シンデレラは夢を見ない

コトイアオイ

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魔法使いの悲劇

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 目の前でアリステラを奪われたシリルは、魔法使いをじっとりと睨みつけていた。片手で魔法使いの首を絞めつつ、もう片方の手には剣が握られている。


今にも死にそうな魔法使いは、息も絶え絶えに訴える。

「ギブ、ギブギブ!死ぬ!死ぬって!」

「お前が死んでも俺には何の問題もないが?」

「うわぁぁ、馬車ー!早く娘さん戻してぇぇ!じゃないと俺が死んじゃうぅ」

今はもう見えない馬車に向かって、魔法使いが叫ぶ。それを冷めた目で見やって、シリルはこの魔法使いをどう料理してやろうかと考えていた。

魔法の力そのものは強力、けれど接近戦は苦手らしく、今のところ抵抗らしい抵抗は見られない。万が一、アリステラに何かあってはいけないので、こうして生かしてはいる。

「はぁ…。アリステラ様にもしもの事があれば…分かっているだろうな……」


「わ、分かってます分かっでまずがら、腕緩めてくらさいよ……」

「緩めたら逃げるかもしれないだろう?犯罪者に情けをかける訳には行かない」

「えっ、俺、犯罪者扱い?うそ、どこが?」

涙目でオロオロと弁解する魔法使いに絆されるシリルではない。その腕はきっちり魔法使いの首元をホールドしていた。このくらい苦しむべきなのだ。シリルとしては当然の報いである。

どのくらいの間、そうしていたかは分からない。アリステラにかけられた魔法の説明をさせて、危険性がないのかなどを確かめていたシリルはふと空を見上げる。


そして、固まった。


つい先刻、猛然と駆け去った馬車が同じような速度で、こちらに向かってきたからだ。


何度見ても意味のわからない速度だ。あんなに危なさそうな馬車に乗っていて、アリステラは本当に大丈夫なのか。


「俺の馬車よ!我が叫びを聞いてくれたか~!マジ死ぬとこだったわ、ナイスタイミングだぜ」


戻ってきた馬車に飛びつこうとする魔法使いを制して、シリルは馬車に駆け寄る。馬車のドアを開ければ、そこからアリステラが転がり出てきた。どう見ても、顔色の悪い彼女を見てシリルは慌てて彼女を支える。


「アリステラ様!どうなさったのですか!?」

「うぷ…馬車に酔った…」

青ざめた顔のアリステラの背を撫でつつ、危ない足取りの彼女を抱き上げる。疲れたのか、そのまま眠ってしまったアリステラを抱いたまま、シリルは魔法使いの長ったらしいマントの裾を踏みつけた。


「待て。逃がしはしない」


ぐぐっと足元に力を入れ、逃げようとする魔法使いを足止めする。


「あの。ほんと、すみませんでした…もう許して下さい、お兄さん……」


「許してくれで許されるほど、世間は甘くないぞ」


その言葉に、魔法使いはがっくりと肩を落とした。
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