利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
99 / 840
2 海の国の聖人候補

288 ランテルの舞姫

しおりを挟む
288

バンハラン将軍にお願いした〝神の衣〟の持ち出し許可の承認は、非常に難航したそうだ。

御神体にも等しい〝神の衣〟だ。
神官たちの抵抗も当然だろう。

だが、このままでは奉納舞に使うことはできないことは明らかだった。
そして、その解決策は彼らにも何ひとつなく、ただただ時間だけが過ぎていく状況が続いていた。

こうなっては、この問題を解決できる人物の所へ持っていく、というバンハランに対し、強く反対し続けることもできず、神官たちは渋々、彼の〝覚悟の〟提案を受け入れた。

バンハランは、もし今回の持ち出しにおいて、問題が起こった場合、すべての責任をその身に負うと約束したのだ。
それは文字通り、もしものことがあれば命でアガナうという約束だった。

そんな悲壮な覚悟の約束をしてきたはずのバンハランだったが、〝コウダイ屋〟まで、その大事な衣を運んできた彼の表情は、意外なほど明るくすっきりとしていた。

「頂いた魔法の秘薬の効果は素晴らしいものでした。妹は目に見えて回復し、今は体調も戻り始めたようで、少しですが食事もできております。本当にありがとうございました。

キヌサには〝神の衣〟が元に戻る目星が付いたことも伝えることができました。
おかげでやっと生きる気力も出てきた様子です。本当に何と感謝を申し上げて良いやら……」

バンハランは、昨日の横柄さが嘘のように謙虚な態度で、魔法使い〝セイ〟の前に跪き、もう一度無礼を深く詫びた。

彼は、妹の名誉とこの街のために自らの命を賭けることに対して全く躊躇していない。今も妹の回復を心底喜び安堵している。

(こういう点は気持ちの良い男、ではあるんだよね……)

だが〝セイ〟の物言いは厳しい。

「私より他に、謝らなければならない方がたくさんいることをお忘れなきように。
あなたの愚かな振る舞いで、どれだけの人が迷惑を被り傷ついたか、決して忘れてはなりませんよ。

それに、衣の汚れについては、私が責任を持って取り払うとお約束致しましょう。ですが、それだけで解決はしません。強い浄化の儀式を行わなければケガれは、落とせませんよ」

「それはどういう……」

バンハランは汚れさえ落とせば解決と思っていたようだが〝パーフェクト・バニッシュ〟で完全に汚れを落としても〝神の衣〟が一度〝穢された〟事実は変わらない。最初に付けられた点のようなシミ程度であれば、通常の神事の神楽を舞う際に浄化されただろうが、今回のように魔獣の血で広範囲にケガされた衣では〝神の衣〟の役割は果たせない。

「その衣が神の依り代として再びこの地の守りとなるためには、神族の踊り手と神の音を奏でる楽器、そして浄化の声を持った者が必要です。その者達が神楽を執り行えば〝神の衣〟を完全に元に戻すことができるでしょう……」

バンハランは、自分たちが考えていたことが、安易で浅はかだったことに反省しきりだ。

「神官たちですらそんな警告はしてくれませんでした。彼らも〝神の衣〟の真の姿は理解していないのですね。

私たちは、汚れさえ落とせば済むと思っていた。もし、貴方がいなければ、そのまま神事を行い、神の怒りに触れていたかもしれない。

まさに、貴方の存在は神のお導きだ。セイ様、本当に感謝致します。ですが……どうやってそのような方々と楽器を探せばよいのか……」

困惑し悩むバンハランには申し訳ないようだが、恐ろしいことに、どうやって揃えたら良いのか普通なら悩むだろうそのメンツ、実は全て揃っている。ミゼルと私とセイリュウでその儀式は行えてしまうのだ。

こんなメンツがそう簡単に揃うなど、到底信じられないバンハランは混乱していたが、説明するのは面倒なので〝セイ〟が実は神族に連なっていることだけ告げ〝全部用意できるから大丈夫〟と、詳細の説明なしで押し切った。

バンハランも、今では〝セイ〟を信用するしかないと決めたようだし、しかも神族の領域の話なので、さすがに根掘り葉掘り聞くことは自重してくれた。

だが問題は日時についての制約。

約束の正式な日と時間に舞わなければ神に届ける奉納舞としては機能しないらしいのだ。

そう、つまり〝ヌノビキヒメ〟になる以外に方法はない。

ということは、セイリュウに〝セイ〟として、ヌノビキヒメ選びのミスコンに参加してもらい、〝ヌノビキヒメ〟を勝ち取って〝神の衣〟で舞ってもらうしかないことになる。

(ものすごい無茶振りだけど、本当にそれしかないんだよね)

「私たちが手を回せれば良いのですが〝ヌノビキヒメ〟選びは非常に厳格でございまして、コネや裏工作が入り込むことは難しく……」

バンハラン将軍は申し訳なさそうだが、ラーヤさんはそれでこそ価値があると言い、正々堂々とこの勝負に勝とうと参戦を主張し、〝セイ〟のプロデュースを買って出た。

「今まで、地方の織物の活性化の意味もございましたので、ランテルは参加を遠慮しておりましたが、今年はそうは参りませんね。〝セイ〟様は、素材としても、申し分ございません。私が〝コウダイ屋〟の威信にかけて、最高のランテルの舞姫の衣装を作らせて頂きます。お任せください!」

ラーヤさんの目は爛々と輝き、頭の中は構想で一杯というのが見て取れた。

(かなり楽しんでいる気配がするのですが?
じゃ、私はアクセサリーと、を利用したものを作ってみようかなぁ)

こうして〝ランテルの舞姫〟プロジェクトが始動した。

今年の〝ヌノビキの祭〟には満を持してランテル参戦!、というニュースは、国中に駆け巡り、祭りはかつてない盛り上がりとなっていった。

しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。