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8.文化祭
熱血指導!
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1年2組の文化祭の出し物は演劇、「白雪姫」に決定した。物語の重要な敵役、王妃とは私のことである。
1日経って私は吹っ切れた。こうなったら、完璧な王妃になってやろうじゃないの。悪役なイメージより、高貴で冷徹な王妃様を演じてみせる。
演技力がないと思われるのも何か嫌だしね…。
後期の試験も終わり、学園は既に文化祭ムードに突入している。学園では授業時間の大半も文化祭の準備に割り当てられているのだ。我がクラスも、それぞれが演劇のための準備を進めている。そんな中、シナリオ担当の生徒が立ち上がった。
「シナリオ完成です!」
生徒は皆に朗読するようにして、シナリオを読み上げていく。
白雪姫と呼ばれる美しい王女がいた。彼女の継母にあたる王妃は魔法の鏡に向かって世界一の美女は誰かと尋ねる。ある時、王妃がいつものように尋ねると、鏡は初めて違う答えを口にした。「この世で最も美しいのは白雪姫です」と。
それを聞いた王妃は白雪姫を亡きものにして、世界一の美女の座を取り戻そうとした。そのためにあらゆる手段を取る。漁師や魔法使いに命じ、白雪姫を殺そうとするが上手くいかない。
痺れを切らした王妃は、ついに自ら白雪姫が過ごす小人の家にやって来る。外にいた小人達を制圧し(ここでカザルスが踏まれる!)、老婆に変装した王妃が渡した毒林檎によって、白雪姫は倒れた。
小人達は白雪姫の死を悲しみ、彼女を棺に入れた。そこへ王子が通りかかり、白雪姫の美貌に一目惚れする。王子は死してなお美しい白雪姫に口付けする。
棺ごと白雪姫を王子の国へ運ぶ途中、王妃が今度こそ白雪姫の死を確認しようと、手下を連れてやって来る。そこで、王子と王妃の戦いの末、王妃は味方であったはずの魔法使いに裏切られる。魔法使いが召喚した魔物に王妃は倒され、その戦いの衝撃で白雪姫は喉に詰まっていたリンゴの欠片を吐き出す。
生き返った白雪姫に一同は大喜びして、王子と白雪姫は結婚する。めでたしめでたし。
………………王妃の最期、散々じゃない。
私、味方に裏切られて死ぬ落ち?現実ですら友人ほぼいないのに、役でもこんな結末か。あと、しっかりカザルスが踏まれるストーリーが盛り込まれていたことに驚いた。本気だったんだ。ちょっと鳥肌立った…。本番でしっかり踏めるか不安だわ…。
微妙な不安を抱えていると、セパルが自信満々に宣言した。
『もしもの時は妾が代わりに踏んでやるぞ!安心しろ!』と。代わりってどうするんだとか言わない。何も保険がないよりはマシかもしれないし。ありがたいのかよく分からない応援に内心苦笑した。
とはいえ、全体のシナリオとしては良い流れかなと思っていると、一人の女子が待ったをかけた。
「キス…?ジャック様が…?」
その呟きに周りがはっと気づく。ジャックもシナリオ担当者の熱気に押されていたのか、ようやく「は?」と不満の声を上げる。
あっ、そうよね。皆の憧れ、イケメン君が一人の女子生徒だけにキスとか許さないよね!
徐々に高まる女子の不満を、シナリオ担当者が制止する。
「あくまで、ふり!本当にはしないから大丈夫!じゃ、後で台本作るから明日までにセリフ完璧に覚えてね!」
鬼か?王妃のセリフ結構多いぞ…。今日はひたすら台本との戦いになりそうだ。
ーーーー
翌日。1年2組の教室では劇の予行練習が行われていた。セリフ全てを暗記させられた面々はどことなく眠そうだ。私も顔には出さないがさっきからあくびをこらえている。
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰?」
「それは王妃様でございます!」
「はい、カットォォォ!クリスティーヌ様、顎をあと15度上に!もう少し偉そうに!鏡役!息が合ってない!もっと揃えて!」
熱血指導だ…。シナリオ担当者もそうだったが、皆の熱気が凄い。てか、偉そうにって言われても抽象的でよく分からない…。そう伝えると、演技指導のステラは少し考えて言い直した。
「エリザベス様を思い出して、もう一度お願いします!」
ステラさーん、それ本人に聞かれたらまずいと思うよ!いや、分かりやすかったけどね!?
ステラの例えをイメージしながら、再び同じ場面を繰り返す。すると今度は一発OKが出た。エリザベス効果…てか、皆からもやっぱり偉そうだと思われてるのね。
「おぉ…何と美しい姫だ…?」
「ジャック様!セリフ合ってますから!語尾を上げないでください」
珍しくジャックも戸惑っているようだ。普段言い慣れないセリフに本人が違和感を隠せないみたいだ。むしろ、いつも毒吐いてるようなものだしな。王子と言えば、真逆で甘ったるいセリフを言わないといけない。
見た目は王子ぴったりでも、中身はそう上手くいかないようだ。
それから約2週間、私達はステラの指導の元、演劇の練習に打ち込んだのだった。
1日経って私は吹っ切れた。こうなったら、完璧な王妃になってやろうじゃないの。悪役なイメージより、高貴で冷徹な王妃様を演じてみせる。
演技力がないと思われるのも何か嫌だしね…。
後期の試験も終わり、学園は既に文化祭ムードに突入している。学園では授業時間の大半も文化祭の準備に割り当てられているのだ。我がクラスも、それぞれが演劇のための準備を進めている。そんな中、シナリオ担当の生徒が立ち上がった。
「シナリオ完成です!」
生徒は皆に朗読するようにして、シナリオを読み上げていく。
白雪姫と呼ばれる美しい王女がいた。彼女の継母にあたる王妃は魔法の鏡に向かって世界一の美女は誰かと尋ねる。ある時、王妃がいつものように尋ねると、鏡は初めて違う答えを口にした。「この世で最も美しいのは白雪姫です」と。
それを聞いた王妃は白雪姫を亡きものにして、世界一の美女の座を取り戻そうとした。そのためにあらゆる手段を取る。漁師や魔法使いに命じ、白雪姫を殺そうとするが上手くいかない。
痺れを切らした王妃は、ついに自ら白雪姫が過ごす小人の家にやって来る。外にいた小人達を制圧し(ここでカザルスが踏まれる!)、老婆に変装した王妃が渡した毒林檎によって、白雪姫は倒れた。
小人達は白雪姫の死を悲しみ、彼女を棺に入れた。そこへ王子が通りかかり、白雪姫の美貌に一目惚れする。王子は死してなお美しい白雪姫に口付けする。
棺ごと白雪姫を王子の国へ運ぶ途中、王妃が今度こそ白雪姫の死を確認しようと、手下を連れてやって来る。そこで、王子と王妃の戦いの末、王妃は味方であったはずの魔法使いに裏切られる。魔法使いが召喚した魔物に王妃は倒され、その戦いの衝撃で白雪姫は喉に詰まっていたリンゴの欠片を吐き出す。
生き返った白雪姫に一同は大喜びして、王子と白雪姫は結婚する。めでたしめでたし。
………………王妃の最期、散々じゃない。
私、味方に裏切られて死ぬ落ち?現実ですら友人ほぼいないのに、役でもこんな結末か。あと、しっかりカザルスが踏まれるストーリーが盛り込まれていたことに驚いた。本気だったんだ。ちょっと鳥肌立った…。本番でしっかり踏めるか不安だわ…。
微妙な不安を抱えていると、セパルが自信満々に宣言した。
『もしもの時は妾が代わりに踏んでやるぞ!安心しろ!』と。代わりってどうするんだとか言わない。何も保険がないよりはマシかもしれないし。ありがたいのかよく分からない応援に内心苦笑した。
とはいえ、全体のシナリオとしては良い流れかなと思っていると、一人の女子が待ったをかけた。
「キス…?ジャック様が…?」
その呟きに周りがはっと気づく。ジャックもシナリオ担当者の熱気に押されていたのか、ようやく「は?」と不満の声を上げる。
あっ、そうよね。皆の憧れ、イケメン君が一人の女子生徒だけにキスとか許さないよね!
徐々に高まる女子の不満を、シナリオ担当者が制止する。
「あくまで、ふり!本当にはしないから大丈夫!じゃ、後で台本作るから明日までにセリフ完璧に覚えてね!」
鬼か?王妃のセリフ結構多いぞ…。今日はひたすら台本との戦いになりそうだ。
ーーーー
翌日。1年2組の教室では劇の予行練習が行われていた。セリフ全てを暗記させられた面々はどことなく眠そうだ。私も顔には出さないがさっきからあくびをこらえている。
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰?」
「それは王妃様でございます!」
「はい、カットォォォ!クリスティーヌ様、顎をあと15度上に!もう少し偉そうに!鏡役!息が合ってない!もっと揃えて!」
熱血指導だ…。シナリオ担当者もそうだったが、皆の熱気が凄い。てか、偉そうにって言われても抽象的でよく分からない…。そう伝えると、演技指導のステラは少し考えて言い直した。
「エリザベス様を思い出して、もう一度お願いします!」
ステラさーん、それ本人に聞かれたらまずいと思うよ!いや、分かりやすかったけどね!?
ステラの例えをイメージしながら、再び同じ場面を繰り返す。すると今度は一発OKが出た。エリザベス効果…てか、皆からもやっぱり偉そうだと思われてるのね。
「おぉ…何と美しい姫だ…?」
「ジャック様!セリフ合ってますから!語尾を上げないでください」
珍しくジャックも戸惑っているようだ。普段言い慣れないセリフに本人が違和感を隠せないみたいだ。むしろ、いつも毒吐いてるようなものだしな。王子と言えば、真逆で甘ったるいセリフを言わないといけない。
見た目は王子ぴったりでも、中身はそう上手くいかないようだ。
それから約2週間、私達はステラの指導の元、演劇の練習に打ち込んだのだった。
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