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4.魔法学園入学
食堂での騒動
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入学式から一週間、それは各部活動が新入生獲得のため、最も力を入れる期間である。
校門や食堂の前では、ユニフォームを着た学生などが大きな声で勧誘を行っている。それから、彼らの前を通る度に、部活動紹介のチラシを渡される。
その量が量だったので(同じものを何度も握らされる)、いい加減うんざりした。私の癒しの昼食タイムを邪魔してくる彼らに、ある時ついに堪忍袋の緒が切れた。
「私は既にそちらのチラシは頂いております。これ以上は必要ありません。資源を無駄遣いするなんて、自然への感謝の心が見えませんわ。この学園の校則にも、自然に感謝せよとあったはずですよね?」
心底嫌そうな顔で、ユニフォームを着た一団を見据える。私の他にも無理矢理チラシを渡されて困っている新入生をよく見かけるし、これ以上放置してはおけないだろう。
「な、俺らはその、そんなつもりじゃ…」
ユニフォームを着た一人が、しどろもどろに反論してくる。しかし、それは言い訳にすらならない。
「それと、沢山渡せば良いというわけではないでしょう。あなた方は、同じチラシを大量に渡す前に、どうすれば興味を持ってもらえるか考えるべきです」
食堂が静まり返り、さっきまで声を張り上げていた先輩達が私から視線を逸らす。
そんな中、どこからか拍手が聞こえてきた。
「ははっ、マジ最高。今日食堂で正解、こんな面白ぇもん見れたんだからなァ!」
え?この声、シエル ?
慌てて食堂を見渡すと、入口のところからシエルが姿を現す。本当に、シエルだ。この学園に通っていたなんて知らなかった。私が通信機を通して体験入学の話をした時も、興味なさげに聞いていたのに。
私も見て、シエルは軽く手を上げた。
「よォ、ティーヌ。久し振り」
ひ、久し振りっていうか、学園入るなら教えてくれればいいのに!何でシエルはこんなに秘密主義なの?
不満を正直にぶつけると、シエルは悪びれもなくこう言ってのけた。
「サプライズのが面白くてイイだろ?」
良くないわ。
私とシエルが言い争っているのを見て、今度は別の驚きが食堂に溢れる。公爵令嬢であり、第一王子の婚約者のクリスティーヌに気軽に話しかけている男は誰だ。あいつ、庶民だろ。そう言った声がヒソヒソと交わされる。
その中でも、貴族意識の高い男子生徒が我慢できないと、立ち上がった。
「ク、クリスティーヌ嬢、そいつはただの庶民ですよ!あなたが関わるような奴じゃない!あなたは僕らと同じ選ばれた側なんだ!!」
その声に背を押されるかのようにして、また数人が立ち上がった。
「そうだ!それに、そいつ忌み子だ!!」
その言葉に、掴んでいたシエルの身体がびくりと硬直した。無言の彼をそっと見上げると、まるで人形のように、顔を強ばらせて固まっていた。…そうだ、シエルは私と出会った時もオッドアイのことをひどく気にしていた。
こんな風に酷い言葉を言われてきたから、あんなにも辛そうにしていたのだろう。だけど、私は彼の瞳が嫌いじゃない。あんなに綺麗なのに、どうして皆は彼の瞳の美しさを見ようとしないのだろう。
「……下さいませ…」
「え?」
怒りに震える私の声が聞き取れなかったのか、先程の貴族の男子生徒が聞き返す。
「訂正して下さいませ。彼は忌み子などではありません。こうして、私達と同じ様にこの世に生まれてきたのですから。赤子が産まれるのは祝福されているからですわ」
「は、何言って…」
「これ以上、私の耳を汚す言葉を言うのは止めて下さるかしら…。私はあなたといるより、シエルと話す方が好きだと言っているのです」
「……な、僕を侮辱する気か!?っ…公爵令嬢だからって調子に乗らない方がいいですよ、そいつが災いを呼ぶっていうことは皆知っている!僕はあなたのためを思ってー!」
「ご心配ありがとうございます。ですが、自分の身くらい守れます。仮にシエルが災いを呼ぶとしても、そんなもの片っ端から片付けて見せますわ。…では、話は済みましたわね。御機嫌よう」
最後に、食堂で食事をしていた他の学生達に、騒がしくしてしまったことを詫びる。部活動の強引な勧誘を注意するだけのはずが、とんだ大事になってしまって申し訳ない。これでは私も、食堂の平穏をぶち壊した張本人だ。
これ以上居ても仕方ないので、シエルの腕を引っ張って食堂を出る。皆の視線を背に強く感じるが、仕方ない。あれだけ目立ってしまったのだから当然だ。
「…お、覚えてろ!リュドシエル・バート!!」
…あれ、今何か不穏な名前が聞こえた。それ、攻略対象者のリュドシエル・バート君ですか?
食堂から遠ざかったところで、シエルに尋ねる。
「あの、シエル?もしかして、本名はリュドシエルなの?」
「…。俺の本名はリュドシエル・バート…確かにそうだ」
あああああぁぁぁぁ!!
攻略対象者と知らないうちに超仲良くなっていた!一気に体温が下がっていく気がする。だけど、私も本名を名乗っていなかった手前、シエルを責めることはできない。というか、気付けよ私。良く考えたら分かるでしょ!
過去の自分の迂闊さにショックを受け、突然その場に崩れ落ちた私に、シエルがぎょっとする。
「!?おい、ティーヌ?あぁ、お前も本名はクリスティーヌ…だっけ、呼び直したがいいか」
「…いえ、もうそのままで構わないわ。ちょっと今自分が憎くて仕方ないの…今日は災難だったわね、今は一人にして頂戴…」
哀愁を漂わせてそう言うと、シエルが軽く引きながら頷く。
シエルは姿勢良く歩くクリスティーヌの後ろ姿を見送り、彼女の姿が完全に消えた後、小さな声で呟いた。
「……ありがとな」
シエルがリュドシエルでした!という事実に驚いた私だったが、部活動のことを忘れはしなかった。勧誘が激しかったのは一部の部活動であり、それ以外のところは丁寧に説明してくれた。
色々な部活動を見た結果、私は美術部を選んだ。美術部といっても、絵を描くよりは工作が目当てなのだが。陶芸もしているようで楽しみである。
あれ以来、シエルとは少し距離を置いている。私の頭が混乱していたからというのもあるが、あの貴族主義の連中が変に盛り上がったら困るからだ。
やはり、この学園の身分差別は根強く残ったままである。…先が思いやられる。これでイベントごとなど、上手く協力してやっていけるのだろうか。
校門や食堂の前では、ユニフォームを着た学生などが大きな声で勧誘を行っている。それから、彼らの前を通る度に、部活動紹介のチラシを渡される。
その量が量だったので(同じものを何度も握らされる)、いい加減うんざりした。私の癒しの昼食タイムを邪魔してくる彼らに、ある時ついに堪忍袋の緒が切れた。
「私は既にそちらのチラシは頂いております。これ以上は必要ありません。資源を無駄遣いするなんて、自然への感謝の心が見えませんわ。この学園の校則にも、自然に感謝せよとあったはずですよね?」
心底嫌そうな顔で、ユニフォームを着た一団を見据える。私の他にも無理矢理チラシを渡されて困っている新入生をよく見かけるし、これ以上放置してはおけないだろう。
「な、俺らはその、そんなつもりじゃ…」
ユニフォームを着た一人が、しどろもどろに反論してくる。しかし、それは言い訳にすらならない。
「それと、沢山渡せば良いというわけではないでしょう。あなた方は、同じチラシを大量に渡す前に、どうすれば興味を持ってもらえるか考えるべきです」
食堂が静まり返り、さっきまで声を張り上げていた先輩達が私から視線を逸らす。
そんな中、どこからか拍手が聞こえてきた。
「ははっ、マジ最高。今日食堂で正解、こんな面白ぇもん見れたんだからなァ!」
え?この声、シエル ?
慌てて食堂を見渡すと、入口のところからシエルが姿を現す。本当に、シエルだ。この学園に通っていたなんて知らなかった。私が通信機を通して体験入学の話をした時も、興味なさげに聞いていたのに。
私も見て、シエルは軽く手を上げた。
「よォ、ティーヌ。久し振り」
ひ、久し振りっていうか、学園入るなら教えてくれればいいのに!何でシエルはこんなに秘密主義なの?
不満を正直にぶつけると、シエルは悪びれもなくこう言ってのけた。
「サプライズのが面白くてイイだろ?」
良くないわ。
私とシエルが言い争っているのを見て、今度は別の驚きが食堂に溢れる。公爵令嬢であり、第一王子の婚約者のクリスティーヌに気軽に話しかけている男は誰だ。あいつ、庶民だろ。そう言った声がヒソヒソと交わされる。
その中でも、貴族意識の高い男子生徒が我慢できないと、立ち上がった。
「ク、クリスティーヌ嬢、そいつはただの庶民ですよ!あなたが関わるような奴じゃない!あなたは僕らと同じ選ばれた側なんだ!!」
その声に背を押されるかのようにして、また数人が立ち上がった。
「そうだ!それに、そいつ忌み子だ!!」
その言葉に、掴んでいたシエルの身体がびくりと硬直した。無言の彼をそっと見上げると、まるで人形のように、顔を強ばらせて固まっていた。…そうだ、シエルは私と出会った時もオッドアイのことをひどく気にしていた。
こんな風に酷い言葉を言われてきたから、あんなにも辛そうにしていたのだろう。だけど、私は彼の瞳が嫌いじゃない。あんなに綺麗なのに、どうして皆は彼の瞳の美しさを見ようとしないのだろう。
「……下さいませ…」
「え?」
怒りに震える私の声が聞き取れなかったのか、先程の貴族の男子生徒が聞き返す。
「訂正して下さいませ。彼は忌み子などではありません。こうして、私達と同じ様にこの世に生まれてきたのですから。赤子が産まれるのは祝福されているからですわ」
「は、何言って…」
「これ以上、私の耳を汚す言葉を言うのは止めて下さるかしら…。私はあなたといるより、シエルと話す方が好きだと言っているのです」
「……な、僕を侮辱する気か!?っ…公爵令嬢だからって調子に乗らない方がいいですよ、そいつが災いを呼ぶっていうことは皆知っている!僕はあなたのためを思ってー!」
「ご心配ありがとうございます。ですが、自分の身くらい守れます。仮にシエルが災いを呼ぶとしても、そんなもの片っ端から片付けて見せますわ。…では、話は済みましたわね。御機嫌よう」
最後に、食堂で食事をしていた他の学生達に、騒がしくしてしまったことを詫びる。部活動の強引な勧誘を注意するだけのはずが、とんだ大事になってしまって申し訳ない。これでは私も、食堂の平穏をぶち壊した張本人だ。
これ以上居ても仕方ないので、シエルの腕を引っ張って食堂を出る。皆の視線を背に強く感じるが、仕方ない。あれだけ目立ってしまったのだから当然だ。
「…お、覚えてろ!リュドシエル・バート!!」
…あれ、今何か不穏な名前が聞こえた。それ、攻略対象者のリュドシエル・バート君ですか?
食堂から遠ざかったところで、シエルに尋ねる。
「あの、シエル?もしかして、本名はリュドシエルなの?」
「…。俺の本名はリュドシエル・バート…確かにそうだ」
あああああぁぁぁぁ!!
攻略対象者と知らないうちに超仲良くなっていた!一気に体温が下がっていく気がする。だけど、私も本名を名乗っていなかった手前、シエルを責めることはできない。というか、気付けよ私。良く考えたら分かるでしょ!
過去の自分の迂闊さにショックを受け、突然その場に崩れ落ちた私に、シエルがぎょっとする。
「!?おい、ティーヌ?あぁ、お前も本名はクリスティーヌ…だっけ、呼び直したがいいか」
「…いえ、もうそのままで構わないわ。ちょっと今自分が憎くて仕方ないの…今日は災難だったわね、今は一人にして頂戴…」
哀愁を漂わせてそう言うと、シエルが軽く引きながら頷く。
シエルは姿勢良く歩くクリスティーヌの後ろ姿を見送り、彼女の姿が完全に消えた後、小さな声で呟いた。
「……ありがとな」
シエルがリュドシエルでした!という事実に驚いた私だったが、部活動のことを忘れはしなかった。勧誘が激しかったのは一部の部活動であり、それ以外のところは丁寧に説明してくれた。
色々な部活動を見た結果、私は美術部を選んだ。美術部といっても、絵を描くよりは工作が目当てなのだが。陶芸もしているようで楽しみである。
あれ以来、シエルとは少し距離を置いている。私の頭が混乱していたからというのもあるが、あの貴族主義の連中が変に盛り上がったら困るからだ。
やはり、この学園の身分差別は根強く残ったままである。…先が思いやられる。これでイベントごとなど、上手く協力してやっていけるのだろうか。
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