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2 海の国の聖人候補
289 翻る衣
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289
〔それは大変でございましたね〕
今日は歌の練習日。そのついでに〝ランテルの舞姫〟プロジェクトの話をミゼルに説明し、演奏のお願いをしに、山頂の聖域に来ている。
(まぁ、演奏大好きのミゼルはどんな機会でも断るなんてありえないんだけど、特殊な事情だし、特殊な音楽らしいし、一応説明しておこうかなぁ……っと思って)
セイリュウの住むこの聖域は、霊山の頂上、元々人はまずやってこない場所だ。
それに、セイリュウ復活後の現在では、博士の〝迷彩魔法〟による人払いが追加されているため、博士並みの超絶技術の魔術師でもなければまず見つけられない守られた場所になっている。
だからこそ超高額な上に危険極まりない〝武装魔具〟(っていうと本人は怒るけど)のミゼルだけを置いてセイリュウは長く留守したりすることができる。
(まぁ、ミゼルは私以外には使えないし、何の反応もしないけどね)
ここは本当に気持ちの良い場所で、空気は澄み渡り、深呼吸するだけでデトックスになりそうな気がする。
本当に身体中の毒素が抜けていく感じだ。
ミゼルが来たことで、毎日神に捧げる癒しの音楽が奏でられ続けているためなのだろう。この霊山は確実に聖域としての浄化力を上げている。
最近では、あまり花が咲くことのなかった山頂付近に可憐な花も数を増し、動物たちもとても健康そうだ。儚げな高山の小さな花に囲まれた、その情景の美しさは、本当に天国もかくや、というものになってきた。
そんな安らぎの地で、今日もミゼルはたくさんの動物たちに取り囲まれながら、美しい音色を響かせていた。
私はこれまでの経緯を話しつつ、ハーラーの〝布の都〟ランテルの〝ヌノビキ大社〟で行われる奉納舞のための演奏を依頼し〝穢れ〟を払うための浄化の祈りを捧げる音楽が必要なことを伝えた。
〔では、ワタクシは奉納舞のための音楽を演奏すれば良いのですね。なるほど、それはワタクシにしかできないお仕事ですね。承知致しました。喜んで勤めさせて頂きます。
踊り手がセイリュウ様であれば、必ずや成功致しましょう。
ですが、演奏には完璧を期さなければなりません。神楽では音と声が一体になることがとても重要ですから、メイロードさまも、当日までに更にお声を磨いておきませんとね〕
「はい……やりますとも!修行させて頂きます」
私の言葉に満足したらしいミゼルは、女神のための演奏を再開した。
その間に、実は、もうひとつお仕事がある。
私が〝パーフェクト・バニッシュ〟で、表面の汚れを完全におとした〝神の衣〟を霊山へ持って来たのは、ここに置くことで、本番の前に浄化が少しでも進むことを期待して、当日ギリギリまで、霊山の空気に晒しておいて欲しいとセイリュウから頼まれたからだ。
(今、セイリュウは忙しすぎてランテルを離れられないからね)
表面に汚れが付かないよう風系魔法でコーティングした後、土系の魔法で石を削って人型にし〝神の衣〟を着せた。
完全に元の色を取り戻した〝神の衣〟は、鮮やかで複雑なカッティングの上、色の洪水のような派手さなのに、とても神々しく〝舞う姿が似合う〟デザインだ。
「そこで見ていてね」
人型に据えられた〝神の衣〟にそう言うと、私は女神様のための演奏を終えたミゼルの元へ向かった。
さあ、ミゼル・スパルタ音楽教室、本日も開校。
沿海州の音楽の基本はヨナ抜き音階だそうで、この辺りも非常に日本的だ。
あらゆる音楽を修めているミゼルは当然、沿海州の音楽もよく理解しており、私には神楽の歌唱に必要なその発声法や節回しが叩き込まれた。
〔まだまだ、そんなことでは神に届きませんよ!〕
〔ひーぃ! が、頑張ります!〕
雅で美しい音楽のための練習は、意外にスポ根なのだった。
私に〝枯れない声〟の祝福がなければ、あっという間に潰れていただろう。
(でも歌うには体力だって必要なのだ。ご利用は計画的に!、でお願いしますよ。ミゼル先生)
一生懸命歌い続ける私の目に、清浄な空気の風をはらんでひらひらと揺れる〝神の衣〟が目に入る。
その姿は楽しげに踊っているようで、私をちょっとからかっているようでもあった。
〔それは大変でございましたね〕
今日は歌の練習日。そのついでに〝ランテルの舞姫〟プロジェクトの話をミゼルに説明し、演奏のお願いをしに、山頂の聖域に来ている。
(まぁ、演奏大好きのミゼルはどんな機会でも断るなんてありえないんだけど、特殊な事情だし、特殊な音楽らしいし、一応説明しておこうかなぁ……っと思って)
セイリュウの住むこの聖域は、霊山の頂上、元々人はまずやってこない場所だ。
それに、セイリュウ復活後の現在では、博士の〝迷彩魔法〟による人払いが追加されているため、博士並みの超絶技術の魔術師でもなければまず見つけられない守られた場所になっている。
だからこそ超高額な上に危険極まりない〝武装魔具〟(っていうと本人は怒るけど)のミゼルだけを置いてセイリュウは長く留守したりすることができる。
(まぁ、ミゼルは私以外には使えないし、何の反応もしないけどね)
ここは本当に気持ちの良い場所で、空気は澄み渡り、深呼吸するだけでデトックスになりそうな気がする。
本当に身体中の毒素が抜けていく感じだ。
ミゼルが来たことで、毎日神に捧げる癒しの音楽が奏でられ続けているためなのだろう。この霊山は確実に聖域としての浄化力を上げている。
最近では、あまり花が咲くことのなかった山頂付近に可憐な花も数を増し、動物たちもとても健康そうだ。儚げな高山の小さな花に囲まれた、その情景の美しさは、本当に天国もかくや、というものになってきた。
そんな安らぎの地で、今日もミゼルはたくさんの動物たちに取り囲まれながら、美しい音色を響かせていた。
私はこれまでの経緯を話しつつ、ハーラーの〝布の都〟ランテルの〝ヌノビキ大社〟で行われる奉納舞のための演奏を依頼し〝穢れ〟を払うための浄化の祈りを捧げる音楽が必要なことを伝えた。
〔では、ワタクシは奉納舞のための音楽を演奏すれば良いのですね。なるほど、それはワタクシにしかできないお仕事ですね。承知致しました。喜んで勤めさせて頂きます。
踊り手がセイリュウ様であれば、必ずや成功致しましょう。
ですが、演奏には完璧を期さなければなりません。神楽では音と声が一体になることがとても重要ですから、メイロードさまも、当日までに更にお声を磨いておきませんとね〕
「はい……やりますとも!修行させて頂きます」
私の言葉に満足したらしいミゼルは、女神のための演奏を再開した。
その間に、実は、もうひとつお仕事がある。
私が〝パーフェクト・バニッシュ〟で、表面の汚れを完全におとした〝神の衣〟を霊山へ持って来たのは、ここに置くことで、本番の前に浄化が少しでも進むことを期待して、当日ギリギリまで、霊山の空気に晒しておいて欲しいとセイリュウから頼まれたからだ。
(今、セイリュウは忙しすぎてランテルを離れられないからね)
表面に汚れが付かないよう風系魔法でコーティングした後、土系の魔法で石を削って人型にし〝神の衣〟を着せた。
完全に元の色を取り戻した〝神の衣〟は、鮮やかで複雑なカッティングの上、色の洪水のような派手さなのに、とても神々しく〝舞う姿が似合う〟デザインだ。
「そこで見ていてね」
人型に据えられた〝神の衣〟にそう言うと、私は女神様のための演奏を終えたミゼルの元へ向かった。
さあ、ミゼル・スパルタ音楽教室、本日も開校。
沿海州の音楽の基本はヨナ抜き音階だそうで、この辺りも非常に日本的だ。
あらゆる音楽を修めているミゼルは当然、沿海州の音楽もよく理解しており、私には神楽の歌唱に必要なその発声法や節回しが叩き込まれた。
〔まだまだ、そんなことでは神に届きませんよ!〕
〔ひーぃ! が、頑張ります!〕
雅で美しい音楽のための練習は、意外にスポ根なのだった。
私に〝枯れない声〟の祝福がなければ、あっという間に潰れていただろう。
(でも歌うには体力だって必要なのだ。ご利用は計画的に!、でお願いしますよ。ミゼル先生)
一生懸命歌い続ける私の目に、清浄な空気の風をはらんでひらひらと揺れる〝神の衣〟が目に入る。
その姿は楽しげに踊っているようで、私をちょっとからかっているようでもあった。
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