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3 魔法学校の聖人候補
410 妖精王の涙
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410
「これは……どういうことでしょう」
《ポーション》騒動の後、ラビ部長に呼び出された私は〝魔法薬研究会〟の部長室にいた。
私の前には3万ポルの現金が袋に入って積み上げられている。
「もちろん、君が供出してくれた《ポーション》の対価だよ。うちは、慈善事業じゃないからね。無理を聞く代わりに対価はきっちり払ってもらうことになっているんだ。今回は、特急料金込みで1本60ポルで引き取らせたから、君の分は500本で3万ポル、妥当だろう?」
「いや、まぁ、価格としては妥当なのかもしれませんが、そういうつもりじゃ……なんて、いうべきではないですよね。これは、新しい薬を作るために必要な資金ですからね」
シド部長は私の言葉に頷いている。
「よくできました。そういうことだ。それに、このポーションを作るに当たっては、ウチは場所も素材も提供していない、全くの無関係だ。これについては、ウチがもらうわけにはいかないよ」
ラビ部長の言葉で、私はあることを思い出し聞いて見ることにした。
「では、このお金でここにある素材を買い取らせて頂けませんか」
部長は面白そうに私を見ている。
「いいけど、一体何が欲しいのかな?」
「〝妖精王の涙〟が必要な薬を作りたいと思っています」
まっすぐラビ部長の目を見つめそういった私に、少しだけ目を見開いたラビ部長は、ゆっくりと頷きながらこう言った。
「確かにここに〝妖精王の涙〟はある。とても貴重な素材だけれど君にならば譲っても良いと思う。
ただし、条件がある。それを作るつもりならば、是非この〝魔法薬研究会〟の部室で作ってみてほしい。
誰もが憧れる最強の薬のひとつ、材料を揃えることすら難しい究極の癒し、死の深淵から患者を引き戻すことのできる唯一の魔法薬《エリクサー》を作るなら」
さすがは《魔法薬研究会》を率いる部長、私のやろうとしていることはするに見抜かれてしまった。
「分かりました。すぐにというわけではありませんが、必ずここで作りましょう。その時まで〝妖精王の涙〟ひとつ、予約させて下さい」
「そうか、君は《エリクサー》に挑むのか……」
ラビ部長は、鍵のかかった薬棚の方を見ると、ふっと立ち上がり、厳重な3つの鍵と魔法を使った二重ロックを解除してその中から立派な彫刻のついたガラス瓶を取り出した。
「うちが作った最後の《エリクサー》だ。もう7年ほど前のことだが《鑑定》すれば君には分かるだろう。これは失敗だ」
私は言われた通りその瓶の中身を《鑑定》してみた。それは確かに《エリクサー》だったが、そこには(劣化版)という追記が見て取れた。
「劣化版というのは、どういうことなんでしょう」
ラビ部長も、話に聞いているだけだというが、まず、前提として《エリクサー》は年々作ることが困難になってきている最高の《魔法薬》のひとつだという事実がある。素材の入手すらも難しく、主要な材料を揃えるためには莫大な費用がかかる。いや、お金で解決できればまだいいが、今では探しても素材そのものが見つからない状態になっている。
〝ヴァージン・ヒーリング・ドロップ〟〝聖龍の鱗〟〝再生の林檎〟そして〝妖精王の涙〟この4つの超希少材料を揃えるだけでも、今は何年、何十年とかかるとまで言われているという。
私も3つまではすでに揃えていたが、まだ〝妖精王の涙〟は手に入れられていなかった。〝妖精王〟とは、文字通りのものではなく、妖精たちに守られた神樹のことだ。その樹液を〝妖精王の涙〟と呼ぶのだが、この神樹は妖精たちに巧みに隠されているため、滅多なことではたどり着くことができない上、場所まで移動する。
そのため、妖精に受け入れられたごく一部の人間が、偶然遭遇するしか手に入れる方法がないのだ。
「それでも、太古のイルガン大陸では現在より妖精と人との距離がずっと近く、彼らに愛された稀有な人物も多かったようで、今よりは素材を手に入れることが容易だったと言います。ですが、今となってはただただ貴重なものになってしまいました」
ラビ部長はため息をつく。
「ここに、その貴重な〝妖精王の涙〟があるのは、戦略物資として接収されたものだからです。もちろん対価は支払われましたが、シド帝国の軍部はこれが市場に出ることを許しませんでした。そして、買い取った8つのうちの4つが、この学校へ送られたのです」
(ということは、それは軍部の依頼のため以外のは使えない、ってことじゃないの?)
「それは……では、私も使うわけにはいかないのではないですか?」
「いや、それは違う。これは研究のためにこの魔法学校に譲られた材料だ。対価も支払っているし、軍部からも許可を得てのことだ。
もちろん《エリクサー》を作ることは重要だが、先ほどの失敗例の通り、今や《エリクサー》はその製法すら失われつつあり、再現が難しい薬になっているのだ。あらゆる文献を参照し、読むことの可能なあらゆる作り方を用いて研究を重ね、先輩方が挑んだ7年前の実験でもこの結果だったのだ」
ラビ部長はこめかみを押さえて、残念でたまらないというふうに溜息をついた。
貴重な材料を使った実験のためには、きっと膨大な時間を使った検証や研究が行われたのだろう。そして、最後の失敗から7年の間〝妖精王の涙〟が減っていないということは、そのあと一度も実験すらできなかったということだ。
「だから私は賭けてみたい。自ら高額な材料を揃えてまで、この至高の魔法薬に挑もうという君の熱意に!」
「これは……どういうことでしょう」
《ポーション》騒動の後、ラビ部長に呼び出された私は〝魔法薬研究会〟の部長室にいた。
私の前には3万ポルの現金が袋に入って積み上げられている。
「もちろん、君が供出してくれた《ポーション》の対価だよ。うちは、慈善事業じゃないからね。無理を聞く代わりに対価はきっちり払ってもらうことになっているんだ。今回は、特急料金込みで1本60ポルで引き取らせたから、君の分は500本で3万ポル、妥当だろう?」
「いや、まぁ、価格としては妥当なのかもしれませんが、そういうつもりじゃ……なんて、いうべきではないですよね。これは、新しい薬を作るために必要な資金ですからね」
シド部長は私の言葉に頷いている。
「よくできました。そういうことだ。それに、このポーションを作るに当たっては、ウチは場所も素材も提供していない、全くの無関係だ。これについては、ウチがもらうわけにはいかないよ」
ラビ部長の言葉で、私はあることを思い出し聞いて見ることにした。
「では、このお金でここにある素材を買い取らせて頂けませんか」
部長は面白そうに私を見ている。
「いいけど、一体何が欲しいのかな?」
「〝妖精王の涙〟が必要な薬を作りたいと思っています」
まっすぐラビ部長の目を見つめそういった私に、少しだけ目を見開いたラビ部長は、ゆっくりと頷きながらこう言った。
「確かにここに〝妖精王の涙〟はある。とても貴重な素材だけれど君にならば譲っても良いと思う。
ただし、条件がある。それを作るつもりならば、是非この〝魔法薬研究会〟の部室で作ってみてほしい。
誰もが憧れる最強の薬のひとつ、材料を揃えることすら難しい究極の癒し、死の深淵から患者を引き戻すことのできる唯一の魔法薬《エリクサー》を作るなら」
さすがは《魔法薬研究会》を率いる部長、私のやろうとしていることはするに見抜かれてしまった。
「分かりました。すぐにというわけではありませんが、必ずここで作りましょう。その時まで〝妖精王の涙〟ひとつ、予約させて下さい」
「そうか、君は《エリクサー》に挑むのか……」
ラビ部長は、鍵のかかった薬棚の方を見ると、ふっと立ち上がり、厳重な3つの鍵と魔法を使った二重ロックを解除してその中から立派な彫刻のついたガラス瓶を取り出した。
「うちが作った最後の《エリクサー》だ。もう7年ほど前のことだが《鑑定》すれば君には分かるだろう。これは失敗だ」
私は言われた通りその瓶の中身を《鑑定》してみた。それは確かに《エリクサー》だったが、そこには(劣化版)という追記が見て取れた。
「劣化版というのは、どういうことなんでしょう」
ラビ部長も、話に聞いているだけだというが、まず、前提として《エリクサー》は年々作ることが困難になってきている最高の《魔法薬》のひとつだという事実がある。素材の入手すらも難しく、主要な材料を揃えるためには莫大な費用がかかる。いや、お金で解決できればまだいいが、今では探しても素材そのものが見つからない状態になっている。
〝ヴァージン・ヒーリング・ドロップ〟〝聖龍の鱗〟〝再生の林檎〟そして〝妖精王の涙〟この4つの超希少材料を揃えるだけでも、今は何年、何十年とかかるとまで言われているという。
私も3つまではすでに揃えていたが、まだ〝妖精王の涙〟は手に入れられていなかった。〝妖精王〟とは、文字通りのものではなく、妖精たちに守られた神樹のことだ。その樹液を〝妖精王の涙〟と呼ぶのだが、この神樹は妖精たちに巧みに隠されているため、滅多なことではたどり着くことができない上、場所まで移動する。
そのため、妖精に受け入れられたごく一部の人間が、偶然遭遇するしか手に入れる方法がないのだ。
「それでも、太古のイルガン大陸では現在より妖精と人との距離がずっと近く、彼らに愛された稀有な人物も多かったようで、今よりは素材を手に入れることが容易だったと言います。ですが、今となってはただただ貴重なものになってしまいました」
ラビ部長はため息をつく。
「ここに、その貴重な〝妖精王の涙〟があるのは、戦略物資として接収されたものだからです。もちろん対価は支払われましたが、シド帝国の軍部はこれが市場に出ることを許しませんでした。そして、買い取った8つのうちの4つが、この学校へ送られたのです」
(ということは、それは軍部の依頼のため以外のは使えない、ってことじゃないの?)
「それは……では、私も使うわけにはいかないのではないですか?」
「いや、それは違う。これは研究のためにこの魔法学校に譲られた材料だ。対価も支払っているし、軍部からも許可を得てのことだ。
もちろん《エリクサー》を作ることは重要だが、先ほどの失敗例の通り、今や《エリクサー》はその製法すら失われつつあり、再現が難しい薬になっているのだ。あらゆる文献を参照し、読むことの可能なあらゆる作り方を用いて研究を重ね、先輩方が挑んだ7年前の実験でもこの結果だったのだ」
ラビ部長はこめかみを押さえて、残念でたまらないというふうに溜息をついた。
貴重な材料を使った実験のためには、きっと膨大な時間を使った検証や研究が行われたのだろう。そして、最後の失敗から7年の間〝妖精王の涙〟が減っていないということは、そのあと一度も実験すらできなかったということだ。
「だから私は賭けてみたい。自ら高額な材料を揃えてまで、この至高の魔法薬に挑もうという君の熱意に!」
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