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2 海の国の聖人候補

268 バンダッタ再生計画

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268

翌日、港は大騒ぎだった。

「山が、山が元に戻ってる。たった1日で一体何が起こったっていうんだ!」
「信じられん!前より青々と整然とした綺麗な森になっているじゃないか!山守たちは一体どんな魔法を使ったんだ」
「奇跡だ!山神様はこの山をお見捨てではなかったのだ!」

街の方々の間でも憶測が乱れ飛び、当然、山守の皆さんの間でも大騒ぎになった。

そんな中でも、山守のエダイ親方は私との約束を守って、私の存在には一切触れず、〝山神のお力〟で押し切ってくれた。

その結果、信仰心に厚い街の人たちは

〝神はこの街を救おうとしてくれている〟

という象徴的な奇跡として、この摩訶不思議な状況を解釈し、明日への希望を見出してくれたようで、思ったよりあっさりと、アカツキ山の復活を受け入れてくれた。

(昨日の会議に出た方々は、私がなにかやったのだろうと察しているかもしれないが、さすがに昨日神に誓ったばかりの方々だ。こちらも口はツグんでいてくれるだろう)

おかげで山神を祀った神社には、朝からものすごい数の人がお参りに来ているそうだ。
この神社の宮司でもあるエダイさんは、忙しくて休む暇もないらしい。

エダイさんから、この話を聞いた私の提案で、負担にならない程度の値段の木製のお札を急遽売り出した。

再生したとはいえ、急増の森だ。暫くは状況を見守る必要があるだろうし、木材からの定期収入も短期的にはあまり多くは見込めない。
そこで、倒木を再利用したお札の売り上げを、当面の山の維持費用に当てるように考案してみた。

1日で見事に復活した〝アカツキ山の奇跡〟を目の当たりにした人々は、これは霊験あらたかとみたのだろう。予想を上回るかなりの数が売れているので、このアガリは山守たちの一時的な活動費の確保にかなり寄与してくれるだろう。

「そう言うところ、商魂タクマしいですよね」

と、タイチには笑われたけれど、皆が喜んで買ってくれる上、今回の奇跡について〝山神〟のご加護でウヤムヤにできる、末永く収入確保できる、の一石三鳥となれば、やらない道理がない。

(もちろんタイチには、いづれは、お札やお守りの種類を増やしてさらに収益を上げるよう入れ知恵もしておいた。

一夜にしてフサフサにあやかって、増毛とか育毛にも効くお札とかブラシとかどう?

と言ったら、大笑いされてしまった。本気なのに……)

さて、もう1つの重要な懸案事項。

改善の土壌は整っているとはいえ、大きな自然環境の再生はそう簡単ではない。少なくとも半年以上の完全な禁漁によって、復活のその時を待つしかない。
この間、漁業の仕事ができない人たちの一時的な収入源の確保は緊急課題だ。

会議の時にもその後にも、

〝今度、領主の命に背き禁漁の掟を破ったら神は必ずこの港をお見捨てになる〟

と、エダイさんやヨシンさんを通じて、街全体にそれはそれはエゲツないほど脅しをかけてもらってある以上、皆、海産物で糊塗を凌ぐことはできないのだ。

となれば、食事にも事欠くような経済状態はなんとか脱せるように、即効性のある代替策を考えなければ、この半年から1年に及ぶ禁漁期を乗り越えることは難しい。

私はタイチとヨシンさん、それに家令のセンリさんも交えてこの問題の対策を話し合った。

「農業については経験のないものが多く、あまり期待できないですが、やる意思のある者には、土地と助成金を出してみてはどうでしょう」

タイチの提案に私は頷く。

「いいと思う。海が豊かであったために、偏りすぎた労働人口も、今回の危機の原因のひとつだと思う。
まずは、短期で実りのある収穫サイクルの短い植物の種を提供するわね。

それに、お金だけじゃなく、既存の農家の方を指導員として派遣したり、勉強する機会も作ってあげるといいと思うわ。農業の神様もきっと味方をしてくれるはずよ」

それから、私は地図を見ながらもうひとつの提案をする。

「昨日、湾内を見ていった時にね、沖にあるこの領地内の小さな島、ウサギぐらいしか住んでいないから〝ウサギ島〟っていうのよね。

あそこの外側にとても冷たい水の海流が通っていて、昆布が群生しているのを見つけたの」

私が地図で群生地の場所を指し示すと、ヨシンさんが不思議な顔をする。

「ええ、確かにあの辺りは北から冷たい水が入ってくる層がありまして、多少昆布も取れますが、群生ってほどはなかったような……」

その通り!

確かに、昨日までは、ほんの少し、天然昆布があっただけだ。

でも、既に私の《緑の手》で、規模を100倍ほどに拡大させて頂いたので、今は間違いなく巨大群生地だ。

昆布は2年ほどでまた収穫できる大きさになるし、ちゃんと管理し乱獲さえしなければ、この大きさの群生地なら5年や10年は、十分な収穫が見込めるはずだ。
しっかり定着させられるかは、バンダッタの方々の今後の腕次第だが、うまくいけば長く定期収入を得られる猟場になるだろう。

しかも、この世界では昆布は物凄く値段が高い。

他の地域に売る商品としても非常に期待できる海産物だ。

「おじさん、メイロードさまが見つけて下さったなら、間違いなくはありますよ。
早速、収穫と販売の計画を立てないといけませんね。

センリさん、おじさん、計画に必要な人員の手配をお願いしてもよろしいですか?」

「タイチ様、ご領主に就任なさったのですから、私のことは呼び捨てになさって下さいませ。

昆布の収穫計画につきましては、漁師連の親方衆と協議の上、早急に計画を立てるよう管理部の者に申し伝えます」

センリさんに注意され、頭を掻きながら、タイチは困り顔だ。

「すいません。やっぱりどうにも慣れなくて……気をつけます、センリ」
「いえ、こちらこそ、ご無礼申し上げました、タイチ様」

「俺のことも、いつまでもおじと呼んでは示しがつかないだろう。これからは〝カシラ〟でいい。いいな。ご領主様!」

「は、はい。カシラ、漁師たちの手配、よろしくお願いします」

タイチの領主教育も担当してもらっているセンリさんは、タイチには先生のような存在でもあるので、つい丁寧な言葉遣いで呼んでしまうようだ。

タイチらしくて、可愛いことだが、領主教育、なかなか大変そうだ。

屋敷にはセンリさんの声掛けで、既にほぼ必要な人員が戻っているため、仕事は非常にスムースに行われている。

高価な物は揃えられないが、彼らの給与や活動費に必要な当座の資金も確保できている。

そこから、ないと困る必要最低限の家具や調度品を購入して、みんなで運び込み、掃除をし、執務室の資料もキャビネットに収まった。

もう、ここは復興の前線基地としてしっかり機能し始めている。
トップが決まり、資金が回り始めたことで、全てが正常な機能を取り戻しつつあるようだ。

そして、この急遽手に入った当座資金の話は、
会議の終わった昨日の夜に遡るーーーー
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