シンデレラは夢を見ない

コトイアオイ

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謎多き騎士

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最後に掃除をして、今日のアリステラの業務は終了する。屋根裏部屋の窓を開けて、少し休憩していると、窓の外に黒髪の青年の頭が見えた。


もしかして、と思い、アリステラは声をかけてみる。


「おーい!シリル?」


上から呼びかけられたシリルは、ぱっと顔を上げた。その蒼の瞳が驚きに見開かれる。


「アリステラ様…!」


シリルは、元々はティルダの騎士をしていたらしい。それ以前は傭兵をやっていたとかいないとか、そんな噂もある。

爽やかな好青年と私、どうして知り合いになったのか未だに分からない。何故、アリステラを敬称で呼ぶのかも。きっと騎士とは、女性皆に対して紳士的なのだろう。


ある日、たまたま買い出しに行っていた時に、出会い頭いきなり号泣されたのはよく覚えているが。


その日以来、彼はちょくちょくアリステラの元を訪れる。


「そこで待ってて。私が行くから」


屋根裏部屋からよいしょっと、窓の縁に手足をかける。それを見て、シリルが青ざめた顔で叫ぶ。


「アリステラ様!?おやめ下さい!」


その言葉を最後まで聞くことなく、アリステラは窓から飛び降りた。このくらいの高さの木から飛び降りたこともある。アリステラは行けると確信して飛び出したのだが、シリルはそうは思わなかったらしい。


膝や足裏に来るであろう衝撃に心の準備をしていたアリステラの身は、シリルに抱き留められていた。 


「わっ、シリル!?お、重いでしょ。すぐ降りるわ」


アリステラだって女の子なので、そこらへんは気にする。ましてや、相手は爽やかな好青年だ。気にしないわけがない。


慌ててシリルの腕から抜け出そうとするアリステラを、シリルは強く抱き締めた。その腕は微かに震えている。
  

「ご無事で何よりです…。あまり危ないことをしないで下さい、心臓が持ちません」


「ご、ごめんなさい。もうしないわ」


シリルに迷惑をかけたと思うと申し訳ない。今度から飛び降りるのは止めよう。


「ところで、今日は何か用事があったの?」


「はい、アリステラ様にこれを渡そうと思いまして」


そう言って彼が取り出したのは、可愛らしい桃色の巾着だった。イケメンに可愛いものを掛け合わせると、とんでもない破壊力になる。


「それは…?」


「金平糖という異国のお菓子だそうです。彩りも鮮やかですし、女性に人気のお菓子らしいですよ」


お菓子!それは嬉しい。こうして、シリルは会う度に毎回違うお菓子を持ってきてくれる。それはいつしかアリステラの楽しみになっていた。


「いつもありがとう!本当、シリルは選ぶお菓子もセンスあるし、格好良いし、女性からも人気でしょ」


アリステラが心のままにシリルを褒めちぎると、彼はほんのり顔を朱に染め、「そんなことはありません」と謙遜する。この謙虚さよ、シリルの爪の垢をアルノルド家の皆さんに煎じて飲ませてやりたい。
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