水の主は憂う

コトイアオイ

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1.水底の世界

小魚の精

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 琥珀が水底で水無月と暮らし始めて、数日が経った。その間に、琥珀は人生初の友達を得ることができた。こんな世界だ、当然人間の友達ではないが。


彼女は小魚の精で、小波という可愛らしい少女だ。見た目からは想像できないが、年齢は結構上…らしい。ただ、彼女は同い年と思って接して欲しいと言ったので、私も特に気にしないことにしている。


と、いうより、彼女は私よりも精神年齢が低い気がするというのが本音である。


「こーはーく!遊ぼ遊ぼ!今日はね、こんなもの拾ってきたよ」


小波が両手で握り締めるのは、謎の彫刻物二体だった。僅かな凹凸から、片方は女の人を模して作られたと思われるが、それをどうするというのか。


「えっと、小波。その人形で何の遊びをするの?」


変な人形を拾ってきたものだと、しみじみとそれらを見ていると、小波は私と水無月を見てにっこり笑った。


「もちろん、おままごとだよ!人間の子供はよくやるんでしょ?この子達はおじいさんとおばあさんね」


期待外れで悪いが、私はおままごとをしたことが一度もない。唯一遊んだと言えば、鬼ごっこの鬼役だったくらいだ、…別に寂しくなんてない。暗くなりそうな気持ちを振り払うようにして頭を振り、話を戻す。


「ちなみにどういう配役なの?」


一番年下の私が娘か?でも、見た目的に、私と小波にそう差異はない気がする。そして、興味なさげに背を向けて眠る水無月は何だ?兄か?


「んー、私娘役がいいから、琥珀がお母さん役で、水無月がお父さん役!」


と、とんでもない爆弾発言!私、母親の記憶ないからどうすればいいかさっぱりなんだけど!ぶっちゃけ、家族の記憶がないからどの役でも難しいような…。あっ、私、おままごと向いてないわ…。


「…小波、私ペットの犬役がいいわ。それならやり遂げられると思うの」


苦渋の判断で導き出したのは犬役である。近所の犬を思い出すんだ。あの犬は確か、吠える、尻尾を振る、食べる、走る。そう、これだ、この特徴さえ分かっていれば、犬になりきれる。


真剣に申し出たのに、小波からは却下され、私は渋々母親役を引き受けた。そして、小波から教わった母親がすることを忠実に再現する。
後ろで眠る水無月の側に近寄り、一言。



「あなた~朝ですよ。起きてくださいな」



………………………何か、違う気がする。



小波を振り返れば、「そこで朝の接吻よ!」とはしゃいでいる。よく分からないが、口と口を合わせるという行為をしないといけないらしい。


水無月の上から彼の端正な顔を覗き込む。肩から零れ落ちてくる自分の髪を耳にかけて、いざその行為をしようと顔を近づける。後ろで小波がキャーキャー騒いでいるのは何だろう。水無月が起きてしまうではないか。あ、今から起こすなら丁度いいのか。


顔を近づけるにつれ、彼の肌の白さや睫毛の長さがはっきりと分かる。神様とは美しいものなんだなぁと呑気に考えていると、グイッと顎を掴まれた。


水無月の細長い指によって、彼の顔面への進行は妨げられた。


「物を知らぬ娘も恐ろしいものだな。…で、小波。お前は妙なことを琥珀に教えるな」


間近で目を合わせた水無月は、呆れたように私を見つめてから、小波に指先で弾いた水鉄砲の制裁を加えた。


「痛い!こ、これが噂に聞く家庭内暴力!?」


残念ながら、小波が反省する様子はなかったが。


水無月の鋭い視線にも怯まない小波を見て、私は彼女の年齢を実感した。これが、年の功…?
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