどうする!
「じゃ、あと数分で始まるから教室へどうぞ。見学後はまた自由行動でいいですからね。私はその間入試課へ戻っていますので、ゆっくりどうぞ。」
まぁね、先生まで一緒に見学する必要ないしね。仕事もあるだろうし。ただ、ここで先生がいなくなるとは…。チラリとグレイを見ると、「チャンスが来た」とばかりに、手を衣服の隠しポケットへ突っ込んでいる。
だから、止めろって。
無情にも、先生は教室を去っていった。
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