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3 魔法学校の聖人候補

409 滋養食

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409

夜10時を回った〝魔法薬研究会〟の部室は、死屍累々という形容詞がぴったりの状況だった。

魔法力使用量は多くない《ポーション》作りだが、その代わり体力はそれなりに必要となる。それが、作る度にチクチクと削られていくため、長くこの作業を繰り返すと、躰へボディブローのように後から疲労が溜まっていく。
今回のようなエンドレスな《ポーション》作りでは、慣れない下級生は、あっという間に潰れるので、早めに返されているのだが、残っている手練れの2、3年生でも、さすがにこの時間になると色々と限界がきている様子だ。

「よし、これで250本だ。後は、明日にしよう。みんなしっかり休息をとって明日に備えてくれ」

ラビ部長の号令に、声もなく頷く疲れ切った部員たち。
皆、今日は朝から一日中分業の《ポーション》作りをしていたそうで、作業は順調に進んだそうだが、それでもまだ部屋の中には《ポーション》の材料が大量に積まれたままだ。

「明日もこれが続くかと思うと、さすがにげんなりするね。まぁ、これもここ以外ではできない経験だから自分のためにもなることだと思って頑張るしかないよ。それにしても疲れた……本当にキツイなこれ……」

先輩たちは互いを励まし合いながら、それでも薬作りの道具の片付けのためにのろのろと動いている。

私はその様子を見ながら、部長に声をかけた。

「ラビ部長、お疲れ様です。どこに置きましょう」

「あ、ああ、ありがとう。そうだな、上の倉庫に頼むよ」

ラビ部長には私が《ポーション》を供出することは、内密でとお願いしてある。こういうことで目立ちたくないという私の気持ちをラビ部長は、いづれ実力で世に出るつもりだ、という解釈したようで、その気概は立派だと褒めてくれた上、口外しないことを約束してくれた。

「君のように実技も座学も熱心ならば、きっとすぐ頭角をあらわすに違いないよ。楽しみだな」

若干疲労が過ぎてハイになっている部長に、私は夜食を持ってきていることを告げた。

「今、下の水屋で準備していますから、部長もどうぞ召し上がって下さいね」

私が持ってきたのは、野菜たっぷりの〝すいとん〟だ。
この〝すいとん〟という料理、昔の人には戦争中に食べた〝代用食〟という負のイメージがあるらしいが、調理の仕方ではとても美味しくなる。今回は鳥の出汁を使い、味付けには西ノ森味噌を使った優しい味に仕上げてある。クニュっとした平たい小麦団子の食感が楽しい汁物だ。

「あまり見かけない野菜も入っているようだが、これは美味しいものだね。躰が温まるし、力が湧いてくる気がするよ。これで滋養をつけて眠ればみんな明日も頑張ってくれるだろう……ありがとう、マリスくん。本当に助かったよ」

最初は怪訝な顔で〝すいとん〟を食べた始めた先輩方も今は皆〝ああ〟とか〝うう〟とか呻いている。声を出す元気はまだないようだけど、顔は一様に幸せそうなので、多分美味しいと思ってくれているはずだ。疲れた躰に沁み渡るよね、こういう料理って。

「お役に立てて良かったです。この味噌という調味料、まだまだ帝国では普及していませんが、とても躰に優しい調味料なんですよ。《ポーション》を大量に作るのは大変でしょうが、目標達成まで頑張って下さいね」

「ああ、大丈夫だ。さあ、みんな明日に備えるぞ!」

「はい!」

夜食の〝すいとん〟ですっかり元気をつけた先輩方は、今度はしっかりと返事をして仮眠に入っていった。私は部室の後片付けの続きを引き受けて、配膳を手伝ってくれていたソーヤと部室掃除をした後、道具をマジックバッグに詰め込んでから部室を後にした。

「メイロードさま、あの〝すいとん〟とても美味しかったですね。見たことのないお野菜もありましたけど、あれってもしかして……」

「うん、さっき《緑の手》で促成栽培した異世界の種から取れた野菜だよ。ゴボウに大根にかぼちゃに人参、それにきのこと油揚げも入れたよ。今までの経験からすると、きっと滋養強壮以上の効果があると思うんだ」

「なるほど、文字通り食べ物で元気にする作戦でしたか」

「《ポーション》を作っている人たちに《ポーション》を飲ませるのも変だしね。今回は食べ物でちょっと滋養を水増ししてみたの。明日も頑張ってもらわないと、私まで駆り出されちゃうかもしれないからね」

私はソーヤと大根の消化作用やかぼちゃの栄養価の話をしながら、夜の学校をゆっくりと歩いて帰っていった。
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