251 / 840
3 魔法学校の聖人候補
440 解体はお任せします!
しおりを挟む
440
こんな魔術一辺倒の場所にも関わらず、セルツの街にもちゃんと冒険者ギルドはあった。
冒険者ギルトという名前だけだと、切った張ったの大冒険をする者たちばかりの感じがしてしまうが、実際はそんなことはごく一部で、何でも屋に近い側面もある。
この場所はとても特殊だ。大事な魔法に関するあれこれを守るため、外敵に見つかりにくい場所に作られた、この標高の高い山中にあるセルツの冒険者ギルドには、地元出身の冒険者たちが多く、ここを拠点にしてダンジョンや危険な討伐を行うという人々は少ない。そう、決して実入りのいい仕事は多くない地域だ。とはいえ、依頼が絶えるようなことはない。依頼内容は特定の動植物の狩りや採取、その他には護衛の依頼などが多いく、四方を山に囲まれているため、移動時に危険な目にあう可能性が高いので護衛の依頼も定番だ。
もうひとつ、冒険者ギルドにこうしたよろず屋的な小さな依頼が集中する理由がある。魔術師のへの依頼料が高額だという世知辛い現実がそれだ。同じ依頼内容でも報酬が一桁違うので、他の場所よりずっと魔法使いの密度が濃いここでも一般の人たちは冒険者ギルドを選んで依頼する。
(国家資格を持った技能専門職はどうしても割高になるよね。逆に言えば魔術師への依頼は冒険者たちの手に負えないほど難しいものばかりってことになるけど……)
ここの冒険者ギルドの買取は商人ギルドの買取担当が兼任していて、どちらのギルドに持ち込んでも同じ金額で買取をしてくれるそうだ。値踏みのプロの少ない地方のギルドではこういう場所は少なくないそうで、ギルド同士の連携がうまく取れている今の体制では、どちらにもメリットのある方法になっている。
実は私がセルツの冒険者ギルドへやってきたのは、ここの解体屋はプロ中のプロだから、特に癖のある魔物や大型動物の解体は任せた方がいい、と市場の人に教えてもらったからだ。
もうすぐ行くことになってしまった狩猟実践訓練のための冬合宿について考え始めてから、なぜか熊肉に取り憑かれていた私だが、もし山で熊を仕留めたとして、どうしてもそれの解体ができるとは思えずに、密かに悩んでいた。
(いや、多分できるんだよ。魔法を使ってあれこれすればね。でも……ヘタレでごめん。熊の解体、できるならしたくない、プロがいるならお任せしたいんです)
買い物がてら行った市場で、大物を手に入れた冒険者がどうするのか聞き、この答えをもらった時には本当に肩の力が抜けた。
(よかった、熊を解体せずに済んだよ)
トルルたちに話したら、
「本当にそんな巨大な熊を狩る気なの?」
と大いに驚かれ、呆れられた。しかも、解体の心配までしてるって、と大笑いもされた。
「取らぬ狸もいいとこだよ。私たちの行く場所には、熊とかいないと思うよ。幾ら何でも最初からそこまで危険な場所には連れて行かないでしょ。狙うのは大きくても狐か鹿ぐらいの大きさの動物じゃない?」
確かにトルルに言われるまで、私は自分が参加するのが〝初心者合宿〟であることをすっかり忘れていた。
(熊はないよねぇ……は、ははは)
私は思わず熊料理について考え色々書き込んでいたお料理ノートを手で隠した。
こんな魔術一辺倒の場所にも関わらず、セルツの街にもちゃんと冒険者ギルドはあった。
冒険者ギルトという名前だけだと、切った張ったの大冒険をする者たちばかりの感じがしてしまうが、実際はそんなことはごく一部で、何でも屋に近い側面もある。
この場所はとても特殊だ。大事な魔法に関するあれこれを守るため、外敵に見つかりにくい場所に作られた、この標高の高い山中にあるセルツの冒険者ギルドには、地元出身の冒険者たちが多く、ここを拠点にしてダンジョンや危険な討伐を行うという人々は少ない。そう、決して実入りのいい仕事は多くない地域だ。とはいえ、依頼が絶えるようなことはない。依頼内容は特定の動植物の狩りや採取、その他には護衛の依頼などが多いく、四方を山に囲まれているため、移動時に危険な目にあう可能性が高いので護衛の依頼も定番だ。
もうひとつ、冒険者ギルドにこうしたよろず屋的な小さな依頼が集中する理由がある。魔術師のへの依頼料が高額だという世知辛い現実がそれだ。同じ依頼内容でも報酬が一桁違うので、他の場所よりずっと魔法使いの密度が濃いここでも一般の人たちは冒険者ギルドを選んで依頼する。
(国家資格を持った技能専門職はどうしても割高になるよね。逆に言えば魔術師への依頼は冒険者たちの手に負えないほど難しいものばかりってことになるけど……)
ここの冒険者ギルドの買取は商人ギルドの買取担当が兼任していて、どちらのギルドに持ち込んでも同じ金額で買取をしてくれるそうだ。値踏みのプロの少ない地方のギルドではこういう場所は少なくないそうで、ギルド同士の連携がうまく取れている今の体制では、どちらにもメリットのある方法になっている。
実は私がセルツの冒険者ギルドへやってきたのは、ここの解体屋はプロ中のプロだから、特に癖のある魔物や大型動物の解体は任せた方がいい、と市場の人に教えてもらったからだ。
もうすぐ行くことになってしまった狩猟実践訓練のための冬合宿について考え始めてから、なぜか熊肉に取り憑かれていた私だが、もし山で熊を仕留めたとして、どうしてもそれの解体ができるとは思えずに、密かに悩んでいた。
(いや、多分できるんだよ。魔法を使ってあれこれすればね。でも……ヘタレでごめん。熊の解体、できるならしたくない、プロがいるならお任せしたいんです)
買い物がてら行った市場で、大物を手に入れた冒険者がどうするのか聞き、この答えをもらった時には本当に肩の力が抜けた。
(よかった、熊を解体せずに済んだよ)
トルルたちに話したら、
「本当にそんな巨大な熊を狩る気なの?」
と大いに驚かれ、呆れられた。しかも、解体の心配までしてるって、と大笑いもされた。
「取らぬ狸もいいとこだよ。私たちの行く場所には、熊とかいないと思うよ。幾ら何でも最初からそこまで危険な場所には連れて行かないでしょ。狙うのは大きくても狐か鹿ぐらいの大きさの動物じゃない?」
確かにトルルに言われるまで、私は自分が参加するのが〝初心者合宿〟であることをすっかり忘れていた。
(熊はないよねぇ……は、ははは)
私は思わず熊料理について考え色々書き込んでいたお料理ノートを手で隠した。
344
あなたにおすすめの小説
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。